メイドさん人形の野望と覚醒
『メイドさん人形の夢と目覚め』の続きです。
視点がまたころころ変わります。
順に、
・ハントル
・マルベロ
・アリアーヌ
です。
とこよは激怒した。
かのじゃちぼーぎゃくな国王をぎったぎたのめっためたにして1050年の地下労働に処さねばならぬと激怒した。
とこよには政治は分からぬ。
しかしとりあえずむかついたら一発ぶん殴っとけというのがとこよの信条である。
……って、とこよが言ってるのー。
『メイドさん人形村』は無事に運営できてるらしいの。
僕はよくわからないけれど、とこよがときどき嬉しそうにしてるの。なんかお金?数えてるみたい。
そのお金で、エイツォールの大通りに土地を買って、『メイドさん人形帝国:エイツォール支部』を作るんだってはりきってるの。
……なんだけど、最近のとこよは怒ってるの。
なんかね?
……妖精は土地を買えない、らしいの。
なんでも、エイツォールの土地って、エイツォールの王様の物なんだって。
住んでる人は、お金を国王に払って、それで許可をもらって、その土地を使うんだって。
だから、もしお金があっても、王様が駄目って言ったら、駄目らしいの。
それで、とこよとさくらとみなもが揃って王様の所に行ったら、そもそも王様に会えなかったらしいの。
しょうがないから、こっそり入って王様の部屋にお手紙届けたんだって。
けれど、それもやっぱり、駄目だったんだって。
……それで、とこよは今、凄く怒ってるの……。
『まあ、人間の王にしてみりゃあ、相手は物も言わねえ妖精だ。……っつうか、妖精かどうかも分かってねえだろうし、そもそも妖精じゃねえし。……そんな怪しい、後に何かが付いてるかもしれねえ奴らに土地なんざ渡せねえ、ってのは分かるぜ』
ケトラミはそう言うけれど、僕は別にいいと思うの。
とこよ達は、エイツォールに『メイドさん人形レストランエイツォール店』っていう名前の『メイドさん人形帝国エイツォール支部』を作るだけだって言ってるの。
良く分からないけれど、多分そんなに悪い事じゃないと思う。
美味しいご飯が食べられるなら、エイツォールの人達も嬉しいと思うんだけど……うーん、そんなに簡単な問題でもないみたいなの……。
『そうねえ、一丁、アタシとマルベロとアンタで王城潰してくるってのはどーお?』
『馬鹿抜かせ、なんでお前なんか連れてかなきゃいけねえんだ。足手纏いにしかならねえだろうが』
『やあねえ、じょーだんよ、じょーだん。ったく、これだから血の気の多い奴は』
『んだと!?おいグライダ、テメエ』
……ケトラミとグライダは、仲がいいの。
良くケンカしてるけど、凄く仲良しなの。
……僕もなんとかしてあげたいな。
どうすればエイツォールの王様は『メイドさん人形帝国エイツォール支部』の設立を認めてくれるんだろう……。
マルベロに聞いてみたの。
『そうですね、署名、なんていうのはどうでしょう?』
『既に支配できた人間から『メイドさん人形帝国エイツォール支部』の設立を訴えてもらうのです』
『既にメイドさん人形帝国は根を伸ばしていますから、きっとうまくいきますよ!』
……期待してなかったけど、凄く、良いアイデア!
さっそくとこよ達に教えてあげなきゃ!
……という訳で、『メイドさん人形帝国メイドさん人形村支部』……通称、『神殿南エリア』では、来てくれたお客さんに署名をお願いするようになったの。
やり方は簡単。
お会計の時に、紙とペンを持ったメイドさん人形が1人行けばいいの。
そうしたら、美味しいご飯に満足してくれたお客さんが、皆署名していってくれるんだけど……。
中には、えらい貴族の人がいて(……たしか、シャチのファン、って人……なの。)その人がいっぱい頑張ってくれたの。
署名用の紙をいっぱい持って行って、次の次の日に、それ、全部に名前が書かれた状態で返してくれたの。
……凄いの。
普通にしてたら、ただの変なおじさんなのにね。人って、見かけによらない、って、ホント。
結局、署名はほんの5日で500件も集まったの。
とこよとさくらとみなもがそれを持って、またお城に行ったの。
今度は上手くいくといいな。
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大変です!
とこよさんが非常にお怒りです!
……お怒りもご尤もかもしれません。
なんでも、沢山の署名を持っていったのにも関わらず、土地を購入することはできなかったんだそうです。
今度は直接王様に会えたらしいのですが、それでもならぬ、という事だったらしいのです。
この世界では、妖精は自由気ままな存在として伝えられています。
ですから、そういう自由な生き物と契約を結ぶ、という事に心配があるのはご尤もです。
なので、とこよさんは妖精じゃないという事をちゃんと説明したらしいんです。
そうしたら、人形だったらそれを操る人がいるだろう、という事で、その人本人に来いと伝えろ、という事になってしまい……。
結局、駄目だった、と。
しかも、とこよさんたちは舞戸さんの操る人形だったはずなのですが、舞戸さんが元の世界に帰ってしまっても何故か動けています。
なので、『とこよさん達のご主人様本人』はいるのにいない、という状況なのです。
これでは王様の言う所の、『操る人本人が来い』ができないのです。
これでは、とこよさん達の夢というか野望が躓いてしまいます。
それにですね……私個人、いえ、個犬の意見といたしましては、この国の人達にも、是非とこよさん達の作ったご飯を食べてもらいたいのです。
私は生肉が主食ですのでとこよさん達の作ったご飯を食べる事はありませんが、お店に来てご飯を食べる人たちの顔を見れば分かります。
美味しそうにご飯を食べる人というのは、どうしてこうも幸せそうなのでしょう。
この国の人達の中には、神殿への馬車代を払うのはちょっと辛い、時間が無い、という方も大勢いらっしゃいます。
ですから、この国の目抜き通りにお店を構えて、そういった方々にもご飯を食べて頂く、というのは、非常に良い事なのではないかと思うのです!
……ここで重要なのは、王様に会うのに、実際にとこよさん達を操っている人を連れてくる必要はないという事です。
とこよさん達は自由に動けるのですから、操るふりをしてくれる人だけ見つかれば、それで万事解決します!
……そして、私たちはそういった事に協力してくれそうな方には、幾らでも心当たりがあるのです。
帰ってきたとこよさん達の雰囲気で、成功したことが分かりました。
……結局、とこよさん達は、『国の人で、かつ、そこそこ地位があって、かつ、割と暇そうな人』という選考基準の元、毒物愛好家の貴族の常連さんにお願いしました。
そして、あっさりとOKを頂いて、その足で王城へ向かい、あっという間に土地の権利を買い取ったのだそうです。
あまりにもあっさりしすぎていないか、とも思ったのですが、それには理由がありました。
1つは、とこよさん達がお土産に作ったお菓子を持っていったという事。
所謂、袖の下、という奴ですね!
きっと今まで、人形が作る食べ物に疑念もあったのでしょうね。
散々毒見がなされた後、王様の口にもそれは入ったそうですから、そういう意味でも納得していただけたのかもしれません。
……そして、何より、お願いした貴族の方は……結構、あらゆる方面に秀でた方だったらしい、という事なのです。
その貴族の方が直々に来た、というだけで、かなり王城が混乱していました。
隠居した身にも関わらず、未だにある程度の発言権を有していらっしゃるんだとか。
人は見かけによらないものですね!
こうして、とこよさん達は王都エイツォールの目抜き通りに、大きくお店を構える事が出来るようになったのです!
エイツォールの人々も大歓迎でした!
メイドさん人形という真新しさもさることながら、料理も美味しく、かつ、お値段もお手頃、となれば、1度ぐらいは行ってみよう、と思うのも当然ですね!
ここでもっとお金が溜まったら、王都アーギスにも出店予定だとか。
海中都市にまで進出できれば、1Fは支配したも同然なんだそうです。
……私には今一つ、とこよさん達の目的が分からないんですが……。
……きっと、美味しいご飯で世界中を幸せにするっていうことなんですね!
とこよさん達はきっと、それを世界征服、と呼んでいるのでしょう!可愛いですよね!
*********
「……え?新しい国、ですか?」
この世界には、国と呼べるものは3つあります。
1つは、ここから北東のアーギス。
もう1つは、ここから南にあるエイツォール。
そして、ここから南西にあるイトイカワステイツ。
しかし、最近、どうも新しい国、が、できた、という噂を聞くのです。
「はい。ここから西の地帯に、一夜にして城が建ったとか……」
一夜で城、ですか。
……。
あの巨体なら、それも可能かもしれませんね。
その国に出張する神官の手配や、その国との交流で忙しくなるのは目に見えているのだけれど……少しだけ、また、あの妖精さんと会えるのが楽しみでもあるのです。
ある一夜を境に生まれたテーマパークは、大層賑わったという。




