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実験室の西洋のお盆

時系列は1話以前、視点は本編に登場しない例の顧問です。


ハロウィンにかこつけて遊ぶだけの話です。




「お菓子か、悪戯か。実にシンプルかつ高慢・強欲な要求であると言えますが、それが許されるのは子供が大人に対して要求しているからであり、社会的にも経済的にも力の強い大人は力の弱い子供に対して施しを与えてやり、または悪戯を許容してやる、という明確な力の差に基づいた関係があるからです。であるからして、俺達の様に対等な間柄でこのような要求をするのであれば、それ相応の対価を支払うべきであると考え、このようになりました」

 ……なんのこっちゃ、ってかんじなんだけど、一応これ、社長に『お前ら何やってんの?』って聞いた結果なんだよね。




 10月31日。

 大き目なスーパーの中を歩けばなんとなくカボチャ色とか魔女色とかした飾りが目につき、学校では一部の生徒が行事にかこつけてお菓子のやり取りをする、そんな日ではある。

 いわゆる、ハロウィン、と、そういう事なんだけどさ。

 ……お菓子やいたずら、はたまた仮装なんかで楽しむ諸君はハロウィンが西洋でいう所のお盆だって事を分かってるのかね。

 いや、騒ぐことで悪霊を追っ払う、みたいな意味もあるみたいだから、ある意味これが正しいのかもしれないんだけどさ。ね。

 ……ってのはおいといて、例の如く、化学実験室では部員連中が机を囲んで、不敵な笑みを浮かべている真っ最中。

 こいつらの笑顔、なんかある意味悪霊より怖いんだよなー。

 こいつらにとってハロウィンなんて、理由付けて遊ぶための口実に過ぎないんだろう。

 仮装もしてないし、ハロウィンらしさ、化学実験室らしさから離れたものと言ったら……各自が一袋ずつ抱えている、某ママの味のキャンディ。

 お前らそんなにこれ好きなの?

 そして、各自の前には紙と鉛筆。

 ちなみに、社長の手元には電子辞書がある。

 ……そんな謎の状態だったからちょっと解説を求めたんだけど、それで返ってきたのが冒頭のあれだったわけだ。

「お菓子か悪戯か。その権利が元々俺達に与えられているなどと思いあがる程俺達は愚かではありません。俺達はそんな権利を無条件に与えられる程幼くは無く、かといって行使する事を諦めなければならない程老いてもいません。よって、俺達は俺達自身の手で勝ち取って権利を行使するのです」

 いつにも増して社長が饒舌なのは多分浮かれてるからだろうなー。

 こいつらゲームの類が大好きだし。

「では尋常に!」

「デュエッ!」

 いや、その掛け声は違うだろ。




 こいつらがやってるゲームは、『たほいや』と呼ばれるものらしい。

 ルールは簡単。

 親は辞書を引いて、ある1つの単語を選んで宣言。

 子はその単語の意味を考えて、『辞書っぽく』紙に書く。

 で、親は正解の意味を書く。

 ……それを親が集めて、順番ごちゃまぜにして全員分発表する。

 子は正解だと思うものに得点を賭ける。

 正解……つまり、親が書いたものに賭けたら、親からその分の得点を貰える。

 逆に、親以外が書いたものに賭けてしまうと、それを書いた人にその得点を持って行かれる。

 そして、誰も親の書いたものに賭けなかった場合、問答無用で親が場に出た全ての得点を総取りする、という。

 つまり、『親はできるだけ意味の分からなそうな単語を選ぶ』『子はできるだけ本物っぽい意味を考えて書く』っていう頭脳戦な訳。

 ……こいつら、頭脳戦はそこそこできる。

 なんて言っても、こういう遊びが好きな連中なわけだし。

 但し……語彙があるか、っていうと、こう……微妙なんだよね。




「最初の単語は『すてっぺん』です」

 社長がそう宣言すると、全員が首を傾げながらそれぞれ、紙に色々書いていく。

 ……。

「加鳥」

「わ、分かってます……何も言わないでください、アンフェアです」

 加鳥の紙には……およそ、ゲームの意味を理解してねえだろ!っていうかんじの文字列があった。

「すてっぺん」

「すてっぺんです」

 ……ネタ部門、とかいう投票枠があったら投票してくれる人がいるかもね。

 いや、フレーバーテキストの出来は凄くいいと思うよ。

 ただ、コレ、某カードに似せるゲームじゃなくて、辞書に似せるゲームだから……。




「では発表します。

 1番。『南アフリカで発現した風土病』。

 2番。『ゲルマン舞踊の様式の1つ』。

 3番。『てっぺんが素、転じてハゲのこと』。

 4番。『最初の事』。

 5番。『踊りの一番最後』。

 6番。『刀剣の一部分。一般に素晴らしいとされるもの。』

 7番。『ギリシャの都市』。

 8番。『ドイツ語で11の事。』

 9番。『水属性水族レベル3攻撃力1000守備力1000。集団で行動するペンギン。つぶらな瞳で見つめてくるが、人間を見つけるとおそってくる。気を付けろ!』

 ……以上です。では投票に移ります」


 うん、最後の奴を表情一つ変えずに読み切った社長は凄い。

「おい、最後のは何だ」

「とりあえず正解じゃない事は分かるよねー。あはははは」

 そして、それぞれが適当に賭けていく。

 ……あ、成程。某ママの味のキャンディはここでのチップな訳ね。

 ふつーにコインとか使わないのは『ハロウィンらしさ』なのかね。

 ちなみに、某ママの味のキャンディ、一袋につき33個入ってるのを分かりやすくするために各自3つ食べて、30点にしてあるらしい。持ち点は1人30点、と。

 ま、チップが多い方が一発逆転狙えていいかもね。

「正解は4番の『最初のこと』です。ちなみに1番から順番に、針生、刈谷、羽ヶ崎さん、俺、角三さん、鈴本、舞戸さん、鳥海、そして加鳥でした」

 成程―、『すてっぺん』は『素天辺』かー。

 ……まあ、『ペンギン』の類じゃない事は分かるけどさ。

 ちなみに、羽ヶ崎と鳥海と加鳥が正解してた。他の人は結構刈谷とか角三に入れてたね。

 ……傍から見てると案外これ、面白いね。




「次のお題は『はしうら』だよ」

 加鳥は悩みに悩んでこういうお題を出した。

 はしうら、ね。

 うーん、橋とか箸とか端とか、そういう単語が頭に出てきちゃうからなー、空想できちゃう分、正解が分かり辛いんでないかな。


「はい。じゃあいくよ。

 1番は『室町時代から江戸時代初期に存在した棒術の流派』。

 2番は『ソ連の8ビットコンピュータ』」

「おい」

「うん……これについては僕も言いたい事はあるけど、とりあえず先に行くよ。

 3番は『京菓子の一種』。

 4番は『紙の折り方』。

 5番は『橋の裏側のこと』。

 6番は『欄干の外側』。

 7番は『橋を歩く人の言葉を聞いて行う占い』。

 8番は『橋に使う木材の一部』。

 9番は『橋に立つ辻占のこと』。」


 なんか7番と9番が大体同じ意味になっちゃってるね。

 どっちかが正解なのか、それとも偶々なのかね。

「とりあえず、8ビットコンピュータは、無い」

「というか8ビットって何?8ビットって。なめてんの?」

「いや……あるかもしれないじゃないですか」

「ソ連の?」

 ……多分、『ソ連の8ビットコンピュータ』って、書いたの刈谷なんだろうなー……。

 そして6番、7番、9番あたりに票が大体入って、結果発表。

「1番は社長、2番は刈谷、3番は羽ヶ崎君、4番は針生、5番は鈴本で6番が鳥海で7番が僕、つまり正解で、8番が角三君で9番が舞戸さん」

「こんなのわかんないよー」

「分からなかったら親総取りを防ぐためにそれっぽいのに全員で分散させる、とかもいい手かもよ?」

「あー……そっか。誰か1人が大量に点とったらまずいか……」

 ……え、そうなん?

 なんとなーく、今の時点で点が多いのは鳥海、羽ヶ崎、舞戸、あたりかな?

 こうして見てると、羽ヶ崎は正解を当てる能力が高くて、鳥海はそれっぽい文をチョイスするセンスが良くて、舞戸は語彙がある、ってかんじなのかね。

 ……逆に、針生とか角三あたりは点を取れないみたいね。

 あと、意外だったのが社長。正解もしなけりゃ投票もされない。

 こいつの武器は知識だからなー、センスとか勘じゃない分、あんまり社長にとって良い土俵じゃないんだろうね。




 次は舞戸が親で、『めいえ』がお題だった。

 ……ひらがなにされると外国語なのか漢字なのか分かんないのがミソだよね。

「はい、じゃあ発表。

 1番は『福井県南西に位置する都市』。

 2番は『目前に家がある様、またはその様子』。

 3番は『中国南東に存在する川』。

 4番は『古代ギリシャの美術様式』。

 5番は『フランスの言語学者』。

 6番は『古語。女児の成長を祝う行事』。

 7番は『母方の実家』。

 8番は……『アニメ『鉄腕ア●ム』第197話に登場したキャラクター。主人公ア●ムの妹ウラ○のボーイフレンドとして登場。敵を倒すために自爆したため後の登場は無い。夕方7時に子供が自爆するシーンを放映した事が一時期物議を醸した』。

 ……ええと、で、9番は白紙の為無効で」


「8番誰だよ!これ、ウィキペやってるんじゃないからね!?」

 こういうのが辞書に載ってたら僕なら大笑いするね。間違いなく。

「とりあえず8番の人はこうじさんに謝った方がいい」

「え……こうじさんって誰」

「辞書」

 ああ、『広辞さん』、ね。うん。

「……とりあえず、2番は無さそうだな。『目前に家がある様』って、そのまますぎるだろう、幾らなんでも」

「んー、いや、分からんよ?案外そういう変な言葉ありそうでやだなー」

「ねー、『母方の実家』ってそれっぽくない?」

「そうだと思うなら投票すればいいんじゃないかなあ」

 ……ってやった結果、投票は6番の『女児の成長を祝う行事』と7番の『母方の実家』に大体入った。

 1票、加鳥が8番に入れてた。うん、ネタを提供した人へのお疲れ様点だな、こりゃ。

 そして、結果発表。

「ふっふっふ……諸君、甘いな。正解は5番の『フランスの言語学者』だーッ!」

 正解は『フランスの言語学者』だったっぽいね。

 つまり、6番と7番のできが良すぎた、って事なんだけど……なんと、これ、誰も5番に投票しなかったんだよね。

「誰も投票しなかったから私が得点総取りッ!ふはははははは!……あ、ちなみに1番が羽ヶ崎君で、2番が社長。3番が加鳥で4番が刈谷、5番が私で6番が針生、7番が鳥海で8番のウィキペ野郎は鈴本でした。あ、角三君が白紙」

 え、あのふざけたウィキペみたいなの、鈴本だったのか。なんか意外だなー。

「ネタ票入れてもらえるかと思ったんだが」

「入ったけど総取りされたね」

「私は君がこういうのを書いたって事に大いに称賛を贈りたいと思うよ。でも点はやらん」




 ……こんなかんじに連中はゲームを一周させたらしい。

 職員会議に出て帰ってきたらもう清算に入ってた。

 えーと……某キャンディの数は……鈴本が25、羽ヶ崎が37、社長が24、舞戸が44、角三が20、針生が18……18!?……で、加鳥が30、鳥海が45、刈谷が27、かー。

 ……案外みんな、思い切った賭け方はしなかったっぽいね。針生除く。

「さて、じゃあ楽しいお時間がやってまいりましたよー、っと。……じゃ、手始めに……針生でいっか。はい。トリック・オア・トリート」

 鳥海がキャンディ5つを机の真ん中に出した。

 ……。

「5つ……なら、うん、出す!はい!」

 そして、針生は自分の手持ちからキャンディ2つを鳥海に渡して、3つを場に出した。

 ……相手に渡すキャンディは半分、小数点以下切り下げ、ってとこかね。

「じゃ、次は俺ね。はい、角三君、トリック・オア・トリート!」

 次に、針生がキャンディ3つを机の真ん中に出した。

「……針生ならいっか。うん。出さない」

「えーと、じゃあ、黒歴史を1つ提供で!」

 ああ、成程。

 これ、『トリック・オア・トリート』された人は場に出されたキャンディと同じ数のキャンディを消費するか、悪戯を甘んじて受け入れるかを選択する訳だ。

 それで『俺達は俺達自身の手で勝ち取って権利を行使するのです』かー。

「あ、ちなみに場に出すキャンディは最低3つからです。上限はありません」

「……あれ、もしかして俺、14個以上キャンディ出されたら回避不可?」

「そだね。ということで皆!針生の装甲を削るのだ!」

「やめて!お手柔らかにお願い!」

 ……結構えぐいルールだった。


 ……眺めてたら、すぐに残弾が無くなった針生は恰好の標的にされ、持ってるキャンディを全て防御に費やした角三も大体似たような結果になり、鳥海は大量に弾があるにもかかわらず防御を捨てて攻撃に回り、逆に羽ヶ崎はそのキャンディすべてを防御で使い切った。

 見てたら大体、針生、鳥海、舞戸らへんが攻撃優先型で、角三、加鳥、刈谷あたりは中間型、鈴本、羽ヶ崎は完全防御型だった。

 ……ここで巧かったのは社長だったなー。


「舞戸さん、トリック・オア・トリートです」

 キャンディ3つで社長が舞戸に持ち掛けたんだよね。

 いや、社長が攻撃に出る、ってのも意外だったし、舞戸がその対象になるのも意外だったね。

「……社長かー……うん。よし。受けよう。悪戯したまえ」

 で、舞戸はこれを防御しなかった訳なんだけどね。

「舞戸さんの鞄に入っているカチューシャ、俺に貸してください。一番かわいい奴でお願いします」

 ……社長は、こういう申し出をしたわけだ。

「……うん、あー、くそ、盾かー。私の最大の武器を盾にするのかー……うん、いいや。はい」

 で、舞戸は鞄から……なんか、うさ耳のカチューシャ、出した。

 白い奴。バニーガールが頭にくっつけてそうな奴。でもフェルトか何かでできてるらしく、ふかふかしてるかんじの。

 後で聞いたら手作りだったらしいね。こいつのこの手先の器用さと熱意と執念は称賛に値するんでないかな、と素直に思うよ。

「ありがとうございます。……さて。これで俺は次から悪戯にこれを使える訳です。では舞戸さん、どうぞ」

 ね。

 つまり、社長はうさ耳カチューシャを手に入れることで、『次から悪戯を受ける奴はこれを頭に装着する羽目になるぞ』っつう脅しにした、っていう事。

 これで社長は尽く相手のキャンディを削っていった訳だ。

 やー、頭脳犯。




 結局、針生は猫耳を付けられ、角三はでかいリボンを付けられ、刈谷はうさ耳を付けられた。

 ついでに、殆ど全員が黒歴史を提供する羽目になり、何人かは初恋の思い出を暴露する羽目になり、何人かは実験室の真ん中で歌ったり踊ったりする羽目になり、何人かは僕の肩を叩きに来た。

 ……うん。楽しそうね。うん。あ、もうちょっと左。あー、そこそこ。


「ところでお前ら、この大量のキャンディはどーすんの」

「実験室に置いておいて今後の兵糧にします」

「せんせー、この引き出し食料庫にしていいですか?」

「あ、一回引き出しの中拭こうか。ちょっと待ってね」

 ……ちなみに、270個もの某ママの味キャンディは1か月もしないうちに消えた。


皆さんも是非『たほいや』やりましょう。

競技人口が増えると嬉しいです。

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