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三つ子の魂百までか?

時間軸はいつもらへんです。

視点は刈谷です。


幼児と児童になります。

「え……ええと、お名前、教えてもらっても、いい、ですか……?」

「申し訳ありませんが知らない人に名前を教えてはいけないというのは防犯上の常識ではないでしょうか」

 社長って小さいころから社長だったんですね。しっかりした教育を受けていたようで……ああああああああ……。

 今、俺の足元には小さい子達が、うろうろおろおろしています……。

 ことの発端は凄く単純です。昨日、舞戸さんが糸魚川先輩からなんかシロップみたいな奴貰ってきたんですよ。多分それです!




 それは、昨日の夕方のことです。

「聞いてくれー、糸魚川先輩にこれ貰ったぞー!」

 舞戸さんが見せてくれたのは、陶器の瓶でした。薔薇の模様が立体的に入っている瓶で、工芸品としても価値があるような、なんかそんなかんじです。はい。

「何だ、それは」

「なんかの花から採った蜜だってさ。花の香りがして甘くて美味しいらしいよ」

「へー。どんなの?見せて見せて」

 針生と鈴本が瓶を眺めて、へーとかふーんとか言ってますね。うん。

「紅茶に入れると美味しいらしいよ。ミルクティーにしてもいけるとか」

「そうか。それはいいな」

 鈴本はミルクティー好きですよね。なんか嬉しそうですね。

「あっ舞戸さん、それなら俺は炭酸水割を推しちゃおうかなー!絶対美味しい奴じゃん?ん?」

「ごめんよ、私も流石に炭酸水は作れないんだ……」

 あっ、舞戸さん大体なんでも作れる気がしてましたけど、そっか、炭酸水とかは作れないんですね。盲点。

「えっ、羽ヶ崎君が炭酸水も出せるじゃん」

 でもそうなんですよ。羽ヶ崎君が炭酸水、作れるんです!流石!

 ……が。

「ちょっと待ってそれ早く聞きたかったんだけども羽ヶ崎君!なんで今まで黙ってたの羽ヶ崎君!」

 舞戸さん、なんか愕然としてます。……あれっ?

「は?なんで一々お前に報告しなきゃなんないわけ?」

「ちょっと待って私以外皆知ってたの!?」

「……時々飲んでた」

「そのままだと味無いけどな」

「まあ炭酸なだけですからねえ」

「私にくれれば味付けたのに!いくらでも付けたのに……あっもしかして貴様ら時々果物のソース持って行ってたのってもしかしてそれか!?それなのか!?」

「気づくの遅いんじゃないの、お前」

「なんで内緒にしてたの!?ひどくない!?ひどくない!?」

「ごめんね、知ってると思ってたんだよ……」

 ああー……そ、そうだったんですね。舞戸さんは羽ヶ崎君が炭酸水を生み出せることを知らなかったんですね。

 なんか可哀相な事をしてしまいました……ごめんなさい。てっきり知ってる物だとおもってました……。

「そ、それは置いといて、とりあえず俺、それの味見たいんだけどいい?紅茶でも炭酸水でもお湯割りでもいいから」

「うん……今なんか用意する……」

 舞戸さんがとぼとぼと瓶を持って去っていきました。背中に哀愁が漂っています。可哀相です。


「おまたせ!おら好きなの選んで勝手に割れやオラ!」

 舞戸さんがやさぐれながら戻ってきました。お盆の上には人数分のカップとティーポット、お湯、牛乳、レモンみたいな果物……と色々乗っていますね。

「ちなみに私は炭酸割りにします!オラ炭酸水出せやオラ」

「うるさい寄ってくんな」

 舞戸さんはさっきのを根に持っているらしく、羽ヶ崎君をぐいぐいやってます。

 ぐいぐいやられた羽ヶ崎君、嫌そうな顔しながら舞戸さんの持ってたピッチャーに炭酸水出してあげました。

「紅茶と牛乳貰うぞ」

 その横でもう鈴本がミルクティー作り始めてますね。俺もミルクティーにしようかな。でも炭酸も美味しそうですね。

「あ、俺も炭酸にするー」

「僕は紅茶にしようかなあ」

「俺も紅茶にします」

「俺、炭酸……」

「んー、せっかく淹れてもらってるし、紅茶にしてみるわー」

「紅茶と炭酸以外無いの?」

「お湯割りがよければそうしていいよ?」

「……それだったら炭酸にするけど」

 そうして適当に皆で割るもの割って飲み始めたんですが。

「……刈谷、それ被ったまま飲むの、絶対無理だと思うよ?」

 言われて気づきました。そうです。俺、神殿前で戦った時の魔王軍装備なんですよ、今!

 何故かって言われたら、舞戸さんと一緒に糸魚川先輩の所に行ってきたので、その変装兼ねてってことなんですけども……。

「あ、ちょっと脱いできます」

「じゃあついでにこれも置いてきてー」

「あ、はい」

 鳥海の兜も預かって、ひとまず化学講義室に向かうことにしました。




 で、戻って来たら、こうなってました!

 幼児です!幼児が居ます!俺の足元に!幼児が!幼児が!

「こ……これは一体……」

 見知らぬ顔……っていうかんじでも、ないんですよね。これが。

 全員、なんとなーく、見た事あるようなかんじの顔なんですよね、これが!

「お、俺……なんでこんなとこに……?」

 鈴本似の子は小学生ぐらいですかね。まだ幼児ってかんじじゃないです。うん。

「……ここ、どこ?」

 不安そうにきょろきょろしてるのは羽ヶ崎君でしょうか。なんかちっちゃいですね……こっちはれっきとした幼児です!幼児ですよ!もう!

「ここは……」

 その隣でじっと注意深く周囲を観察している小学生が間違いなく社長です。目がもう、そのまんまです。怖い。

「ここどこ?お兄さんだれ?」

「……えっ?」

 思わず声が出ましたが、俺に声を掛けてきた幼児、なんか、すごく角三君似なんですけど……えっ?えっ?話しかけてくるの、よりによって角三君?一番話さなさそうな角三君が?なんで?小さい頃はもうちょっと喋る性格だったってことなんですかね?

「おまえだーれー?ひとさらい?はんざいしゃ?」

 更にその隣に居る幼児は間違いなく針生ですね。そして俺は犯罪者じゃないです。

「おっ?ここは一体?学校にこんなとこあったっけ?俺わくわくすっぞ!」

 あっこっちの小学生は鳥海ですね!ワクワクしてるようで何よりですが化学実験室の中は割と危ないので動かないで!

「……?」

 鳥海の横でじーっと周囲を見回してる小学生は加鳥でしょうか。こっちはなんか全然喋りませんね……。

 ……そして。

 一言も発さず。ただじっと俺や他の子達を見て困った顔をしている幼児が、間違いなく舞戸さん、ですね……。

 ……。

 これ、ほんとどうすればいいんですかね……?




 とりあえず確認だ、と思ってお名前を聞いてみたところ、社長に初っ端から撃墜されました。

 うん、いや、確かにそうですよね。うん。知らない人にお名前は、教えちゃいけないですよね。はい。

 ……しかし、社長の言葉を聞いた他の人達も、皆『そう言われてみればそうだ!』みたいなかんじに警戒し始めちゃったんですよ。これはちょっと……困りましたね。どうしようかな。

 原因は分かるんですよ。間違いなく糸魚川先輩の所から来てるあのシロップですよ!

 飲んでない俺だけそのままですし、紅茶を選んだ人達は小学生ぐらいで収まってますけど、炭酸割りでシロップの量が多かった人達は幼児になってますし!もう!あの先輩は!どうしてこういうことをしてくれるんですかね!

「ええと、でも、お名前が分からないと呼べない、んだけれど……」

「……柘植です」

「え、ええと、下のお名前は……」

「それは言わなくても十分なのではありませんか?」

 この子本当に小学生なんでしょうか。小学生の皮を被った社長なんじゃないでしょうか。いや、社長なんですけども。

「え、ええっと……じゃあ、柘植君」

「はい」

「齢は、いくつですか?」

「9歳です」

 ……9歳、ですかー……。う、うわあ……。

「俺5さーい!」

 なんか遠い目してたら、角三君(仮)が元気に教えてくれました。社長の変わりの無さにもびっくりしてますが、角三君の変わり様にもびっくりしてます。この温度差で風邪ひきそうです。

「あっ、俺も5さい!いっしょだ!」

 そして何故か早速意気投合する角三君と針生。な、なんか意外な組み合わせですね……。

「俺は9歳。小3だけど、君も?」

 鳥海が隣の加鳥に声を掛けたところ、加鳥がこくんと頷いて、それから、にこっ、て笑いました。

 ……喋らないんですね!

 そして更に、周囲を警戒する鈴本(仮)と羽ヶ崎君(仮)と舞戸さん(仮)!

 人見知り発揮しないで!できればお名前教えてください!


 その後、鈴本も9歳、羽ヶ崎君と舞戸さんは5歳になっていることが判明しました。

 記憶もその当時のものになっているらしく、全員、俺の事は分かりません。

 小学校が同じだった人が一緒に居れば分かったのかもしれませんが、残念ながら全員小学校は別なんですよね……。

「俺達、ゆーかいされたのー?」

「おまえゆうかいはん?」

「違いますよ!」

 そして俺の足元にうろうろやってくる角三君と針生。『誘拐犯』と聞いて警戒する他の幼児達。

「うそだー」

「じゃあここどこだよー」

「誘拐犯だとしたら、あまりにも手際が悪いと思いますが」

「だから誘拐犯じゃないんですって!ええと……」

 俺の視線の先では、俺を警戒する幼児と児童の皆さん!まずいですよ!このままだと本当に『犯罪者』扱いされてしまいます!

「……この部屋を出た方がいいですかね」

 しかも社長がそんな事言いだしました!駄目です!外はモンスターだらけなんですよ!?そんな中に幼児や児童を出すわけには……!

 どうにかしてこの状況を打破したいんですけど、せめて、せめて時間稼ぎはしなければ!

 ……そこで俺の頭脳に、名案走る!

「ここは夢の中です!」


「明晰夢って知りませんか?」

「なにそれ」

「すっごく現実っぽい夢です。はっきりした夢なんですよ!今、皆さんはそれを見てる訳です」

 ……すごく怪しそうな顔されました。が。

「ここは夢の中なのでこんな事もできます」

 俺には『夢っぽい』技が幾つもあるんです。

「ええと、『光球』」

 適当に部屋の中に光の球を幾つか浮かべてみると、幼児児童の皆さんの顔が変わりました。

「うわっ!なにこれ!」

「なんだこれ!」

 やたらと元気な角三君と針生は光の球を捕まえようとぴょこぴょこし始めました。

「これは……?」

 社長はなんかじっと見て観察してます。自分の知識にないものだからでしょうね。

 そしてそんな中、一番これに反応を示したのが、舞戸さん!

「きれい……」

 上を見上げてにこにこし始めました!これはいける!

「はい、どうぞ」

 折角なので、小さく作った『光球』を舞戸さんの傍に浮かべてあげました。するとどうでしょう、光の球を抱っこしてたちまちにこにこ顔です!やりました!

「……ありがと」

 何時の間にやら俺の事を怖がらなくなったらしいので、一安心ですね。ああよかった……。




 さて。夢がどうとかはさておき、児童幼児の皆さんは『光球』に夢中になってくれました。気が逸れたらしく、俺の事ももう怖がりません。人見知りはしてるみたいですけど。

 その間に、服の調整です。

 皆体が縮んだだけですからね。服がぶっかぶかで、引っ掛けて転びそうで見ていられません。

 とりあえず、シャツ着てた人達は全員そのまま!袖だけ捲ってピンで留めてあげて、裾は長いからもうこれでいいかな……って……。

 シャツワンピっていうんですかね、これ。でももう知ったこっちゃありませんよ。うん。俺にも限界はあります。褌締め直してあげるだけ優しいってことで……。

 社長とか鳥海とかにはなんか訝し気な顔されましたが、『明晰夢なんだからこんなもんですよ』で押し通しました。社長の目が怖いですがごめんなさい!

 ……しかし、シャツ勢じゃなかった2人……即ち、着物の鈴本と、メイド服の舞戸さん。この2人はどうしようもない!

「はい、ばんざーい」

「ん」

 とりあえず鈴本のずるっずるの着物は脱がせて、俺のシャツ着せておきました。こっちもシャツワンピ状態ですけどしょうがないです。ごめんなさい。

 ……そして。

「ま、舞戸さん……」

「は、はい」

 舞戸さんの服も、どうにか……しないと……危ないん、ですが……。

「……1人でお着換え、できるかなー?」

「で、できるもん!」

 俺は犯罪者にはなりたくないです!


「あ、あの……このおぱんつ、わかんない……」

 ごめんなさい俺も分かんないですうううおあああああああ!




 そうして全員のお着換えが終わりました。なんとか終わりました。よかった。とりあえずこれでズルズルの服の裾引っ掛けて転んだりはしなくなりました。

 小さくなっても異世界補正がちゃんと効いてくれているのかは分かりませんから、極力怪我はしないようにしてあげた方がいいですよね。いつ戻れるか分からないし……。


 さて。

 そのうち角三君と針生が『光球』を蹴って遊び始め、それを見ていた鳥海も、加鳥と『光球』でバレーボール始めました。その内、鳥海が声を掛けて鈴本と社長も一緒にバレーボール始めたみたいです。小さい子ってすぐに仲良しになれますよね。見てて微笑ましいです。

 化学実験室の中でボール遊びはあんまりにも危ないんで、『箱舟』を教室内にうっすら展開して、薬品棚とかが被害を被らないようにしておきました。

 ……そして、舞戸さんは『光球』を抱っこしたまま、遊んでいるお兄さんたちの様子を眺めています。大人しいですねー。

 そして羽ヶ崎君も舞戸さんの隣で『光球』をつついて待つことにしたらしいです。こっちも大人しいですねー。

 こうして児童幼児の皆さんが遊び始めてくれたおかげで、俺は本を読み始めることができました。

 なんで読書なんてしてるかって、そりゃ、この状態をなんとかする為ですよ!

 俺が今読んでいる本は社長が普段使っている本ですが、毒物の事だけでなく解毒の方法も載っています。なので、読めば皆さんを元に戻す方法もあるんじゃないかと……。


 ……そうして本に集中してしまったのがいけなかったんですよね。はい。すみません。

 悲鳴に顔を上げると、そこには。

 びっくりしたまま固まっている舞戸さんと、足元に転がる光の球。そして、固まった児童の皆さん。

 舞戸さんのおでこが赤くなっているところを見ると、もしかしてこれは……ぶつかってしまった、んでしょうかね?

 あ。

 あああああ、舞戸さんが泣きだしました!ぼろぼろと!しかしやたらと静かに泣きますね舞戸さん!

 これには児童の皆さんも周りに居た幼児の皆さんも硬直するしかない!

 多分元凶と思しき鳥海が動こうとした、その瞬間!

「……あやまれよ!」

 舞戸さんの横に居た羽ヶ崎君(幼児)が!怒り出しました!

「泣いてるだろ!この子!あやまれよ!」

 怒ってる羽ヶ崎君もなんか怒ってる内に感極まってきちゃったのか涙目なんですけど、とりあえず怒りは伝わりました。なんか伝わりました。

「ご、ごめん」

「痛かった?」

「大丈夫ですか?」

 そしてやっと動き出す児童の皆さん。俺もそっと舞戸さんの様子を窺ってみますが、多分、怪我自体は大したことないんだと思います。だって児童の力で飛んだだけの、しかも『光球』ですから……。ぶつかってもそんなにダメージにはなりません。多分。

「……だいじょぶ……」

 舞戸さんは自分より4歳年上のお兄さんたちに囲まれてむしろ怖いんじゃないかとおも思いましたが、心配したほどでもありませんでした。多分人見知りなだけですねこれ。

「びっくりしただけ。痛くない、です」

「そ、そっかー。ならよかった。ごめんね」

 鳥海がおでこの辺りを撫でてあげてますね。舞戸さんは撫でられて泣き止みました。よかったです。はい。

 ……そういえば舞戸さんはお兄さんが居るんですよね。そっか、なら年上の男の子にも耐性がありますよね。よかったよかった。


 それからは『箱庭』をもう一段階展開して、舞戸さんと羽ヶ崎君、それからバレーボールに飽きたらしい社長とちょっと舞戸さんの事が気がかりらしい鈴本とを囲っておくことにしましたので、もう事故は起きませんでした。

 その代わり、何故か鳥海と加鳥の児童2人と一緒に、角三君と針生の幼児2人が遊び始めています。幼児2人の元気に押されて遊んであげることにしたみたいですね。

「あの……さっきはごめん」

 そして座り直してまた『光球』を抱っこし始めた舞戸さんに、児童鈴本が気まずげに話しかけます!

「だいじょぶです!」

 それに舞戸さん、元気にお返事!元気なのは良いことですね!鈴本に撫でてもらって満面の笑みです!

「脳震盪とか、起こしてませんか?くらくらしたりは?」

 そこに社長も参加!しかし幼児に『脳震盪』は難しすぎますね。舞戸さん、首傾げてます!

「えーと、だいじょうぶ!……あ」

 が、舞戸さん、何かに気付いたようにふと、視線を動かし……お兄さん2人に囲まれている舞戸さんを横目に見ている羽ヶ崎君の方に近づいていきました。

「……あのね」

 舞戸さん、羽ヶ崎君のシャツの裾を掴んで声を掛けました。

「さっきは、ありがと」

「……うん」

 あー……幼児2人がなんかにこにこしてますね。微笑ましいですね。というか羽ヶ崎君もこの時期は可愛げがあったんですね……。


 その内『箱舟』の内側の児童2人と幼児2人も遊び始めました。しりとりで遊んでるんですが、児童2人は自らに『国の名前』『4文字以上』みたいな縛りを課して幼児2人と戦っています。こういうゲームバランス調整が上手いあたり、児童でも鈴本と社長なんだなあっていうかんじがしますね。はい。

「……あの」

 そんな中、早速『ふらんすぱん!』って言って脱落してしまった舞戸さん、俺の所にやってきました。

「さっきの、ぽやって光るやつ、もう無いですか?」

 あ、『光球』の事ですね。しりとり始めた時点で舞戸さん、抱っこやめてたので消しちゃったんですが。

「ありますよー。はい」

 1個新しく作って浮かべてあげると、舞戸さん、満面の笑みで光の球を捕まえて抱っこしました。

「ありがとう!これ、だいすき」

「そっかー。それはよかったです」

「うん!」

「……それ、ぼくも」

 続いて言葉に詰まって自ら潔く脱落を決めたらしい羽ヶ崎君も、俺の所にやって来たのでこちらにも『光球』を出してあげます。

「おそろい!」

「うん」

 そして舞戸さんと並んで光球抱っこして座り始めました。

「あの、それもう1個、お願いできますか?」

「いいですよー」

 やがて、しりとりに飽きて光球観察したくなってきたらしい社長と、ついでにその隣の鈴本にも『光球』。

 並んで座る子供達が4人になりました。

「……おひるねの時間?」

「ねるの?」

 やがて遊び疲れてきたらしい角三君と針生にも『光球』。

 ついでにもうめんどくさくなってきたので加鳥と鳥海にも『光球』!

 ……そうして全員光の球を抱いて座っている状態になってしまうと、幼児の皆さんは眠くなってきたようで、うつらうつらし始めました。舞戸さんなんかは隣に座っていた鈴本に凭れて、もう寝入っちゃってます。気疲れしたんでしょうかね。

「はい、お昼寝ですよー」

 そこらへんに舞戸さんが作って置いてあった布団があったので、児童幼児の皆さんに容赦なく被せていきます。

 すると流石幼児。寝ました。寝ましたよ!寝かしつけ成功です!

「ついでにお兄ちゃん達もお昼寝しましょう」

「別に眠くないんですが」

「ええと、小さい子達がお昼寝してるから、静かにしてあげてほしいんですよ。だから、一緒にお昼寝、駄目ですかね?」

 そして児童の皆さんにもそう言って聞かせれば、皆で幼児達を気遣って静かにし始め、そうしていると眠くなってきたらしくやがて寝てしまいました。

 ……。

 やりました!




 ということで、児童幼児の皆さんが寝ている間に俺は社長の本を調べ、調べ……解毒剤をなんとか合成するに至ったのです!ほんとにもう!大変ですよ!俺の専門じゃないし!社長の専門であって、羽ヶ崎君まではなんとかなるにしても、俺の専門じゃないし!

 ……でもなんとか、できたので。

『おやつだよー』ということで炭酸割りにしたその薬を寝起きの皆さんに飲ませて。

 そして。


「ん?……あれっ?」

「俺は一体何を……なっ……」

「うわーっ、なんぞせくしぃな格好になってしまっているがこれ如何に?」

「うるせえよ!お前はもうちょっと気にしろよ!気にして!」

 服がそのままだった為にまた一波乱ありましたが、それはまた別のお話です……俺は悪くない……俺は悪くないです……。




「あ、舞戸さん」

「ん?なんだね?」

 結局、元に戻ってすぐ晩御飯の支度を始めた舞戸さんと話す時間がとれたのは夜になってからでした。

「あの、さっきはすみませんでした」

「え?ああ、シャツと紐パンだけになってたこと?いや、私より被害が大きかった人達も居るからなあ……」

 まあ女の子のシャツ1枚よりは男のシャツ1枚の方が圧倒的に見苦しいですけどね……うん……。

「で、その、先程のお詫びと言っては何ですが……」

 さっきの光景を思い出して遠い目をしてる舞戸さんの前に、『光球』を出します。

「え?え?い、いいの?」

「あ、はい」

「これ、出しっぱだと刈谷、疲れない?」

「あ、それは大丈夫です。この石でエネルギー補充してるので」

 児童幼児向けに大量の『光球』を出していた経験から俺は学んで、外付けエネルギーで生成されっぱなしになる『光球』を開発しました。

 そんなものの用途なんて、まあ、照明ぐらいなんですが……舞戸さんがケトラミさんを布団にしない時はこっちの化学実験室で寝ているはずですが、そうするとこの部屋、夜は真っ暗なんですよね。異世界に電気は無いので、電灯なんて灯りませんし。

 だからこれを舞戸さんの夜なべに役立ててもらおうと思ったんですが……。

「わー、これ、ぽわぽわしてていいねえ。ぬくい」

 舞戸さん、躊躇いも無くクッションのように光球を抱いてしまいました。

「……へへ、これだいすき」

 ……まあ、嬉しそうなのでいいですかね、これで……。




「ところで小さい頃の角三君ってよく喋りました?」

「え……?まあ、うん……普通の小学生だったし……」

 あ、そうなんですか……。

「それで加鳥は……」

「あ、僕は全然喋らない小学生だったなあ」

「なんでまた」

「なんか喋る気がしなかったんだよねえ。通信簿にも『全然喋りません』って書かれてたぐらいで」

 そ、そうなんですか……。

 ……三つ子の魂何とやらって言いますけど、人格って割と変形しますね……。

「俺は昔からこんなかんじです」

「あ、はい」

 変形しない人もいるみたいですけど。はい。


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― 新着の感想 ―
[一言] もし現場の全員が飲んでたらエラいことに。
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