第三の問題
時系列は27話前後です。つまり、大黒蛇の辺りです。
刈谷視点です。
キャラクターのイメージが大いに崩れる恐れがあります。
ご注意ください。
溶けた舞戸を治す時の話です。
この中で舞戸さんの次に弱いのは間違いなく俺です。
それでも運動能力も舞戸さんほど低くは無いし、防御面だけなら真ん中ちょっと上ぐらいですし、回復役として仕事には困らないんで、そういう所はまだ良かったですけど。
……ただ、なんというか、舞戸さんの気持ちも分かるんですよ。
俺、どっちかっていうと守られる役なので。
俺が倒されちゃうと、回復できる人が羽ヶ崎君と加鳥だけになっちゃって、凄く効率悪いんです。
だから俺は戦闘の時には大体守ってもらってて、なんか、そういうのって歯がゆい、っていうか……。
……でも、まだ戦闘に参加はできるんで。舞戸さんはもっと辛いだろうな、って、よく思ってます。
戦闘員は戦闘員の辛さがあります。怪我するのは戦闘員、特に前衛の鈴本と角三君と鳥海です。
後衛の羽ヶ崎君と社長と加鳥も怪我することはよくありますし、自分の魔法とかで自爆することも結構あります。
この間なんか、羽ヶ崎君が火を吹くモンスターに火を吹かれて、それに0距離で氷魔法使って。
……火傷と凍傷で大変なことになってました。
で、俺です。
俺は殆ど怪我しません。
自分で言うのもなんですけど、俺が生命線みたいなところがあるんで。
でも、俺には俺の辛さがあるんですよ。
……戦えなくて歯がゆいのも凄く辛いです。これが一番辛いです。
でも、グロ画像を直視するのが次に辛いです。
……さっきの羽ヶ崎君の。俺が治したんですけど、治す時って明確なイメージを持たなきゃいけなくて、つまり傷口直視しないといけなくて。
……あああああ、思い出したくないです……。
ええと、つまり、その、怪我した人を見なきゃいけない、っていうのが、凄く辛いです。
だって骨が見えてたり肉が爛れてたりするんですよ!?辛いです!凄く辛いです!
……で。
……今、第三の辛さに直面してます。
ええと……舞戸さんが。巨大な黒蛇に食べられたんです。
舞戸さんの怪我は酷いなんてものじゃないです。
両足と右腕が無くなってて、しかも右足は骨すら無いような状態で。
頭の方は割と軽傷なんですけど、それでも凄い事になってます。
一言で言うと、これが人間で、あの舞戸さんだって分からないレベルです。
かろうじて、顔の左半分で舞戸さんだって分かりますけど。
……すぐに治療に取り掛かりました。
まず、生きているかが分からなかったです。でも、少しでも可能性があるなら、努力しないと。
というか、可能性が無かったとしても、そうしたと思います。じゃないととてもじゃないけど、やってられないので。
「僕腕と頭ね」
「じゃあ、僕は脚治すから、刈谷は胴体お願いね」
羽ヶ崎君と加鳥がそれぞれ分担して治し始めてくれたんで、俺も治し始めます。
一応、俺が本職なんで。俺がやらなきゃいけない仕事です。
……治していくにつれて、何とかなりそうだな、っていうのが感覚で分かってきました。
いや、凄いですよ、舞戸さん。
タンポポ並の生命力だと思います。内臓溶けてても何とかなりそうだなんて。
……ただ、治していくにつれて、第三の問題、が、発生しました。
「……あ、ちょっと……あ、どうしよ、どうしよう」
いきなり加鳥が慌てだして、天井を向きました。
「何やってんの、早く治しなよ」
それに気づいて羽ヶ崎君が声をかけると、ぎこちなく加鳥が羽ヶ崎君の方を見て。
「……羽ヶ崎君、こっち代わってくれるかなあ?」
「……絶対嫌。早くして」
申し出ても、羽ヶ崎君には硬い声で突っぱねられるだけで。
「……刈谷あ」
しょうがないから、俺が代わりました。内臓は治し終わってたので。
……なんですけど。
「……は、羽ヶ崎君」
「だから僕は嫌だっつってんでしょ!」
……はい。第三の問題です。
ええ、と……プライバシー、というか、ええと、その……その……問題です。
見ないと治せないし、でも見ると申し訳ないし。
「あ、じゃあ、羽ヶ崎君は上半身お願い。僕と刈谷で残り半分やるよ」
ここが妥協点、とでも言うように加鳥が言うと、羽ヶ崎君の顔が引き攣りました。
……これ、俺達の性別が逆だったら、上半身は別に平気だったと思うんですけど。
舞戸さんは、女性ですから……。
「分かったよ!やればいいんでしょやればっ!」
羽ヶ崎君が自棄になりながらそっちの治療に取り掛かり始めたので、俺と加鳥とで非常に困難な仕事をやる羽目になりました。
「……ねえ、あのさあ……その、舞戸って」
その途中で羽ヶ崎君がしどろもどろになりながら、傍にいた角三君に聞きました。
「どれぐらいの……サイズ、だっけ……」
……。
さいず。
……俺と加鳥は知らんぷりしてこっちに専念します。こっちも相当気力が削れてるので、これ以上削りたくないです。
「さ、さいず、って……えっと、えっと……」
聞かれた角三君が爆発しました。人選ミスだと思います。
「治すのに、全然イメージ湧かないんだけど」
……一応、言うと……俺達全員、彼女というものが居た事が無いです。
そんなものは都市伝説なんです。はい。存在しないものは居たことがなくて当然なんですよ!
なので、平面でしかイメージが無いです。
……何とでも言って下さいよ!もう!
「D65です」
困ってたら、社長が暗号か何かを言いました。
「……何、それ」
「サイズです。Dの65だそうです」
……何故、知ってる!
「つまり、それってどういう事!?何なの!?なんの暗号!?」
「知りません。俺も糸魚川先輩がそう言っているのを聞いただけなので」
あ、あの先輩ならそう言う事を言ったとしてもそこまで不思議じゃないですね。
「で、それは何なの?どう解読するの?」
でも、流石の社長も羽ヶ崎君の疑問には答えられないみたいです。
「ええ、っと……サイズって、どうやって決めてるんだろ」
「円周とか?」
鳥海がそう言ってくれたおかげで、なんかイメージが楽になりました。
これは数学の問題です。はい。
「円周が65㎝ってこと?」
「いや、Dの謎が解けてない」
……一応俺達でも、Aが小さくてBがその次、位の知識はあります。
でも、それを具体的には知りません。都市伝説なんて具体的に知ってる方がおかしいんですよ!
「あのさ、そのサイズって、多分下着の指標だよね?」
困っていたら、また鳥海が助け舟を出してくれました。本当に頼りになる仲間です。
「だとしたら、ガリとデブが同じサイズって事は無いよね?」
「あ!俺、トップとアンダーって聞いたことある!意味分かんないけど!つまり2つの基準で決めてるんじゃない?」
鳥海の言葉に、針生が閃きました。
「それだ」
「それだね」
「それですね」
全員が針生を称賛しつつ、また疑問が。
「トップとアンダーっていうぐらいだから、最大値と最小値だと思う。となると、Dと65のどっちが最大値か、っていうのが問題だな」
また考えないといけません。
「えっとさー、Aが小さい、とかいう基準なんだから、アルファベットが最大値じゃないの?」
またしても針生が閃きました。針生のこういう閃きの力は凄いと思います。はい。
「じゃあそう言う事だね。Dが円周の最大値で、最小値は円周65㎝だね」
「……Dって、何cm?」
……。
「……Aが最小だったよな」
「そうだね」
「Aが最小値との差が5としよう。0って事は無いと思う」
「うん」
「そこからアルファベットが1つ大きくなるごとに5cm増えるっていうのはどうだ?」
……つまり、65+5+5+5+5、で。
「答えは85㎝だ!」
「よしそれだー!羽ヶ崎君、ガンバ!」
「ちょっと待って、図書いて計算するから紙と鉛筆」
「はい!」
「サンキュ。えーと、大体こんな……」
そんなこんなで、舞戸さんの回復が終わりました。
……結局こっちは回復できない鈴本とか社長とかに励ましてもらいながら何とか治しました。
じゃないと舞戸さんの生命の危機だったので。
だったんですけど……あああ、記憶を消したい!うううおあああああああ!
……それから、ちょっと手間取ったからか、傷が残っちゃいました。
これは、反省事項です。
……そうなんですよね。舞戸さんは生死の縁を彷徨ってたのに、俺達は別の縁を彷徨ってたっていうか……。
……はい。反省してます。
「……で、それからMP補充してもう少し治したら、傷も殆ど消えたんだが……すまん、右脚と脇腹と……よりによって、顔に残った。あと、髪が。本当にすまん」
舞戸さんの目が覚めて、状況の説明をして、傷については鈴本が代表して謝りました。
舞戸さんも女の子ですから。
「いやいいって!私が勝手に食べられて勝手に溶けたのを助けてもらったんだから、その位」
でも女の子ですけど舞戸さんですから、そんなに気にしてない……少なくとも、そういう風にふるまってくれました。
体を見た事についても、そんなに気にしてないみたいで、なんというか、ほっとしたのと申し訳ないのとです。
結局傷については『変装』スキルでなんとかなっちゃったみたいなので、もう大丈夫だとは思うんですけど。
……これ、これからもこういう事があるんでしょうかね……。
……この仕事、色々な意味で辛いです。
作中の推理が正しくないので補足です。
別にいらんという方は読み飛ばしてください。
アンダーバストとトップバストの認識は大体合っていますが、その後のアルファベットと数値の対応が間違っています。
Aカップはアンダーバストとトップバストの差が10㎝で、そこから2.5cm大きくなるごとに1カップサイズが上がります。
なので『最大値』の正解は『82.5cm』です。
皆さんもこのような機会があった時はお気を付けください。




