ガラス細工の箱庭に星
時間軸は150話らへんです(適当)
視点はグライダです。
複雑怪奇な世界観を持つ2名が会話しています。ご注意ください。
「グライダの世界は凄いよね。まっ平らな鏡の大地、コバルトガラスの空、ガラス細工の月、って、統一感も完成度も凄く高い」
ある夜、舞戸が月を見てそんなことを言い出した。
「グライダの世界、私、好きだよ」
『そ。ありがと。自分でも気に入ってるわ』
自分で気に入ってる物を好きだ、って人に言ってもらえるって、幸せな事よね。
「何より、あそこにグライダが居て完成するところが一番凄いと思う」
……あら。
そう。
……そう、ねえ。
そうなのかも。アタシ自身としては、特にそんなつもりも無く作ったつもり。
そこにアタシが居るかなんて考えずに、只、アタシの好きな物で構成された世界にしたかっただけで。
『……舞戸の世界はどんなところ?』
「私の?……うーん、アレが私の世界、なのかなー……ええと、それっぽいものは見たことあるんだけど、私の世界か、って言われると微妙っていうか」
舞戸はそこでちょっと考えてから、こう言い出した。
「歯車。でっかい歯車が回ってるの。華奢な金色の綺麗な奴と、銀色のカッコいい奴。で、真ん中に塔があって、そこを挟んで歯車の反対側はあんまり綺麗じゃない、っていうか、なんか、ごちゃごちゃしてるし汚いし、あんまり好きじゃない」
……もしかして人間って、自分の好きなように自分の世界を創れないのかしら?
『それって、自分で動かせたりする?』
「いや全く」
……変ねえ。
『アタシはねえ、こうしよう、って思ったらそういう風になるわよ?』
「いいなあ。私達は……あー……もしかしたら、うん。この世界……自分の世界の外の世界、でさ、結構自由に動ける、と思うんだ」
そうねえ。『スキル』っていうのが舞戸達にはあるのよね。
相当自由だと思うわよお?だって魔法とかみたいに法則があって成り立ってるものでも無いんだもの。訳分かんないわよ、アレ。
「その代わりに自分の世界をどうこうできない……っていうか、自分の世界をどうこうできないから、外側でどうこうできるのかもしれないし」
……なんか難しいこと言ってるわね、こいつ。
『ま、とりあえずアンタが自分の世界を自由にできないのは分かったわ。でもアンタの世界なんだから、アンタ自身が創ったものに変わりはないでしょう?』
「そうなんだろうけどなー……えっとさ、人間ってハードかソフトか、っていう話があってね?」
……は?
「ええと、ハードウェアかソフトウェアか、っていう……あー、うん、えっとゴメン。分かんないよね」
『全っ然分かんないわ』
舞戸達の世界ではこういう訳分かんない言葉がポンポン出て来る訳?大変ねえ。良く分かんないけど。
「ええと、簡単に言っちゃうと……人間は先天的に決まるか、後天的に決まるか、みたいな」
……意味わかんないわ。人間が決まる、って何よ?
……あ、もしかして、『どういう人間かが決まる』っていう意味?
「例えばだけど、私たちの体は生まれついて性能が決まってる。足の速さは先天的に決まってる部分が結構あるし、あと、記憶力とか集中力とかも先天的に決まってる部分があるみたい。そういう状態で、本当に私たち人間は後天的要因で決まるものなのか、っていう、そういう話をだな、社長あたりとしたことがあるんだ」
舞戸達って、そういう話、割と好きみたいね。
ま、気持ちは分かるわよ?アタシもそういうの考えるの、割と好きな方だし?
「人間を作るのは記憶であり、後天的学習である、って言う人も居るけれど、そこには必ず先天的要因が含まれるはずなんだよね。それこそ、自分達じゃどうしようも無いような部分が沢山あって」
……そうね。アタシも、魔力が沢山生まれつきあったら、絶対にこんな性格してなかったと思うわ。
だって、そしたら経験してきたもの全てが違っただろうし。
「……だから、『自分』っていうものはさ、こう、どうしようも無い部分を含む、っていう感覚なんだけど、その感覚を持ってる自分も『自分』なわけでさあ……自分の世界は自分で作れない、って、私は思うんだ」
『アタシはねえ、どうにもできない『アタシ』と、それを感じてるアタシは別だと思うわ。少なくとも、アタシの世界では、ね』
少なくとも、アタシにとって、アタシの世界っていうのはそういうもの。
どうにもできない部分もひっくるめた『アタシ』からアタシを分離させて。
……ま、つまり、理想、よね。
理想。そ。アタシの世界ってつまり、理想のアタシが創った世界だから。
だから、舞戸が言う所の『アタシが居て完成される』のかしら。それがアタシの理想なのかしらね。
……嫌ね。まったく嫌になるわ。
「そっかあ……うん、そうやったら綺麗な世界が自由に作れる、のかも」
『ま、所詮自己満足って言われたらそこまでなんだけど、ね』
そういう世界を自分の内側に作るって、馬鹿みたいって言われればそれまでよね。
「私は素敵だと思うけどなあ。そういう世界が1つ2つ、自分の内側にあってもいいと思う」
舞戸はそう言ってちょっと嬉しそうににこにこしてた。
「少なくとも、私はグライダの世界、好きだよ」
……本当に、幸せな事よね。
『舞戸の世界は……どうしようもないアンタ自身の世界、なのよね、きっと』
「そうだね」
その世界の半分があんまり好きじゃない、って……まあ、妥当っちゃ妥当か。
アタシも舞戸と同じようにアタシの世界作ってたら多分、半分どころか9割方は嫌いになりそうだわ。
……そー考えると、舞戸の言う通りかもね。自己満足だっていいじゃない、って気になってくるわ。
『アンタがアタシの世界みたいにさ、自由に世界を自分の中に作るとしたら、どんな世界にする?』
だからちょっと聞いてみたのよ。舞戸にもこの自己満足、体験してほしくて。
「そうだなー、私はねー……」
……だったんだけど、舞戸、延々と考えこんじゃって。時々首捻ったりしながら、ずーっと考えてるみたいなのに、答えが出ないみたいなのよね。
「……なんか、思いつかない、っていうか……うーん、設置したいものが全然思い当たらない、っていうか、設置したらバラバラになるの分かるからさー……グライダみたいに巧くいかないなあ」
……そうね。舞戸はまだそういうのがはっきりしないのかしら。
それとも、ずっとはっきりしないままなのかもね。
人間っていう生き物がそういうものなのか、それとも単純に舞戸とアタシの違いなのかは分からないけれど。
「あ、流れ星」
ぼんやり空を見てた舞戸が急にそう言って。
『流れ星、ねえ。いい思い出はあんまり無いわ』
アタシの体が半分砕けた時、アタシの世界に降ってきたのが流れ星だったからね。
「うん、まあ、自分に向かって降ってくる流れ星って嫌だよね。それ、流れ星って言わずに隕石って言うと思う」
……ま、眺めてる分には好きよ。流れ星。
『他人事ならいいんだけどね』
「そんなもんだよ」
……砕かれたのがアタシの体じゃなかったらきっと、優秀な刺突の技を持った戦士を称賛した……かしらね。どうかしら。嫉妬してたかも。アタシ、あの時は本当に弱くて、強いものに憧れて憧れて嫉妬してたから、ね。
……そうね。アタシ、そういう嫉妬とかを切り離して、全部他人事だと思って外側から『綺麗ねー』ってやってたいのかもしれないわね。
『遠くの方に流れ星、流してみようかしら』
アタシの世界に、なんて言わなかったのに、舞戸は。
「銀細工?ガラス細工?なんならコバルトガラスに銀粉で幾筋かラインが入っても綺麗かもね。遠くに流れるものっぽくならない?」
『それいいわね。如何にも他人事、ってかんじで』
ちゃんと分かってくれるから好きよ。




