男の子だって女の子
「行動原理は『折角なので』」「女の子より女の子」の後の話です。
女の子になります。ご注意ください。
視点は鳥海です。
「綺麗だなあ」
唐突に舞戸さんがそう言ったもんだから、舞戸さんが何見てるのかなー?って見てみたら、そこにあったのは鈴本の手だった。
「……は?」
「いや、綺麗だなあって思って」
「何がだ」
「君の手」
もしかして別のもの見てたかなー?って思ったけどやっぱり舞戸さんが見てたのは鈴本の手だったっぽい。んー?綺麗、か、なー……?いやちょっとよく分かんないっすわ。
鈴本の手はまあ、手。うん。サイズは大きめだし、指長いけど、まあそんなもんかな?っていう。
「……意味が分からないんだが」
「うん、まあ、だろうね。私も何が綺麗なのって言われたら、上手く説明できないんだなこれが」
舞戸さんは特に触りもせずに鈴本の手を眺めて首を傾げてる。俺も首傾げたい気分。
「でも綺麗に見えるんだよなー。君の手もそうなんだけどさ。時々、君らが綺麗に見える」
ん、んんー?どういうこと?舞戸さん、なんか変なスキルでも食らってるとか?
「お前の目玉腐ってんの?」
とか思ってたら羽ヶ崎君が割とバッサリいった。まあ平常運転平常運転。
「目玉腐ってはないけど羽ヶ崎君も時々綺麗に見える」
「腐ってるじゃん」
「そんな、ひどい……」
「腐ってるじゃん」
「そんな、ひどい……」
羽ヶ崎君はその台詞言ってもその後延々と全部「いいえ」で返してくる精神力あるからなー。ローラ姫になっても無駄だと思うぜ!
「……これは私が女だから感じるものなんだろうか」
羽ヶ崎君相手に10回ぐらい「そんな、ひどい……」を頑張ってみた舞戸さん、ふと、そう言って机の上にでろーんってなった。
それで、言った。
「ということは男子諸君におかれましては、時々女子を見て綺麗だなって思う時があるんだろうか」
「まあ……それは……ある。ある、が……それはお前も感じるようなものだと思うが」
困りまくりながら答えた鈴本の誠実さに俺は拍手を送りたい。ぱちぱち。
「例えば?」
そんでもって、舞戸さんに例の提示を求められて益々こまる鈴本に俺はエールを送りたい。ガンバレー。
「……例え、ば……?」
延々と悩みに悩んだ鈴本、他の誰も救いの手を差し伸べないから1人で延々と悩み続けてやっと答えを出した。
「……冬。雪の日」
「うん」
「誰も居ない教室の窓から空を見上げて、窓ガラスを白く曇らせている」
「……うん」
うん。
「綺麗だねえ、それは」
「だろ」
……うん。うんうんうん。いやいやいやいやいや。
「鈴本君、ちょっとそれは逃げてないかなー?んー?」
「逃げ?一体何のことだ?」
鈴本があからさまにしらばっくれる体勢に入ったので、ここは男の子代表、鳥海、いっきまーす!
「体育の時に普段髪の毛下ろしてる子がポニテにしてたらおおーってなる」
「うん。なる」
あっ、駄目かー。舞戸さんに理解できない、かつそんなにヤバくない線狙ったんだけどなー。
「えーと、じゃあ、半そでのワイシャツの子が腕上げてる時に脇が見えたらおおーってなる」
「うん。なる」
えっ、駄目かー。……いや、舞戸さん、許容範囲広すぎない?
それから色々試してみたけど、大体は舞戸さん『分かる気がする』ってなっちゃったので、イマイチ、舞戸さんの『鈴本の手が綺麗』の対極に位置するものが出てこなかった。うーん、強敵ですわー。いや、敵じゃないんだけどさ。うん。なんかね。
「うーん、この感覚って性別由来じゃなくて単に私の感性がしっちゃかめっちゃかなだけなんだろうか」
「知らねえっつってんだろいい加減にしろよお前」
羽ヶ崎君はさっきからずっとこのやりとり聞いててげんなりしてるっぽい。げんなりしてるならどっか行きゃいいんだけどそうしないのが羽ヶ崎君ですわー。
「うーん、しゃちょえもーん、この疑問に決着をつけたいよー」
「呼びましたか」
舞戸さんが言った途端に社長が来るからもうこれは笑うしかない。つくづく社長ってこう、色々天然でやらかしてくれるんだよなー。うん。
それから舞戸さんの説明タイムが入って、社長が大体舞戸さんの主訴を理解した。舞戸さんの説明ってイマイチ上手くはないんだけど、社長のカバー力は半端じゃないんで社長はなんか解決策を見出したっぽい。流石しゃちょえもん。
「成程、分かりました。ではこうしましょう」
そうして社長は立ち上がって、俺達の方を見た。
「俺達が女になって検証すればいいんです」
うーん、やっぱ社長ですわー。
「ではくじを引いて下さい。俺達は男8人ですから、4人が女になれば丁度いいでしょう」
「どうしてそうなった?社長。どうしてそういうおかしな理屈になる?それとも俺の頭がおかしいのか?」
「どちらもということにしておきましょうか」
いや、社長の言い分の方が大分おかしいのは間違いないんだけど、まあ、面白いのも面白いから黙っとこ。うんうん。
「……この薬、前、飲んだ奴?」
呼び出されてそうそう『くじを引いて外れた人には女になってもらいます』とか言われて理解が追いついてない角三君、机の上に出てる薬を見て首を傾げた。
うーん、角三君も首傾げてるけど、俺もなんか、前回までの薬とは違う気がするんだよなー。前回までの奴ってここまでキラッキラに光り輝いてなかったと思うんですわー。
「いえ。違いますよ」
そして案の定違うっていうね。
「今回の薬は単純に身体の性別を入れ替えるものではありません。これは……」
俺が頭の中でドラムロールを鳴らすと、鳴らしてる途中でもう社長からの発表がありました。早い早い。
「精神の性別をも入れ替えるものです」
「……こわっ!こわ!ちょ、そんなもん俺達に飲ませんの!?やだやだやだやだ、俺、絶対やだかんね!」
「安心してください。副作用はありません」
「信用できるか」
「俺自身が一度、試しています」
……うわー。
薬の効果にもうわーだけど社長が自分で人体実験してるところにもうわーだわ。いやー、やっぱり社長ってすごいね?
「ええと、精神の性別が変わる、ってどういうことかなあ……?僕自身の人格が消し飛ぶようなものだったらちょっと流石に遠慮したいんだけど」
しかし、俺の理解力を以てしてもこの薬の効果が理解できないんだなー。精神の性別って一体何よ?っていう。
「人間というものの精神とは、肉体に少なからず影響されています」
そして始まりました社長の講義タイム。俺達全員椅子に座って受講の姿勢。ガクセーはガクセーらしくですよ。
「例えば、性ホルモンは思考自体にも影響することが分かっています。女性ホルモンに近しい効果を持つイソフラボンを過剰摂取しすぎた男性が女性的な思考になったという研究報告がありました」
「じょ、女性的な思考、ですか?それってどういう?」
「例えば、競争を嫌うようになる。社会的認知力が向上する。交渉が下手になる。利他的な行動を多くとるようになる……などですね」
へー。まあそこら辺って脳の作りの違いとか色々言われてるけどね。ホルモンでもなるんなら面白いよね。
「ということで、前回俺達が使った性別反転薬ですが、あれも長時間に渡って服用し続けると精神に影響が出てきます。ただし、それは当然ながらリスクが高すぎるので、今回は別の薬を用意しました」
「それが、精神の性別も入れ替える薬、という訳か?リスクはどう考えても同じだろ」
「いえ。根本からコンセプトが変わっていまして」
社長が満面の笑みを浮かべてるのって、まあ、怖いよね。うん。
「体を作り替えてしまった後にリセットする効果、というものがメインになっています」
恐怖のくじ引きが始まったぜ。
いや、怖いって。怖い怖い。社長がいくら自分で人体実験しててもこれは怖いって。
身体リセットってもうね。何も言えねえ!
くじ引きは普通にあみだくじでやったんだけど、このドキドキ感がヤバいね?うん。
「えーと、俺は……よし!セーフ!よし!」
「あ、ボクもセーフだ。やったぞー」
「俺もセーフですね。もう一度飲んでも良かったんですが」
「……俺もセーフ」
……。あっ。
「……8人中4人が外れを引くくじで、先に4人が当たりを引いた時、残る4人が外れを引く確率は100%だな」
つまるところ、残った俺と羽ヶ崎君と鈴本と刈谷。この4名が今回の犠牲者です!
……まあ、うん。仕方ない仕方ない。決まっちゃったもんはしょうがないね。楽しんでいこ。
「俺達はくじ引きで決めましたが、舞戸さんはどうしますか?女性の比較対象が居ない訳ですから、そこはご自由に」
「うーん、折角だし私も飲んでみるかなあ。効果は1日?」
「1日持たないですね。精々、半日かそこらです」
「ならよし。私も飲みまーす」
舞戸さんが正気じゃねえ!
「おい、舞戸。どう考えてもこれ、劇薬だぞ」
「うん。でも君らの内の半分も飲むんだからまあ、私が飲んでも誤差だよ誤差」
誰か舞戸さんに誤差の意味教えてあげて!
ってことで飲みました。飲んだ飲んだ。一気に行った。男は度胸、ってね。うん。いや、もう俺女の子になってるんだけどね。うん。じゃあ女の子だから愛嬌の方が大事?ま、今どきは女の子も度胸でしょ。うん。
「……思考が変わった、のか?自覚は無いが……」
「うん。私も無いねえ」
で。大事なとこなんだけど、俺達4人は心も体も女の子になったはずなんだけど全然自覚が無い!
更に舞戸さんも男の子になってるんだけど、全然自覚が無いらしい!
これは一体どういうことか。俺達はこの謎を解明するべくアマゾンに飛びたいのは山々だけどこの異世界にアマゾンはないんですわー。
「まあ、精神に影響があるとはいえ、人格そのものが変わってしまう訳ではないので」
「あのさあ。思考が変わったらそれって人格が変わるのとほとんど同じじゃないの?」
「そうかもしれませんね。しかし根底にあるものは男女関係無くその人だけのものですから。それが男女の括り無しに形成されたものかは分かりませんが」
ま、考えててもしょうがないね。折角だから楽しめるだけ楽しんだ方がお得っしょ。うん。心配は心配だけど、心配だけしてても勿体ないっていうか。
とりあえずしばらくの間アナログゲーやって遊んでたんだけどね。
「……すごい影響あるじゃん、これ」
羽ヶ崎君っていうか羽ヶ崎ちゃんが絶望してる。
えーとね。とりあえずワンナイト人狼やったんだよね。
そしたら舞戸さんが1人狼だったんだけど占い師騙って「真ん中に2人狼!よって平和村!」とか言い出したんですわ。そんで、俺と鈴本と羽ヶ崎君と刈谷はあーだこーだ議論したんだけど、結局平和村にしちゃったんだよね。
……うん。まあ、平和村の可能性はない訳じゃなかったし、負けたら負けたでいいかなー、ぐらいの気持ちでね。うん。
でもよくよく考えると『負けたら負けたでいいかな』って気持ち自体、ちょっと羽ヶ崎君らしくないっていうかね。俺なんかはよくそういう思考になるけど、羽ヶ崎君はいつも勝負事は全力だから、平和村に乗っちゃったのはかなり珍しかったっていうかね。
「これが男女差か……舞戸のパワーがかなり上がったのもそうか」
「うん。自分でもびっくりするほど議論を先導できた」
あと、単純に舞戸さんが滅茶苦茶喋った。普段の舞戸さんって、人狼系のゲームだとそこまで喋らないんだよね。うん。要所要所でしか喋らないっていうか、議論の先導役にはならないっていうか。だからこれも珍しかったわ。
案外ゲームにもこういうの出るもんかー。面白いわこれ。
「うわああああ惨敗」
「ざまあみろよ」
次に多数決ゲームやった。ルールは簡単で、答えが2つに分かれるような質問を親が投げて、子が投票。投票数が多かった方に居た人は得点する、っていう。
……それやったら、びっくりするほど舞戸さんが弱かった。
「なんでだろ、全然読めない」
「逆に俺はなんとなく読めたな……このゲーム、苦手だったんだが」
鈴本は逆にそこそこ得点できてたし、俺もこのゲーム苦手な方だったんだけど、今日は上位の方に入ってるからね。偶々かもしれないけど、これもおクスリの力かもね。
「……でも一番強いのは角三君か……」
「勝った」
うーん、でも何より面白いの、このゲームの不動の一位が角三君ってとこなんですわー。
男だろうが女だろうが角三君が一番多数決ゲーム強い。これは面白いね。
「そろそろ安定してきた気がするんだけど、元男性諸君はどうかね」
「安定してきちゃったかんじするねー」
「俺、なんか楽しいです!俺もう女の子になります!」
「やめろ。帰ってこれなくなるぞ」
「それはそれで平和になるんじゃない?」
で、散々ゲームやって遊んだら、その後はまあ、うん。
「ではこれより検証に移る!」
舞戸さんのお悩み解決コーナーっていうね。張り切っていくぜ!
まず、舞戸さんが鈴本の手見て『綺麗』って言ってたけどそれってどうなのかなー?っていうところからいこう。
……って言っても、その鈴本が今は女の子だからなー。しょうがない。別の奴の手を借りよう。ちょっと男子ー、手ェ見せなさいよー。
「……駄目だ、分からん」
「鈴本に同じく」
「うん。駄目だ。俺も分かんないや」
「俺はちょっと分かりますけど実は男の時から既に分かってました!」
刈谷がなんかアウトだけどまあ、そんなもんだよね。うん。
「え、じゃあこれって私本人の性質によって鈴本の手とか羽ヶ崎君の首の骨とかが綺麗に見えるってことなの?」
「は?お前変態なの?やめてもう僕に近づかないで」
「うわーん羽ヶ崎君が冷たい」
うーん、ちょっと舞戸さんの気持ちは分からないなー?俺としても、女の子になったらそういうの分かるようになるかなー?って思ってただけにちょっと残念かな。
とか思ってたんですわ。うん。
「でも、そっかー。なんかちょっと安心した。単に私がちょっと変なだけかあ。それならいいや!」
舞戸さん(男)が笑いながら髪掻き上げてるの見たら、なんか、うん。
手とか髪の生え際とか首筋とかにやたらと目がいく。
……何かが、これは、YABAIと俺の第六感が告げている!
そしてその一方!
「く、くすぐったい。やめてくれ」
「え、ごめん……折角女子になってるからと思って……」
「だからって触らなくてもいいだろうが」
「すべすべもちもちしてた。すげえ肌綺麗」
鈴本ちゃんが角三君にほっぺ触られて、赤くなりながら俺のとこまで逃げてきた。
更にその一方では羽ヶ崎ちゃんが加鳥に眺められながら加鳥凝視して固まってるし、刈谷ちゃんは針生の『折角なので』で服脱がされそうになってるのを必死に回避しようとしてる。うん。
そしてそして。
「……やばい」
舞戸さんが。
「鈴本が鳥海にくっついてるの見てたらなんか、なんかこう……くるものがある」
舞戸さんが俺達を凝視しながら目を爛々と!爛々とさせております!これはヤバい!そして凝視されてる俺もヤバい!なんかヤバい!何がヤバいのかよく分からないのにとりあえずヤバい!
一旦落ち着こう。まだ慌てる時間じゃない。あわわわわわわ。
「……成程な。舞戸。すまないが理解できてしまった。お前が何故、いつもいつも俺達に対して距離が近いのか。……女子というものは、パーソナルスペースが狭いんだな」
そう言いつつ鈴本は現在、俺に抱き着いてるんだなー、これが。俺完璧にクッションじゃん。俺クッションじゃん。なぁにこれぇ。でも抱き着かれてても全然不愉快じゃない。ほんとなぁにこれぇ。
「うん、理解してもらえて嬉しいよ……そしてそれと同時に私は今、なんで君達が手繋いだり抱き着いたりしないのかを理解しているよ……」
舞戸さんは舞戸さんで男の感覚がなんとなく分かってきたらしい。うん。まあ、男同士で抱き着いたりしないよね。大体の場合は。
「女性の方が他者との身体的接触を厭わない傾向にある、というものをこうも目の当たりにできると何とも面白いですね」
社長は面白がってるけどね?俺達割と今、いっぱいいっぱいです!
こう、自分ってものが消える感覚っていうのかなー、変わっちゃう感覚ってのは、ものすごく怖いわ。単純に、怖い。いや、確かに面白いし楽しいんだけどね?
「前回、体だけ女の子にした時は揉みあいしましたけど、うーん、今は揉ませたくないですねー。上の服脱ぐのもすごい抵抗あります」
あ、それも思った。
……いや、俺達男の子だし。前回の性別反転薬の時は『折角だから揉んどくか!』ってことでおっぱい見放題揉み放題やってたんだけどね。うん。今は自分のおっぱい揉む気にならないし、男に揉ませる気にもならない。すっげえなこれ。
「それから……角三君に触られた時……すごく、手が。手が、気になった。舞戸が言っていたことが少し、分かった。……それから今、自分が女だと『自覚』してしまった」
鈴本が頭抱えてる。うん。ドンマイ。
「え……ごめん」
「いや、いい。勉強にはなった。勉強にはなったさ」
鈴本の前で(つまり鈴本に抱き着かれてる俺の前でもあるんだけどね?)角三君がおろおろしてる。うん、まあ、困るか。ごめんねー。
「……じゃあもうちょっと触ってもいい?」
「勘弁してくれ!」
鈴本がこんなに取り乱すの面白いなー、って思いつつ、俺としては『ちょっと男子ぃー、鈴本ちゃん虐めるのやめなさいよー』って気分なのが怖いっすわ。これ、俺が男だったら積極的に触りにいくもん。多分。
「ところで今の私は羽ヶ崎君のお尻小さいのにちゃんと曲線で可愛いなーって思ってるんだけど」
「やめろ!」
羽ヶ崎ちゃんが舞戸さんから逃げるべく俺の方来た。うん。やっぱパーソナルスペース狭くない?なんで俺こんなにくっつかれてんの?ん?
「あと刈谷が動くたびに胸が揺れてるのが滅茶苦茶気になる。目が全部そこ行く。すごいねこれ」
「ふええ、俺、女の子になっちゃう」
「もう女の子なんだよなあ……」
最終的に刈谷まで俺にくっついてきた。
……何これ?新手の合体技か何かかなー?んー?
まあ、うん。なんというかね。
その後も開き直って遊び倒してたんだけど、その内薬の効果が切れた。
……そこでまた我に返って色々阿鼻叫喚だったんだけどね。うん。
今日は舞戸さんの言ってたことも分かっちゃったし、何か色々分からない方が良かったことまで分かっちゃったんだけど、まあ、勉強にはなったかなー、って。
……多分、なんだけど、舞戸さんの感覚ってやっぱり特殊だわ。
俺達今回女の子になったけど、男子見てちょっとドキッとしたり怖かったりすることはあっても、『綺麗』って感覚にはならなかったんだよなー。うん。やっぱ舞戸さんがちょっと特殊な気がするわ。
一方の舞戸さんは男になって女子の太腿の良さが分かったってニコニコしてたけど、まずそこなの?っていうかんじするし。
でもちょっと羨ましいかな。だって『綺麗』って感想持てるって、すごいと思うんだよね。その感性は舞戸さんが女の子だったから得られたものかもしれないけど、女の子全員が持てるものでもないみたいだし。そういうのって多分、良い悪いは別としても貴重だし。『綺麗』って感覚は悪いものじゃないと思うし。うん。ちょっと羨ましいかもしれない。
「後遺症は無いようですが、もしかしたら記憶もある程度消せるように改良した方がいいかもしれませんね」
「いや、もう改良とか要らないから。二度と使わないから」
「同感だ。これは闇に葬ってくれ。相当負担がある」
社長は全くブレてないんだけどさ、これ、結構精神に来るものあるから、正直今後使おうとは思えないんですわー。うん。結構キツかった。楽しかったんだけどね?でもやっぱり、自分が自分でないものに変わっちゃうってのは、滅茶苦茶怖いんだなー、っていう感想。うん。なんかそんなかんじだったわ。
……あともう1つ。
「あれ、鳥海、どしたの?窓開けるの?」
「いや、ちょっと換気しとこうと思って」
女子になったら、嗅覚良くなったかんじしたんですわ。具体的には、俺達がいつも寝泊りしてる化学講義室がなんか、臭かった。
……うん。舞戸さんは何も言わないけどね。でも今後気を付けよっと。




