今夜はちょっと気分がいいから
時間軸はいつものあたりです。
視点はグライダです。
モンスター連中が『コードネーム』で遊びます。
「いいなー、僕もやってみたいなー」
突然、ハントルがそんなこと言いだした。アタシの足元で、にょろにょろしながらね。
「舞戸達、楽しそーなのー」
……ああ、成程ね。ハントルが見てる先は窓の向こう。舞戸達が何かやってるところね。多分いつもみたいに、アナログゲームってやつ?やってるんじゃないかしら。
「やりゃあいいじゃねえか」
「んー……でも、舞戸達楽しそうだし、お邪魔しちゃ、悪いの」
ケトラミがそう言うけど、ハントルはにょろにょろしながら引っ込んじゃった。何だかんだ、聡い子よね。あの中に自分が入ったら邪魔になる、って思えるんだから。
アタシ、ガキは好きじゃないけど、賢いなら話は別よ。ちゃあんと自分の身の程知った上で弁えられる子なら、だーい好き。
「そ。なら、アタシとやる?」
だから、こんな提案もしちゃうの。
「ここにある頭突き合せたら、ゲームできるくらいにはなるわよ?」
「成程な。俺とグライダ、ハントル、それにマルベロもか。4体も揃えばできそうだな」
「お呼びですか!」
「頭数の話ですか!」
「つまり私は3頭分ですね!頭数、頭の数的に!」
ケトラミが言った途端、マルベロも飛んできた。何だかんだこいつも世話好きな性質してるわよね。結構ハントルの面倒、見てるんじゃないかしら。
「馬鹿野郎。テメエは1頭で勘定だ。ゲームにならねえだろ」
「む、そうですか?」
「我らの頭はそれぞれに独立した思考を持っていますが?」
「それでも共有されてるもんがあるんだろうが。大体、4体でゲームには事足りる。お呼びじゃねえ」
「そんな、ひどい……」
「そんな、ひどい……」
「そんな、ひどい……」
……まあねえ。こんだけ息ぴったりな頭が3つあったんじゃ、ゲームになんないかも。打ち合わせも何にもなしに私達のこと謀れるってわけでしょ?そんなんナシだわ。
マルベロがしょんぼりしたところで、ハントルがおずおずアタシ達を見上げてきた。
「みんな、ゲーム、やってくれるの……?」
「おう。いいよな?お前ら」
「ええ、勿論。ケトラミの頼みだったら可愛くないから別だけど、ハントルは可愛いもの。お願い、聞いてあげちゃうわ」
「おいテメエどういうことだ」
「私はぜひ参加したいです!舞戸様達のゲーム、気になっておりまして!」
はい、決まり。全員が参加表明したら、ハントルはぱっ、て顔を明るくして、アタシの脚に絡みついてきた。
「ありがとー!みんな大好きー!」
……ね。やっぱり可愛いわよ、この子。
「じゃあ4体でできるゲーム、よね。……えーと、舞戸達がいつもやってる『人狼』はちょっと難しいわね」
ということで早速、やるゲームを考え始めたんだけど。案外難しいわねえ。4体、って。
「『ワンナイト人狼』ならできそうだが……いや、駄目だな」
「あら、どうして?」
アタシが聞いたら、ケトラミの奴、鼻で笑いやがったわ。むかつく。
「馬鹿か。アレはカードをこっそり捲ったり交換したりする必要があるんだぜ?俺達にゃ無理だ」
……ああ、成程ね。なんで気づかなかったのかしら。ケトラミとマルベロは大体体格一緒だけど、アタシはそれより相当大きいし、ハントルは相当小さいし。そんな4体が集まって共同で使えるカードって、どんなのよ。大きい方に合わせたらハントルが操作するのにバカみたいな時間がかかるでしょうし、小さい方に合わせたらケトラミとマルベロの方が大変なことになるわね。アタシ?アタシは別にいいわよ?これでも相当器用な方だしね。
「……ということは、捲ったり交換したりが無いゲームか、或いは、それらが公開で行われるゲームかを選択する必要がある、というわけですね」
ま、それが無難よね。ということは……。
「あっ!僕、あれやってみたい!」
ハントルが、元気に声を上げた。
「『こーどねーむ』!」
コードネーム、っていうのは、25枚の札の中から、自分が取らなきゃいけない札と相手が取らなきゃいけない札、どっちも取らなくていい札とどっちも取っちゃいけない札を見抜きながら、ヒントだけで札を取っていって相手より先に自分が取らなきゃいけない札を全部取るのが目的のゲームよ。
4人対戦のゲームだし、カードは全員が見てる前で操作するだけだから、何なら全部アタシが代理で動かしても問題ないわ。
ただ……このゲーム、2人1組のチーム戦、なのよね……。
「みんな、ルールは分かるよね?」
「まあ、舞戸達がやってんの見てるからな」
「私も分かるわよ」
「私はよく分かりま」
「分かるよな?」
「はい!分かります!」
……マルベロには後でこっそりルール教えてやるとして、とりあえず開始するのに問題はなさそうだけど。
「じゃあ、チーム分けはどうするの?このゲーム、札を取る人とその人にヒントを与えて自分チームの札へ導く人との2人で1チームでしょ?」
「うん!そうなの!だから僕は……」
あ、ケトラミかしら。ハントルは何だかんだ、ケトラミに懐いてんのよね。ケトラミは何だかんだ兄貴面したいタイプの奴だし。ハントルも弟分の位置に収まってるの、嫌いじゃないみたいだし。素直で可愛いわよね。
……と、思ったんだけど。
「マルベロと組むの!」
「えっ?」
「は?」
予想外なのが、来たわ。
「おや!私ですか!お目が高い!」
「必ずや勝利を収めましょうね!」
「選んでいただき光栄です!頑張りましょう!」
「ちょ、え、ええ?いいの?ハントル、そいつで」
「うん!いいの!」
……てっきり、ハントルはケトラミと組みたがるもんだと思ってたわ。それにアタシとマルベロがつきあってあげればいいかな、って思ってたんだけど……。
「ってことで、ケトラミ、勝負!なの!」
「おう。そういうことなら受けて立つぜ」
……ケトラミと勝負したかった、ってことかしら。でも、だとしたらアタシと組んだ方が良くない?ケトラミとアタシの仲が悪いのはハントルも知ってるでしょうし……あ、だからこそ、アタシとケトラミを組ませて弱体化を狙った?うーん、そんなこと考えそうな子じゃないわよねえ……。
「たまにはマルベロとも遊ぶの!」
「それは嬉しい!」
「私、構われるの大好きです!」
「構われるとすぐ懐きますよ!」
……単に、マルベロとも遊んでみたかった、ってことかしら。
ってことで早速開始。
「カードじゃないけどいいわよね?」
地面に糸を張って、5×5のマスを作る。で、そこに1つずつ、単語を書き入れていく。本来だと既成のカードから25枚選ぶんだけど、ま、こうやって遊ぶ分には自分達で単語を設定しちゃってもいいのよね。その代わり、できるだけ関係なさそうな単語を選ぶ必要があるけど。
「じゃ、みんな適当に単語言って頂戴。書くわ」
「分かったのー!友情!雲!夕日!」
「宝石。崖。海」
「フラスコ!お人形!包丁!」
「虹!フライパン!剣!」
「椅子!窓!砂漠!」
「ちょっと待ちなさいマルベロあんた3つの頭全部で言うの?」
「まあいいじゃねえか。さっさと決まって丁度いいだろ」
まあいいけどね。でもなんか釈然としないわ。
……ってことで、25個の単語が決まったわ。単語は『友情、雲、夕日、宝石、崖、海、フラスコ、お人形、包丁、虹、フライパン、剣、椅子、窓、砂漠、火山、ドレス、酒、卵、肉、パンケーキ、電気、盾、水、魚』。この25個よ。
「じゃあ、僕がヒント出す側なの!マルベロが取る側ね!」
「了解しました!」
「お任せください!」
「完璧にやり遂げて見せましょう!」
「あ、ふぇあじゃないから使っていい頭は1つだけなの」
「そんな、ひどい……」
「そんな、ひどい……」
「そんな、ひどい……」
まあそうなるわよね。
「……じゃ、アタシ達はどうする?アタシ、別にどっちでもいいけど」
「なら俺がヒントを出す側だ。テメエの指図で動くのは気に食わねえ」
「あっそ。ま、いいけど」
で、アタシ達の方は、ケトラミがヒントを出す側。アタシが単語を取る側、ね。決まり。
「じゃあ早速、取る札と取っちゃいけない札を決めるの!」
ハントルとケトラミが向こうの方に行って何か相談し始めたのを見つつ、アタシは考える。
……ハントル相手だから、負けてあげる、っていうのも1つの手ではあるんだけど、それじゃあの子は納得しないでしょう。だからま、全力よ、全力。
ケトラミとチームで全力、ってのも難しいけどね。はーあ。
「えーと、グライダさん。確認なのですが、このゲーム、取らなければならない札は先行チーム9枚後攻チーム8枚、ですよね?」
「そうよ。ついでに取っても得点にならない札が7枚。それで、取った瞬間に無条件で敗北する札が1枚。合計25枚ね」
「それで、出していいヒントは『一言』だけ。でもそのヒントが何枚に関係しているかは言ってもいい。それで取る側は1ターンに何枚とってもいい、と」
「そういうこと。でも勿論、1枚しかとらなくてもいい。ヒントを出す側が『2枚』って言っててもヒントの意味が分からなかったら、確実にそれっぽい1枚だけを取ってもう1枚は保留にしてもいい、ってことね。逆に、後からそのヒントの意味が分かったりしたなら、ヒントが1枚って言ってても2枚以上取っちゃってもいいのよ」
「ははあ、成程!……しかし結局はこれ、チームの共通理解と共通認識がどの程度あるかが試されるゲームですよね?」
……そうなのよねえ。
このゲームの醍醐味って、『関係なさそうな意味の札を複数枚1ターンに取るためにその複数枚全部に関係するヒントを一言だけで表す』、『圧縮されちゃった情報を解読して、正しい複数枚を取る』っていうところだから。
1ターンに1枚ずつ取ってたんじゃ、絶対に勝てないわ。だから積極的に複数枚取っていけるように狙っていかないといけない。でも、欲張りすぎたら『取ったら負け』の札を取るかもしれない。だから、あんまり無茶はできない。このジレンマがこのゲームならではよねえ。
チーム2人の息がぴったり合ってれば、たった一言に3枚分の意味を込めることだってできるでしょうし、逆に息が合ってないチームだったなら、1枚のヒントでその1枚を取ることすら難しい、ってわけ。
……どう考えてもこのゲーム、アタシ達のチームに不利じゃない?
「えー、では先行はケトラミさんグライダさんチームということで!よろしくお願いします!」
ってことで、始まっちゃったんだけどね。ま、いいわ。アタシは全力でやるだけだし。アイツの出来が悪いかどうかは関係ないものね。
「……じゃあ、最初のヒントだ。『舞戸が使うもの』。2枚だ」
2枚。ま、妥当ね。
「えーと、舞戸が使うもの、っていったら……まず、包丁でしょ?」
「おう」
まずは1枚。で、次は……。
「あと、フラスコ」
「はあ!?」
「あ、やったなのー。それ、僕のチームのカードだよ」
え。
やだ。相手チームの応援しちゃった?
「てめえ!グライダ!何考えてやがる!」
「はああ!?何言ってんのよ!舞戸が使うもの、でしょ!?あの子フラスコ使ってんじゃない!」
「その前に取るべき札があっただろうがよ!なんでテメエはそんなに頭回らねえんだ!」
はあああ!?なっによコイツ!言うに事欠いてそれ言う!?頭回らないですってェ!?脳筋の戦闘狂に言われたかないわよ!
ぐちぐち言ってても仕方ないわ。私達のチームが1枚とって、しかも相手の札まで1枚とっちゃった。でも次はハントルのチームの番よ。
「えーとね、じゃあ僕の番!『スズモト』で1枚!安全に行くの!」
まあ、後攻であることに加えてさっきアタシが1枚、ハントルのチームの札、取っちゃってるし。ハントル達は安全策に走っても勝てるのよね。
「ふむ、スズモト様、ですか。……ということは、これですね。『剣』!」
「あたりー!」
ま、取れて当然かしら。残りの札は『友情、雲、夕日、宝石、崖、海、お人形、菫、フライパン、剣、椅子、窓、砂漠、火山、ドレス、酒、卵、肉、パンケーキ、電気、盾、水、魚』。この中でスズモトっぽいのって、剣しかないものねえ。
「次はこっちの番ね。ほら、ケトラミ。さっさと言いなさいよ」
「るせえな。テメエの足りねえ頭でもわかるヒントを考えてやってんだよ」
一々何か嫌味言わないと気が済まないわけェ?ホントガキよね、こいつ。
「……『調理器具』。1枚だ」
「あー、はいはい。つまりさっきの取りこぼしね」
これはすぐに分かるわよ。調理器具、この中にもう『フライパン』しかないんだもの。ケトラミも『取れて当たり前だろ』って顔してるし。
「わー、当たりなのー!じゃあ次は……」
「ちょーっと待って。もう一枚行くわ」
でも、アタシはハントルを遮ってもう一枚、札を狙う。
「……『盾』よ。どう?」
盾。その一文字を狙えば、ケトラミもハントルも目を見開いた。
「え、ええー……当たりなの……。すごい、どうして分かったの?ヒント、無かったよね?」
「ふふん。そりゃあ、さっきアンタが『スズモト』って言ったからよ」
「え?え?」
「『盾』を含むなら、『カドミ』って言った方がいいじゃない?わざわざスズモトって言ったのは、盾を取らせたくなかったから。違う?」
解説したら、ハントルが目をキラキラさせて尻尾をパタパタさせた。あらやだ、かわいい。
「すごーい!すごーい!その通りなの!すごい、僕達のチームのヒントまで使っちゃうなんて、すごいの!」
「そりゃあ私は頭が回るからね」
チラッとケトラミを見ながらそう言ってやったら、ケトラミがあからさまに不機嫌そうな顔してて笑えるわ。
「おい、グライダ。『盾』が『取ったら敗北』の札の可能性だってあっただろうがよ」
「そりゃあね?これくらいのリスク取っていかなきゃ、勝てないでしょ?アンタこそ日和ってんじゃないわよ、腰抜け」
「テメっ……!」
ケトラミが牙剥いたところで、マルベロが取りなしてケトラミは収まった。ほんと、余裕がない奴ってやーね。
で、次はまたハントル達の番。
「じゃあ僕の番!……えーとね。じゃあ、『舞戸が作るもの』!3枚なの!」
あら。結構勝負師じゃないの。
「3枚、ですか!しかしこれは分かりやすい!」
……しかも、マルベロは嬉々として地面に描いた単語を消していく。
「まず、パンケーキ!美味しいですよね!」
「当たりなの!」
「それから、お人形!とこよさん達ですね!」
「そう!あと1個!」
「ではこれですね!ドレス!舞戸様の作る服はとても美しいです!」
「せいかーい!」
あっさり、3枚とってったわね……。
「やったー!これで僕ら、残り3枚なのー!」
……ハントル達のノルマは残り3枚。一方私達は先行だった上に3枚しか取れてないから、残り6枚。
これ、もうほとんど勝ち筋無いじゃない?
勝てないゲームってつまんないのよね。しかも、勝てなくても楽しい、って思えない奴とチームだし。
それでもゲーム投げる程ガキでもあるまいし、まあ、やるけどね。
「次だ」
「アンタ、分かってんでしょうね?次のターンで決められる可能性もあんのよ?」
次、ハントルのチームが3枚取りしちゃったら、そこで負け。勿論、3枚取りって相当難しい訳だけど、でもアタシ達は残り6枚。やんなっちゃう。つまりアタシ達だって、その相当難しい3枚取りを2回も成功させないと勝てないのよ?
「分かってるっつうの。一々言うんじゃねえよ煩えな」
一々本当にムカつく奴よね。可愛げが無いったら……。
「『あの日』。4枚だ」
「……は?」
「何度も言わせんじゃねえ。『あの日』で4枚だ」
「え、いや、あの日、って……」
……意味わかんないわ。何言ってんの、こいつ。あの日って、どの日よ。
アタシは地面を眺めた。
今、残ってる単語は、『友情、雲、夕陽、宝石、崖、海、虹、椅子、窓、砂漠、火山、酒、卵、肉、電気、水、魚』。全部で17枚。この中から4枚?相当おかしいわよね?
……でも。
「『あの日』、ね……」
心当たりは、あるのよ。これが。イヤなことに。
要は、アタシがケトラミと初めて会った日、でしょ?
「夕日がきれいだったわね」
『夕日』を取る。ケトラミもハントルもマルベロも、何も言わない。ってことは当たりでしょ。
「海が見える崖だったわ」
『海』と『崖』も取る。これも当たりね。
「それで……」
残ってるものを順番に見る。
『雲』は無かったわ。雲一つない晴れだった。
『宝石』も無いわね。『虹』も無かったし、屋外なんだから『椅子』も『窓』もある訳ない。
『砂漠』でも『火山』でもなかったし、『酒』も『卵』も『肉』も無い。『電気』は無かったし、強いて言うなら海辺だったから、『水』と『魚』はあったけど……この2つの内1つだけが答えなんだったら、絞れる要素が無い。だったら、ここで4枚取りなんて狙わずに、3枚ずつにして次のチャンスに賭けた方がマシ。
なら……。
「アタシが最後に取る札は、これよ」
『友情』に脚を伸ばして、文字を貫いた。
「あ……当たり、なの」
「おおー!流石!素晴らしいですね!まさか、4枚同時取りなんて!」
……どうやら当たったみたいね。これでこっちは残り2枚。ハントル達は残り3枚。ま、いい勝負なんじゃない?
「むー……僕も賭けるの!『ハンバーグ』で3枚!なの!」
「は、ハンバーグ、ですか!?じゃ、じゃあ、『肉』ですね、それから、『卵』……え、ええと、あと1枚は……」
マルベロが迷いながら単語をじっと見てる。
あと、残ってるのは『雲、宝石、虹、椅子、窓、砂漠、火山、酒、電池、水、魚』。さーて、この中で『ハンバーグ』って言ったら……。
「『魚』!これですね!」
マルベロが意気揚々と、『魚』の単語の上にお手をした。そしたら。
「あっ」
「お。やっちまったなァ、マルベロ」
ハントルががっかりした顔をして、ケトラミがにや、って笑う。
「残念。『魚』が地雷だったんだよ」
「え、ええー!?つまり私達の負けですか!?」
「そ、そうなの……」
「お魚ハンバーグじゃなかったんですか!?じゃあ何!?答えは何だったんですか!?」
「『窓』だったの……」
「何で窓!?」
「ほら、前、舞戸がハンバーグ作った時、窓にボールがぼーん、ってぶつかって、舞戸がびっくりしてたの」
「わかんない!」
……ああ、あったわね、ほら、あの演劇部?っていうんだっけ?あの子達とご飯食べてた時、確かハンバーグとパンナコッタっていうお菓子がメニューにあったわ。それで、舞戸はボールが飛び交う外に出られなくて、ずっと部屋の中に居たのよね。ちょっと可哀相だったけど。
「わかんないですよ!これはわかんないですよ!」
「ごめんなの……でもここで3枚取れなかったら多分負けてたの。だってケトラミの方に残ってたの、『虹』と『雲』だったんだもん。『空』とかヒント出したら一発でしょ?」
へー。そういう残り方だったんなら、確かに次のターンで勝ててたわね。
……それから、面白い事が分かったわ。
「それにしても、ケトラミ。アンタ、『友情』なんて随分と可愛い事言ってくれるのね」
「はっ。馬鹿言え。俺は『雲』のつもりであのヒントを出したんだぜ」
「雲一つない日だったじゃないのよ」
「テメエは『くも』だろうがよ」
あー、確かにね。アタシは玻璃蜘蛛だけど。『くも』だけどね。
……でも、そんなわけ、ないわね。だって、アタシが本当にあそこで『雲』を取ってたら、残ってたのは『虹』と『友情』。どうやったって2枚取りできそうなヒント、思いつかないわ。『美しいもの』とか言ったら『宝石』と間違うし、『触れられないもの』とでも言ったら今度は『電気』と間違うし。それ以上のアイデアなんて、ケトラミには思いつきっこないしね。
だからケトラミは間違いなく、『あの日』に『友情』を含めたのよ。本人はすっごい顔してるけどね。
「あーあ、面白かったの!負けちゃったけど、でも、楽しかった!ケトラミもグライダも、すごかったの!」
「ハントルさん!私は!私はどうでしたか!」
「うん、楽しかったの!」
「そこはすごかったって言ってほしかったですね!でもいいです!」
ま。こうしてハントルは満足いったみたいだし、あの子ちゃっかり『また遊ぼうね!』なんて約束、取りつけちゃって。一応は勝って気分が良いケトラミも了承しちゃったし、マルベロは元々なんでも了承するし。アタシ?勿論了承するわよ。ハントルは可愛いし……ま、アタシも気分、いいし。
「ねえ、ケトラミ」
「なんだよ」
ゲームが終わって、月が登って、舞戸達が夕食を食べ始めた頃。アタシ達もそれぞれ食事を摂りながら、ちょっとケトラミにちょっかいかけてみるわ。
「アタシね、嬉しかったわよ」
ほら。余裕が無い奴はこれだけですーぐ固まっちゃって。面白いったらありゃしない。
「そういうの今でもちゃんと思ってるの、アタシの方だけだと思ってたから」
「……テメエ、どういう風の吹き回しだ」
「やあねえ。偶にはアタシだって、ちょっとは素直になったりすんのよ。アンタと違ってね」
やる気のない威嚇をしてきたケトラミだけど、アタシがこの調子で居ると調子狂うみたいね。拗ねたみたいな顔して、そっぽ向いちゃったわ。
「……何だかんだ、腐れ縁だからな」
そんで、こんな事言うんだからね。素直じゃないわ。素直じゃないけど、でも、何だかんだ、悪い奴じゃないのよね。
「あら。素直じゃない言い方ね」
「はっ。お互い仲良しごっこが好きな性分でもねえだろうが」
「それもそーね。はーあ、ま、いっか」
これでこの話はお終い。後は互いに食事に戻って、仕留めてきた肉かっ食らって、終わり。
……ま、こんなもんよ。これだって十分すぎるくらい。
アタシ達の間にあるものって、舞戸達の奴みたいな、強くて脆くて継ぎ接ぎだらけな綺麗な奴じゃあ、ないわ。あの子達のは、互いに繋ぎ合おうって努力して、努力して、更に、特に舞戸なんかは他の色んなもの捨てちゃって、その上で選び取られたものだから。当たり前にそこに存在させるために、きっと、色々な事があったわけだから。
一方、アタシとケトラミの間にあるそれって、ま、努力したわけでもなく、ただ『それしかなかった』から繋がりっぱなしになってる、ってだけのもんだから。選んだわけでもないし、偶々捨てずにとってあった、ってだけのものよ。
……ただ、アタシには、捨てられない理由があったわ。多分ね。アイツにも、やっぱり捨てたくないと思うことがあったんでしょうよ。
だから、ま、アタシ達のこれって、舞戸達の『友情』とは形が違うんだけどさ。でも、ま……こういうのも悪くはないでしょ?
ええ。そう思っちゃうのよ。今夜はちょっと気分がいいから。




