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女の子より女の子

時間軸はいつものあたりです。

視点は針生です。

角三君が酷い目に遭います。

「角三君は可愛い!」

「お、俺は可愛い……?」

「俺じゃない!私!はい!リピートアフターミー!私は可愛い!」

「わ……私、は、かわいい……?」

 ……角三君が。

 角三君が……洗脳されてる!




 事の始まりはね、ちょっと複雑だったんだよねー。

 その日、珍しく歌川さんから連絡が入ってさ。ジョージさんのとこでトラブル起きるとも思えなかったし、舞戸さんへのドレスの発注とかそういう奴かなー、って思ったんだけどさ。

 その内容が……簡単に言っちゃうと、『今晩、裏社交界で、有力貴族の持ち物になっている異世界人奴隷を力づくで奪ってほしい』っていう、すっげえ物騒な依頼だったんだよねー。あははは。いや、笑いごとじゃないけど。

 ……それで俺達全員、デイチェモールへ遊びに行くついでにジョージさんの店に行って、そこで歌川さんから直接話を聞くことになったんだよね。


「ごめんなさいね、こんな事、お願いして。びっくりしたでしょう?」

「うん、ちょっと、いや、滅茶苦茶ビックリしたけども」

 歌川さん申し訳なさそうだから、俺達も何も言えない。もう、なんか、どっから何を聞いたらいいのか分からないし!何、裏社交界って!貴族の持ち物になってるって!力づくって!何!?何なの!?

「それで、話の詳細をお願いします。裏社交界、とは一体?」

 しかしここで頼れる社長!とりあえず話の筋戻してくれるからありがたいよねー。

「ええ。裏社交界、というのは……名前の通りよ。この国の貴族達が、表立って行うことなど許されないような催しをするために開く会合なの。それが今回は……奴隷のお披露目会、という訳ね」

「……随分と胸糞悪いことをするんだな、この国の貴族とやらは」

「仕方ないわ。そういう世界なのよ、ここは」

 鈴本らへん、こういう話になるとあんまり機嫌良さそうじゃないけどまあ、俺は郷に入れば郷に従え精神かなー、とか思ってる。実際、助ける方法はあるんだし!ね!ポジティブに!ポジティブに行くっきゃないじゃん!ね!

「それで、俺達はそこへ潜入して、『実力行使』で貴族から奴隷を奪え、ということですね?」

「そうね」

「金で解決できないの?金はジョージさんがいくらでも出せるんでしょ?」

「ごめんなさい。交渉したし、それなりにお金を出す準備がある事も伝えたのだけれど……いくら出されても売る気はない、って突っぱねられて……」

 まあ、お金で買えない価値があるって言うし。そういう人居てもおかしくはないよね。うん。むしろ今まで、かなり歌川さん達頑張ってくれてるし。その中で1件2件、実力行使に出ざるを得ない状況が発生してもしょうがないっていうか。

「……そこで、申し訳ないのだけれど、柘植君達に頼みたいのよ。あなた達なら実力もあるし……」

「そして何より、『歌川さん達とは関係無い謎の武装集団』が奴隷を奪っていったのなら、歌川さん達の今後の交渉活動に支障は出ない。そういうことですね」

「話が速くて助かるわ」

 でしょ。うちの社長はちょっと話が速すぎることに定評があるんだなー。あはは。

「……ということで、お願いできるかしら」

 歌川さんが心配そうな顔してるけど、俺達の返事なんて、決まったようなもんだよね!

「オフコース」

「勿論だ」

「まあいいけど」

「お任せください」

「うん」

「オッケー!」

「いいよー」

「任せろ!」

「了解ですー」

 ……いや。案外、返事バラバラだったわ。あははは。


「ところで、舞戸さん、大丈夫?」

「へ?私?何故?」

 が、快諾した俺達に、歌川さん、滅茶苦茶不安そうな顔を向けてくる。これには俺も嫌な予感。

「あの、裏社交界、ね?……男女同伴が原則なのよ」

 ……。

「ひええ」

 うん。過去に一回、舞戸さん、やらかしてる実績あるし。

 ちょっと……ちょっとこれは……あはは、いやもう笑うしかないよね、これ……。




 早速戻って作戦会議、と出た俺達だけども、初っ端から無理難題なんだよねー、これ。

「……舞戸」

「うい」

「一応、聞くが。お前、戦場に居て死なない自信はあるか?」

「天然の水素における三重水素ぐらいのパーセンテージで自信あるよ」

「……つまりほぼゼロだな?」

「10のマイナス16乗%ですから、まあそうですね。舞戸さんにしてみればかなり健闘した値なのではないでしょうかね」

 うん、まあ、舞戸さん、前に一回、やらかしてるっていうか、やらかされてるっていうか……うん。まあ、とにかく、舞戸さんを表に出したくはないよね。もう俺、あれは二度と御免だわ。

「だが、男女同伴、ということだったな。裏社交界とやらは」

 だがしかし。現実は非情だね。

 俺達、舞戸さん以外全員男だし。となると、舞戸さんを無理矢理連れていくか、演劇部らへんから人借りてくるか……。

「つまり私の仕事は誰かを女装させる事かー。うんうん、それなら頑張れる」

 ……現実は非情だね。

「ああ、それなら問題ありませんね。性別を変える薬も最近できましたから」

 現実は!非情だね!あはははははははは!




「え……なんで、俺……?」

「一番可愛いから」

「……かわ……?」

「可愛いから」

 そして選ばれたのは綾鷹もとい角三君でした。

 ははは、残念でしたー!満場一致で角三君だからもう文句の言いよう無いし!残念でしたー!

「……やめろ」

「やめない!可愛い!」

 角三君は複雑そうな顔してたけど、舞戸さんが妙に乗り気なせいで押され気味だね。元々角三君、押されたら押されちゃう性格だからね。しょうがないねー。あははは。対岸の火事って楽しーい。

「舞戸。そこらへんにしといてやったら?」

 舞戸さんが楽しそうだったのを羽ヶ崎君が引っぺがしていったので、とりあえず角三君は救われた。根本的には何も救われてないけど。

「ええと……まあ、角三君は、毒気が無いというか……うん、はい。あの、良い人なので。変態と変人の中では可愛い方なんだと思いますよ」

 刈谷がなんかフォローしてるけど、角三君が落ち込んでることに変わりは無し。まあ、凹むよねー、可愛い可愛い言われたら。あははは。

「じゃあ角三君!私は君のドレスを作ってくるから!何色がいい!?」

「何色でもいい……っていうか、俺なのは決定なの……?」

「うん」

「まあ」

「はい」

 ……まあね。うん。角三君には悪いけど、犠牲になってもらうね!ごめんね!




 数時間したら舞戸さんがドレス持って戻ってきた。なんか速すぎて気持ち悪い。っていうかなんでサイズとか分かるの?……あ、前回性別変えた時も一晩で8人分服縫ってたし、その時も採寸とかなんもしてなかったや。あはは。

「お待たせ!さあさあ角三君、これを着てみるのだ!」

「いや、絶対これ、入らないし……」

「じゃあさっさと女の子になってください」

「え……」

「なってください。女の子の支度には時間がかかるのだよ。着つけして髪結って思いっきり可愛くするのには時間がかかるのだよ。さあ分かったら諦めてさっさと女の子になってください」

「いや……」

「なってください」


 結局、押し切られた角三君、社長謹製の性別転換薬で女の子になりました。

「痛かった」

「めきめき言ってたもんなあ……痛そうだなあ……」

 性別転換薬、まあ楽しいんだけどさ。変身する時に体がメキメキ言いながら変形するの、結構辛いんだよね。角三君可哀相。

「よし!女の子になったな!ならばお着換えだ!さあ別室行きだ!」

「え……いや、1人で着替え」

「られると思っているのかこのおバカめ!ドレスなんざ着たことが無い奴が着られるような軟なドレスは作ってない!あと、ビスチェとか付けてもらうから!後ろ編み上げだから!1人で着脱無理だから!はい、諦めて別室行きー!」

 そうして角三君は舞戸さんに引きずられて、化学講義室へと消えていった。

「……なんで舞戸はあんなに楽しそうなんだ?」

「さあ……知ったこっちゃないけど」

 うん。俺も知らない!

「女の子同士だからじゃないかなあ。よかったねえ、舞戸さん」

「角三君が女の子になる事で、舞戸さんも久々に女の子とのキャッキャウフフができたんですね……良い話ですね……」

「んー?良い話かなー?」

 うん、まあ、舞戸さん楽しそうで良かったね、って気分にはなる。同時に、角三君可哀相だね、って気分にもなるけど。あははは。




 ……で、数十分後に連れてこられた角三君は、すっかり出来上がっていた。

「うわー」

「おー」

 正直、そういう感想しか出てこない。

 いや、だってさあ、ふっつーに、女の子なんだもん。

 いやいや、確かに女の子だよ。今、角三君女の子になってるよ。でもさ、そうじゃなくて、なんか、こう……女の子!ってかんじになってる!すげえ!なんか変な気分!すげえ!

「ドレスの色は落ち着いたダークブルー!夕方から夜にかけての裏社交界ということでドレスはざっくり背中空きのホルターネック!それでも見苦しくならないこの引き締まった背中とウエスト!大人っぽくもありながら、裾はひらっと広がって可愛らしさも兼ね備えたデザイン!アクセサリーは控えめにして、金属と宝石よりもレースとリボン!ダークブルーにオフホワイトのレースが映える!大人っぽさと可愛さの両立!可愛い!そして可愛い!いやあ我ながらいい仕事した!いい仕事したよ!」

「うんまあ、お疲れ様っすちっす」

「舞戸さんのテンションが怖いですね!」

「おかしい。俺の目の前に、この部には存在しないはずの女子が居る」

「正直舞戸より出来いいんじゃないの、これ」

「そうだろうそうだろう!はははは!角三君は可愛い!可愛いのだ!」

 なんか舞戸さんも見当違いな方向に元気だし。可愛い可愛い言われて角三君、ますますもじもじし始めるし。あー、そういう仕草がなんか、ほんとそれっぽい。舞戸さん着飾らせても照れたりしないからさあ……死んだ魚みたいな目するだけだからさあ……女子っぽさ足りないからさあ……。

 ……なんか、女子っぽい女子(……じゃないんだけど、まあ体は女子)って、すごく新鮮。




 ……で、冒頭に戻って。

「はい!私は可愛い!」

「わたしはかわいい……」

「私は!可愛い!」

「わたしはかわいい……」

 角三君が、洗脳され始めた。

 いや、なんかね。そういうの必要無いだろと思ってたらね。舞戸さん曰く、『ただ普通に女の子やるだけなら、ボーイッシュで少々ガサツな美少女ってことにできる。しかし、社交界に出るレディをやるのなら、それ相応の振る舞いが出来ねばなるまい』ってことでね。

 ……その結果、社交界までの残り時間、角三君は可哀相に所作訓練?みたいなのをされている。

 まずは一人称を俺から私へ改めることに始まり。

 それから歩き方を改め。(低いっつってもヒールついてる靴で歩く訓練って時点でもうかなりヤバいの分かってもらえたらいいなーって思う。)

 最後に動き方とか仕草の訓練されて。

 そして。

 角三君は、すっかり、女の子っぽい振る舞いができるようになった。

 ……いや、なんかさ、凄いね。舞戸さん本人は全然そういうタイプじゃないのに、こういう指導できるだけの知識はあるんだね。凄いね。その知識を自分で実践しないあたりが舞戸さんだけどね。




「んじゃー行ってくるわー。適当なところで『転移』で迎えに来るからそのつもりでヨロシク」

「……行って、くる、ね?」

「さっさと終わらせるからそのつもりで」

 そうして、『転移』の腕輪持ってて使い慣れててかつコミュ力高い鳥海と、すっかり女の子になってる角三君、奴隷役の羽ヶ崎君(武器らしい武器持たずに戦える人選だったんだけどめっちゃ文句言われた)、そこに角三君の陰に潜んだ俺!の総勢4名が裏社交界に潜入することになった。

 うーん、こういう時、俺ってほんと便利だなーって我ながら思うわ。あははは。

「んーと、角三君、大丈夫?」

「うん、大丈夫、よ……?」

「……無理しなくていいと思うけど?」

「わ、私、無理してない、よ……?」

 ……なんか滅茶苦茶心配になるけど(主に角三君の精神状態的な意味で)、まあ、なんとかなる事を祈りつつ頑張っていくしかないよねー。




 裏社交界って何が裏なのかと思ったら、マジで裏だった。

「では、こちらへ」

 歌川さんから聞いてた場所に行って、そこの受付みたいな人に合言葉言ったらそのまま建物の奥の方に連れていかれて、そこから秘密通路みたいなの通って裏側に入った。なんか忍者屋敷っぽい。俺、こういうの見るとなんとなくワクワクする。

 ……で、建物の裏側に隠されてた大部屋に入ったら、そこで、既に奴隷品評会みたいなのやってた。

 なんか、貴族だなーって見た目の人達が、奴隷だなーってかんじの人達連れ回してなんかやってた。うん。よく分かんないわこれ。

「えーと、とりあえず会場の位置分かったから、俺『転移』で他の面子連れてくるわー」

「行ってらっしゃい」

「さっさと戻って来いよ」

 よく分からない会場で、さっさと鳥海は離脱。まあそれが仕事だからねー。

「……僕らは僕らで、目的の人探しといた方がいいんじゃないの」

「あ、そっか……」

 で、鳥海が戻ってくるまでの間、角三君と羽ヶ崎君が今回奪還予定の奴隷こと俺達の同級生か後輩か先輩かを探すことになったんだけどね。

 ……人多いわー、これ。

 ちょっと人探しに向く人口密度じゃないよ、これ。

 同じ個所からずっときょろきょろしてても埒あかなさそうだから、俺は適当に影渡って室内見回して、角三君と羽ヶ崎君も適当に室内ウロウロし始める。


 そんで5分ぐらいウロウロしてたら、それっぽい人見つけた。

 なんとなーく、学校のどこかで見た事あるかなー、ってかんじの人。前情報通りに男子と女子1人ずつ。

 無事にターゲットも見つけられたし、あとは鳥海の『転移』待ち。やったねー。

 ってことで、一応ターゲットの位置は角三君と羽ヶ崎君にも伝えておいた方がいいかなー、って思って戻ったら。

「おや?初めてお目にかかる方ですね?」

「……あ、その……」

「そちらは……おお、異世界人の奴隷ですかな?」

「え、ええと……」

「中々よいものをお持ちのようだ。しかしあなたもまた、可愛らしい。パートナーの方はどこか別の場所にいらっしゃるのでしょうか?ならばそれまでの間、私の話し相手になっては頂けませんか、お嬢さん?」

 角三君が。

 角三君が、ナンパされてた。

 隣で羽ヶ崎君が笑い堪えすぎてバイブレーションモードみたいになってるんだけど、角三君ナンパしてる奴は角三君しか眼中に無いから気づいてない。よかったね羽ヶ崎君。

「あ、あの、あの」

「いかがなさいましたか、お嬢さん?お加減が優れないのですか?ならば別室で休憩を」

「そうじゃなくて!」

 今までずっとまごまごしてた角三君、ここでやっと、まともな言葉を発することに成功!ちょっと大きい声出したら相手もちょっとビビった!よし!いける!

「……今、何喋るか、考えるので……ちょっと、まって……」

 ……まあ、うん。

 いいと思うよ。角三君だし。

 あ、羽ヶ崎君が咳き込み始めた……。




 結局、角三君はその後、ナンパしてきた奴と超スローペースな会話して、すっかりナンパ野郎に気にいられちゃったらしい。

 ……うーん、ちょっと分かるなー。だってさ、何話せばいいのか考えすぎて頭ショートしてるあまり真っ赤になってもじもじまごまごしながら、ぽつぽつ話す女の子。それも、異世界人補正で超絶美少女なわけじゃん。

 それなら確かにちょっと可愛いよなー、とか、思っちゃうわ。うん。いや、中身角三君だから、複雑なかんじするけど。

 でも、中身角三君だからこそ、基本的に会話の内容に毒が無いし、世間擦れしてないかんじするし、何か微妙にズレてて天然っぽいし、不自然に思われないように、って頑張ってる以上、そこそこ好意的な接し方だし……確かにこれはちょっと可愛い。うん。いや、角三君なんだけどさ。うん……。


 それからしばらく、角三君が生贄になってるのを遠巻きに眺めてた。(羽ヶ崎君が遠巻きにしてたんだよね。俺は羽ヶ崎君の影に入ってれば自然と遠巻きになるからね。)

 そしたら、突然、会場が真っ暗に。

「何事だ!」

「警備兵はどうした!?」

 当然、会場はパニック状態。確かにここ、隠し部屋みたいになってるし、ガードマンも居たし。でも、会場内に直接『転移』できちゃう異世界人には関係無い話だよねー。あはは。

 ……さてさて。真っ暗になった時って、俺の本領発揮なんだよね。『暗視』持ってるから暗いところでも見えるし、暗闇でこそ忍者って活きるものだし。

 ってことで、さっさと動いて、ターゲットの生徒2名に接近。いつでも動けるようにして待機。

 そこで、ぱっ、と、照明が点く。

 ……するとそこに居たのは!

「ふはははははー!会場の悪趣味な貴族共よ!喜べ、この会場は我らの手に落ちた!」

 魔王軍装備の刈谷。

 つまり、めっちゃ怪しい奴、ってこと。あははは。っていうか、この照明って刈谷の光魔法かー。ってことはセルフ照明かー。駄目だ、それだけでめっちゃ笑える。

「この会場の宝は全て、我々が貰い受ける!」

 会場が刈谷に注目してざわざわしたところで、突然、悲鳴。

 とはいっても、会場はほとんど真っ暗だから何が起きてるのかは分からない訳で、それがまたパニックを誘う。

 会場のあちこちから悲鳴が上がってるけど、俺の目には皆がそれぞれ動いてるのが見えてる。とりあえず、異世界人だけ狙ったって思われないように、他の奴隷も盗んで帰るつもりっぽい。

 俺もターゲットの首輪を『シャドウエッジ』で破壊して、すぐ2人を捕まえて退避。

 そこらへんでガードマンっぽい人とかが攻撃し始めてきたけど、俺達全員、伊達に異世界人じゃないからね。俺は『シャドウエッジ』とかでスタン効果狙いながら応戦。他の面子も、暗闇に紛れながら峰打ちしたりとか足元凍らせたりとかビーム撃つとかしながら、適度に会場をパニくらせつつ、防衛も攻撃も程よくこなしていく。

 適当なところで切り上げたら、鈴本が羽ヶ崎君と角三君抱えて、俺達全員、照明が当たってる刈谷の所へ移動。

 この時点で、俺の他の人達は奴隷っぽいおねーちゃんとか、誰かが身に着けてたっぽいアクセサリーとか、そういうのを全員それぞれ持ってた。

 それぞれが『盗んだ』ものをしっかりアピールしたところで、鳥海からOKサインが出る。(っていうかよく見たら鳥海もいつの間にか魔王軍装備に着替えてたの笑える。)

「ではさらだばー!」

 最後に刈谷がそう言って高笑いし始めたところで、鳥海が『転移』を決行。俺達は無事、その場を離脱することに成功!はい、ミッションコンプリート!お疲れ様でした!




 とりあえず『転移』先はククルツにしたっぽい。このためにわざわざ1つ家を買っておいたんだってさ。

 なんでわざわざこんな事するかって言ったら、奴隷のおねーちゃん達を逃がす為なんだよね。

「あー、あなた達はここで解散、っていうことで……ええと、お疲れ様でした」

 刈谷がそう言って、さっきの変人っぷりが消えた腰の低さでそう言って家から出ていけば、奴隷のおねーちゃん達、めっちゃ困惑。

「えっ」

「あの」

「な、なんで……?」

 おねーちゃん達の困惑はご尤もだよね。でもまあ、許してね、ってことで。

「はい、じゃあこれからの生活にこれ使ってねー。ククルツで売れば足がつくこともないと思うし」

 更に、鳥海が盗んできたアクセサリー類を幾つかおねーちゃん達に渡して、男子生徒の奴隷背負って退却。

「現金も必要でしたら、こちらもどうぞ」

 更に、社長が銀貨10枚ずつをおねーちゃん達にプレゼントして、女子生徒の奴隷拾って退却。

「この家ももう使わない。権利書はやる。好きにしていいぞ」

 更に、鈴本が権利書をおねーちゃんの1人にパスして、角三君抱えて退却。

「もう捕まらないようにねー」

 更に、加鳥が羽ヶ崎君持って退却。

「じゃあねー」

「ま、待って!」

 最後に俺も手ぶらで退却しようとしたら、おねーちゃんの1人に捕まった。

「あなた達は何者なの?」

 ……えーと。

「通りすがりの変な人達だよ、ってことで!」

 ま、あんな変な演出したりしてる時点で、変な人達であることは間違いないよね。あはは……。




 ……その後、奴隷にされてた生徒2人は無事に体育館の人達に合流させて、無事に俺達は帰還!お疲れ様でした!

「お帰りなさいませお嬢様!」

 そして出迎えた舞戸さんが、それはそれは嬉しそうだった。

「……た、だいま?」

 ああ、そうだよなー。『お嬢様』を出迎えることって、舞戸さん、今まで碌すっぽなかったもんね。

「さ、じゃあ名残惜しいけど、角三君は着替えよっか。他の皆さんはおやつできてるから休憩しててね」

 舞戸さんは角三君を連れて、いそいそと移動し始める。

「えっもう着替えさせちゃうの?俺、女の子になってる角三君見るの楽しくなってきたんだけど」

 そこで引き留める鳥海も鳥海だと思うけど、確かにちょっと意外だよね。舞戸さんの事だから、少しでも長く角三君ならぬ角三ちゃん見てたがるもんだと思ってたんだけど。

「それは私もそうなんだけどさ、そろそろ薬の効果切れるじゃない。その時にドレス着てたら角三君の精神へのダメージが馬鹿にならない気がして流石に可哀相かなって……」

 あー……うん。確かにそうだよね。うん。俺の想像力が足りなかった。

「ああああああ、でも可愛いなあ、可愛いなあ……角三君可愛いなあ……勿体ない……戻すの勿体ない!」

 でも舞戸さん、案外諦めが悪かった。気持ちは分からないでもないけどさ。

 しかも角三君の頭撫で始めた。いや、気持ちは分かるけど。分かるけどさ。

「あの、舞戸、今更だけど、俺、男だから」

 流石に角三君、舞戸さんを引っぺがして抵抗の意を示し始めた。遅すぎる気もするけど。うん。

「あんまり、その、可愛いとか言われても、困るし……」

「あー……うん、そうだよね。ごめんね……」

 でも、これには舞戸さんもちょっと申し訳なく思ったっぽい。申し訳なさそうにちょっと離れて、もう一回角三君見て……。

「……でも可愛い」

 あああああ!角三君がそろそろ泣きそうだからやめたげて!




 翌日。

 歌川さん達にも報告に行った。依頼主だからさ。ちゃんと報告はしないとね。

 ……と思ったらだよ。

「貴族界隈で『怪盗現る』って噂になってたけど、あなた達、何やったの?」

 これだよ!うん!確かに盗んだけどさ!けどさ!

「怪盗やったねえ」

「そこで奴隷数名と貴族の美少女が1人攫われた、って噂になってたけど……」

「あー、それ角三君の事だから大丈夫大丈夫」

「じょ、女装したの!?」

「いや、薬を使って性別を変えてもらいました」

「そんな薬があるの!?」

 まあ、社長謹製だから。あははははは。


 で、報告したら歌川さん、真剣な顔で悩んで……言った。

「……ところで、もう1件、あなた達にお願いがあるんだけど、また男女同伴が条件の場所への潜入なのよね……って言ったら、怒るかしら」

 全員、角三君、見るよね。うん。

 角三君、困るよね。うん。

 まあ、次は角三君以外の誰かがくじ引きかなー、とか思ってたら。

「……別に、いいけど……」

 ……あれっ?いいんだ。

「他の人に、あんな思いさせたくない……」

 う、うわあー、すっごい良心がダメージ受ける!何これ!角三君の良心が俺達の良心を攻撃してくる!

「それならまた角三さんにお願いしましょう。よろしくお願いします」

 でも社長には良心が無いっぽい!流石社長!


 ……ってことで、後日また、角三君は犠牲になったのだった。

 まあ、他人の不幸は蜜の味って言うしね。楽しんだけどね。あはは。


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[良い点] 毒があったっていいじゃないか。 にんげんだもの。 
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