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ある質屋の話

時系列は1話前と100話あたり(適当)です。

ジョージさん視点です。ネタバレ注意。





気づいたら、知らない街に居た。


俺は学校を出て、もうすぐ校門をくぐる、っつー所だったはずだ。

なのに、気づいたら全く知らない街に居た。

……外国かなにかの街並みのように、石畳の道と風変わりな建物が続いている。

薄暗い所を見ると、路地裏なんだろう。

しかも、俺の服も変になってた。

なんだよこれ。趣味わりいな。何のコスプレだっつうの。

……このまま居てもしょうがねえな、と思って、とりあえず適当に歩き出す。

歩いても歩いても、似たような街並みで全然分かんねえ。知らない場所なんだし当然か。

まあ、止まってるよりは歩いてた方がいいだろ。


ってやってる内に夜になってた。

……野宿かね、こりゃ。

「よお、お兄ちゃん。どうしたんだこんな所で」

考えてたら、如何にも気のいい奴、っていう雰囲気の男が俺の目の前に立っていた。

「いや、ちょっと今日の飯と宿に困っててなあ……あ、でもお前には関係ない」

……勿論、こんな夜の路地裏で、気のいい奴が居るわけがない。いや、居るかもしれないが、こんな状況でますます危ない状況にはなりたかない。

その位の判断は俺にもつく。

そっと後ろを確認して、いつでも逃げられるようにしておく。

「つれねーなあ、なあ兄ちゃん。ちょっと飲みに付き合わねえか?」

「いや、いい」

ほらみろ!絶対あぶねえって!

「まあまあ、そう硬い事言うなっ、て!」

スローモーションのように、男が角材を振り下ろすのが見えて、咄嗟に横に飛んだ。

……体はびっくりする程よく飛んだ。で、着地できる。

な、なんじゃこりゃ?

「黒い髪に黒い瞳、それにこの身体能力じゃあ、絶対異国人だよな!おい!逃げられると思うなよ!」

自分の物じゃねえような体の感覚に戸惑ってたら、物陰から次々に人が出てくる。

……囲まれた。

「ったく、手間かけさせやがって」

そして、対策を練る前に紫色の霧みたいなものが出てきて、俺は眠っちまったらしい。




気づいたら湿っぽくて暗いところに居た。

あ、天井がある。ラッキィー。……とは思えねえなあ、うん。

首には御大層な首輪が付いてるし、それから伸びた鎖が壁に留めてある。

手には手錠がかけてあって、足には足枷までついてるっつう高待遇だ。まったく、やんなっちまうね、どうも。

……さて。

全く何が何だかわかんねー状況だがよ、とりあえず分かることは……ここは、俺が居た世界じゃねえなあ、っつうことだ。

何から何まで色々おかしすぎる。

街並みも、人の容姿も、俺の恰好も、身体能力も、あの変な紫の霧も。

……これを壮大なドッキリだと期待するのは馬鹿だろうな。




そのままぼーっとしてたら何時の間にか寝てたらしい。

「おい、起きたか」

声に飛び起きてそっちを見たら、さっき世話になった野郎が鉄格子ごしににやにやしてやがった。

「ったく、異国人ってえのは大抵大人しいんだが。お前みたいに活きがいいのも居るんだな」

「るせえ。ここはどこだ。俺をどうする」

「分かってんだろ?捕まった異国人の末路なんてよお。……売るんだよ」

……モツを、っつう話でもなさそうだな。

ここでは人身売買が普通に成り立つのか。1つ勉強になった。

「買い手が付くまではここで世話してやるよ。良かったな?宿と飯には困らなくなったぜ?」

そう言ってそいつは器を格子の隙間から差し入れてどこかへ行ってしまった。

……普通に考えれば、知らない所で知らない奴に貰った飯なんざ、食うのは愚の骨頂だ。

ただし、いまの嫌味な野郎の言葉を信じるならば、俺は売り物なはずで、そいつに危害を加えようとはしないだろう。

……っつうか、危害が加えられるにしても、だ。

このままじゃあどうせ飢えて死ぬ。

だったら、力をまともにつけて、逃げられるチャンスを逃さないようにした方が賢明だろう。

よし。

そこまで考えて、器の中身を食った。

……割と普通に美味かった。




それからしばらくしても、体に変調は見られなかった。俺は賭けに勝ったらしい。

……今は何時ぐらいだろう。

夜になったんだろうか。静かだ。

どうせ見張りがいるんだろうが、その気配は今の所無い。

……俺は俺のさっきの、あの驚異的な身体能力を思い出していた。

今もできるだろうか。

試しに首輪から伸びる鎖を引っ掴んで、思いっきり引っ張ってみる。

……レンガの壁が壊れて、鎖が壁から引っこ抜けた。

もろっ!

え、え、これバレてないよな?

……鉄格子の向こう側の気配を窺っても、特に変化は無い。

となれば、善は急げだ。

足枷も外せれば、とりあえず走れるようになる。

しかし、問題はこれをどうやって外すかで……。

……その時、何故か『足枷の錆を増やして劣化させればいい』っつう考えが頭の中に湧いて出た。

そしてそれと同時に、足かせに浮いた赤錆の面積が増える。

……状況に納得はできねえが、これはチャンスだ。

とりあえずひたすら念じ続けて、足枷を錆塗れにした。

内部まで錆で埋めてしまえば、金属は脆くなる。力を加えれば折れた。

第二関門も突破だ。

……じゃあ、この壁も、何とかならねえか?

さっき鎖が引っこ抜けた部分に、小さく亀裂が入っている。

これを『増やす』っつうのは、どうだ?




結果として、壁の亀裂は『増え』て、無事俺は脱出に成功していた。

ただ、その代償なのか、妙に頭が重くてだるい。

しかしここで捕まったら元も子もない。走れるだけ走って逃げる。

……ただ、幸いっつうか、着ていた服はそのままだったし、それにはフードが付いてた。

あいつらは『黒い髪に黒い瞳』で、俺を『異国人』だと思った訳だ。

ならできるだけそういうものは隠しておいた方が賢明だろう。

そう言う理由で、頭痛とだるさが酷くなったが、手錠も完全に破壊した。

これが付いてたら脱走した売り物、っつうことが丸わかりだからな。

しかし、あれだけ盛大に壁をぶち壊しちまったんだから、あいつらに気づかれてない訳は無い。

追いつかれるのも時間の問題だろうが、今はとにかく土地勘のない道をひたすら逃げるしかできない。


逃げまくってたら、ある曲がり角で人と思いっきりぶつかった。

「きゃっ!」

「って」

体が重くて、アホみたいにすっ転ぶ。いってえ。

「ああ、大丈夫?ごめんなさいね、急いでいるの。本当にごめんなさい」

その人は早口にそう言って、また走っていった。まあ、俺も急いでるし、問題は無い。

……ただ、俺とぶつかった時に落としたのか、綺麗な髪飾りが落ちてた。

細かい造りの金属細工だ。キャストなんかじゃない。細い金属線を何本も曲げて重ねていって作ったものだろう。銀線細工に似てはいるが、どっちかっつーとチタンとかだな。

酸化被膜かなんかだろう。その髪飾りは虹色に光沢のある金属でできてる。

思わず拾ってしげしげ眺めてから、服に付いてたポケットにそれをしまう。

しまった所で、また角から人が走ってきた。今度は複数人だ。……俺の追手か?

「おいてめえ、ここに女が来なかったか?」

……いや、別か。

しかしなんつーか、答えてやる気がしねえ物言いだよなあ。

「悪いが見てねえよ」

なんとなく、さっきぶつかった人は中々の美人でもあったしな。特に意味も無く庇った。

「そうかよ、邪魔したな」

……そして全く気にすることなく3人は走っていってしまった。

随分急いでんだな。……さっきぶつかった人を余程探してんのか。

多分あの人のだろう髪飾りも返してえけど、下手に関わらない方がいいかなあ、これ。




しかし、逃げるっつったって、当てもない。

しょうがないからぶらぶらしてたら、太陽が雲に覆われて、薄暗い通りはますます暗くなる。

そして、俺は何故か元の場所に戻ってきてた。

……俺、自分ではそう思わねえけどよ、どうも……方向音痴、っつう評価を受けることがある。それか。うん。

ただ、今回はその方向音痴も悪くなかったな。

「さっきぶり」

さっきぶつかった人がすっかり暗くなった道で何かを探すみたいに地面を見てた。

「あ、あなたはさっきの。ごめんなさい、怪我は無かった?」

探し物を中断して俺の怪我の心配してくれるんだから、悪い人じゃあねえよな、この人。美人だし。

「おねーさん、もしかしてこーいうの探してたりする?」

ずっと手に持ってた髪飾りを差し出すと、その人の顔がいきなり明るくなった。

「そ、それです!それです!ああ、本当によかった……」

その綺麗なおねーちゃんは俺の手ごと髪飾りを手で包んで、心底ほっとした様な顔でへたり込んだ。

相当大事な物だったんだろう。

なんつうか、ちょっと良い事した気分だな。悪い気分じゃない。

「本当に困っていたの。ありがとう。あなたは恩人だわ。是非お礼をさせてください」

なんかよく分かんねえが、渡りに船って奴だな、これは。

……お礼、ねえ。

……色々としてもらいたいことはあるが、とりあえず、これか。

「んじゃあ、ちょっと変な事聞くけど、ここって、どこ?」

「……は?」

ぽかんとしてちゃあ美人が台無しだぜ?




「……そう。記憶喪失、っていうかんじでもないし、何かの魔術に巻き込まれたのかしらね」

結局、俺はその女性……ルデラさんに、一晩の宿と飯を頂くことになった。

ルデラさん曰く、あの髪飾りにはこんなんじゃ足りないぐらいの価値がある、とのことで、まあそういう事だったら有難く恩に着ておこうっつうわけだ。

……しかし、俺の境遇を話してみて(気づいたらここに居て、捕まって逃げてきた、っつう話だ)『魔術』なんつう単語が出て来ちまったってのは……こりゃ、どうすりゃいいんだか。

「とりあえず帰る方法が分かるまではうちに居るといいわ。その代わり店番をお願いするかもしれないけれど」

うわ、おいおいおい、ちょっとこの人人が良すぎるんじゃーねえの?

こんな綺麗なおねえちゃんが18歳男子高校生を家に居候させるって相当やばいんじゃねえの?

自分で言うのもなんだけど俺、普通に健全な男の子よ?

「あなたは恩人ですもの。……この髪飾りはね」

ルデラさんは机の上で髪飾りを数回振った。

……振ったら、硬貨が数枚、落ちてきた。

「貯金箱なのよ。この髪飾り、『失われた恩恵』が付いてるの」

……もう信じるっきゃねえよなあ、『魔術』とやらも。




それから、ルデラさんの元でこの世界の常識を学んだ。

勿論、学んでるなんて思わせねーように頑張った。

魔法なんてない世界から来たと知れたらどうなるか分かんねえし、お世話になってるルデラさんでもそれは変わらない。

文字が読めないっつうのも、誤魔化せるように必死になんとかして、自分でも驚くスピードでこの世界の文字も覚えた。

毎日生きた心地がしなかったな。

……ルデラさんは、商人だった。

しかも、ちょっとヤバい取引とかもしちゃうタイプの。

生きた心地がしなかった理由の一つは間違いなくこれだな!

1日に一回は、如何にもごろつきです、ってかんじの奴が来てた。

……ルデラさんはそういうのと渡り合って、しこたま儲けてる人だった。

勿論、俺もそれに付き合わされた。

……旨い話には裏がある、っつうのは本当だよな。

俺は寝床と食事を手に入れる代わりに、『俺自身』をルデラさんに提供する羽目になった。

あ、いや、男子高校生的に嬉しい方面じゃねえよ?そっちだったら喜んでるわ!

……ここでは、黒い髪に黒い瞳の人間は『異国人』として珍重されるんだそうだ。

で、なんで珍重されてるかっつーと……『失われた恩恵』を持ってるからだ。

つまり、魔法の、ありえねーレベルの奴。

黒髪黒目だったら皆例外なくそういうのを持ってるらしい。

だから、俺は……担保にされた。

「おい、ルデラ、ちゃんとお前、金は用意できるんだろうな?」

「当り前よ。そうね、もし用意できなかったら異国人がうちには居るから」

……っていう具合に、だ。

……まあ、無償でなんかされるよりは気持ち悪くねえわな。

俺はそういう人間だったし、幸運なことにルデラさんもそういう人だった。

なんだかんだ言って、俺らは割と上手く付き合っていけたって訳だ。

……あ、そういう意味での付き合ってた、じゃねえよ?




*********




……まあ、分かると思うが、その時の店がここだ。

ルデラさんはその後5年位した時に手紙を残してどっかに雲隠れしちまってな。

俺はその時にこの店と人脈を受け継いだ、っつう訳だ。

商売なんざ分からなかったが、あの人を見てたら割と覚えたしな。

なんだかんだで今日までやってこられた、っつう訳よ。

はいはい、今日の話はここまでだ。

早く寝ろ、お前ら。若いからって夜更かししてっと体持たねえぞぉ?

……そうだなあ、でも、「ジョージさん大好き!」っつってくれたら……あ、痛!

ちょ、花村!悪かったから!俺が悪かったですやめていだだだだだだだ!

相良!笑ってないでちょ、助けろ!おい!

洒落にならねえって!


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[一言] ジョージさん大好き!
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