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メイドは見ていなかった2

メイドが見ていなかった部分です。

時間軸は本編29話と、最後に少しだけいつもの辺りです。

視点は羽ヶ崎です。




「ん!なんか下から来る!」

 鳥海がそう言ったけど、いや、それ、言われても咄嗟に反応とか、できないから。

 地面からいきなり蔓だか根だか分からないものが伸びて、腰のあたりを掴まれた。

 咄嗟にスキル使ってどうにかしようとしたけど、遅い。

 すぐに引きずられて、僕らは地下に連れていかれた。


 意識飛びかけたけど、まあ、異世界補正あるし。地下に着くまでに相当振り回されたから吐き気がすごいけど、この程度だったらまだマシ。

 ただ、辺りが暗いせいで全然状況が掴めないのが腹立つ。何これ。僕以外誰も来てないとかそういうオチだと嫌なんだけど。

「だれかいますかー」

 ああ、そんなことなかったか。少なくとも刈谷は居る。

「居るけど?」

 返事したら、明らかにほっとしたような気配があった。よかったね。はいはい。

「僕も居るぞー」

「俺も居ます。……後衛4人が見事に逃げ遅れたみたいですね」

 加鳥と社長も居る、って時点でまあ分かったけど。後衛4人が逃げ遅れて、前衛4人は無事、と。何あれ。あの速度で前衛は反応したの?化け物なの?あり得ないんだけど。

 ……で。前衛4人と後衛4人しか考えてなかったけど、誰よりも弱い奴が居たはずなんだけど。

「舞戸は?」

 返事は無い。

 ……ここに連れてこられるまでにもう死んでる可能性だって低くない。舞戸だけ異様に弱いのは、この世界に来てすぐ分かってる。だから。

「あ、舞戸さんはケトラミさんに乗ってたから大丈夫だったんじゃないかなあ。なんか僕、最後に見たの、凄い勢いで跳んでくケトラミさんだったから」

 ……ああ、はいはい。そういえばそうだったね。何なの、あいつ。無駄に性能良い乗り物手に入れて1人だけ楽してるの腹立つし、こういう時も無事なの腹立つんだけど。


「ところで、皆、脱出できそう?」

 加鳥が妙に呑気な事言ってるけど、全然。

「駄目ですね。引き千切る力は流石に後衛の俺達には無さそうですし……スキルは発動しませんね」

「俺もですー……さっきから力抜けるみたいなかんじで全然……ううう、『レーザーショット』ができれば一撃だと思うんですけど……」

「こっちもだよー。『ウインドカッター』とかも発動できないみたい」

 僕も無理。

 なんかMP吸い取られてるとかそういう感覚に近い。全然スキルが発動できない。

 MP使わなくても発動できるようなスキルでもあれば別なのかもしれないけど、そういうスキル持ってる加鳥も、そういうスキルは全部弓とかレーザー銃とかで使う奴だから、拘束されてる今は使えないし。

「あっあっ締まってるよー締まってるよー、うわーあんまり締めないでくれー……って言っても通じないんだよなー」

「俺の方も締まってます。首じゃないのが幸いですね。頸動脈を締められたらすぐ落ちていたでしょうし」

「胴体も相当きついですけど……」

 蔓だか根だかの拘束はどんどんきつくなってくし。

「もしかしてこの蔓だか根っこだかって、俺達のMP吸うために俺達を捕まえたんですかねえ……」

「だとしたら僕達はモンスターの餌かー。うわー、やだなー」

「生きたままでなければMPを生産できないとすれば、当面、俺達の命は保証されたようなものですが」

 モンスターの餌にされてるとか腹立つし。

「これは……自力での脱出は、不可能、ですかね」

 珍しく社長が弱音吐き始めたし。

 ……前衛が助けに来るまでこのままって、何それ。すごくむかつくんだけど。


「せめて俺達の無事を知らせるだけでもできればいいんですが」

「携帯電話を携帯してればよかったですね……」

「刈谷、刈谷。ボケてる場合じゃないから。ここ電波通じないから」

「あっ」

 あっ、じゃねえよ。

 ……異世界に来て1つ思ったのは、連絡手段って貴重だったんだな、って事。

 うっかり別行動とかすると、下手するとそのまま二度と会えないかもしれないんだよね。この世界。そう考えると、結構……怖いことだよな、って思う。

「携帯電話、ですか」

 ……何か、社長が考え始めた。

「では、スキルで上手く代用できるか試してみるしかありませんね」


「……いや。だから。スキルって。MP吸い取られてる状態で?」

「忘れましたか、羽ヶ崎さん。この世界では、やろうと思えばスキルが発生するんですよ」

 社長がなんか言ってるけど。

 この状態で?この状態で?体動かせないし、MP吸い取られてるのに?正気じゃないんだけど。いや、社長が正気じゃないのはいつものことだけど。

「攻撃用のスキルは下手に打つと俺達がこのモンスターに殺されかねません。しかし、携帯電話……前衛へ俺達の無事を知らせる為のスキル程度であれば、黙殺される可能性が高いでしょう。そして、俺達の状況を伝える事ができれば前衛の助けになります」

 社長が言うことは正しい。合理的。これもいつものことだけど。

 僕らが今できることってそれぐらいしか無いし。

 ……まあ、精々悪足掻きしようか。


「駄目だー」

「駄目ですー」

「試行回数が足りません」

 ……で、僕らも色々やってるけど、正直、できること自体が少ないからね。

 体動かせない、MP無い。この状態で新しいスキルの入手とか、かなり無理があると思うし、実際無理なんだけど。

 それでもなんとなく電話かけるようなイメージで、なんとか集中する。

「聞こえますか……今、あなたの脳内に直接話しかけています……駄目かー」

「ふぁみちきください!……駄目ですー」

「諦めずに試行回数を増やしてください。10や100では駄目な事も10000回ぐらい試行すれば何とかなるかもしれません」

 社長がつくづく凄いこと言ってるけど、正直望みが薄いものは薄いんだけど。


 悪足掻きしてたら、突然、足元が光った。

「……何これ」

 僕らの足元で、金色の模様が浮かんで光ってる。おかげで全員の位置だけはぼんやり分かった。分かったところで意味ないけど。

「ああ……舞戸さんの、ですか」

 ……何だっけ。これ。『祈りの歌』だっけ。防御力上げるとかいう。

「あ、ちょっと締まるの弱くなった気がしますね」

「俺達の防御力が上がっているんでしょう」

 すごい締め付けられてたのが、少し緩んだように感じる。少し苦しくなくなった。それから、少し、温い。

 今までもずっと『祈りの歌』が掛かってる状態の事はあったけど、今までで一番、その恩恵を感じてる、かもしれない。

 僕ら、後衛だから。普通、攻撃受けないから。だから、防御力の上昇とか、あんまり感じてなかったんだけどね。

 ……少しは役に立ってたのかもね、これ。


「これです」

 足元から金色の光に照らされて少しホラーなことになってる社長が、目玉見開いて、言った。

「『歌謡い』を習得しましょう」




「……は?」

「『歌謡い』なら舞戸さんも使っているスキルです。ということは、MP消費量が非常に低いと考えられます。今の俺達でも使えるかもしれません」

 まあ、そうだよね。MP大量に使うようなもの、舞戸が使える訳ないし。

「そして連絡手段として、ひとまず俺達の安否を伝えるには役立つでしょう」

 現に、少なくとも舞戸は無事、ってことは今、分かったしね。……あと、前、僕達が遠征してた時。『祈りの歌』の効果が途切れた時。あの時、舞戸に何かあったんじゃないかって疑ったことあったね。実際、色々あった訳だけど。

「……ということで」

 で、社長がなんか、言った。

「皆さん、頑張ってください。俺はこのスキル習得は諦めます」


「……試行回数とか言ってたのどこのどいつだよ」

「羽ヶ崎さん、俺とカラオケに行った時の事を忘れましたか?」

「レパートリーがくっそ少ない」

「その通りです」

「歌謡曲の歌い方ができない」

「ご名答です」

「でも割と高音出るし下手じゃないじゃん」

「この場で高音を出すとモンスターを刺激しかねませんから」

 ……社長は。

 なんか、あんまり音楽……というか、歌謡曲聞く奴じゃないから。だから、カラオケに連れてくとちょっと可哀相なぐらいレパートリーが少ない。

 ついでに歌が下手な訳じゃないんだけど、合唱とか向きであって、ポップスとかが上手いわけじゃない。

 声は高いところまで出るんだけど、それも今は不都合、と。

「そういうことで俺は役に立てそうもありませんが、鼻歌程度は頑張ってみます。皆さんそれぞれ頑張って歌って下さい」

 ……落としどころが鼻歌になる辺り、社長って頭良いのか悪いのか時々分かんないよね。




 ……ってことで、刈谷と加鳥は素直に歌い始めて、社長も宣言通りベートーベンの第9を鼻歌で歌い始めた。地味に腹筋に来るからやめてほしい。

 仕方がないから僕も適当に何か歌う。

 できれば成功率高い奴がいいよね。一発で成功させたい。そう何度も歌いたくない。

 舞戸は何歌ってたっけ。っていうか、何で舞戸はそういう選曲してたんだっけ。『防御力上がりそうな奴!』とか『攻撃力上がりそうな奴!』とかそういうアホみたいな基準で選んでたんじゃなかったっけ。

 ……っていうか。

 なんで、舞戸はこんなスキル、習得したんだろう。


「……あ」

 金色の光に、水色っぽい光が混ざった。

 足元を見たら、金色の模様の上にもう1つ、別の模様が増えてる。

「どうやら成功したようですね」

「水色……ってことは羽ヶ崎君かー」

「羽ヶ崎君ですねー」

 ……この面子の中で水属性のスキル使えるの僕だけだから、水色とか青だと全部僕、みたいな、よく分からない判断のされ方するんだよね。

「恐らくこれは地上の前衛達にも発動しているはずです。となれば、こちらの無事は伝えられましたから……」

「後は助けを待つのみ、ですねぇ」

 はい、これで僕らの悪足掻きは終了。できることはもう無し。絞め殺されないように気を付けつつ助けを待つだけ。


「……ところでさっき、社長、喜びの歌、鼻歌でやってなかった?」

「やってましたよ」

 やってたね。地味に腹筋に来るからやめてほしかったんだけど、あれ。

「じゃあ助けが来るまで全員で喜びの歌の鼻歌合唱でもして待ちます?」

「そうしようかー、やる事もう無いもんねぇ」

 そうするのかよ。


 結局、モンスターがまた動き出して前衛も地下に来るまで、ふんふんふんふん、謎の鼻歌が地下に流れてた。

 ちなみに鼻歌はスキルにならなかった。




 それから、大分後。

 スキルも増えて、後衛だからってそうそうモンスターに捕まるとかいうこともなくなって。

 そんな時に、舞戸が歌いながら料理してたから、なんとなく思い出して気になった事を聞くことにした。

「舞戸」

「うい」

「お前さ、『歌謡い』習得した時って、何してた?」

 聞いたら、舞戸は凄まじい速度で包丁動かしながら答えた。

「ん?歌ってたよ?そりゃ当然」

 だろうね。

「じゃあ、何、考えてた?」

 今度は舞戸も包丁を動かす手を止めて、少し考えた。

 で、考えてすぐ、答えた。

「君達の事考えてた」


「どしたの?なんで突然?」

「いや。単なる答え合わせ」

 舞戸はなんか首傾げてたけど、その内また包丁を動かし始めた。

 僕も講義室に戻って夕飯まで昼寝することにした。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 最後の、舞戸ちゃんの一言が彼女の為人を表していて素敵です
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