メイドは見ていなかった3
時系列は19話らへんです。
視点は加鳥です。
メイドが見ていなかった部分の話です。
「……なあ、見なかった事にしていいか?」
「まあ……俺達使わないし……」
「持って帰られてもあいつ困るでしょ、こんなん……」
僕達は拾ったそれを、そっと元の場所に戻した。
うん、だってね。
「これ、あれですね!どらくえに出てくる『とてもいえないもの』なる装備って多分こんなかんじなんじゃないですかね!」
……うん。『エッチなしたぎ』ね。
僕らの目の前にある奴って、確かに、そういう名前ついてそうだよね……。
学校が分裂して教室がバラバラになったっていうならまだ分かったんだよ。
でも、なんで階段は遺跡みたいなダンジョンみたいなかんじになっちゃったんだろうね。
僕らとしては謎解きがそれなりに楽しかったりしていいんだけどね、モンスターも出るから、舞戸さんがお留守番になっちゃうのがちょっと可哀相かな、って思う。
……ということで、僕らは階段遺跡を攻略中なんだけど。
「あっ、また見つけた!社長、社長、『鑑定』して!」
針生が指輪を拾って持ってきた。
「これは……ああ、ダブりですね。『最大HP増加』です」
そして社長の『鑑定』で性能が判明、と。
かれこれ同じようなこと、もう何十回もやってるんだよなあ、これ。
……そう。この階段遺跡、ダンジョンっぽいって言ったのは謎解きとモンスターだけじゃなくて、宝物も落ちてるからっていうことなんだよね。
「あっあっちからなんか宝箱の気配する!俺見てくるわ!」
「えっなんで分かるんですか?」
さっきみたいに、ぽんっ、て床に普通に指輪とかが落ちてることもあるし、宝箱の中に大事にしまってあることもあるし。
何にしても、一応拾った装備は大切にしないといけないよね、ってことで、僕ら、見つけたものは全部持ち帰ることにしてる。
防具とか、この場で試着する訳にもいかないからなあ。武器なんて、もっとかもね。
しっかり自分に合うものを考えてから装備は決めたいから、拾って集めて持って帰ってから装備の分配した方がいいよね、っていう結論が出た。
「あったー!宝箱の中身、剣だった!」
「とりあえず、次にトイレ展開できる部屋が見つかったらそこで放り込もうぜ!」
「トイレに指輪とか剣とか収納するのってどうなんですかね、いや、しょうがないですけど……うん……」
鎧とか大剣とかどうやって持って帰るのか、っていったら、教室の収納機能を使ってるんだなあ、これ。
教室は宝石を投げるとその場に展開される。展開された教室の中から教室の石を持ち出せば、教室は宝石に戻る。
そして、教室が宝石に戻った時、教室の中にあったものはそのままの状態で保持される。つまるところ、アイテムインベントリみたいな扱い方ができる、ってことなんだよね。
ただ、この階段遺跡みたいなところだと大きな教室を展開できる場所なんてあんまり無いから……展開できる教室、って考えた時、僕らにとれる選択肢って1つしか無くて……まあ、それがトイレなんだよね。
うん。しょうがない。しょうがないよ。だってトイレって手頃なサイズじゃないかー……。
少し進んだら少し開けている場所があったから、そこでトイレを展開して、中に拾ったものを詰めていく。
「まあ、不衛生ではないでしょう。舞戸さんが徹底的に『お掃除』していますから」
けどまあ、トイレって言っても、舞戸さんが徹底的にハタキではたいてくれたトイレだからなあ、汚いかんじは無いんだよね。
水が流れる訳でもないから、トイレとしての機能ってほぼ無くなってるし、まあ、考えようによっては、邪魔なもの(便器)が無駄に置いてあるアイテムインベントリ、みたいな風に考えられなくも無い。考えられなくも無いぞー。考えられるぞー。いける、いける。
それに、アイテムインベントリとして使うって決めてからはトイレの奥の床に布とか敷いて、それなりにちゃんと管理できるようにしてるし。ね。一応気にするところは気にしてるし、これ以上良い案も思いつかないからしょうがないね。
「こういうことに使う以上、舞戸さんには今後も定期的にトイレの掃除をお願いした方が良さそうですね」
「……あのさあ、あいつが男子トイレ掃除するのって、どうなの」
「実に合理的ですね」
「ああ、そう」
……まあ、舞戸さんに色々お願いすることが増えるのは申し訳ないけれど。考えたら負けだと思うんだよなあ。やっぱりしょうがないことって沢山あるよ。ね。
……そうやって僕らは階段遺跡を攻略していった。
「俺は!謎解きRPGの中にある!16面パズルが!死ぬほど!嫌いなんです!」
「刈谷落ち着け」
何故か扉に設置してある16面パズルやったり。
「俺は!謎解きRPGの中にある!全部のパネルを点灯させなきゃいけないパズルが!死ぬほど!嫌いなんです!」
「刈谷落ち着け」
何故か扉に設置してある『全部のパネルを点灯させないといけないパズル』をやったり。
「俺こういうの好きです!でも苦手です!」
「良かったね」
スイッチで道や階段の向きが変わる立体迷路を進んだり。
他にも巨大パズルやったり、天井が落ちてくる部屋で天井を止める方法を探したり、ひたすら水が入ってくる部屋で水を止める方法を探したり、そうこうしてたら床が抜けて転落死しかけたり……。
……まあ、色々危険な目にも遭ったけど、僕達、割とこういうの好きなんだよなあ。
「あ。加鳥、ここは頼んだ」
「ん?……あー、了解了解。任せてくれー」
そして今、僕らの目の前にあるのは不思議なゲーム盤みたいなもの。このゲームに勝てば、部屋の鍵が開く、ってことかな。
ゲーム盤の上には土地の模型があって、その上に兵士の模型があって……プレイヤーはその兵士達に命令して兵士達を動かして、敵陣を落とす、っていうゲームらしい。
うん。多分この面子の中で戦略ゲーム好きなのは僕と社長だからなあ。それで僕に順番が回ってきたみたい。
「ちなみに負けるとこの部屋に毒薬が散布されるらしいのでよろしくお願いします」
「ん?社長、それはつまり負けろっていうことなのかなー?ん?ん?」
「まあ俺はそれでも構いませんよ?」
……うん。ここは頑張って勝つしかないぞー。
はい、勝ちました。
「はっや」
「さっすが」
「……RTAだ……」
異世界の魔法仕掛けのゲームも結構楽しいね。うん。持ち帰って遊びたいぐらいには面白かった。
負けても毒薬が散布されないんだったら、ギリギリまで兵数減らしてから逆転できるか、とか、そういう縛りプレイもやってみたかったなあ。
「これでもそれなりに慎重にやったよ。リロードはできないし。負けたら毒薬だし」
「それでこの速さなのか」
「加鳥はリカバリー上手いねー。流石だわ」
「普段から戦略ゲームやる時も、リロードしまくるのはあんまり好きじゃないからね。慣れてるのかな」
返事しながら、僕はゲーム盤の周りを見てゲーム盤だけ取り外せないか確認してみたんだけど、残念ながら完全に遺跡の床に固定されちゃってるから持ち帰るのは難しそう。残念。
「……あれ」
でも、ゲーム盤を持ち帰る方法は見つからなかったけど、もう少し違うものは見つかったよ。
「おーい、宝箱だぞー」
ゲーム盤の下の隠し蓋を外したら、宝箱が出てきた。そんなに大きくはないから、剣や鎧じゃないものかな。
「じゃ、開けるかー」
早速針生が鍵をこじ開けてくれて、箱を開ける。
全員でわくわくしながら覗き込んで……。
で、冒頭に至るんだなあ。僕ら。
そう。そこで宝箱から出てきたものが、『エッチなしたぎ』だったんだよ。
「……見なかった事にしてこれは置いていこう。いいな?」
結局、鈴本がそう言って全員が頷いた。だって下着だし、すごいデザインだし……。
「いや、待ってください」
と思ったら社長だよ。社長が待ってって言った以上皆待つけどね。
「持ち帰りましょう」
そう言われても僕は嫌だぞー、こんなの持って帰るの。
「……その心は?」
「舞戸さんが必要かもしれません」
うん。流石社長だなあ。
「……一応、聞くが。社長は、これを舞戸が着ると思うか?」
「着ると思いますよ」
う、うん?流石の社長でもそれはどうかと思うな?
「皆さん。今の俺達ですら、下着事情は困窮していますね?」
「褌あるじゃん」
「褌しかありません」
社長は褌、嫌いなのかあ。……まあ、好きか嫌いかで言われたら正直、そんなに好きじゃないけどさ。
「そして舞戸さんもそれは同様です。女性は男性よりもそういったものは必要でしょうし、実際舞戸さんが『ワイヤー入ってるぶらじゃーが恋しい』とぼやいているのを聞いたこともあります」
「そんなぼやき聞くなよ。っていうかあいつもあいつでぼやくなよ」
それを舞戸さんに要求するのは今更じゃないかなあ。うん。
「……ということで。今、この異世界において物資不足であることに変わりはありません。特に、俺達には分からないものが舞戸さんには必要なこともあると思います。それならばデザインがどうであれ、舞戸さんが割り切って着用する可能性は十分にあるのではないでしょうか」
……うん。
反論の余地は、無いね。
物資不足は間違いないし、そもそも、ここで捨てていくよりは持って帰ってから分別して捨てた方が絶対に良いし。
けどなあ……けどなあ……。
「……俺の我儘は承知の上だが」
鈴本が頭抱え始めた。
「こんなものは舞戸に着てほしくない」
うん。
「あいつは変人だが変態じゃない。変態にはならないでほしい。ならないでくれ」
……うん、そうだね。まあ、気持ちは分からないでもない、かな……?
「この上に服を着てしまえば変わらないと思いますが」
「シュレディンガーの下着ですよ!これ着てるかもしれないし着てないかもしれない、それは服を脱ぐまで分からない!ということはこれを持ち帰った時点で舞戸さんがこれを装備している可能性と装備していない可能性が重なり合うことに!」
ややこしいけど刈谷が言いたいこともなんとなく分かるぞー。
「……別によくない?その、舞戸がそれ必要なんだったら、俺達がどうこう、言っちゃ駄目だと思う……」
……そして角三君の言いたいこともすごくよく分かる。
そうなんだよなあ。僕らがなんか、こういうものに抵抗あるのって、結局は我儘なんだよね。きっと。
一番いいのは全部持って帰って、舞戸さんに選んでもらう、っていうことだと思う。
「……っていうかさー、俺、思っちゃったんだけど」
が、ここで針生が挙手。
「男が持って帰ってきた下着って、女子は着たくないんじゃないかなー、って」
……。
「んー、舞戸さんなら気にしない気がするなー?」
「いや、分かんないじゃん!舞戸さんが実は女の子かもしれないじゃん!それこそシュレディンガーの女の子じゃん!」
「あのさあ、何でもかんでもシュレディンガーって言えばいいと思ってない?」
……あああ、あああああ、余計に話が拗れていくぞー!
結局。
僕らの話し合いは、全員の気力切れで終わった。
なんかね。面白いんだけどさ。こう、気力がなくなって疲れてくると「もうどうでもいいやー」って気持ちになるよね。
それで、疲れた状態になったら、下着だろうが上着だろうが全部一緒くたにして持ち帰るぐらいの雑なかんじに、なっていくよね。しょうがないね。
「これは布ですね。持ち帰りましょう」
「そうだな。布だな。ああ持ち帰ろう」
「そっちも布ですわー」
「あはは、布かー。あはははは」
……ね。
この階段遺跡一番のトラップは、吊り天井でもなく、ギロチンでもなく、謎解きでもなく、16面パズルでもなく……女性用下着だったんだなあ。
ははは……。
結局、階段遺跡での話は舞戸さんにはしないようにしよう、っていうことで一致団結して帰還して、色々あって装備の分配もして……って頃。
「俺、思ったんだけどさー」
針生がぼんやり褌眺めながら、言った。
「下着云々のこと気にするんだったら、俺達も気にするべきじゃね?」
……うん?
「だってこれ、舞戸さん見てるどころか触ってるし何なら作ってるじゃん」
「やめろ。そういうことを言うのはやめろ。気になってくるだろうが。折角今まで気にしないようにしていたものが気になってくるだろうが!」
「これをシュレディンガーの褌と呼ぶことにしましょう!」
「うーん、思い出さないようにしていたものをつついて思い出しちゃったんだからどっちかっていうとパンドラの褌じゃないかなー?」
「希望なんて残る気がしないんだけど」
……思うんだけどね。多分舞戸さんって、僕達みたいにこういう悩み方、しないんじゃないかな。
部分的には社長と同じかそれ以上に合理的になっちゃう人だし。あと、ちょっと、僕らに対して色々な抵抗が無さすぎるし。
ってことは、この話、舞戸さんにしても僕らがダメージ受けるだけなんだろうなあ……。
「……とりあえず、この話題は舞戸の前では出さないようにしよう。藪蛇になりかねない」
「賛成」
うん。まあ、これからもメイドさんには知らせないでおこうね。うん。




