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其即ち狩り物狂騒也

時間軸はいつものところです。

視点は角三です。

借り物競争をしていたはずでした。



 夜、喉渇いて起きた。

 羽ヶ崎君が起きてれば水出してもらうけど、寝てたから、講義室の外に出る。舞戸が起きてれば舞戸が何かくれる。

 でも化学実験室を覗いたら、誰も居なかった。

 じゃあケトラミ布団にして寝てるのかな、って思ったけどケトラミも居ない。

 その代わりに、教室が1つ外に出てた。


 中に入ったらやっぱり舞戸が居た。

 この教室はほとんど全部、舞戸の食糧庫みたいになってる。棚が大量に作ってあって、そこに肉とか魚とか色々置いてある。

 教室は宝石の形にしてあると、中のものの時間が進まないらしい。だから腐らないって舞戸が言ってた。実際、食あたりしたことは無いし腐ってないと思う。多分。

「……あれっ、角三君、どしたの?」

 舞戸は棚を見てたからか、俺に気付くのが遅れて驚いてた。ごめん。

「何か、飲む物探しに……舞戸は?」

「ええっとね、ちょいと……在庫管理を……」

 ……舞戸が棚見ながら木の板(多分舞戸がそこらへんの木材を『お掃除』して自分で作った奴)に記録してるんだけど、難しい顔してる。

「足りないの?」

「え?ああ、うーんとね……いや、量は足りるんだよ。ケトラミもグライダも大量に狩ってきてくれるから」

 量は足りる、って言葉どおり、棚には凄い量の肉と魚が並んでる。そういえばケトラミとグライダが最近狩りに出てた気がする。

「ただ、こう、野菜はどうにも少なくなりがちだし、あとね、種類が……種類が足りないと、ご飯のバリエーション増やすのに、こう、色々と頭を使うことに……」

 舞戸が唸りながら木の板眺めて何かメモしてる。明日の飯の献立考えてるのかもしれない。

「え、じゃあ足りないもの言ってくれれば取ってくるのに……」

「いや、君らにお願いしなくても、野菜だったらメイドさん人形動員すれば何とかなるし、ケトラミさんにお願いすれば肉ガチャ回せるし、グライダに任せとけば魚ガチャ回せるし……いや、ただしケトラミさんもグライダもふっつーに毒入り生物狩ってくることあるし、ものすごく美味しくないの狩ってくることもあるから本当にガチャだってだけで……ぐぬぬ」

 ……なんかよく分かんないこと言ってるけど。

 つまり、俺達に手間かけさせたくない、って、いうことなんだろう、とは思う。

「……いや、俺、ガチャに頼らず飯食いたいし……」

「あ、うん。なのでそこは私がだね、ちょいと頑張らせて頂きますので」

「じゃなくて……ええと……」

 でも、俺が取ってくる、って言っても、舞戸は申し訳なさそうな顔するんだろうな、っていうのも、知ってる。

 こういう時、鳥海とかだったら上手いこと言って言いくるめられるんだけど。

「……あのさ」

「うん?」

「その……」

「……うん?」

 考えても何て言ったらいいのか思いつかなかった。そもそも思いつくとも思ってないし。

「飲み物、なんか、ほしい」

「あっそういやそうだったっけ!ごめんごめん、何が良い?」

「甘くない奴がいい」

「寝る前だもんね。じゃあお茶各種か、水か……フローラルウォーターとかもあるけど」

 ふろーらるうぉーたーって、何……?

「え、じゃあ、水で……」

「おーけい!飲み方は?燗とロックと水割り、どれがいい?」

 いや、水の燗とかロックはまだいいけど、水の水割りって何……?

「……水割り」

「お、おおう……一番しょーもないの選んできた……はい、じゃあ水の水割り」

 普通に普通の水が出てきた。……うん。




 水飲んで寝に戻って、寝た。それで、朝になってから、まだ寝ぼけてる人達起こして、聞いてみた。

 ……どうやったら、舞戸が気にしないように、食料、持ってこられるか。

「それな?俺も思ってたんですわー」

 聞いてみたら早速、鳥海が反応してくれた。

「結構舞戸さん、気にしいだからね。どう言っても割と気にしそうだけど」

「気にするだけ無駄なんだけどね。今更じゃんそんなの」

「生命維持に必要な以上の食糧、というと舞戸さんにとっては贅沢なのでしょうね。俺達の食生活を豊かにするという名目はあれど、自分の努力でなんとかなる範囲ならまずは自分の努力でなんとかするべきだと考えているようですし」

「倹約家なのは結構だが、折角の異世界だ。俺は色んなもの食いたい」

 うん。俺も。……肉ガチャとか魚ガチャって昨夜言ってたけど、外れの肉とか食いたくないし……。

「かといって、舞戸さんが使いたい、或いは使いやすい食材を俺達が分かっている訳ではないのがネックですね。必要な食材をリストアップしてもらえれば楽なのですが」

 言っても申し訳ながりながらリストアップしてくれそう。……いや、それでもいいのかもしれないけど……。

「……あ。俺、滅茶苦茶良いこと思いついた」

 考えるだけ無駄だって思いながら考えてたら、針生が手、挙げた。

「ゲームにしようよ。うん。そうすれば俺達も楽しい。舞戸さんも楽しい。ついでに美味しい!いいじゃん!」




「というわけで、舞戸さんにはカードの作製をお願いしたいのですが」

「ええと、借り物競争の……?」

「そうですね。俺達で適当に作っても良かったのですが、折角なら実用的な借り物競争にした方がいいと思いまして」

「わ、わからん……君らの考えることは時々よくわからん……」

「まあそう言わずに。俺達はGMを舞戸さんにやってもらえて楽しい。舞戸さんは食材が手に入って嬉しい。WIN-WINじゃん?ん?」

「いいのかなあ……」

 舞戸、ぶつぶつ言いながら木の札(これも『お掃除』で作ったっぽい)に筆とインク……色水……?なんかそんなので食材の名前、書いていく。

「1ゲームに使う札は同じフロア内の食材で頼む。どうせお前、何がどこで獲れるか大体記憶してるんだろ」

「うん。君らが逐一報告してくれるからね。メモってあるよ。……てことで、うん、GMの役目はしっかり任されました」

 なんか舞戸が書いてる札見てたら、札の形と文字のインクの色がそれぞれ違う。……植物が緑、肉が赤、魚が青、その他が黄色……?札の形は1Fから4Fまでそれぞれ違う、んだと思う。多分。


 ……その内舞戸が札400枚書き終わった。すげえ。400種類も食材、あるんだ……。(後で聞いたら食材のダブりもあるからそんなに種類はなかったっぽい)

「えーと、じゃあ今回のルールですが!」

 舞戸が札の仕分けとシャッフルする間に、鳥海がルール説明始めた。

「俺達は借り物競争ならぬ狩り物競争をするわけでっす!ルールは簡単!札をドロー!そして札にある食材を取ってくる!戻ってきて舞戸さんの判定でオーケーが出たら次の札を引ける!つまり狩ってくるのが速ければ速いほど札の枚数は増えていくって訳だ!」

 うん。大体分かった。1つのものをどれぐらいのタイムで取ってこられるかの競争じゃなくて、一定時間の中でどれぐらいのものをとってこられるかの競争……いや、違う?他の奴よりどれぐらい早くものを取ってき続けられるかの競争……?

「えーっと、1Fには町があるよね?そこで買ってくるのはアリ?」

「アリにしましょう。その方がゲーム性が増します。ただし、初期金額は0で。町で買いものをしたければ、その分金になりそうな物を狩って売るしかない、というのはどうでしょうか?」

「いいんじゃない?最初から金持ってたらゲームにならないし」

 うん。高く売れそうなものを狩って、売って、その金で買えるものは買う、のが速い……かな。物によるか。

「ちなみにこのゲーム、一度に所持していられる未処理札の枚数は3枚ね。でも、1つでも狩り物に成功したら次の札を引ける」

 じゃあ、最大でも3つ狩ったら1回戻らないといけない……。

 移動速度がかなり重要な気がする。俺はテラに乗れば空飛べるから、そこは有利、かもしれない。

「1フロアずつゲームを行い、合計4ゲームやったところでゲームセット!札の点数計算して一番点数が多かった奴が優勝だ!」

 それぞれのフロアで地形がかなり違うから、移動方法は結構考えないとヤバいかも、しれない。

 ……俺はあんまり器用な方じゃないし、色々戦略考えてたんだけど。

「あ、じゃあ一番点数低かった奴が何か罰ゲームにしない?俺、そっちの方が頑張れる」

 針生がそんな事言い出した。

 ……。


「成程な。優勝の旨味は無いが、ひとまず最下位にはなりたくない、と。そういうゲームも悪くはないが、戦略が変わってくるな」

「邪魔が重要になってきますね」

「やだよー、やだよー、泥沼じゃないかそんなのー」

 うん。俺もやだ……。

「えっ、じゃあ何か優勝賞品用意するよ。おやつとか」

 舞戸はこういうとこだけ平和主義だからそういう提案するけど。

「旨味ないじゃんそんなの。お前、頼まれたらいくらでも出すでしょそれぐらい」

「ぐぬぬ……そうであった……」

 うん。舞戸は頼めばいくらでもおやつ出してくれるから、全然賞品にならない。

「ふがいないメイドを許してくれ……」

「いや、お前を不甲斐ないと思った事は一度もないが」

 鈴本がすぐ訂正入れてるの見ると、なんか……うん、鈴本はこういうところがかっこいいと思う。

「あっ、ならこういうのはどうだい諸君!1日私がつきっきりでメイドをやろうではないか!」

「マジで旨味ねえだろそんなの」

「マジで甲斐甲斐しく世話を焼くぞ!?それこそ羽ヶ崎君を布団から一歩も動かさずして一日を終えさせるぞ!?」

「それお前が楽しいだけじゃん馬鹿なの?」

「どうせ馬鹿でええええええす!ひゃっはああああああああ!世話焼かせろおおおおお!」

 舞戸が壊れた。

「……舞戸さんは俺達の世話を焼きたいんですか?」

「焼きたい!」

 舞戸が壊れてる。これが正常だから、なんか、すごい。

「僕らは焼かれたくないんだけど」

「でしょうね。俺も嫌です。恐らくここに居る全員が嫌でしょう。ですので今回はそれを罰ゲームにしましょう。敗者は舞戸さんに1日世話を焼かれます」

 ……。

 社長も壊れてる。

「わーい!わーい!世話焼きたい!君達が嫌がっても世話を焼きたい!すごく焼きたい!やったあああああ!」

「やべえ、負けられない戦いがここに……いや駄目だ草生えますわこんなん」

「下手に黒歴史暴露とかよりもやばくないですかこれ」

「黒歴史を新たに生み出すわけだからな。これは負けられない」

 ……罰ゲームとしては、すごく機能してる、と、思う。俺は絶対に嫌だけど。

「まあ、世話を焼かれたくなかったら頑張って勝ちたまえよ諸君」

 うん。勝つ。




「では優勝賞品は次回ゲームのGM権と、舞戸さんのお菓子倉庫入場券ということで」

「いや、正直後半ほとんど意味ないよね」

「言えば持ってきてくれますもんね、舞戸さん……」

「無ければ作ってくれるもんね、舞戸さん……」

「優勝するメリットより最下位になるデメリットで勝負しにいったかんじだな」

「さっきから君達私への当たり強すぎない?」

 ……とりあえず賞品と罰ゲーム決まったからゲームスタート。

 全員で4Fに移動した。

 それぞれに乗るドラゴン用意して、それから、教室の宝石も持った。得物のサイズによっては、普通に運べないし……。

 それでそのうち、全員準備完了。

「じゃ、皆さん!準備はよろしいかー!」

 舞戸が大量の札が並んだお盆持って来た。

「1人3つまで引いていいよ。あ、赤がお肉系、青が水産物系、緑が植物系、黄色がその他だから」

「その他って何……?」

「引いたら分かるよ」

 分かった。引かない。

 植物の見分けは得意じゃないから、赤を選んで3枚取る。

「俺は植物の見分けは得意じゃないからな」

 同じ理由で鈴本も赤3枚。

「どう考えても植物取った方が楽ですよね!」

 刈谷は緑3枚。

「4Fの水場なんて相当限られるでしょ」

 羽ヶ崎君は青3枚。

 ……結構皆、考えてるっぽい。

「俺は黄色3枚でお願いします」

 社長は黄色取った。……え、なんで?

「成程。そう来ましたか」

 引いた札を見て社長がにやにやしてる。……なんで?


「それでは位置についてー!」

 全員3枚ずつ札を取って、ドラゴンに乗って、舞戸の合図を待つ。

「よーい!」

 テラの手綱握って、体勢を低くしたらテラも脚に力を入れて離陸の準備をしてくれる。

「どん!」

 フライパンお玉で叩いた音が合図。

 かーん、ってなんか間抜けだけど、とりあえず俺達は一斉にスタートした。




 テラはまず、飛べるからそこが有利。鳥海の奴とか、地上専用だから。山とか越えるのはかなり大変だと思うけど。

「きゅー」

 しかもテラは獲物が居たら教えてくれる。優秀だから。

「分かった。下降して」

 剣抜いて、見つけた獲物にそのまま急降下。高い所、苦手じゃなくてよかった。

 落ちるみたいに降りて、適当に『エネルギーソード』で獲物の首落としたらすぐ急上昇。

 地面すれすれでUターンして、適当にホバリングして体勢を立て直したらゆっくり下降。着陸。

「『金剛牛』。ゲット」

 獲物の首見たら、ちゃんときらきらした宝石の角が付いてる。多分間違いじゃないと思う。

 適当に教室展開してそこに牛放り込んだら、またテラに乗って出発。

 残りの2つの札は『琥珀鹿』と『二首駝鳥』。琥珀鹿は森の中。二首駝鳥は……どこだろ。山の方?

 まあ、適当に探せば見つかる、と思う。多分。


 琥珀鹿はすぐに見つかった。駝鳥の方も1匹はぐれて野原走ってるの見つけてゲット。

 多分、結構早い方だと思う。急いで舞戸のところに戻る。

「ということで、『蜂蜜水晶』と『飴蜘蛛の巣』、そして『月森さんのサイン』です」

「おおー、流石のスピードだね、社長。次の札も全部黄色?」

「そうですね。その方が効率が良さそうですから」

 ……なんか、社長が先に戻ってきてた。

 そっか、黄色の札の奴って、肉でも魚でも植物でもない食材、か、食材ですらない奴、ってこと……?

「あ、角三君、お帰り!さ、成果物をチェックするよ!」

 社長はさっさと黄色の札を3枚引いて出ていった。俺も教室を外に展開して、牛とか出して舞戸に見せる。

「ふん、ふん……オーケイ!それじゃあこの3つの札は角三君の点数、ってことで」

「ん」

 とりあえずこれで3点。

 次からは3つ全部見つからなくても適当に戻ってきて、次の札を引いていった方がいいかも。見つかりにくい1つを探すのに手間取るより、見つけやすいものの札を引ける可能性に賭けた方が、いい気がしてきた。

「角三君、次も赤3枚?」

「……うん。そうする」

 少し迷ったけど、やっぱり自分の得意分野で勝負する。っていうか、俺、あんまり難しく考えるの得意じゃないし……。




 次の3枚の札もちょっと手間取ったけど見つけて、途中で引き直しに行ったら途中で赤の札が無くなってて、仕方ないから緑の札取ったけど植物とか全然分かんなかった。

 ……不得意分野の札引くと、単に札3枚の枠の1つを無駄に潰すことになる……。


 ってことで、俺は赤の札8枚と緑の札3枚で合計11点だった。

「はーい、皆さんお疲れ様でした!それでは気になる結果発表です!」

 舞戸が前に立って、黒板に点数を書き出す。

「とりあえず1位からいこうか。1位は社長。18枚」

 え。

 ……えっ。

「2位は鳥海。17枚」

「あー、社長には負けたかー。うん、でももうコツ掴んだからいけるいける」

 えっ……。

「3位は加鳥。14枚。4位は針生の13枚」

「ぼちぼちかなあ」

「うわー!もうちょい頑張りたかった!」

「5位は角三君の11枚」

 ……丁度真ん中かよ……。

「6位は刈谷の10枚で、7位は鈴本の9枚」

「魚に手を出したのが俺の敗因でしたかね……」

「引きが悪かったんだよ。まさか肉の札を引いてそんなに大きくない鳥ばっかり来るとは思わなかった」

「そんで最下位が羽ヶ崎君。8枚」

 ……意外。

 羽ヶ崎君、滅茶苦茶不機嫌そうな顔してるし。

「……あのさあ」

「はい」

「水産物って、お前言ったよな?」

「水産物でしょうが。淡水真珠」

 ……。

「素潜りする羽目になったんだけど?」

「乾かしてあげましょう。ぽふぽふ」

 ……。

「あとさ。何これ。藻?何にすんのこんなもの」

「寒天っぽいのができる」

 ……。

「一番文句言いたいのはこれだよ!何だよ、湧き水50Lって!水ならお前いくらでも出せるだろ!」

「折角だから美味しい水でお料理したかった」

 分かった。

 青の札って、魚ばっかりじゃ、ないんだ……。




 とりあえず次のステージ。羽ヶ崎君が滅茶苦茶意気込んでる。……うん、俺も舞戸に1日世話焼かれるのとか、やだ。

「それでは皆さん、よーい、どーん!」

 また舞戸がフライパン叩いて、試合開始。

 ……今度はもうちょっと、いいスコア狙いたい。




 3Fでも俺は肉ばっか狩ってた。

 ……これは凄くよかったと思う。

 3Fの北側って、割とゾンビばっかりだから、食えない。

 だから、食える肉は南側に集まってて、移動の手間も探す手間も、あんまり掛からなくて済んだ。

 ……ただ、考える事は大体全員一緒だったから、赤の札はすぐ無くなった。

 しょうがないから緑の札を引こうと思ったんだけど……青の札を引くことにした。


「あれっ、角三君、青でいいの?」

「うん。いい」

「そっかー。ほい。それじゃあファイト」

 舞戸が渡してくれた札を見る。

 ……うん。いける。




 当然だけど、青の札には魚が多い。

 魚以外もあるけど、それは結構なんとかなった。浮くのは苦手だけど潜るのは得意だし。水50L運んだりするのは、まあ、多分、羽ヶ崎君よりは得意だし……。

 ……で、藻とかの区別はつかなかったけど、とりあえず手あたり次第全部持っていくことにした。

 うん。手あたり次第、全部。

 そうすると滅茶苦茶簡単だった。


「はーい、けっかはっぴょーう」

 全部終わって、また舞戸が結果発表する。

「第二ラウンドの1位は角三君。記録は19枚」

 勝った。

「ちょ、え!?角三君19枚も取ったの!?なんで!?どうやって!?」

「あ、ちなみに角三君がとった札は割と青」

「水系!?なんで!?」

 針生がうるさい。

「ああー、静粛に、静粛に。……角三君はね、うん……ちょっとね……禁漁してきたっていうかね……」

 舞戸が遠い目してる。

「え……?禁漁って何やったんですか……?」

「水中に向かって『エクスプロージョン』した」


「角三君がダイナマイト漁……だと……?」

「いいんじゃないでしょうか。ここは異世界です。水産資源保護法は適用されませんから」

「魚獲るの滅茶苦茶簡単だった」

「こわいよー、こわいよー、角三君が物騒なことしてるよー」

 うん。水面にぷかぷか浮いてきた奴根こそぎ拾って教室に放り込んで舞戸のところに戻れば、次に引いた札の魚も大体全部もう拾ってきてたから……楽だった。

「成程、青の札は範囲が狭い、ということを利用すれば、根こそぎまとめて持ってくるような作戦も可能、ということですか」

 反則気味だけど禁止はされてなかったし。別にいいっしょ。


「ちなみに第2位が羽ヶ崎君。怒涛の14枚」

「怒涛って程じゃないでしょ、この程度」

「ちなみに羽ヶ崎君、青の札1枚も取ってません」

 え。

「懲りたから」

 あ、そっか。……おかげで俺が青の札沢山とれてラッキーだった。

「羽ヶ崎君が猪担いできたのが本日のハイライト」

 俺もそれ見たかった。


「で、第3位が鈴本と鳥海。13枚。その次が加鳥と刈谷の12枚。そしてその次が針生の9枚。栄誉ある最下位が社長の9枚でした」

 ……。

「えっ?」

「しゃ、社長……?」

 俺達全員社長見る。いや、そりゃ見るでしょ……。

「悔いはありません」

「社長は黄色の札で大爆死しました」

 え、何それ……。

「鉱石をお題にしたら角三君と同じようなことを坑道でやろうとして大落盤引き起こしたらしいよ」

「次は上手くやります」

 ……。

 怖い。




「では続きます第3ステージ!2Fは我ら化学部の拠点化学実験室があるフロア!皆様なじみ深い事でしょう!」

「そうでもない」

「移動しまくってるしねえ、俺ら」

「うーん、ま、俺と刈谷はスタート地点からして違うフロアだったし……」

 ……俺はなじみ深いよ。


 舞戸がフライパンとお玉で開始のゴング鳴らす準備をする中、ふと、社長が手を挙げた。

「舞戸さん。ところで1つ伺いますが」

「あ、はい」

「このゲームのルールは、『転移』や『影渡り』といった移動系のスキルを用いてはいけない、というものでしたね」

「そ、そうだね?」

 ……。

「それ以外については、所持金は0からスタート。現地住民の方との交渉もあり。一度に持てる札の数は3枚まで。それ以上を引こうとするならば、手持ちの3枚の内最低1枚を消化してからでなければならない。そして最後の得点計算の時、札の数で得点を決める、と」

「そう、だね……?」

 ……なんか、嫌な予感がする。

「それ以外にルールはありませんね?」

 社長の目が、怖い。

「な、ない……いや!人に対しての攻撃はナシ、ってことで……」

「成程。分かりました」

 社長が、笑った……怖い……。


「ま、まあ、そういうことで皆様、準備はよろしいか!では位置についてー!よーい!ど」

「『ロックポール』!それではお先に失礼します」

 開始のフライパンが鳴った瞬間、地面から石の柱が大量に生えてきた。ドラゴン発進させようとした俺達は全員ストップさせられる。

「ヒュー!流石社長ですわー!これは負けてらんねえ!」

 鳥海が口笛吹きながらドラゴン発進させて、石柱にタックルして全部へし折りながら突き進んでいった。

「……人に対して攻撃するな、とは言ったが……妨害も無し、とは、言わなかったもんな?」

「すみませんでした!ルールが甘かったです!すみませんでした!」

 鈴本に笑顔を向けられた舞戸がぺこぺこしてる。いや、舞戸、そんなに悪くない……。

「……まあ、そういうことなら俺もそうさせてもらうとするかな」

 鈴本もにや、って笑って、刀で石柱斬りながらドラゴン発進させていった。

 ……俺も行こ。




 2Fは水辺がそこそこあるから、青の札は却ってめんどくさい気がした。

 だからまた、赤の札重点でとって、見つけた獣は全部仕留めて教室に放り込みながら進む。目当ての奴が見つかったら引き返す。

「……うわ」

 テラが急に方向転換したから何かと思ったら、目の前に光の球が突然出てきて目が眩んだっぽい。

「……刈谷」

「すみません!俺も最下位は嫌なんですよう!」

 刈谷がドラゴンに乗って逃げていく。

 ……。

 いや、俺も最下位、嫌だし……。




「で、では結果発表……なんで皆そんなボロボロなの……?攻撃するなって言ったやん……?」

「あのルールで怪我しない方がおかしいでしょ馬鹿なの?」

「馬鹿ですとも。はい、そんな羽ヶ崎君が今回の1位だ。おめでとう。記録は15枚。おめでとう。そしておめでとう」

 羽ヶ崎君、全然ボロボロじゃないんだけど……。

「角三君がやった事、僕もやっていいんだったら楽じゃん。最初からああすればよかった」

 羽ヶ崎君、ボロボロじゃないんだけど、びしょびしょ。

「ずっと水の中に居たとは恐れ入る」

「水魔法使えば案外簡単だから」

 そっか。攻撃されない位置に居るっていうのも、戦略なのか。……すごい。

「はい、第2位は針生。14枚」

「妨害は任せろー!」

「こいつ今回の戦犯だな。ヘイトを稼いだ分次では覚えてろよ?」

「やだー鈴本が怖いー!助けて加鳥ー!」

「うん?僕も次は針生狙おうかなあって思ってるけどなあ?」

「やだー加鳥も怖いー!」

 ……俺も針生にやられた。

 攻撃じゃないけど。周り全部真っ暗になったら、動けないじゃん……。

「第3位は鈴本13枚。そして第4位は角三君と加鳥と鳥海と刈谷の12枚。最下位はおめでとう、社長だ」

「やられました」

「初手でやってくれたからこっちも妨害に走りやすかったよね、うん」

 社長はあの後皆から妨害されまくってここまでスコア落ちたっぽい。すげえ。人を呪わば穴二つって本当だった。

「……あのさあ、君達。もうちょい、平和にいかない?」

「いかないんだよなあ、これが」

「最下位は嫌だ最下位は嫌だ最下位は嫌だ!」

「別室送りは嫌だ別室送りは嫌だ別室送りは嫌だ!」

「そんなに嫌かね君達……」

「まだ1050年地下行きの方がマシ」

「そ、そんなにかね羽ヶ崎君……」

 ……うん。ちょっと、最下位は……いや、ちょっとじゃなくて、嫌……。




「それでは泣く子も黙る最終ラウンドです」

「泣いても笑っても、じゃないのか」

「泣きそうな私すら黙る気迫の皆さんが挑む最終ラウンドです」

「もうお前黙ってろよ」

 異様な気迫で全員スタートライン。

 特に、あんまり札の数が多くない鈴本と針生と社長がやばい気迫してる。

「そ、それではいきまーす。よーい、どーん」

 舞戸がすごく控えめにフライパン鳴らした瞬間、全員一斉スタート。

「『スプラッシュ』!」

「『ロックポール』!」

「『光球』!」

「『シャドウエッジ』!」

「『影斬』!」

 ……真っ当に発進する奴より、スキル使う奴の方が、多かった。


 とりあえず俺もスタートした。

 1Fは多分、少し俺に有利、だと思う。

 1Fは町があるから、買い物ができる。売るものさえあれば、買って済む物が沢山ある、と思う。

 だから、最初の1発で金稼いで、あとは買い物するのが速い。

 皆同じこと考えると思う。妨害の仕方も、多分、鳥海辺りはとんでもないのしてくる気がする。

 ……だから俺は、もっと先を行く!

「テラ」

 きゅー、って鳴き声と一緒に、『お任せください、角三様』って声が聞こえてきた。

 まずは、デイチェモールに向かって急降下。

 ……そこでテラは俺を落として、そのまま北上していった。


 テラの首には、そこらへんの地面に『エクスプロージョン』した時に出てきた宝石と、買い物メモを括りつけてある。





 それで、全員が札を引き終わって、化学実験室に集合することになった。

「……誰だ、乳製品を全部買い占めた奴は……?」

「さて、誰でしょうねえ」

「池が凍ってて底の石拾うの大変でした……」

「へえ。お疲れ様」

「北の溶岩地帯らへん、全部ロボが見張ってて入れなかったんだけど」

「メイドさん人形の協力を仰いじゃいけないとは決まって無かったんだよなあ」

「ちょっと待ってあれメイドさん人形が操縦してたの!?私の知らないところで!?」

 ……。

 俺達、全員札は引き終わったんだけど、競争は終わってない。

 っていうか、全員、それぞれに未消化の札抱えたままになってる。

「では舞戸さん。これより交渉ターンに入っていいですか?」

「もう好きにしたまえ。私はもう知らん」

 舞戸は悟り開いたみたいな顔してる。




「乳製品を買い占めたのは社長か」

「ええ。そうですよ。交渉には応じる姿勢ですが、どうしますか?札1枚でバター、生クリーム、ハードチーズ、クリームチーズ等の取引に応じますが」

「必要無い。牛を捕まえて作ったからな」

「まさかそっちに行くとは思いませんでした。流石鈴本さんですね」

 ……あぶね。

 俺も乳製品……生クリームのおつかいがあったんだけど、テラが先に行って買ってくれてたから、社長の買い占め前に手に入ってた。

「えーと、社長。俺、バターとクリームチーズと牛乳欲しいんだけど糸魚川先輩と交換しない?」

「ちょっと!鳥海!私を攫ってどうするつもりなの!?エロ同人みたいなことするつもりなのかしら!?だとしたら百合モノにして頂戴!」

「構いませんよ」

「やった!ということで舞戸!おいで!」

「あ、先輩。構わないと言ったのは同人誌のくだりについてではありませんので舞戸さんを追いかけないでください」

 ……鳥海はまさかの、糸魚川先輩の誘拐したっぽい。


「あっ、あっ、鳥海ー、僕にも先輩貸してくれないかなあ……なんか薔薇の花が必要なんだけど……」

「あっあっ、俺もですー、ヒノキとか1Fには生えてないですよね!絶対風呂の木材ですよねこれ!」

「待ってください。今、先輩を所有しているのは俺です。交渉は俺にどうぞ。札1枚からのオークションでどうですか?」

「待ちなさい柘植。なんであんたが私を『所有』してるのよ。しかもなんで私をオークションにかけてるのよ」

「俺にもプライドというものがあるので」

「あらそう。でも市民として法律を遵守しようという誇りは無い訳ね?」

 ……そうか。イトイカワステイツにしか無いようなものって、糸魚川先輩を誘拐されたら、結構手に入らなくなるのか……。


 ……なんか、俺以外の人達が全員、凄い勢いで交渉しまくってる。

 糸魚川先輩も参戦してるし、もう、なんか訳分かんない。

「あれ?角三君は未消化の札、無いんだっけ?」

「いや、あるんだけど……」

 ……で、俺も未消化の札、あるんだけど。


「さて。これで終着、か」

 俺以外の全員が札を消化したっぽい。

 うん。ならいいや。

「舞戸」

「ういうい」

 舞戸に話しかけたら、ちょっと嬉しそうな顔した。

「プリン1個、くれない?」

「いいよー」

 他の人が固まってる横で、舞戸はにこにこしながらプリン出してくれた。

「じゃ、これで札」

「はーい。プリン1個。達成済み、っと」


「……角三君。それは、それは……ずるいんじゃないのか」

「ルールには舞戸と交渉しちゃ駄目とは無かった」

「いや、そうだけどさー!だってそれ絶対糸魚川先輩と交渉しなきゃいけなかったやつじゃーん!」

 うん。プリンって、この世界に無いっぽいから、多分、糸魚川先輩から貰って来なきゃいけなかった奴だと思うけど。

 ……だったら普通に製造元行けよ、っていう。

「ま、よいではないか皆の者よ。ということで結果発表に行こうかな?」

 舞戸がにこにこにやにやしながらフライパン鳴らした。

「さて、犠牲者は誰かな?」




 ……結局。

 最終的に、交渉で負けに負けた鈴本を上回って、鳥海が最下位になった。

「こんなの絶対おかしいよ!泥棒はうそつきの始まりだよ!」

「うるせえ。人攫いに言われたくはない」

「みんなー、褒めて褒めてー」

「えらい」

「えらいです」

「グッジョブです」

 ……鳥海の札を、影からそっと盗んでいってみんなに配った針生が義賊として皆に褒め称えられてる。

 うん。札を交渉に使っていいんだから、確かにそうだよね。盗んでも、いいよね……。


「……なんか借り物競争というにはあまりにもカオスなことになったけどね、とりあえずみんな、ありがとうね。おかげで食糧庫、すごく潤った」

 舞戸がにこにこしてる。食料は、とんでもない量増えたから……まあ、多分、また今日もご飯が美味しいと思う。

「借り物競争というか……なんか……闇のゲームだった」

「うん」

「でも楽しかったからいいじゃん!うん!」

 まあ、ゲームもそれなりに楽しかったし、よかったんじゃないかなって思う。

「あのさー、それ、全員罰ゲーム受ける立場になってから言うべきじゃない?ん?」

「さて、何の事やら」

「黙ってろよ人攫い」

 鳥海はちょっと可哀相だけど……うん。しょうがない。




 結局、鳥海は翌日丸一日、舞戸に滅茶苦茶世話焼かれてた。鳥海も開き直ってなんか満喫してた。うん。最高の人選だったかも。

 それから。

「角三くーん、食べたいおやつ、無い?」

「いや、特に……」

 俺が一応、優勝した。

 うん、一番邪魔しなかったのが俺だと思うんだけど、それで優勝って、なんか……。

「優勝賞品なんだから好きに使いたまえよー」

「いや、別にそんなおやつ要らないし……」

 優勝賞品がおやつ部屋だったんだけど、俺、そんなに大量におやつ食わないし。

 ……あ。




 先輩にプリン持って行ったら、すごく喜ばれた。

「流石角三!気が利くじゃない!私におやつを献上するなんて流石ね!」

 やっぱり欲しい人にあげるのが一番いいと思った。

「攫われた甲斐があったってものね!」

 ……被害者への補填って意味でも。


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