別のゲームだよ古今南北
全員が息を呑む中、俺は、発言した。
「……北海道」
……誰からも声は上がらない。
つまり……とりあえず俺、このターンは生き延びた!やったぜ!
初夏。なんとなく爽やかな空気ではあるんだけど、ここ最近、天気がイマイチ安定してない。
今日も突然の雨。予報を見たら、割とすぐに止みそうだって事は分かったから、俺は実験室で時間潰そうと思って実験室のドアを開けた。どうせ同じようなこと考えて集まる奴、居るだろうと思ったし。
……や、でもまさか全員揃うとは思わなかったけどさ。うん、皆して考えること一緒だと流石にちょっと気持ち悪いよなー。あはは。
やや暑い気温が雨で冷えて、実験室は程よい気温。ただし雨のせいでちょっと行き過ぎな湿度。そして妙に緊迫した空気。
……そんな中、順番に都道府県名を言っていく俺達。
現在俺達がやってるゲームは、『古今南北』!
『古今東西』、つまり通称山手線ゲームは割と有名だけど、『南北』の方はあんまり有名じゃないっぽいんだよなー。実際、俺も刈谷がこのゲーム持ってくるまで知らなかったし。
ルールはそんなに難しくない。
まず、テーマを決める。今回は『都道府県』。テーマ内にあるものの数が限られてる方がいい。(さっき、『花』でやったらゲームになんなかった!)
で、1人1つ、他の人に見られないように、テーマ内のものの名前を1つ、紙に書いて伏せておく。
それが終わったら、全員順番に1つずつ、テーマ内のものの名前を言っていくんだけど……。
……誰かが紙に書いたものを言った時!それを紙に書いていた人は「どーん」って言いながら紙をオープン!そして!紙に書いてあったその言葉を言っちゃった人は脱落!要は地雷踏んだ、ってかんじだよねー。
要は、『他の人が言いそうな言葉を紙に書く』、『他の人が書いていなさそうな言葉を言う』ってことができれば勝てるゲームなんだけど……ま、そんなに簡単な話でもないからなー。特にこの面子だとさー。あははー。
「えーと、じゃあ埼玉」
「やったねどーん!」
「あっやっちまったかー」
「はっはっはざまあみろー!」
まず、鳥海が舞戸の仕掛けた埼玉地雷で爆発。
「滋賀!」
「悪いな、どーん、だ」
「割とピンポイントに狙いが被りましたね」
「さっすが鈴本!そのスナイパーっぷりに痺れる憧れるゥ!」
続いて、舞戸さんが鈴本の仕掛けた滋賀爆弾で爆発。
「香川……いけますかね?」
「残念。どーん」
「ああーぐやじい……」
「いや、高知徳島愛媛まで出てたんだから残り1個はヤバそうだなって思えよ、馬鹿でしょ……」
更に、刈谷が羽ヶ崎君の仕掛けた香川砲に撃ち抜かれる。
そして俺のターン!
「北海道大丈夫だったんだからいけるっしょ!沖縄ー!」
満を持しての発言!そして!
「どーん」
「どーん」
「どーん」
……。
鳥海と角三君と加鳥が、一斉に紙、ひっくり返した……。
「一気に三発爆発したか……」
「待って、なんで3人も沖縄書いたの?普通そこは外すでしょ」
「いや、誰か書くかなっても思ったけど、誰も書かないんじゃないかなー?っていう裏の裏をついた結果がコレなんだなー」
「俺は……あんまり考えずに書いた……」
「うーん、裏の裏は表、って、本当なんだなあ……」
俺も裏の裏をかいて沖縄って言った。誰もあえて書かないかなって思った……。
沖縄ジェットストリームアタック食らって明らかに俺、オーバーキルされた気がする。あーなんか悔しい!あー!
そうして生き残ったのは羽ヶ崎君と社長だった。まあ、妥当な線だよねー。……なんで2人も生き残ったかって、俺が無駄に1人で3発も爆発させたからだよっ!
「都道府県はそこそこバランスよかったな」
「数が限られてるもんねえ。若干、9人でやるには足りないかなー?って思ったけれど、まあ、短期決戦でよかったかも」
さっきやった『テーマ:花』の時は決着つかなくてノーコンテストだったからなー、テーマの中にある言葉の数が限られてる奴、ってことで都道府県を選んだら、思いのほかバランスよかったみたい。9人でやるには47だとちょっと少ないかもしれないけど、まあ、こんなもんかなー。
「じゃあ次のテーマは俺が選んでいいですか」
「ん、いいんでない?」
次は社長がテーマ決めるっぽい。うわー、碌なの来ない気がする。
「ではテーマはアレでいきましょう」
……社長が指さしてる方向を見る。
あー……はいはいはい。
「周期表、か。化学部らしいと言えばらしいが」
ね。
化学の授業でおなじみ、周期表。ドミトリ・メンデレーエフが作ったっていう例の元素いっぱいの表は、俺達も時々使うから化学部でもおなじみ。ま、使うって言っても用途は主にこういうゲームでだけど。あははは。
「ただし1つ、条件があります」
でも、今回ばかりはそのおなじみ周期表も、俺達に牙を剥くっぽい。
「周期表を見ずにゲームしましょう」
言うなり、社長、壁に貼ってあった周期表を剥がした。
「……ちょ、ちょっと待って。まだ都道府県なら分かるよ。分かったよ。でも流石に私達化学部とはいえ、周期表を暗記なんぞしてる訳が無い!」
「無いですね。俺も自身はありませんよ」
舞戸さんがおろおろしてるけど、俺も正直おろおろしたい!だって分かんないじゃん!どんな元素があるか分からないと、紙に書けないし、言うこともできないじゃん!
「そして今回の『古今南北』では、『サレンダー』がアリ、ということになります。つまり、知る限りの元素名が全て出尽くしてしまった人はその場で敗北となる訳です。どうですか?化学部らしくていいでしょう?」
うわー、うわー、うわー……えっげつねえ!
それってつまりさ、こう、持ってる弾の数が違うのに戦う、みたいな、そういう……!
「いやいやいや、それやっちゃったら鳥海とか羽ヶ崎君とか鈴本とか社長がやったらめったら強いじゃない!私とか角三君とか針生とかがすこぶる弱いじゃない!」
舞戸さんが失礼な事言うけど、うん、俺もそう思う!
どう考えてもこれ、周期表ほぼほぼ暗記してるような連中の方が強いし!
……という思いを込めて俺も社長を見たら。
「そうですか?如何に弾数が違えど、当たる時は当たる、当たらない時は当たらない。そういうものではありませんか?別に武器が散弾銃である必要はありません。弾が1発しかないならば、スナイパーライフルで一撃ヘッドショットを決めればいいだけの事です」
社長が、狂気入っちゃってる笑顔を浮かべていた。悪魔じみてる。すげえ。
……うん、でも、そだよね。
結局この『古今南北』、如何に相手を『どーん』して、相手に『どーん』されないかがポイントな訳だ。
ってことは、ま、当たる時は当たるし、当たらない時は当たらない……と。
うん。そう考えれば割といけそうな気がしてきた。
だって俺、運にはそこそこ自信あるし。あはは。
そうして全員が頭を捻りながら紙にそれぞれの地雷もとい元素を書いて、机に伏せたところで、ゲームスタート。
最初は言い出しっぺの法則ってことで、社長からスタート。
「フレロビウム」
……そ、それ何?俺、そんなん知らないんだけど!
「居ませんね。では次の方どうぞ」
案の定、『フレロビウム』なんて書いてる奴居なくて、次は舞戸さん。
「えーと、じゃあイリジウム」
……そ、それ何?え、何?俺知らない!
「あ、居ない。じゃあ次、鈴本どうぞー」
「あー……じゃあ、キュリウム。どうだ」
あ、流石にそれは知ってる。
が、これも地雷じゃなかった、と。
……これ、本当にいつかは地雷に引っかかるんだよね……?
「ラザホージウム」
羽ヶ崎君が地雷原を突破。
「えーと、じゃあレントゲニウム。どうかなあ」
加鳥も突破。
「……水素」
「えっそれ危ないんじゃ」
……いきなり大分突っ込んできたけど、角三君も無事突破。すっげえ。さっきの『北海道』でセーフだったのと似たかんじする!
「じゃあプラセオジムでお願いします」
刈谷も突破。
「んー、じゃあフランシウム?」
そして鳥海も……。
「はい。どーん。ごめんねー、ちょうどそこ、仕掛けてたんだよなあ」
……突破、とはいかなかったっぽい。見事、加鳥の地雷で爆発した。
あー、これでやっと犠牲者が1人出たわ。犠牲者が出るって事は地雷が1つ減るって事だから、微妙に安心感あるよね。あはは。地雷じゃない元素の割合は減ってくけどね。あははは。
その後、俺が『タンタル』でセーフで、社長が『コペルニシウム』でセーフ、舞戸さんが『ロジウム』でセーフ。鈴本が『ビスマス』でセーフで……羽ヶ崎君が『コバルト』で舞戸さんにどーんされた。あーあ。
「わーい羽ヶ崎君討ち取ったりー!」
舞戸さんがやたら嬉しそうなんだけど、喜ぶより先に周期表、頭の中で思い出す準備しておいた方がいいと思う。
……その後、角三君が『金』とか『鉄』とか言い始めたのをきっかけに、頭いい組が「先に頭悪い奴らの足場を崩してやれ」みたいな発想に至っちゃって、全員で周期表の最初の方ばっか言うようになった。
そしたら舞戸さんが『リン』で鳥海にどーんされて、刈谷が『亜鉛』で角三君にどーんされて、加鳥が『ルビジウム』で鈴本にどーんされて、角三君が『酸素』で俺にどーんされた。角三君討ち取ったり!
更に、社長が『マイトネリウム』で刈谷にどーんされ。
……。
「つまり俺と針生の一騎打ちだな?」
何故か、俺と鈴本が残った。
ちなみに残ってる爆弾は羽ヶ崎君のと社長の。どっちもどこにあるか全然読めねー!
そしてそのままひたすら元素の言い合い続けていって、俺の頭の中の周期表が大体言い尽くされた。
「え、えーと、ストロンチウム」
「既に言われています」
「じゃあバリウム」
「それも出てます」
「銅!」
「もう出てます」
こうなると俺、もうあとはひたすら言って、まだ出てない奴に当たるのを待つしかないかんじ。戦略とか欠片も無い!でもしょうがないじゃん、元素なんてそんな大量に覚えてないし!
「じゃあキセノン!」
「あ、それは出ていませんね。受理しましょう」
いつの間にか書記っていうかゲームマスターみたいになってた社長からやっとお許しが出た。よかった……。
「……俺のターンか……」
そして鈴本にターンが回ると、鈴本が渋い顔をする。
鈴本は鈴本で、やっぱりもう頭の中の周期表がごっちゃごちゃになってるんだろうなー。というかなっててほしい。
「あとどこら辺が言われてないんだ?第4周期ぐらいまではほとんど全部言ってるよな?」
うわ、凄いなー。多分鈴本本人からすると頭ぐちゃぐちゃなんだろうけど、それでもこれ絶対俺よりはぐちゃぐちゃになってないよ。うん。
「そうですね、後ろの方はあまり言われてません。特にランタノイドアクチノイドは結構残ってますよ」
社長がメモを見ながら答える。っつっても、俺、ランタノイドアクチノイドらへんなんて頭にほとんど無いしなー……。
「そうか。じゃあ後ろから行く。ローレンシウム」
「はい。すみません。どーん」
……。
社長が社長の紙を捲った。
そこにはちゃんと『ローレンシウム』って、書いてあった。
「……社長」
「はい、何でしょう?」
「今のは誘導、したな?」
「さて、何のことでしょう?」
あーあーあー、鈴本がなんかすごい顔してる。あははは。
「……というのはまあ、冗談として。折角なので自分が仕掛けた地雷は踏んでもらおうと思いまして。ランタノイドアクチノイドがほぼ残っている、と言えば鈴本ならローレンシウムから言ってくれるだろうと思っていました」
社長がサラッとすごい事言った。
中々誘導なんてできるもんじゃないと思うけどなー、まあ、社長なら仕方ないか。
「……何故だ、普通に爆発した時よりも数段悔しいんだが」
「ドンマイ!」
鈴本が凄く『無念』ってかんじの顔してるから、とりあえず慰めておいた。ドンマイ!
「人狼と違って『古今南北』は死人に口なしのゲームではありませんから。自分が死んだ後も人を殺せるのは中々いいゲームシステムですね。死んだ後も楽しめて一度で二度美味しいです」
社長がなんか言ってるけど、ゲームオーバーになったプレイヤー、要は外野が誘導して爆弾踏ませるのって、なんか本来のゲームの楽しみ方じゃない気がする。けど面白いからまあいっかー。
「そうだね、誰がどこに地雷仕掛けそうかな、誰がどこ踏みそうかな、って、1人ずつ考えるのも割と面白いなあ」
加鳥も割と凄い事言ってるけど、この面子だとお互いの思考回路、なんとなくもう分かっちゃってるところあるからなー、そういう風に1人ずつスナイプしてくのも可能かもなー。
鈴本がちら、って窓を見て、視線を戻した。
「……さて、じゃあもう1ゲームしていくか?」
続いたセリフがなんかわざとらしかったから、俺も窓を見る。
案の定っていうか、もう雨は上がってた。
でも、まあ……ねー。
「あ、俺、いいテーマ思いついた!ひらがな!濁点半濁点アリで!」
もう1ゲーム、したいよね。折角テーマ、思いついたしさ。反論も出ないし。ね。
ちなみに、意外とひらがな古今南北、白熱した。
「ぺ!」とか「も!」とか言いながら「どーん」って言われる謎の集団になったけど……まあ、面白かったからいいよね。
作者おすすめのテーマは『ポケモ○151匹』です。




