お菓子作るよっ!
時系列は158話と159話の間です。
視点は明石です。
ひたすらお菓子ばっかり出てきます。
甘いものが苦手、かつ想像力豊かな方は胸焼けにご注意ください。
今日のお昼はスイーツ三昧っ!
机の上にはケーキがいっぱい!
宝石みたいなフルーツが乗ったタルト、林檎みたいな奴にパリッとしたカラメルが掛かったケーキ、瑞々しい桃がたっぷり詰まったパイ、ラムレーズンと木の実のバターケーキ……。
プリンとかムースとか、マフィンとかクッキーとかマカロンとかもいっぱい!
テーブルを囲む女子達から歓声が上がる。うん。早く食べたい!
「それではお楽しみくださいませ、お嬢様」
良い香りのするお茶を人数分注ぎ終わったメイドさん……舞戸がにっこり笑う。
わーいおいしそうおいしそうっ!
どれから食べようかなー!
きっかけはねっ、舞戸見て「甘いもの食べたい」って思わず言った事。
舞戸ってお菓子作るの上手でね、よく作って学校に持ってきてくれてたからさっ、思わず、つい。
……でもさっ、そしたらさ、「じゃあ沢山甘いもの持ってこようか?」って言ってくれてね?
それで、これ!まさかこんなにいっぱい持ってきてくれるとは思わなかったんだよっ!
しかもメイドさんの給仕つき!最高だよね!
「……女子の甘いもの好きっつうのは、狂気じみてるな」
片っ端から食べてたら、遠くの方で見てた紫藤の声が聞こえたけど、そこまで?ねえ、そこまで?
狂ってるレベル?そんなに狂ってるレベル?
「そんなに食って胸焼けしないのか……」
「胸焼け?しないよっ!全部味がちゃんと違うし、甘さも控えめで美味しいもん。それに女子じゃないのもいるし!」
私達の隣のテーブルでお菓子をつついてる化学部の……何てったっけ?針生と加鳥だっけ?
うん、その2人を見て紫藤がげんなりした顔した。
「化学部も狂ってる……」
甘い物三昧してるのはその2人だけで、他の人はミートボール入りのトマトソースのきし麺みたいなやつ食べてるけど、それでもお菓子食べてない訳じゃ無いし。
「紫藤も甘いもの、嫌いじゃないじゃん、食べればいいじゃん!」
「嫌いじゃないけどな?あのな、限度ってもんがあるんだぞ……」
紫藤もやっぱりトマトソースのきし麺食べてたけど、食べ終わっちゃったみたい。
「紫藤ちん、じゃあこれとかど?ど?」
森ちゃんがオレンジのタルトを一切れ紫藤に手渡す。
うん、それ美味しかった!クリームが甘酸っぱくて、オレンジの香りがフワッ、てして。
上に乗っかってるオレンジは瑞々しくって。
ココア味っぽい甘さ控えめのタルト生地がサクサクでまた美味しくって。
うん。全体的に酸味と苦みが利いてるから、美味しくいけると思うよっ!
タルトのお皿と一緒にフォークも押し付けられたら流石に紫藤も食べた。
「……あ、美味い」
「でしょっ!でしょっ!」
紫藤が食べ始めたら他の男子も寄ってきた。
「ちょっと分けてよ」
夏木がイチゴのムースを1つ持ってった。
うん!それも美味しいよっ!割とあっさりめなムースにイチゴソースがアクセントになって美味しいよ!ただし、この世界のイチゴは元がピンクだからムースになると殆ど白だよ!イチゴっぽくないよね!
「えー、じゃあ俺ももらっていい?」
萩野が持ってったのはマンゴープリン。あ、それはまだ食べてないっ!
「お嬢様、お茶のおかわりは?」
気づいたらポットを持った舞戸が隣で嬉しそうににこにこにまにましてた。
うん、舞戸ってさぁ、作ったものを食べてもらうのが大好きな子なんだよねっ。なんだか、そういうとこ、うちのおばあちゃんに似てる……って言ったら怒られちゃうかな?
「いるっ!」
……うーん、喜ばれる気がするなー。舞戸だしっ!
「わー、美味しかった―」
「完食しやがった……!」
慄く紫藤も、あのオレンジのタルトの他にもプリンとかブドウのレアチーズケーキとか食べてたし、人の事言えないと思うなっ!
……んにゃ、訂正。やっぱり、紫藤とは比べ物にならないぐらいいっぱい食べた。
うん、いっぱい食べた。紫藤が慄くのもしょうがないかも。
でもしょうがないじゃん、美味しいお菓子がいっぱいあったら全種類食べてみたくなるのが乙女心ってものだよっ!
「舞戸さーん、美味しかったよ」
「ごちそうさまー」
「あっちも完食……だ……と……?」
……うん。あっちはなー、男子8人で、その内の2人が大方食べてたはずなのに完食してるしなー。分量が違ったにしても凄いと思うよっ!
あっちの方が恐るべし、ってかんじだと思うなっ!
「美味しかったなぁ、美味しかったなぁ……ねえ、舞戸ぉ」
片付けをメイドさん人形たちと進める舞戸に聞いてみた。
「どうやってあんなにいっぱい一人で作ったの?」
「ん?あー、あれはね、作り貯めておいて、空き教室をお菓子倉庫にすることで保管して、それを出すっていう」
……お菓子倉庫。
「見る?」
「見るーっ!」
舞戸がポケットから宝石を1個出して放る。
と。……わー!すごい!
「この棚、全部プリン!」
「うん。プリンを燃料に動く先輩が1人居るからさ」
他にも今日食べたケーキとかが、結構いっぱい並んでた!この教室欲しい!ここに住みたい!
「今日はこの後あちこち回ってお菓子のおすそ分けをしてくる予定だよ」
そっかぁ。
……うん、この世界に来てさー、私達最初は、お肉そのまま直火焼き、塩無し!とかで食べるだけでさっ。そういう人、いっぱいいると思うし、きっと喜ぶと思うなっ!
「いいなあ、舞戸は色々作れて」
「慣れとスキルだと思うなあ。……なんなら一緒に何か作る?」
「え、無理。だって私器用じゃないもん。知ってるでしょ?やってみたいけどさ……」
私、プリン作ってたらそぼろご飯ができてた人だからさ……。
「そうか。じゃあパンナコッタね」
……え?
「ソースは何がいいかなあ……明石、イチゴとオレンジとブドウだったらどれがいい?」
「え、イチゴ……え?」
「うん。今から作れば夜ご飯に間に合うね。よしじゃあ始めよう。材料取ってくるから待っててね!」
……なんか、珍しいなぁ。舞戸がこんなに積極的なの……。
「はい。じゃあ早速始めます」
他の人はお菓子のデリバリーに行ったり、順番にガ○ダムに乗ったり、全力でドッジボールしたりしてるよっ。
一回ボールが教室の窓に当たって凄い音した……。でも教室には傷一つついてないからさ、やっぱりこの教室って無敵なんだと思うよっ!
「材料は牛乳と生クリームと砂糖と水、それからお好みの果物とレモン汁。以上」
机の上には材料がボウルとか瓶とかに入ってる。
「この世界ではアーギスで乳製品が安いよ。イチゴは4F南に自生してたのを増やしました。レモンは2F南ね。砂糖とゼラチンは自作」
……ゼラチンも?
「ゼラチンって、どーやって作るのさ」
「手羽先煮るじゃん」
「うん」
美味しいよねえ、あれ。生姜とお醤油で煮込んで、ほろっとお肉が崩れて……。
「味付けずに煮て、煮汁ほっといて固めて、煮凝りにするじゃん」
「うんうん」
そこも分かるよー。手羽先の煮物、ほっとくとぷるぷるになって煮汁も美味しいんだあ……。
あの固まった煮汁を温かいご飯に乗っけてさー、ちょっととろけかけた奴をご飯と一緒に食べると庶民的おいしさだよねっ!
「で、それを『お掃除』するじゃん」
……うん?うん。
「それを千切りにしておいて、メイドさん人形達の力を借りてだな、『プチファイア』と『プチウィンド』の合わせ技の温風乾燥を行ってだな……乾かして、後は粉砕するだけ」
……うん!『お掃除』が入った所から分からなくなったけど分かったよ!
「じゃあ最初にゼラチンをふやかしておこうね。小さい器に水を大匙2杯ぐらい入れて、そこにゼラチンを入れてね」
「おっけー」
うん、ゼラチンに水入れるとダマになっちゃう、っていうのは知ってるよ!過去にやってるからさっ!明石千尋は学習する生き物なのだっ!
「ゼラチンふやかす間に、鍋に生クリームと牛乳と砂糖を入れて温めるよ」
私が鍋に全部入れてる間に、舞戸が火を点けて待っててくれた。
わー、舞戸の指の先から火が出てるっ!まさにガスだねっ!あ、火魔法かっ!へへへへ。
「火にかけたらぐりぐり混ぜながら砂糖を溶かしてね。混ぜてると牛乳が膜になりにくいよ」
「あ、あの牛乳の膜って美味しいよねえ」
牛乳をレンジでチンしてさ、一番上にできてる膜をむにむに食べるのが好きなんだよー。
「……美味しいか?あれ……まあ、湯葉みたいなもんか……うーん、いやいや……うーん」
今度やってみよ、とか舞戸が言ってる。
うん、その時はお相伴したいなー。牛乳の膜の煮物とか、美味しそうじゃない?湯葉よりこってり濃厚味でさっ。
「あ、なんかふつふつしてきたけどいいの?」
「じゃあもう火から上げようか。絶対に沸騰させちゃいけないんだ」
鍋を鍋敷きの上に乗せるよっ!あ、舞戸がハタキで火、消してるー。……舞戸のハタキはこの世界で1、2を争う不思議さだと思うよっ!
「そしたら、まだ温かいうちにふやかしたゼラチンを入れてだな」
「入れたよー」
「それを混ぜて溶かそう。ゼラチンは絶対に鍋を火から下ろしてから入れてね。ゼラチン沸騰させると固まらなくなるから」
そういえば、随分前に家庭科の調理実習でオレンジゼリー作った時にそういう事、先生に言われたかも。
……うん、その時だよっ、ゼラチンに水入れて怒られたのは……。
「混ぜるよー」
ぐりぐりやってたら、水にふやけてぶよぶよになってたゼラチンがだんだんほぐれて無くなってく。
「溶けたよー」
「よし。じゃあ器に流そう」
舞戸がガラスの器をいっぱい持ってきてくれて、そこにお玉で液を流していく。
「ちなみにこのガラス、ククルツ産の魔法石硝子です。冷えるよ」
あ、ほんとだ。触ると冷たーい!面白―い!
なんていうか、異世界っぽくていいよねっ!
「はい。じゃあこれはグラスが冷やしてくれるからそのままほっとこうね。その間にイチゴソースを作ろう。イチゴを潰してね。はい、フォーク」
「よしきたー!」
不器用だけどこういうのは得意だよっ!
隣で舞戸が飾り用のイチゴを幾つか切ってるけど、ああいうのは舞戸に任せるよ!
「潰れたら裏ごしよろしく」
「よしきたー!」
濾し器にイチゴ汁を通して、残った部分はフォークで潰し直して落とすよ!
「できたら鍋に入れて、砂糖ちょっと足して、レモン汁入れて、煮る。この時のお鍋はステンレスかホーロー推奨。アルミとか鉄のお鍋で酸味の強いもの煮ると色が悪くなるからね」
「なんでー?」
「酸で反応するから。鍋も傷めるし。同様の理由で果物ナイフは鋼の包丁じゃなくてステンレスのナイフがいいよ。これは包丁痛めるからだけども」
へー、そっかあ。ウチの包丁は全部セラミックだから関係ないねっ!
「混ぜながら煮て、灰汁が出てきたら取ってね」
お玉でなんかふわふわした泡みたいなのを掬って器に入れる。
「……ジャムとか煮てる間に出て来る灰汁ってさあ、美味しいんだよね……」
……わかる気がする!
「ちょっと煮たら器にとって冷やしておこう。後は食べる直前にたっぷりソースを掛けてイチゴ飾れば終わり。……ね?簡単でしょう?」
ね?簡単でしょう?でほんとに簡単なのも珍しいなー。
うん、これなら私でも普通に作れるよっ!
「今晩は演劇部と化学部合同晩御飯でいいかなあ」
「いいとおも」
……その時、またボールが凄い音たてて窓にぶつかって、凄い勢いで跳ね返っていった。
「……私、暫く部屋から出られんなあ……」
うん、あのボールが当たったら舞戸なんて木端ミジンコになっちゃうよっ!私が抱き付いただけでも骨折れるんだしさっ!
「じゃあ、私はドッジボール参加してくるねっ!勇姿を見守っていてくれたまえっ!」
「いってら……あ、ちょっと待ちなさい。明石、晩御飯何食べたい?」
ドアから出ようとした瞬間、舞戸が聞いてきた。
食べたいもの……うーんと。
「ハンバーグっ!」
「よしきた」
よし!じゃあドッジボールしながら晩御飯を楽しみにすることにするよっ!
「あ」
投げたボールが明後日の方向に飛んでって、思いっきり教室の窓に当たった。
……中で舞戸が『ビクッ!』ってしたのが見えた。……ごめぇん……。
晩御飯もたらふく食べて(ハンバーグおかわりコールしたらすぐ出てきた!先読みされてるっ!)デザートの準備を手伝うよっ!
「ソース掛けて」
「かけかけ」
「イチゴ乗せて」
「のせのせ」
完成!
うん、イチゴが白っぽくてピンクいから、赤と白のコントラスト、とはいかないけれど、これはこれで儚げな色合いで綺麗だよねっ!
私と舞戸で作ったんだよー、って言ったら演劇部の仲間達には身構えられたけど、食べてみたら美味しいって好評だったよっ!
うん、ぷるんつるんで濃厚味で、イチゴの酸味がマッチして美味しい!
へへへへへへ、材料は舞戸にいっぱい分けてもらったから、元の世界に帰る前にもっかい作ろ!
で、ボウルいっぱいに作ってでっかいの一人で抱えて食べてみたい!なんならバケツに作ってみたい!バケツパンナコッタ!
うーん、楽しみっ!
バケツでプリンやパンナコッタを作る時にはちゃんと食品にも使用できるバケツを選んで使用してください。
また、自信の無い方は1Lのタライプリンから始める事をお勧めします。




