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行動原理は『折角なので』

時間軸は158話と159話の間です。

視点は柘植です。

一時的にTSです。殆ど無意味ですが苦手な方はお気を付けください。

「折角の異世界なんだし、できるなら一回ぐらい男になってみたい」

舞戸さんがそんなことを言い出したのがきっかけでした。


「できますよ」

そう言った時の舞戸さん他の顔が中々ユニークでした。

「材料が必要ですが」

『毒物辞典』の中にそういう薬があります。

その名も『性転換薬』。そのままですね。作り方はそこまで複雑でもないので、材料が揃えば簡単に作れるはずです。

「……え、まじで?」

「マジです。舞戸さんが男になるだけじゃなく、俺達が女になることも可能です」

そう言った時の皆さんの顔もユニークでした。

「……一回、うん、やってみたい、かも……んー、いや、えー……」

「それ、美少女になれるならいいけどさー……」

「ま、まあ、一回位やってみてもいいんじゃない?折角だし」

という事で、『折角なので』が行動理念となっている俺達は、異世界旅行中、材料を探しながら旅行することになりました。




「あ、あの木の実、そうじゃない?」

「そうですね」

『鑑定』してみたら『みたらし林檎』だそうです。確かに材料の1つですね。

「俺取ってくるよー」

針生が崖の上に生えている樹の枝に飛び乗って、実をいくつか収穫して戻ってきました。

何度もこういう動きを見ていますが、速いですね。

正確さには欠けますが、その分針生はフォローが巧いので何とでもなっていますし。

忍者は伊達じゃない、という事なんでしょうかね。

「もしかしてこれで材料、揃った?」

「揃いました。『餅苔』、『白玉魚の鰭』、『饂飩蜻蛉の羽』……」

「改めて聞くと炭水化物っぽい材料ばっかりだな……」

確かに材料が全て揃った事が確認できました。

「早速作りますか」

「どのぐらい時間かかりそう?」

舞戸さんに聞かれて『毒物辞典』で工程を確認します。

「90分程度ですかね」

「そっか。じゃあ私、その間晩御飯作るね。服用は晩御飯の後でいいかな?いいかな?」

何やら舞戸さんの目が輝いていますね。

まあ、自分が逆の性別だったら、というのは人間誰しも一度は考えたことがあるでしょうから、気になるのも当然かもしれません。

「それじゃ、晩飯まで解散でいいか?」

鈴本が確認をとって、各自解散しました。

さて、早速作り始めましょう。




「はいっ、今日のご飯は鶏つみれのスープと茸ご飯のオムライスとお野菜サラダ、デザートにフルーツゼリーですよっと」

いつも通り美味しく夕食を摂った後で、できたばかりの薬を机の上に出しました。

「おー」

「これがかー」

「カオスな色してるねー」

絶えず色が変わる不思議な液体を一頻り眺めてから、遂に服用、という事になりました。

「注意点を先に言っておきます。まず、一口飲むと大体効果が3時間です。効果中にもう一度飲むと相殺されて元に戻ります。それから、あまり大量に飲むと効果が切れても戻らない可能性があるので注意してください」

他に注意点は特に無い事を反芻して確かめながら説明を終えました。

「じゃ、じゃんけんでいい?」

「いいんじゃないの」

そして、じゃんけんです。

……勿論、飲む順番を決めるじゃんけんです。

「最初は」

「ママの味!」

「ジャッカル!」

「約束の日」

「あ、ちょっと待って、十三奥義は無し」

……結局数度、普通のじゃんけんを行って決めました。


ショットグラスサイズを舞戸さんが木から『お掃除』で人数分作って、そこに1人分ずつ、試しに、という事で5ml程度の薬を注ぎます。

「じゃあトップバッター角三君。どうぞ」

「……えっと、じゃあ、いきます」

角三さんがグラスを1つとって、中身を呷りました。

「あ、ちょ……痛い」

そしてみしみしというか、ぎしぎしというべきか、そういう音と角三さんの呻く声が聞こえ、そして1分程度で変化が終わりました。

「……えっと……あ」

角三さん自身が一番最初に気付いたのは声の変化だったんでしょう。少し高くなった声に戸惑っているらしいです。

「うわー、女の子になってるーうわーうわー」

針生が角三さんの周りを回ってしげしげ眺めるのも無理はありませんね。

成程、確かにみしみしぎしぎしという音がしただけの変化はあります。

「……力が出ない、かも」

言いながら角三さんは食卓にあった白い林檎を握りつぶしました。

ええ、潰れるまでの時間が1秒ほど長くなっています。力が出ないのは本当なんでしょう。

「ねえ、痛いの?これ、痛いの?」

「うん……結構痛い」

舞戸さんが不安そうにしていますが、体の造りが変わるというのはそう言う事だと思います。

「じゃ、気を取り直して次、羽ヶ崎君」

針生がショットグラスを羽ヶ崎さんに押し付けると、少ししてから観念したように羽ヶ崎さんもグラスを空けました。

「……ちょっと、痛い、とか、そういう、レベルじゃ、ないんじゃないの、っ!?」

羽ヶ崎さんは後衛の分、痛みに対する耐性が付いていませんからね。

そしてまた1分程度で変化が終わりました。

「うわあ」

「あー」

「うん、まあ、そんな気はしてたんだよね」

角三さんと比べるとその差が良く分かります。

「まな板だ」

「つるぺただ」

「るっさい!何!?なんか文句あんの!?」

元々細いからなんでしょうが、まあ、そういう事です。

「羽ヶ崎君は女の子になっても背が高いねえ」

舞戸さんが身長を比べている所を見て推察するに、160㎝後半に差し掛かる位はありそうですね。

まあ、この辺りは元々の体が反映されるんでしょう。


「じゃあいきまーす」

相当痛いからね、と羽ヶ崎さんに念を押されたのに気にせず舞戸さんもグラスを空けました。

「……うん。成程―、割と痛いかも。あれだ、球技大会の翌日の筋肉痛が5回分ぐらい」

「はあああ!?お前、どんだけ痛み耐性ついてるの!?」

羽ヶ崎さんの反応を見る限り、舞戸さんの『痛感耐性』は相当なもののようですね。

……まあ、全身を酸で溶かされる、というのはそういう事なんでしょう。

「うわあ、服がきつい」

そして変化が終わったのですが。

「わー、イケメンだー」

多少女性的な部分が顔に残っていることもあり、中々に美形に変化していますね。

海外では男性的、日本では女性的だと美形、とされるようですから、そういう事なのかもしれません。

「ヤバいね。角三君と羽ヶ崎君の服のぶかぶか具合を見て察しておくべきだったかな」

メイド服は流石に着替えていたのですが、ワンピースがきつそうになっていますね。

「ちょっと着替えて来るねー……って、あ、別に別室行かなくていいのか。今男だし」

「そういう問題じゃない。別室行け」

鈴本につまみ出されたみたいです。




それから順番に飲んでいったのですが。

「見よ、このおっぱい格差」

「鳥海は羽ヶ崎君の隣に立たないであげた方がいいんじゃないかなあ」

「ねえ、だからさっきから何なの!?いいでしょ別に!」

舞戸さん以外全員女になったんですが、体型に差が大きく出ました。

「こうして見ると、やっぱり鈴本って美形なんですね」

「なんだ、やめろ。じろじろ見るな」

一番できがいいのは鈴本かもしれません。女性的な美形では無いんですが、正統派では無い風変わりな美人、といった具合にうまく変化していますね。

「……女って、肩、こらないの?」

「こる」

角三さんは胸を机に乗せて休んでいます。重いんだそうです。

「羽ヶ崎君と針生以外は結構皆肩こりそうだよね」

「るっさい」

「俺、流石に羽ヶ崎君程じゃないしぃ」

俺は別に女の胸のサイズに興味はありませんから良く分からない感覚なんですが、やっぱり大きい方がいいんですかね。

因みに俺は舞戸さんに測ってもらったら、「D70」でした。




そして一頻り力比べをしたり、柔軟性が上がったことに驚いたり揉んだりしてから、就寝することになりました。

効果はもう切れています。効果時間5mlで1時間、といった所でしょうかね。ノートに記録しておきましょう。

「で、皆もう一回飲むよね!」

「んー、まあ、気になる所ではあるよね」

「な、なんか罪悪感ありませんか?」

……俺は興味ないんで普通に寝ます。




「やあやあおはよう諸君」

朝起きたら、朝食だけでなく服が、用意されていました。

「折角女の子になるなら服も着てみたいとは思わんかね」

……舞戸さんは、今や人を見ただけで正確に身長や体型を理解することができるんだそうです。

だからでしょうね。女性物の服が揃っていました。

「君ら、この世界の美少女補正で美少女になればいいと思うよ」

「あ、そっか。俺ら、この世界だとイケメンなんだっけ」

女に変化しても美形補正が残るのかは疑問ですが。

「じゃあ折角だし、今日は町巡りにしよっか」

「また屋台巡りしたいなあ」

繰り返すようですが、今の俺達の行動理念は『折角なので』です。




……成程。

全員薬を飲んで着替えてから(色々と手間取りました。ええ、本当に)アーギスの屋台巡りに出かけた訳ですが。

向けられる視線が違いますね。

今までも一応美形補正でイケメン扱いになっていたことは確かです。

しかし、イケメンと美少女では、明らかに向けられる視線の質が違う。

性差、という奴なんでしょうか。舞戸さんはいつもこういった欲望交じりの視線に晒されているんでしょうかね。

……いや、無いですね。

大抵周りに俺らがいますし。

「ヤバい。さっきから私に向けられる視線がヤバい。嫉妬だ。凄く嫉妬されてる。私今、錦野君状態だ。ヤバい。楽しい」

そういう舞戸さんは何故か嬉しそうですね。新鮮なんでしょう。俺達も新鮮です。

「舞戸さーん、お金無くなっちゃったんだけど、補充してもいい?」

加鳥は女性の体になった事で食べる量が減るものだとばかり思っていました。

逆でした。

「うん、良いけどね、君ね、胃袋にブラックホール、いくつ飼ってるの?」

女性は別腹を作るのが巧い、とは聞きます。生物学的に考えても、食いだめできないと生き残るのが難しかったんですからそれも分かります。腹筋が減ったことで胃袋が柔軟に広がりやすくなったことも原因の1つでしょう。

「凄いね。女の子ってよくあんなにスイーツ食べ放題入るなー、って思ってたけど、本当に入るね」

こいつは女に生まれていたら、きっとスイーツ食べ放題の店から出禁を食らっていたに違いありません。


「やめてくれないか。怪我はさせたくない」

「強がっちゃって可愛いねー」

「いいじゃん、ちょっと位さあ?」

そしてとてつもなく新鮮な事に、鈴本がガラの悪い男数人に囲まれていました。

それを見て針生と鳥海が大笑いしています。傍から見ていたら凄く不審ですね、きっと。

「警告はしたからな」

そして、鈴本は手刀で男数名を沈めました。

それを見てまた針生と鳥海が大笑いしています。ええ、俺から見ても凄く不審です。

「……やっぱり駄目だな。女の体は弱い。思った通りに動けないっていうのはストレスになるな」

鈴本が戻ってきてそういうことを言いました。

筋力は確実に落ちていますし、身長が縮んだことでリーチも短くなっていますし。

女性になって良い事というのは、実用的な面ではあまり無いですね。

「……それから、何だ。その、揺れる。落ち着かない。女はよくこんなものをぶら下げて生活できるよな。少し尊敬する」

……まあ、そういう事もあります。




加鳥がすっかり屋台を儲けさせたところで、薬の効果時間もあるので帰ることになりました。

「いっぱい食べたー」

「……それ、男に戻った時、やばいんじゃ……?」

加鳥が満足そうですが、角三さんの言う通り、少しヤバい気がします。

「うん、もうそろそろ消化し終わると思うから大丈夫」

それ以上に加鳥のそもそもの生態がヤバいです。研究したいぐらいです。

「やっぱ、女の体って嫌。弱い」

羽ヶ崎君は元々戦闘向きではありませんから、それに輪をかけて酷くなったようです。本人のコンプレックスもあるんでしょうが。

「それに、落ち着かないですよね、これ」

刈谷の言うこれ、は、胸です。

「刈谷―、羽ヶ崎君にそれ、無いから」

「あっ」

「あのさあ、何なの?本当に何なの?」

気にしなくていいと思うんですけど、やっぱり気になるんですかね。俺には良く分からない感覚です。

「男って凄いね。パワーが違う。いっそずっと男でいようかな」

舞戸さんがそういうことを言い出しました。

「舞戸さんは舞戸さんでいいと思うよ」

「人類多様性だと思うよ」

「別にどっちでもいい」

俺はやっぱり元の性別の方が何かといいと思います。

慣れ、っていうのもあるんでしょうが。

「……ねえ社長、必要になったらあの薬また貰ってもいい?」

「構いませんよ」

必要になる時、って、どんな時ですか、一体。

「女の体は柔軟性はあるな。変な動かし方ができる。怖いからやらんが、これで戦闘したら違った戦い方ができそうだ」

鈴本は特にアクロバットじみた戦い方ですから、柔軟性が高くなったらより面白い事になるんでしょう。

「でも鎧が付けられなくなるからなー」

鳥海は舞戸さんが測ったら『F80』でした。そういう事です。

「魔法の発動の仕方もちょっと変わる。細かい操作に向いてるんじゃないの。でも最大出力は落ちるね」

羽ヶ崎さんはどこかで魔法を使ったみたいですね。

俺も一回使ってみた方がいいでしょうか。

いや、変な癖がつきそうなので止めておきましょう。

「……肩、こる……」

「それな」

……まあ、今回一番思ったのは全員それだと思います。

「舞戸さん、いつもお疲れ様」

「ええと、まあ、うん」

舞戸さんが微妙な顔してるので止めてあげてください。


「やっぱり元に戻ると落ち着くねー」

薬の効果が切れて全員元に戻りました。やっぱりこれが一番だと思います。

「肩が……軽い……」

……まあ、実感できますよね。


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