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とこよはお話を聞きたい

メイドさん人形「とこよ」がケトラミとハントルに話を聞くようです。

時系列的には65話あたりです。


……おう、なんだ、お前。……ん?あ、なんだ、名前貰ったのか。ふん、ふん……とこよ……常夜、ね。悪かねえな。あれだろ。舞戸じゃない奴が名前付けただろ。……分かるぞ、俺とハントルの名前知ってんだろ。アイツにはネーミングセンスっつーもんがねえんだよ。

……じゃあ、こっちも改めて自己紹介だな。

俺は舞戸の番犬をやってる。与えられた名はケトラミ。碌でもねえ由来らしいが、語感は悪くねえ。しょうがねえからこれで妥協してやった。ん。じゃあ、これからよろしくな、とこよ。


……ん?聞きたいことがある?おう、何でも聞きやがれ。……あ?何で俺があんな雑魚の番犬なんざやってるかって?そりゃあ……説明すんのがめんどくせえんだが……ああ?どうしても聞きたい?

……まあな。俺みてえな存在がなんであんな雑魚の番犬なんざやってんのか不思議だろうしな。おう、しょうがねえな、聞かせてやるよ。


あいつと初めて会ったのは、あいつが誘拐された時だったらしい。後から聞いたんだがな。あの福山とかいう奴にまんまと攫われて、んで運ばれてる途中で俺と遭遇したらしい。

んで、ま、その福山とやらが向かって来たんだが……あまりにも弱かったんでな、ここは飛ばすぞ?

……で、舞戸だな。あいつは相当な雑魚だが、自分が雑魚だと自覚している雑魚だ。ああ、そこだけは評価してやってもいいな。その時も、逃げるにも俺からは逃げられやしねえと分かってたから、腹括ったんだっつってたかな。

で、あいつ、なんつったと思うよ?脚震えてやがんのによ、笑えるぜ、『おい犬っころ、番犬の躾も、メイドの仕事だと思わんかね?』っだったっけな?そういう事言いやがったんだよ、あいつは。

俺からしてみりゃ、あいつ程度の雑魚、一瞬で殺せる。だからわざわざそんな安い挑発に乗ってやる必要もねえし、もうちっとばかりこの面白い雑魚を眺めててもいいか、と思ってな?

で、そしたらよ、その次にはあいつ、もっと面白え事言いやがってよ。

『お座り』だぜ?『お座り』。俺に向かって。仮にもここら一帯の主である、俺に向かって。ああ、何言ってんだこいつ、って思った。思ったんだが……なんだ、その、雑魚にしちゃあ、骨のあるやつだと思った。

目が、な?ぶれねえのよ。今にも殺されるっつう状況で、ぎっ、と俺だけ見ててな。訳の分かんねえ気迫があった。……それでな、思ったのよ。こいつの合理的な思考っつうか、思い切りの良さっつうか……いや、違うな。危うさだ。こっちをまっすぐ見てる癖に、ちょっとつついたら死にそうな危うさに惹かれたんだろうな、今思うと。……なんだよ、悪いかよ?あ?

……俺は強い。生まれた時から強かった。弱かった事なんかねえ。だから……そういうのが、なんつーか、珍しい、っつーか、まあ、なんだ、見てて飽きねえかな、って思った訳よ。実際雑魚なりの戦い方っつーのは面白えぞ?あいつも無い頭絞って色々やるからな。

……ま、んで、契約してやった。ああ、勿論あいつは契約内容なんか弄っちゃいねえよ。弄る前にぶっ倒れてたからな、あいつ。だから、契約内容は完全に俺が決めた。な?馬鹿だろ、あいつ。

だから、俺は決めたのよ。まず、俺がこいつに飽きたらこの契約は破棄だ。当たり前だろうが。で、次に、俺は人間の肩は持たねえ。人間同士の諍いに首突っ込むのは御免だからな。あと、当然だが他のエリアの主とこいつが戦う事になっても、俺は参戦しねえ。一応停戦協定結んでるからな。……で、その上で、俺はこいつの側にいてやる。望むならそこらの雑魚から守ってやってもいい。ま、この面白え雑魚の観察に邪魔が入るのも面白くねえしな。


……っつーわけで、俺は舞戸の番犬やってる。

そしたらな、あいつ、ホントに弱かった。

あいつのご主人様っつーのはなんつーか、ま、100人位いれば俺と戦っても善戦するんじゃねーかっつー気がする程度には強いが……びっくりする程、舞戸は弱かった。弱いんだが……何だ、欲しい力を手に入れる能力っつうのは高かった。戦うのに何の役にも立たなそうな技だったら大抵欲しいもんを手に入れてたな。ああ、あいつは戦闘能力が欲しいみてえだが、そっちはからっきしだ。な?そうでもなきゃお前ら量産してねえっての。

それから、戦闘以外の能力は割と高いみてえだな。人間の事はよく分かんねえが……ま、なんだ。適材適所、っつうことなんだろうな、あいつらは。舞戸は戦えない分、他の能力でそれを補って自分に価値を見出せるようにしてるみてえだが、ま、俺に言わせりゃそんなもん無意味だ。

あいつの価値はそんなところに無い。こいつの価値は、あの危うさだ。自分を雑魚と自覚しながらも、最も合理的な判断のもとに自分の命を強大な敵の眼前に晒した挙句、その敵に向かって『お座り』なんざ言えちまう、あの能力が、あいつの価値だ。あいつは必要になったら容赦なく自分を棄てるぞ。お前もそれは分かんだろ、なんとなく。ん。な?

……俺はあいつがあいつ自身を使い切って燃え尽きる瞬間を見てえ。あの雑魚が何すんのか興味がある。だから、その瞬間までは守ってやってもいい、って思った訳だな。な、思った……訳、なんだが……いや、何でもねえ。無しだ、無し。……ああ!?情が移っただあ!?ふざけんな!んなことある訳ねえだろ!大体なあ……


……


……ほら、これで気は済んだか?済んだらさっさと戻れ。お前も仕事あんだろ。ああ?無い?休憩中?……ホントお前、メイドさん人形、なんつーのの癖に働かねえよなあ……。

あ、おい、とこよ!お前ふらふらしてんじゃねえ、あ?散歩だあ?ふざけたこと言ってねえで戻ってろ、舞戸が心配するだろうが!




*********




あっ、とこよだ!とこよ、とこよ、どしたの?……え?僕の話聞きたいの?僕と舞戸があった時の話?

うん、いいよ。えっとね……うん、あのね、最初に舞戸に会ったのは僕じゃなくて、僕の母さんなの。僕ら、砂漠に住んでてね?そこらへんが母さんの縄張りだったの。……うん。僕が大きくなったらあそこは僕の縄張りになるの。

でね、舞戸は僕の母さんに食べられちゃったんだけど……え?あ、うん。舞戸が母さん殺したって言ってる。だから舞戸は生きてるの。……え?うん、うん。……違うと思うよ。多分スズモトとかカドミだと思う。舞戸はそんなに強くないって舞戸も言ってた。僕も見てるから知ってるよ、舞戸が弱い事。舞戸はね、弱いんだ。だから僕が早く大きくなって守ってあげるの!

……あ、ごめんね。そうじゃなくて、あった時の事だよね。ええと、ね。舞戸は母さん殺した時に、よく分かんないんだけど、舞戸の中に母さんを残しちゃったの。それで舞戸は大変だったみたいなんだけど……うん、それでね、舞戸の中に残った母さんが、舞戸に僕を見つけさせてくれたの。僕は生まれてからずっと砂漠の岩の割れ目の中で暮らしててね?そこに舞戸たちが来てくれたんだ。そこでお喋りして、繋がって、それで僕は舞戸と一緒に行くことにしたの!

ん?よく分からない?だって、とこよも同じでしょ?舞戸と繋がってるんでしょ?分かるよ?

パス、っていうんだよね、これ。これがあるから僕ととこよもお喋りできるんだよ、って、ケトラミが教えてくれた。ケトラミは物知りだよね。僕の母さんより若いみたいだけど、凄く物知り。でも、なんで物知りなの、って聞いても教えてくれないの。他の事はいっぱい教えてくれるのにね。あのね、僕、ドラゴンとの戦いの話、好き!ケトラミは凄く強くて凄くカッコいいんだ!いいなあ、僕も早くケトラミみたいになりたいの。それで、大きくなって舞戸の肩に乗せてもらうんじゃなくて、僕が舞戸を乗せてあげるの!……でも僕、ケトラミみたいに走れないから……うーん、どうしよう。うーん、僕もとこよみたいにお空飛べたらいいんだけど。


え?……んっとね……僕は舞戸、恨んでないよ。母さんはいつか殺されるんだって知ってたし、僕にもそう言ってたし。それに、死んだ母さん、舞戸は連れてきてくれたんだ。今も僕の中に母さんはいるの。だから、寂しくないよ。母さんも満足してるみたいだし。それに、舞戸もケトラミも、とこよ達もいるから。……え?あ、カトリ?……あ、うん、分かるよ。とこよはカトリが大好きなんだよね。……あの……ええと、なんか最近カクカクしてるよね、カッコが。え?ビーム?ええと、それはちょっと分からないの……。

……うん、うん。そうだね。好き。皆好き。だって舞戸はみんなの事が大好きで、みんなも舞戸が大好きでしょ?だから大好き!

とこよも同じでしょ?……え、違うの?とこよはみんなの事大好きじゃないの?……え?舞戸とカトリだけ特別なの?

……うんうん、そっか。とこよは舞戸が作ってくれたし、とこよがとこよになったのはカトリのおかげだもんねえ。僕が舞戸を特別だって思うのと一緒で、とこよも舞戸とカトリが特別なんだね。


あれ、そういえばとこよ、お仕事はもう無いの?え?終わったの?今はお散歩中?……うん、うん。そっかあ。でもそろそろ舞戸が寝るころだよ。戻らないと舞戸が心配するよ。……え?僕?僕はいいの!僕はお外で舞戸を守る係になるんだから!……え?ケトラミだけでも大丈夫だって?駄目なの!それじゃあ僕が強くならないでしょ!……あ、うん。来ないよ。ケトラミがいるとこの辺りのモンスター、来ないの。けど、ケトラミがお話してくれるの。舞戸がケトラミと寝ない時の夜はね、ケトラミの授業があるんだ。魔法とか教えてくれるんだよ。『しゃどうえっじ』もケトラミに教わったんだ。……あ、うん。ケトラミはできないよ。ケトラミには闇魔法の適性が無いんだって。ケトラミは風の魔法が得意なんだけど、僕は風の魔法はあんまり得意じゃないの。でも『えっじ』は『うぃんど』も『しゃどう』も大体一緒だから。……うん。そうなの。それにケトラミは教え方上手いから、すぐ分かるんだ。ホントに物知りだよね。

……えっ?とこよも闇魔法使いたいの?うーん……とこよは回復魔法だけでいいと思うの。とこよが闇魔法まで使えるようになっちゃったら僕の出る幕っていうのがなくなっちゃうの!


……あれ?とこよ、寝ちゃったの?こんな所で寝ちゃダメなのー。……しょうがないから僕が運んであげるね。とこよよりも僕の方がお兄ちゃんだもんね!


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― 新着の感想 ―
久しぶりに本編読み返して頭の中がいっぱいになったところで読むといつもとは違う視点の番外編がすごくほっこりする
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