表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/86

異世界減量日記

鳥海が減量します。

時系列はいつもらへんです。視点は鳥海です。




「……ふかふかじゃない」

 舞戸さんが俺の脇腹つっついて、なんかちょっと寂しそうな顔した。

 うん。まあ。ね。

 悪いけどもう、ふかふかじゃないんですわー。




 いや、始めはなんていうか、事故。事故だったよ。うん。

 いきなりサバイバル状態になって、食い物全く無かったからね?備蓄してた脂肪使わないと死ぬ状況だったら、そりゃ、痩せるよね、まあ。

 情報室の人達と合流した後は多少、サバイバル具合が減ったけど、刈谷と一緒に放り出されちゃってからはもっと酷くなったし?食べ物が無いどころか運動まで強制的にさせられるとなると、まあ、当然のように痩せるよねっていう。

 その内米だけ見つけたおかげでなんとか食料は手に入ったんだけど、今度は炊く技術が無いからさー、バリカタ飯とか焦げてるのに半生飯とか食うぐらいならお粥食ってた方がマシですわー、ってなって、お粥ばっか食ってたら、そりゃもうやっぱり痩せてくよね!

 ……ということで。

 化学部の他の面子と合流できた時点で既に多少、俺の体積は減少してたっていうか、やつれてたっていうか。ま、過程はともかく結果的にはダイエット成功しちゃったわけですわー。

 始めは脂肪以上に筋肉落ちてたし、体力落ちてたし、栄養失調気味でやばいなー?ってかんじだったけど、それもまあ、合流してからは栄養面で命の危険に陥ることって無くなったし。

 体調も戻ってきた俺は、ふと、気づいちまったんだなーこれが!

「体が軽い……こんな幸せな気持ち初めて……」

 なんか!体が軽い!


 ……そしたらさ。ね。楽しくなってきちゃうじゃん?事故による強制ダイエットによるものでも、一回ちょっと痩せちゃったら、なんかもう楽しくなってくるじゃん?

 そしたら、より高みを目指し始めるじゃん?ん?


 高みを目指す材料はしっかり揃ってた。さすが異世界!

 まず、異世界補正。

 体動かすのが億劫じゃないくらい、異世界補正がすごかった。

 筋肉量とかが変わった訳でもないのに、体動くし。かといって、消費カロリーが変わりもしないっていうね。やー、便利っすわー。

 次に、モンスター。

 ……戦わないと生きられなからね、しょうがないよねー?ってことで、まあ、俺達日々モンスター狩りしてたわけだけど。それがまあ、めちゃくちゃいい運動になるんですわ。

 羽ヶ崎君とか社長みたいに魔法使い系のジョブだったらあんま運動にならなかっただろうけど、俺は前衛職だったからね。そりゃあ動かないってことも当然なく。自然と超運動することになるんだなー、これが。俺が張り切って頑張れば、後方の人達の危険も減るし、角三君動きやすくなるし。そしてなにより、前衛なのに防御力捨てちゃった鈴本とか針生とかの危険がガッツリ減るし。いいことだらけっすわ。

 最後に、ご飯。

 なんかね。うん。なんかありがたいことに、食事作ってくれる人が我が部にはいたもんだからさ。というか、料理作れる人が居た、って言った方がいいかもね。

 しかもその人が、肉も好きだけど野菜も大好きっていう人だったからね。割と食事面からの健康維持は恵まれてたと思うわ。

 ……と、まあ。このように基盤が整っていて、かつ、既に過酷なサバイバルによって、俺の体重は減少傾向!……ってなったら、なんか、楽しくなってきちゃったんですわ、これが。

 まあ、折角の異世界だし。ちょいとダイエットしてみるかー!って。




 それからは毎日、ダイエットの日々ね。

 まず、運度量増やした。タダでさえ運動量増えてる異世界だけど、そこにさらに斧とか剣の素振りしてみたり、狩りに出てみたり。

 ここで1つ良かったのが、舞戸さんが俺に妙に親近感覚えてるっていうか……まあ、なんか、他の面子より多少、頼み事しやすかったらしいんだわ。(舞戸さん、一度人を好きになったらほっといてもそこそこ懐くけど、懐かせとくともっと懐くからなー、鈴本みたいに引っ剥がしたり羽ヶ崎君みたいにツンツンしたりしないでおくと、まあ、懐く懐く。)

 とまあ、とりあえず舞戸さんが俺に頼み事してくる時って、大抵は『肉狩ってきて!』だからね。頼まれごと聞いてると、それだけで運動。あとは『鍋作って!』とか『オーブン増設して!』のこともあるけど、鍛冶仕事もそこそこ運動になるし。あと、純粋に食卓が豪華になったり物ができたりするのは楽しい。うん。

 ということで、俺は積極的に運動に勤しんでみた訳ね。


 それから、食事の見直し。

 ……とは言っても、これはあんまり苦労しなかったわ。

 なんてったって異世界。食事を全て舞戸さんに司られている状態。

 ……間食とか、しようがないんだわ、これ。

 いや、頼めば舞戸さん、いくらでもおやつ作ってくれるよ。ほんとに。(一回試しに頼んでみたらシュークリーム作ってくれた。作れるんだね、シュークリームって。びっくりしたし、それでクロカンブッシュ作って演劇部に持って行った舞戸さんにもびっくりしたし、そのクロカンブッシュからいきなり、『結婚式に『この泥棒猫!』って女が入ってくる寸劇』なんて初めてくれた演劇部にもびっくりした。)

 けど、逆におやつなんて頼まなければ、ご飯が手の込んだものになるだけだし、それもそうそうハイカロリーな方向に行くわけじゃないし。(大体時間が余ったときの舞戸さんはデミグラスソース煮込み始めるか、コンソメ煮込み始めるか、鰹節とか作り始めるか……ってな具合なんだわ。)

 ということで、異世界生活に舞戸さんという食生活強制ギプスを嵌められた俺は、後は炭水化物控えるぐらいの努力で自然と……あ、その努力はしたか。

 いや、なんかさ。減量する!って人に言うのもなんかアレかなー、とか、それ言いだすと、異世界の食材と調理環境にただでさえ困ってるだろう舞戸さんがご飯作りで益々困るかなー、とか思ったもんだから、まあ、こっそりひっそりやってみようかなって。

 で、つまり。人にたくさん食べさせるのが好きらしい舞戸さんを掻い潜って炭水化物控えるってのはつまり!自らご飯よそい係になるしかない!ってことだ!

 他にも、回避できないハイカロリーに出くわしちゃったら、それは無理せず美味しく頂いておいて、次の日のご飯に『なんかあっさりしたもの食べたい』とかリクエストしとくといい感じにローカロリーなもの出てくるとかね!或いはもう諦めて運動して消費する方向に持っていったりとかね!

 あとは食べる順番ダイエットしたりとか。図書室が戻ってきてからはそっちでも情報収集。主にダイエット方法よりも、リクエスト用にあっさりローカロリーな献立調べるためだったけど。うん。

 ……異世界でのダイエットとは、即ち。

 運動量を増やす肉体戦でもあり、自らの欲求との精神戦でもあり、舞戸さんを如何にして動かすかっていう頭脳戦でもあったね。うん。




 そうして俺はいつの間にか、適正体重を手に入れていたわけです!拍手!

 99%の努力と1%の偶然で生まれたこの適正体重!俺は大いに喜んだし、他の部員も一緒に喜んでくれたんだけど、喜んでくれない人も、まあ、居た。


「ふかふかじゃない……」

 まず、舞戸さん。

 まあ、俺が喜んでるなら喜ばしい事だ、って喜んでくれてたんだけどね。

 何かの拍子に俺をつついたら以前のふかふかじゃなくなってたのが寂しかったっぽい。うん、なんかごめん。

 とりあえず舞戸さんにはエイツォール近辺の浜辺に打ち上げられてた謎のぷにぷにした物体をプレゼントしておいた。舞戸さんは時々そのぷにぷにをつついて遊ぶようになった。よかったね。


「……というか、鳥海、あなた本当に鳥海?なんか大分縮んだけれど。横方向に。」

 そしてもう1人。こっちは糸魚川先輩。

「鳥海でーっす。ピースピース」

「ああその人を舐め腐ったようなダブルピース、正しく鳥海だわ。でもあなた、あのBカップ以上ありそうだった胸はどこへ置いてきたのよ」

「友情と努力で脂肪に勝利しました!」

「良かったわね、とても残念だわ」

 糸魚川先輩も割と遠慮なく俺を揉みに来てた人だからなー、なんか残念だったらしい。

「……でも、あなたがそれでいいって言うなら、私はそれで良かったとも思うわ。残念だけど」

 しかしここはやっぱり先輩だった。

「やっぱり人間、なりたい自分になれたなら、それが一番じゃない。だから、あなたが痩せたいと思った結果痩せたなら、それは喜ぶべきことだし、喜ばれるべき事なのよ。残念だけど」

「そっすか」

「特にあなたの場合、努力の積み重ねな訳じゃない?きっかけは栄養失調強制ダイエットだったのかもしれないけれど、その後はただ、あなたの力だから。だから、私は先輩として、努力できた後輩が誇らしいわ」

 なんか言うことに重みがあるわー。流石先輩。

 なんかね。この先輩も『こうなりたい』を実践してる人だし、そこに費やされてる努力も半端ないの、何となく分かるし。うん。

「まあ、ふかふかじゃないのは残念だけど」

「残念なんですね」

 でも先輩は先輩だったね。うん。

「残念よ。残念だわ!これで揉める胸が舞戸のしかなくなっちゃったじゃないのよどうしてくれんのよこのこの」

「舞戸さんの揉めばいいじゃないっすか」

「じゃあ舞戸連れてきなさいよ!私専属のプリン製造機兼揉まれ要員にさせなさいよ!」

「それやっちゃうと俺達のご飯要員兼装備作成係兼お掃除要員が居なくなっちゃうんで駄目です」

「このっこのっ!あああ!殴っても硬いわ!何これ!生意気よ!腹筋とか生意気よ!鳥海の癖に!鳥海の癖に!」


 ……結局。

 まあ、うん。

 なんか元の世界に戻る時に体は戻っちゃうらしいってことが判明して、俺としては割とショックだったんだけどね。

 でもまあ、舞戸さんとか顔面溶けたりしてるし、俺達もヤバいぐらい体に傷痕残ってるし。このままの体で戻るよりはいいと思うよ。まあ、しょうがないかなって。

 ……それに一度減量した感覚知っちゃったし、これは元の世界に戻ってもまた頑張るしかない!

 何度でも友情と努力で脂肪に勝利してみせるぜ!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ