なんだか変だよ『ワードウルフ』
0話前のどこかの話です。
視点は針生です。
「なんで俺達、年明け早々こんなことしてるんだろ」
「んー?それは俺達の趣味のせいじゃない?」
「冬休み中、全員が空いてる日がここしか無かったんですから仕方ありませんね」
「年始だと公民館空いてないから高くつくんだよなあ……」
あけましておめでとー。
俺達は何故か今、カラオケボックスのパーティールームに集まって、机くっつけて、それぞれ目の前に紙を配られてるところでーす。
配ってる人は社長。残りは全員、配られた紙をめくって、他の誰にも見られないように確認。
「……あ、これもう僕、分かったわ」
「そうか、すごいな羽ヶ崎君は。俺には何のことかさっぱり分からん」
「え……それ、鈴本がウルフ、ってことじゃね……?」
「いや、多分違うと思うよ。単に鈴本、本当に分かってないだけだと思うから」
俺達がそれぞれに反応する中、社長がいつもどおり、目を爛々と輝かせながらのにやにや笑い。
「全員、配られましたね?」
「あ、うん」
「読めましたね?」
「社長は字、そこそこ綺麗だからね」
ちなみにここに来るまでに一回、刈谷が親をやってるんだけど、その時は配られた紙に書かれた文字が汚すぎてゲームにならなくて、一回流れてるんだよね。あはははは。
だから俺達、実質これがゲーム一回目。
「では、ダイスを振って」
社長がころころころ、と20面ダイス(そんなに面要らないと思うよ、俺達社長除いても8人だし)を何回か振った。
「最初は鳥海から。順に時計回りでいきましょう。ゲームスタートです」
今、俺達がやってるのは、『ワードウルフ』っていうアナログゲーム。
ルールは簡単。
まず、全員に親から1枚ずつ、紙が配られる。
その紙には『お題』が書いてあって、全員は順番にその『お題』についてのコメントをしなきゃいけない。
……でも、1人だけ、皆と微妙に違うお題を書かれた人……『ウルフ』が居る。
勿論、ウルフは自分で自分がウルフだと分からない。
自分がウルフかもしれないし、他の人がウルフかもしれない。
だから、全員『自分がウルフだったとしても首を絞めないように、かつ、他にウルフが居た時にボロを出してくれるように』っていう微妙なラインで、『お題』についてのコメントをしていくんだってさ。
ま、後はやってみれば分かるかなー、くらいで気楽に構えてるけど。
ちなみに、今回、俺に配られてる紙には『紅茶』って書いてあった。
えー、これ『午後の』とか言ったらその時点で俺のお題ばれちゃうし、かといって専門的な事とかは分からないし……微妙だなー。
最初は鳥海。
「えーと、最初は俺?うん……んー、じゃあ、『飲み物』ってことで」
まあ、無難だよね。
お題が『紅茶』だったんだから、ウルフに配られてるお題も飲み物だと思うし。
……社長の事だから、流石に『紅茶』の中に1人だけ『ガソリン』とかが混じってるようなことは無いと思う!多分!
次は加鳥。
「次は僕?うーん、そうだなあ……『僕自身、特にこれについて詳しい知識があったりはしない』んだよね」
俺も無い!
……あれ、ってことは、とりあえず、加鳥に『水』とかそういう単純な飲み物のお題がある訳じゃない、って証明になったのかな?
いや、俺、『水について詳しい知識ある?』とか言われたら『無い!』って答えるけど。あはははは。
でも、少なくとも加鳥は『詳しい知識が必要な飲み物』について話してるんだろうなー。
次は鈴本。
「あー……『最近飲むようになってきた』」
個人的な情報って、なんとも言えないよね。でもまあ、鈴本だし?
次は舞戸さん。
「えーと、『失敗の産物』、ってんでどないでしょ」
……あ、なんか羽ヶ崎君と鳥海がにやってした!した!
これ、なんだろ、舞戸さんがウルフだってこと?いやぁ、どっちかっていうと、『舞戸さんと自分のお題が同じ』って確信した顔だよねー……。
……ってことは、この3人はウルフじゃないって確定か?
ウルフは1人だから、『同じお題について言っているっぽい人』が居たら、『自分はウルフじゃない』っていう確信になるんだよね。
次は刈谷。
「『自販機で売ってます』でお願いします。はい」
えー、どうせならもうちょっと分かりやすい事言ってよ。
次は角三君。
「えー……と……『黒っぽい』」
黒っぽい?黒……紅茶って黒い?黒……?えー……?
次は羽ヶ崎君。
「舞戸は分かってると思うけど。多分、僕とお前のお題、同じだから」
「いぇーす!友よー!」
「うざい。……じゃあ、『缶に入って売られてる』。これで」
缶……ミルクティーの缶とかあるよね。
……あ、もしかして羽ヶ崎君、トラップ仕掛けた?
で、最後が俺。
「なんか皆が散々言ってる後に言うのあれだなー……」
羽ヶ崎君みたいに気の利いたこと言うのもなんかなーってかんじだし、情報出しすぎて、自分自身がウルフだって気づいたウルフが擬態しやすくするのもなんかなーってかんじだし。いいや。
「じゃー、『下のドリンクバーにもあった』!」
……まあ、ぼちぼちの反応……。
それから、更にもう一周。
鳥海。
「んー、『あんまり日本では生産してない』」
加鳥。
「『気分転換したいときに飲む』かなあ」
鈴本。
「『ある時刻と密接な関係がある』」
舞戸さん。
「えーと、『日本では生産してないけど、日本はこれを飲む環境としては世界最高峰』」
刈谷。
「えー、どうしようかな……あ、じゃあ『種類がたくさんある』で」
角三君。
「『専門店がある』」
羽ヶ崎君。
「僕もう誰がウルフか分かっちゃったんだけどね。……『香りが重要』」
で、最後が俺。
「最後だから言っちゃっていいよね?『午後の』!」
「では2周したので投票に移ります。得票数最多が同立2名以上になった場合は、その人達だけで決選投票ということでいきましょう」
ということで、投票タイム。
それぞれが、『こいつがウルフだ!』って奴に投票する。
ウルフが得票数最多になったら、ウルフに投票していた人の勝ち。ウルフ以外の誰かが得票数最多になったら、ウルフの1人勝ち。そういうかんじ。
「では投票先は決まりましたね?」
「オッケー」
「決まりましたー」
「大丈夫」
うん。俺ももう投票先は決めてあるから大丈夫。
「それではいきます。いっせーの」
せ。
「……角三さん2票、鈴本さん5票、加鳥1票、ですね」
ちなみに、角三君に投票したのは鈴本と刈谷。加鳥に投票したのは角三君。
それ以外は皆、鈴本に投票した。
「では、得票最多の鈴本さん。お題をどうぞ」
社長が促すと、鈴本が諦め顔で紙をめくって見せた。
「『コーヒー』。……ああ知ってるよ。俺がウルフだったんだろ?」
おー。
ということは、鈴本に投票してた人の勝ちだ。
つまり俺も勝ち。やったね。
「1周目は分からなかったから素直に『コーヒー』について述べた。……が、舞戸と角三君ので『紅茶』がお題だって気づいたから、2周目は『紅茶』について述べた」
だよね。
『時刻と関係がある』って、つまり『午後の~』でしょ?最後に俺が言ってるけど。
「『失敗の産物』は、イギリスが茶を輸入した時に船内で発酵が進んで紅茶ができた、ということだろ?あと、『黒い』は紅茶が『black tea』であることだと」
「え……俺、普通に紅茶って黒っぽいって思って言った……」
「……なん……だと……?」
……全っ然そういう意図無かったのに、結果として鈴本の推理の材料になっちゃったみたいだね。角三君。
「ま、鈴本の1周目は致命傷だったよね」
「鈴本、しょっちゅうミルクティー飲んでるもんね」
「うるせえ。甘いんだよ。甘いんだよ、ミルクティーは!」
で、まあ、俺達が、なんで鈴本に投票できたか、って言ったら、鈴本がよくミルクティー飲む人だから。
自販機で買ってきたもの見たら大体ミルクティー。カラオケのドリンクバーで持ってくるのも絶対1回はミルクティー。
鈴本、隠れ甘党だもんね。だからこそ鈴本、コーヒーは『最近飲むようになってきた』だったんだろうし。
「羽ヶ崎君も鳥海もうまくトラップ仕掛けるよな」
「んー、そう?」
「鳥海がウルフだった時が怖いなあ」
で、1回戦が終わって、次の親は舞戸さん。
なんか楽しそうにお題を書いてる。
……やだなー。やだなー。舞戸さんが楽しそうって、社長が楽しそうなのの次くらいにはやだなー。
「おまたせー。配るよー」
そして舞戸さんが紙を配り始めた。
舞戸さんも、文字が汚すぎて読めない、みたいなことは無いから大丈夫。
……なんだけど。
「……えー……」
「また微妙な線を」
「これ、もう1つのお題が全然見当つかないんだけど……」
皆の反応も、なんか微妙。
……俺の手元の紙には、『恋人』って書いてあった。
なぁにこれぇ……。
「じゃ、ダイスは振らなくていいや。さっき親だった社長から時計回り、でいこう」
「分かりました。じゃあ俺からですね。……。……。……」
うっわあ……社長が熟考してる……。うっわあ……うっわあ……。
「……もしこれでウルフが情報を得てしまったら申し訳ない、ということで。『広義では人間の歴史の古くからあるものでもあり、狭義では新しいものでもある』」
……しかも、こういう小難しいかんじのが来たよ。
うん、どうせ俺、社長とか鳥海とか羽ヶ崎君とかが何かこういう小難しい事言っても意味わかんないだろうからいいや。無視無視。
で、次は刈谷。
「なんでしょうか。『癒し』とか……?」
あ、案外可愛い事言ってる。
次は角三君だけど、こっちもなんか熟考してるね。
「えー……あー……『もったことないからわかんない』」
それここに居る全員そうじゃない?そうだよね?え、そうだよね?
次。羽ヶ崎君。
「『要らない。欲しいと思ったことない』」
またまたぁ。
次は俺。
……えー、なんて言ったらいいんだろーなー……。
これ、単に何言っていいか分からないってのもあるけど、ウルフが誰か、浮き彫りになりそうでならないラインの情報にしなきゃいけないんだよね。
もう1つのお題が何か、全然分かんないしなー……。
さっきの『紅茶』と『コーヒー』みたいに、相方が想像つくお題じゃない分、難しい。
……うーん、じゃあ、無難に。
「『愛』!」
「うわあ」
「うわあ」
「うわー……」
……何その反応!いいじゃん!いいじゃん!別にいいじゃん!
それから鳥海。
「んー……未だにウルフが分からないんだけど、どうなってんだろうなー?……まいいか。『サイズも色々、種類も色々』ってかんじでど?」
サイズって……サイズ?サイズ……。サイズ。
うん。まあ……うん!はい、次!
次は加鳥。
「どうしようかなあ。えーと、じゃあねえ……『お金がかかる場合もある、そうじゃない場合もある』」
まあ、無難なところかー。
……ね。なんで女の人ってさあ、お金かかるんだろうね。食事とか服とか、なんでこだわる人はあんなにこだわるんだろうね。そうでなくても、あっちこっちでお金かかってそうだよね。
あんまりかからなそうなサンプルがそこで俺達を眺めてニヤニヤしてるから一概にはなんとも言えないけどさ。
次は鈴本。
「『パートナー、とする場合もある』」
おお。無難。
ということで、誰がウルフなのか全然分からないまま、2周目に突入。
これ、ウルフの人は自分がウルフだってもう気づいてるのかな?
順番が後ろの方だったら、1周目の途中でも気づいて、嘘を吐けるって可能性はあるよなー。
2周目。最初は社長。
「そうですね……『働かせる場合もある』。……これは失敗しましたか」
次、刈谷。
「うーん、そろそろ言う事が……あ、いとこの話ですけど、『カーペットとかコロコロする奴が欠かせない』で!」
次、角三君。
「……『夕方に街中でよく見る』」
次、羽ヶ崎君。
「『首輪』。……針生、何その顔」
いやあ……いや、羽ヶ崎君ってそういう趣味あったっけ?あったっけ?……ええー……?
それで、次は俺。
「『ここに居る人全員持ってないよね?というか、そういう話聞いたことない』!」
「まあ、したことないよねえ、こんな話」
え、俺が知らなかっただけなの?ねえ、そうなの?
なんか皆俺を見て『あー』みたいな顔してるんだけど何なの?ねえ、これ何なの?
次、鳥海。
「んー……じゃあ、羽ヶ崎君に続きまして!『籠にいれておく』!」
次、加鳥。
「そうだなあ、『上下関係』、とかかなあ?」
そして最後が鈴本。
「そうだな……針生には悪いが、『居た事あるぞ』」
「えっ」
思わずびっくりして声出たけど、まあ、うん、鈴本なら、そんなにおかしくない……いや、でもそういう話聞いたことなかったんだけど!
「ちなみにそれ、『居た』ってことは?」
「ああ、死んだ」
ええええええええ、何、何それ!鈴本にそんな重い過去があるとかほんとに聞いたことないんだけど!
えええええ……。
……なんか、おかしくない?
「じゃあ投票に入りまーす」
舞戸さんが投票の合図をしてきたけど、俺、なんか、すごく嫌な予感がする。
……いやだってさあ、皆の反応が明らかにおかしかったもん。
これさあ……。
「はい、いっせーの」
せ。
……うん。やっぱりね。やっぱりね!
全員の投票先が俺に集中してる!
「……で。針生のお題は何だったんだ?」
「え、『恋人』……」
言った瞬間、全員吹き出した。鳥海とか、遠慮なく大笑い。
「やっぱりなー!なんか変だと思いましたわー」
……案の定、俺がウルフだったっぽい。
えー……全然途中まで普通にやってたんだけど。なにこれ。
「ということで、今回のウルフは針生、お題は『恋人』でした!ちなみに、他の人のお題は『ペット』だった」
「あー……」
そっか。そっかそっか。
うん、そうだよね、そっかぁ……『ペット』なら違和感無いわ。
あー……。
「逆にすごいな、全く気付かなかった、っていうのも」
「気づきそうなもんじゃない?なんで気づかなかったの?」
鈴本と羽ヶ崎君が一周回ってすごい、みたいな顔してるけどさ!
「いや、だってさー、『癒し』とか『いたことないから分かんない』とか、まんまそうじゃん!」
「ということは、針生は羽ヶ崎さんの『首輪』が出てくるまで、自分がウルフだという事にも、周りのお題にも気づいていなかったんですか?」
……しょーがないじゃーん。
「だよねー。羽ヶ崎君の時の反応で俺、察しついたから『籠に入れておく』とか言ったもん」
「俺も半分揶揄い目的で『居た事があるが死んだ』と言ったな。……ああ、金魚の話だからな?それも、もう10年以上前の」
きんぎょ……。
……うん、ま、友達が暗い過去を背負っているとかじゃなくてよかったって思う事にする。思う事にした!
「まあ、これは人選がたまたま、ってかんじでしょ。社長あたりが『恋人』なんて引いてたら」
「俺なら、『ああ、羽ヶ崎さんはそういう嗜好の持ち主なんだな』と思ったでしょうね」
「やめてよ、冗談じゃない」
「まあ、どちらかといえばそれは俺の嗜好ですが」
「やめてよ!冗談だよね!?」
……まあ、社長の冗談はさて置き、俺以外の人がウルフ引いてたらもっとマシな結果になってた気がするなー。
ちょっと悔しい気もする。
「ま、くじ運も含めての『ワードウルフ』だから」
「そうだな。これ、ウルフを引いた人がコメントトップバッターだったらきついんじゃないか」
「……逆に、最初なら……なんか、コメントがぼんやりしてても、許されない?」
「難しいねえ、これ」
ま、難しいけど、そこが面白いよね。
その『くじ運』込みでの推理とかもできる訳だし。
なんだかんだ、ゲームバランスは良い気がするなー。
「じゃ、もう一戦やる?」
「次は俺が親か。……何にするかな」
ということで、立て続けにもう一戦することになった。
……次は何がお題になるかなー。
これ、出題者の性格とかも、推理要素になるよね。
結局、鈴本が『無限』と『無』をお題にしたら案外さっさとウルフが割れたし、その次に加鳥が『戦艦』と『戦車』にしたら鳥海が「……いいぞ!」って言っちゃうまで割れなかったし、その次に鳥海が『かき氷』と『アイスクリーム』を出したらウルフが勝っちゃった。
お題選びも楽しいね、これ。
「失礼しまーす、こちら、アイスウーロン茶2つとホットウーロン茶1つ、カルピスソーダとカルピスとメロンソーダとレモンスカッシュとミルクティーとアイスコーヒーです」
「あ、どうも」
……ただ、ね。
「失礼しましたー」
……ね。
「これさぁ、店員さん来るたびに不思議そうな顔されるのがさあ……」
机の上には、大量に散らばったメモ用紙。それらに書かれた謎の単語。
……うん。どう見ても不審。
カラオケボックス、貸し部屋としては(割高だけど)いいんだけどさ。
こういう時、なんか気まずいのが……ね。
「……何か歌う?」
「じゃあ、人狼やろうよ。それで、死んだ人が歌おう」
「オーケーそれでいこうか」
「それはそれで不審な気がするけど……」
……結局、まあ、うん。
気にしたら負けな気がするんだけどね。
『ワードウルフ』、とても面白いゲームなので是非皆さんお誘いあわせの上遊んでみてください。(布教)




