誇れない。
時系列は1話前です。
視点は鳥海です。
鳥海視点ですが、糸魚川が相当出張ります。
ずっと糸魚川のターンです。
揉んでます。
ご注意ください。
ある冬の日の事。
寒いんでガスバーナー点けて暖をとってたら、先輩が舞戸さんの後ろからそーっと近づいてるのを見っけた。
……んだけど、口の前に人差し指立ててこっち見てくるから黙ってたんだよね。
先輩はそろーっ、って舞戸さんの後ろに近づいて、舞戸さんがちょっと腕を上げた時に、そこから手を回して。
「ぴゃっ!」
……舞戸さんの胸、揉んでた。
……うわ、気まずい。
「……ど、どしたんですか、先輩」
舞戸さんも最初に変な声出した後は特に嫌がるでも怒るでもなく先輩に揉まれてる。
「つまんないわ。舞戸。もっと恥じらいなさい」
「揉んでおいて何言ってるんですか、先輩」
あー、あれか。
最初に変な声出したのは単純に驚いたからで、別に揉まれることに対してじゃないのかなー。
舞戸さん、そこら辺が『俺らの認識する女子の感覚』とずれてるっぽいからなー。わかんないね。
「いいわね。この手にぎりぎり収まりきらないかんじがいいわよね」
「先輩、楽しいですか?」
作業が進まんとです、って舞戸さんが困ってるんだけど、先輩は止める気配が無い。
「楽しいわよ。時々人肌恋しくなるじゃない。今がそれなの」
女子ってそういう理由で他の女子の胸揉むの?
ちょっと未知の生物すぎて分からないですわー。
「だったら鳥海揉んでた方が楽しいですよ、多分」
……舞戸さんが俺を生贄にしだした。
いいのかなあ、それ、どうなの?
「……そうね。鳥海は……B位あるのかしら。今度測ってみましょうか」
いや、流石にそれは無いと思いたいけど。
……俺、うん。確かにふとましい、って形容されるけど。
時々自分でも揉むけど。
「ちょっと揉ませなさい」
先輩がこっち来たなー、って思ったらもう揉まれてた。
「あ、ホント。いい感触ね」
ホントに遠慮が無いなー、先輩。
「……え、ホントにですか」
言い出しっぺの舞戸さんも寄ってきた。
じーっと俺を見てくる。
「ああうん、もう好きに揉んで……」
「ごっつぁんです!」
そう言ったら舞戸さんも嬉々として揉みだした。
「意外とやわこい」
「ね。案外触り心地いいわね」
それは光栄……光栄かなー?んー?
褒められてるような、貶されてるような……んー、考えるのを止めよう。
悟り開きかけた所でドアが開いた。
「うわ、なにやってんの」
羽ヶ崎君と社長が来てた。
「あ、先輩、新手が来ましたよ。あっちにしてください」
俺もそろそろ作業したいんですけど……。
「羽ヶ崎も柘植もまな板じゃないのよ。無いものをどうやって揉めというの。私は哲学をやってるんじゃないのよ」
「……ホントに何の話してんの?」
「肉の話ですか?」
社長は察しがいいね。
「次点は誰かしらね、刈谷あたり?角三は筋肉質っぽいものね」
ぶつぶつ言ってる先輩を置いておいて、羽ヶ崎君と社長が置いてけぼりになってたから説明したら、社長は変わらず、羽ヶ崎君はすっごくげんなりした表情になった。
「男の胸揉んで楽しいとか馬鹿じゃないの?」
あ、そっち?
「あら、羽ヶ崎。嘘だと思うなら鳥海揉んでみなさい。結構いけるから」
「いけるって何がですか」
「揉めば分かるわ」
先輩が羽ヶ崎君の手を無造作に掴んで俺の胸に乗せた。
……あ、固まってるぅ。いやん。
「ね?結構柔らかいでしょ?舞戸と同レベルで柔らかいわよ」
どう?どう?って先輩がせっつくけど、羽ヶ崎君は嫌そうな顔で先輩見て、
「で、これの何処がいいんですか」
とか言いながら俺からそそくさ離れた。
うわー、傷つくわー。俺、傷つくわー。
「嫉妬ね。嫉妬に決まってるわ。自分がAAAカップだからね」
まあ、羽ヶ崎君じゃなくても普通はまな板だよね。
「だからなんでそうなるんですか!」
そこで暫く先輩と羽ヶ崎君で低レベルな口喧嘩が続いたんだけど、その内先輩が飽きて終わった。
「私って舞戸と同じぐらいかしら」
先輩の矛先が先輩自身に向かってるのは結構珍しいなー。
しかし、ここでやられると俺らとしてはいたたまれない。
「触ってみてもいいですか?」
「いいわよ」
で、女子2人でむにむにやられるとホントにいたたまれない。
「舞戸のほうが細いのよね。だからちょっとサイズが小ぶりっていうか」
「もうちょっとあるといいんですけど……」
「あら、そのままでいいわよ。いいじゃないスレンダー気味位で。私はちょっと太めなのよね」
「先輩も標準だと思いますけど」
「その割には小さいのよね……揉めば大きくなるって都市伝説なのかしら」
「それで行くと私は結構先輩に揉まれてますけどあんまり変わりないです」
……いたたまれない!
「あのさあ!他所でやってくんない!?」
ついに羽ヶ崎君がキレた。
うん。気持ちはよく分かる。
なんていうか、実験室の後ろの方が花園になってるのはいたたまれない。
「羽ヶ崎、嫉妬は醜いわよ。揉みたかったら鳥海のでも揉んでなさいよ」
「だからなんでそうなるんですか!」
「じゃあ何に文句があるのよ。言ってみなさいよほらほらほら。何?言えないような事を考えてたの?やっぱりあんたむっつりよね」
で、羽ヶ崎君が先輩のマシンガンの餌食になってる間に俺は逃げる!
三十六計なんとやらってね!
講義室の方で実験ノート纏めとこうと思ったら、もうなんか来てなかった人全員そこに居た。
「あれっ、皆なんでこっちに居るの?」
「入ろうと思ったら先輩と羽ヶ崎君の声が聞こえてな。巻き込まれるのは御免だったからこっちに来た」
うーん、成程。
「で、何の話なの?あれ」
針生が興味を示してきたから、ざっと説明したら何とも言えない表情された。
「え、そんなに鳥海って」
あ、そっち?
「え、揉んでもいい?」
「あ、うん、別にいいけど」
許可したら針生が「お邪魔しまーす」とか訳の分からない事言いながら揉み始めた。
「あ、やわらかーい」
やっぱり複雑な気分なんだけどなー。
「え、僕もいいかなあ」
「うん好きにしていいよもう」
加鳥も寄ってきたからもう俺は無心でまた悟りを開くことにした。
あー、吹奏楽部の練習する音が聞こえるー。
野球部のボールをバットで打つ音が聞こえるー。
……平和だー。
「……から、やっぱりもう一回窒素充填で……何やってんの、あんた達」
気づいたら先輩が実験ノート持ってドアの所に居た。
「あ、先輩。鳥海っておっぱいあるんですけど!」
「知ってるわ。私が先に揉んだもの」
なんていうか、俺、やっぱりこれ貶されてる気がしてきたなー。んー。
「どう?触り心地がいいでしょう」
「すごくいいですねー」
針生はなんか気に入っちゃったみたいで、ずっとむにむにむにむにむにむにむにむにやってる。
先輩、そんな針生を見てちょっとにや、っとしたなー、って思ったら、ぼそぼそ針生の耳元でなんか言った。
そしたら針生が急に慌てふためいて逃げていった。
何言ったのかなー。多分セクハラだろうなー。
その後も先輩は角三君も同様にして逃げさせてた。鈴本とかにはやらないあたりが見極めてるっていうか。
「まあ、何にせよ鳥海は誇っていいわよ。胸の揉み心地。舞戸といい勝負ができるわ」
そして結局先輩の中ではそれで落ち着いたらしい。
うーん、誇れないなー、どう考えても。
というか舞戸さんとこういう事で同じ土俵に上がりたくないんだけどなー。
実験室に戻ったら落ち込んでる羽ヶ崎君と慰める社長と舞戸さん、それからすっかり別人のようになって実験やってる先輩が居た。
飽きたらしいね。どうも。
「鳥海、ちょっといいかしら」
「はいはい好きにしてください」
それからその冬の間、温かくなってくるまで、俺はちょくちょく先輩に絡まれるようになった。
「やっぱりいいわね!誇りなさい、鳥海!この揉み心地は悪くないわよ!」
「ういーっす」
まあ、うん、いいけど。
いいけど、やっぱなんか複雑。




