人形と機械仕掛けの浪漫
時系列は90~103話あたりです。
視点は加鳥です。
『余は魔王、この世界を統治する者なり!貴様らの骸にわが名を刻んでくれるわ!』
舞戸さんがかっこよく台詞を決めた所で、僕らの神殿侵略が始まった。
……って言ってもなあ。
僕はあんまり緊張してないんだよなあ。
今、『機械戦士』のスキルで作った戦術汎用宇宙機器に乗ってるんだよね。
だから、地面がちょっと遠い。メインカメラは人間の目と同じような位置についてるし。
神殿から騎士がいっぱい出てきたから、とりあえずビーム撃って、足元を焼いてみる。
これで隊列が乱れて動きやすくなったはず。
あとは、動き方が読みにくい鈴本の周りは避けるようにして、角三君と鳥海の援護に回るようにしてビーム撃ってたら、結構すぐにたくさんの騎士の無力化に成功しちゃった。
なんだか拍子抜けだなあ。
……その後出てきた騎士はもうちょっと強かったみたいで、皆それぞれ苦戦してるみたいだった。
僕も3人位、膝を狙ってビーム撃っておいた。うん、こういう時に狙うのは膝って相場が決まってるよね。
……でも、その後は暇になっちゃった。
誰もこっちを狙ってきてくれないし、下手に味方の援護したら、味方に当たりそうだし。
どうしよっかな、って思ってたら、隣でメイドさん人形が僕を見てることに気付いた。
この子は『とこよ』。
黒い髪の毛の子だから、勝手に名前付けちゃったんだよね。
……いや、舞戸さんが許可したんだとばかり思ったんだよ……。うん。
「どうしたの?」
とこよをつっつくと、ちょっと嬉しそうな顔をする。
この子はつっつかれるのが好きみたい。
なんでこの子を戦術汎用宇宙機器に乗せてるか、って言ったら、脱出経路を確保する為だったんだよね。
とこよの視覚を舞戸さんが借りて、それを頼りに『転移』してきてくれれば、僕もとこよも回収してもらえるから。
だからとこよを借りたんだけど……。
……なんだか、凄く楽しそう、なんだよね。
「もしかして、こういうのが好きなの?」
よく思い出してみたら、僕がレーザーガンとか改良する度に僕の所に来て見てたなあ。
ロボとか機械とかが好きなのかもしれない。
だからそう聞いてみたんだけど、聞いてみたら嬉しそうにこくこく頷いた。
やっぱりそうなんだ。
「いいよねえ、浪漫だもんね」
肯定すると、また嬉しそうに頷く。
……ちょっとモニターを見てみたけれど、まだ戦況はそんなに変わってない。
「操作、教えてあげよっか」
だから試しにそう提案してみたんだよね。暇つぶし程度に。
そしたら、すっごく、嬉しそうになったんだ。
なんだかそれを見てたら僕も嬉しくなっちゃって。
「えっとね、これで機体を操作するんだ。それでこっちが……」
1つ1つ操作方法を教えていくと、とこよは時々神妙にうなずきながら熱心に聞いてくれた。
なんだか同士が増えたみたいで嬉しいなあ。
うちの部員は皆、こういうの好きだけど、僕ほどには好きじゃないんだよなあ。
うん、今までちょっと物足りなかったのが解消されたかも。
『総員撤収!速やかに帰還せよ!』
舞戸さんの声が『交信』の腕輪から聞こえた。うん。針生が仕事したってことだよね、きっと。
「撤退だってさ。また今度教えてあげるね」
だからこっちも止めにして、舞戸さんの所まで戻る。
とこよは僕が機体を操縦するのを熱心に見てた。
……うん、その内実際に動かす練習もしたいだろうなあ。早めに暇になるといいけど。
それからはちょっと、機体と離れる事になった。
神殿に潜入する羽目になっちゃって……ああああ、嫌だよー。なんで社長はこんな事思いつくんだよー。
酷いよー。酷いよー。
おかげで僕はあんまり得意じゃないのに人に囲まれる羽目になっちゃうしさあ、機械類も触れないしさあ。
……って、落ち込んでたら、頭がもふ、って撫でられた。
見たら、頭の上にとこよが乗っかってた。励ましてくれたのかな。
不思議だよなあ、メイドさん人形って。
舞戸さんが操作していたはずなのに、何時の間にか自我が芽生えてるみたい。
……舞戸さんのお裁縫の腕がいいからかなあ?
やっと帰ってこられたよー。
神殿のご飯がそんなに美味しくなかったっていうのもあるかもしれないけれど、舞戸さんのご飯がすごく美味しかった。
舞戸さん、僕と同い年なのになあ。……凄いよね。
うん、こういう所、尊敬する。
なんだか講義室で寝るの、久しぶりだなあ。変な感覚。
神殿では知らない人と2人1部屋が基本だったから。
あー、落ち着く。
「角三君。そこで寝ると危ないぞ。針生がいる。蹴られるぞ」
「……あ、そうだった」
……色々久しぶりな気分なのは皆一緒みたいだね。
大司祭を捕まえたり司祭長のアリアーヌさんを大司祭にしたり、色々あったけれどまたこの時が来た。
……うん。ちょっとぶりだなあ。戦術汎用宇宙機器。
舞戸さんが大司祭に『共有』して、情報を抜き取るんだけど、その間僕らは変化があったらすぐ助けられるように臨戦態勢。
……だったんだけど。
「もう3時間になるねえ」
一緒に乗ってたとこよに話しかけると、『ねー』みたいな顔で僕と顔を見合わせた。
『あー、加鳥、眠かったら寝てくれ。俺は寝る。鳥海と社長が起きててくれる』
そんな時、鈴本からそういう『交信』が入った。
鳥海と社長は睡眠時間が3時間でいいタイプの人だけど、鈴本とか刈谷とかは6時間以上寝たい人だからなあ。
「僕はもうちょっと起きてるけど、ちょっと別の事してるかも。いい?」
『ああ、多分大丈夫だろう。じゃあお休み』
適当な返事が返ってきたけど、大丈夫だって言うなら大丈夫だよね?
「……えっと、操縦、やってみる?」
『交信』を切ってとこよの顔を見ると、それはもう凄く……嬉しそうな顔をしてた。
「そういう時は左のレバー半引きにしながらにするといいよ」
それからしばらく、とこよが戦術汎用宇宙機器の操縦を練習してた。
うん。僕の操作をずっと見てたからかもしれないけれど、けっこう上手だなあ。
……体が小さいから、同時に操作できない部分とかがあって、そういう部分は大変そうだけど。
でも凄く嬉しそうだからいいかな。
……とこよ用の機体も作ってあげたらいいかもしれないなあ。
それから少しして、とこよも満足したみたいだから舞戸さんの観察に入った。
「長いねえ。……舞戸さん、大丈夫かな」
ちょっと心配になる位ずっと、舞戸さんは『共有』しっぱなしだ。
もう……7時間位になるけれど。
心配だなあ。何も無い様に見えて実は舞戸さんが今大変なことになってたとしても、僕らは何もできないから。
舞戸さんって手が届く所で危険な目に遭ってくれないんだよね。なんでだろうなあ。
心配だね、ってとこよの顔を見たら、『心配だね』っていう顔で返してくれる。
それから少ししたら、舞戸さんがやっと動いた。
何か鳥海と話してる。……あ、こっち向いた。
それを見たとこよが戦術汎用宇宙機器を操作して手を振る。
……それを見たらしい舞戸さんも手を振り返してくれた。
「多分舞戸さん、操作したのがとこよだなんて思ってないよ」
そう言うと、とこよはちょっと自慢げな嬉しそうな顔をした。
それからもちょっと暇な時とかに、とこよが戦術汎用宇宙機器に乗りたがったから乗せてあげた。
とこよにも操作しやすい様に付属品を付けたりしたから、とこよも上手に操作できるようになった。
うん。自分で操作するのもいいけど、外から動いてるのを見るのもいいなあ。
……この世界はいい所だなあ。浪漫の宝庫だよ、この世界。
「ね、とこよ」
とこよが戦術汎用宇宙機器から出てきたから、考えていたことを言ってみる。
「僕らが元の世界に帰る時、とこよはどうするの?舞戸さんと一緒に帰る?」
とこよは首を横に振った。……あれ、帰らないんだ。
そっかあ、とこよはこの世界に残るんだね。
「そっか。じゃあ、僕が帰ったら、これ、とこよにあげるよ」
これ、っていうのは、勿論戦術汎用宇宙機器。
浪漫の塊だけど、元の世界に持って帰るにはちょっと大きすぎるんだよね。
だからそういう提案をしたんだけど、そしたら……とこよが、すごく驚いたような顔をした。
『本当にいいの?』っていう顔してたから、いいよ、ってもう一回言ったら、今度はちょっと考えるみたいな仕草をしてから、真剣な顔で僕の手を握った。
……いや、サイズの都合で手に手を添えた、っていうかんじなんだけどね?
それからとこよは僕の手から離れて、綺麗に敬礼して見せてくれた。
僕も敬礼し返すと、誇らしげな、でもちょっと複雑そうな顔をした。
きっとこの戦術汎用宇宙機器も、とこよが操縦者になってくれるなら嬉しいと思うんだよね。
とこよは不思議なお人形だ。
お人形なのに、自分で物事を考えてるみたいで、感情があるみたいで、浪漫が分かる不思議なお人形だ。
……この子が浪漫を理解できる子で良かったなあ。
この世界では、僕らが帰った後も戦術汎用宇宙機器が闊歩するだろう。
うん。それ、凄くいい気がする。
「無理はしなくていいけど、できれば暫く、僕が死ぬ位まではジャンクにしないでくれると嬉しいなあ」
これも、とこよも。




