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メイドさん人形の夢と目覚め

時系列は最終話以後です。

舞戸達異世界人は一人も出てきません。(回想はありますが)


視点はバラバラです。

順に

・アリアーヌ

・デイチェモールの門番

・エイツォールの門番

・毒愛好家の貴族

・グライダ

です。

「アリアーヌ様!大変です!神殿の南の丘に巨大な!」

駆けこんできた神官はそう言いましたが、あの魔王さんが私に何も伝えずに進軍してくるとは思えませんでした。

それ故に、魔王さん以外の勢力、もしくは魔王さんの失脚などが幾らでも考えられました。

そして、それらは決して、良い方向に動かないだろうとも。

「ありがとう。見に行ってきます。念のため、騎士を用意しておいてちょうだい」

机に立て掛けてあった杖をとって部屋を出ると、後ろから私を止める声が追いかけてきたけれど、ならば本気でお止めなさい。

「あ、アリアーヌ様、あれです!」

見張り塔にまで行くと、それの姿はよく見えました。

……確かに、魔王さん達が以前やってきた時に居た、あの巨大な戦士によく似ています。

……しかし、その巨大な戦士は……。

「安心なさい、あれに敵意は無いでしょう」

見て、力が抜けてしまいました。

もう。……私が来るまで、待っていたのかしら。

「いや、自分もそう思いますが……しかし、何故」

その巨大な戦士は、手に持った巨大な看板を、そっと見せてきました。

『メイドさん人形村:建設予定地』


その巨大な戦士に近寄ると、その足元にたくさんの小さい妖精がいる事に気づきました。

その妖精はふわふわ飛んできて、私の目の前で止まると、小さな紙を私に差し出しました。

「お手紙かしら?」

しかし、その妖精は小さく首を横に振ります。

……じゃあ、何かしら。

折り畳まれた紙を開くと、そこにはこう書いてありました。

『メイドさん人形村オープン記念:全品銅貨5枚!』

そして、その下には色々な珍しい食べ物らしいものの絵と、簡単な説明が続きます。

……この妖精たちは、飲食店をここに出店するつもり、なのかしら。

「いいわよ。この土地は私の物じゃありません。女神さまの物です。そして、女神様ならきっとお許し下さるわ。頑張ってね」

妖精にそう声を掛けると、少し宙で跳ねてから、嬉しそうに去っていきました。

……見たことの無い妖精だったけれど……不思議な事もあるのね。

……今度お休みが貰えた時にまた来てみようかしら。




*********




その日、俺は門に詰めていた。

まあ、門番の仕事っていうのはそういう事だしな。

何時にもまして暇だ。

こういう天気のいい日に突っ立ってるだけっつうのは、少々勿体ない気もするが……まあ、こういう仕事なんだよな、はあ。


そんな風にぼんやりしていたら、同僚に小突かれた。

見てみたら、小さな……女の子?の妖精?みたいなのが5体程……飛んできた。

「お、おーい、そこの妖精?とまれー」

一応俺もこういう仕事だからな、止めた。

そしたら、止まった。

……言葉は通じるらしい。

「えーっと……ここはデイチェモールの町だ。……ご用件、は……?」

聞くと、その妖精たちは首を傾げて、なにやら顔を見合わせている。

会話しているようにも見えるんだが、その声は俺には伝わらない。

「あのー……」

ほとほと困っていたら、その内の一体が俺の所に紙を一枚差し出してきた。

その紙は、その妖精たちが持っている籠みたいなものにたくさん入れられているもののうちの一枚らしい。

手のひら程度の大きさのそれを開くと、それは……広告のようだった。

『メイドさん人形村オープン記念:全品銅貨5枚』

……見る限り、飲食店の広告のようだ。

見たことも無いような珍しい料理を取り扱っているらしい。

「……もしかして、これの宣伝に来たのか?」

聞くと、妖精たちはこくこくと頷いて見せる。

伝わったことが嬉しいのか、なにやら表情も明るい……気がする。

「どうする?」

「いや、どうするって……」

一緒に門番をやっている同僚に聞いても、実のある返事は返ってこない。

そりゃ、妖精が町に、しかも、わざわざ門を通って入ろうとするなんて、前例がない。

「……よし、分かった。通れ。ただし、悪さはするんじゃあないぞ?」

結局、同僚と話し合った結果、通してやることにした。

なんとなく、害を成す奴らには見えなかったからな。

許可してやると、妖精たちはぺこり、と頭を下げて門を通っていく。

……そして、雑踏に紛れて見えなくなった。

俺は手に持った紙をよく眺める。

……場所は神殿の南か。神殿までの馬車に乗ればそこまでの時間でもないだろう。

今度の休暇に行ってみるか……。




*********




私は今日も、あの女性を想いながら門番の任に付いていた。

私の力が及ばぬばかりに、救い出すことができなかったローズマリー嬢の行方は杳として知れない。

彼女は今、どこで何をしているだろうか。

酷い目にあわされてはいないだろうか。

それとも……。

「……おい、なんか来るぞ」

同僚の声に我に返って見てみれば……どことなく、ローズマリー嬢の気配を感じる……妖精、がやってきているのが見えた。

近づいてきたのでよく見てみれば、その格好までもがローズマリー嬢の衣服に似ている。

……じっと見ていたら、その妖精たちは揃って首を傾げた。

可愛らしい妖精たちだ。

「ようこそ、妖精たち。ここは王都エイツォール。何の御用かな?」

通じるかは分からないが、一応声を掛けてみる。

すると、すすす、とやってきた妖精の内の一体が、どこか自慢げに私に紙を差し出した。

その紙を開く。

『メイドさん人形村オープン記念:全品銅貨5枚!』

見出しの下には、料理の絵と説明が乗っている。

……どうやら、飲食店の広告らしい。

「これを配りに来たのかな?」

問うと、一斉に頷いてみせる。

同僚に目くばせすると、同僚も軽く頷いた。

怪しい魔物の類では無いだろうし、目的もささやかで可愛らしいものだ。

「よし、通るが良い。まっすぐ行けばコロシアム前の広場だ。人が集まっているだろう」

通すと、妖精たちは次々にお辞儀をしながら通り過ぎていった。

……しかし、妖精が飲食店の経営をするとは考えにくい。

人との交流を図る妖精は過去にもいくつか例があるが、ここまで大規模なものとなると、誰か大妖精か精霊のような存在が……?

……私はそこまで考えて、ふと、思い至った。

もしや、彼女たちは、かのローズマリー嬢が使役している妖精なのではないだろうか。

ならば、ローズマリー嬢は……きっと、お忍びで人間の町を見に来た上位の精霊だったのだろう。

成程、それなら色々と合点が行く。

ローズマリー嬢は奴隷という身分を演じてはいたが、その主人と思しき青年達のローズマリー嬢に対する態度は、奴隷に対するそれでは無かった。

そう、主従が逆ならば納得がいく。

そうか。ローズマリー嬢が上位の精霊なら、異国人の青年達を従えていた事にも納得がいく。

……或いは、もしや……彼らは女神に導かれた勇者であり、ローズマリー嬢は……女神、だったのかもしれない。

……是非もう一度、お目にかかりたいものだ。

『メイドさん人形村』とやらに行けば、彼女に会えるのだろうか。




*********




我らが期待の新星は、遠い世界へ帰っていってしまいました。

その時に譲渡されたコレクションを眺めて、つくづくもう少し語り合いたかった、と、日々思うのでありました。


シャチ殿は、素晴らしいお方でした。

その毒物への愛と知識は誰よりも優れていて、この道に入って長い私でさえも知らないような毒物を作っては見せてくださる、毒の神に愛された方でした。

そしてその戦い方の美しい事。

完璧に毒を使いこなし、そしてそれを実現させる毒物の効能だけでは無く、土魔法の正確さや、しなやかな身のこなしに私達はまるで、白馬の騎士に心を射貫かれた乙女の様に憧れたものです。

しかし、シャチ殿は、彼のお国へ帰られるということで、その多大なコレクションの数々を我々『毒魔法研究機構』へ寄付して下さったのです。

それは本当に、コレクター垂涎の的ではありましたが……私は、その喜びよりも、シャチ殿にもうお会いできないという悲しみの方が余程強い様に感じました。

きっと、この世界には二度と、彼のような素晴らしい人は現れないのでしょう。

そう考えれば、ほんのひと時だけでも、彼に出会えたということで、私の人生は非常に幸多いものであったという事なのかもしれません。

……私のような爺には、もう残された時間も短いのでしょう。

その残りの短い時間に、色あせてかさついた時間に、極彩色の彩りを与えてくれた彼とせめてもう少しだけ、共に過ごしたかった、と。

……本当に短い間だけ存在していた友に思いを馳せるのでした。


そんなことを考え、毒物をほんの1滴垂らしたワインを嗜んでいた所、窓が叩かれました。

この屋敷には衛兵もいます。

そして、一応は私も貴族ですから、窓から挨拶するような不躾な客人は通れないはずです。

……不審に思って窓を見ると、そこには……妖精がいました。

妖精は変わらず窓を叩いています。

……開けて欲しいのでしょうか。

窓を開けると、その妖精はふわりと室内に入って来て、ぺこり、と優雅に(しかしどこまでも愛くるしく)礼をしてみせて、その手に持っていた紙を私に差し出しました。

「私に?」

尋ねると、その妖精は頷きます。

その紙を注意深く受け取って開くと。

『メイドさん人形村オープン記念:全品銅貨5枚!』

そんな見出しと共に、様々な珍しい料理の絵と説明がありました。

……どうやら、私は相当に面白いものを見つけてしまったようです。

顔を上げると、既に妖精はいませんでした。

きっと帰ったのでしょう。妖精とはそういう生き物ですから。

……まだ私の人生には、まだ色鮮やかな出来事がたくさん残っているようです。

早速、私は馬車の手配を始めることにしました。




*********




はあい、とこよ、元気?

あ、ごめんなさいね。アタシが動いたら天幕が崩れちゃうわね。

……にしても、宣伝してそんなに経ってないのにこれ、でしょお?凄いじゃない。

アンタ達、ホント、不思議よねえ……。

もう舞戸も居ないのに、なんで動いてんのよ。

しかも、何?『メイドさん人形帝国計画』って。

……は?ああ、そうねえ、確かに、人間はそうだっていうわ。

胃袋を掴むのが一番手っ取り早い、ってね。

……へえ、人間をメロメロにして少しずつ侵略していくつもり?

ふーん、面白そうねえ。

アタシ、帰らないでずっとここに居ようかしら。別にアイツに呼ばれたからって、居残る理由がアイツである必要なんてないんだし?

……え?やだ、嬉しいの?アンタ。

可愛いじゃないのよ、もうっ!

……そう、魚料理も出したいのね。

ならアタシに任せておきなさいよ!魚でしょお?ここなら海もそんなに遠くないわ。アタシが新鮮なの、いーっぱい、取ってきてあげる!

……あ、分かったわ。

アイツ、お肉要員なんだ。

へー、やるじゃない、とこよ。アイツ……ケトラミにどうやっておねだりしたのよお。あとでちょっと教えてちょうだいね。

でも、アイツ、とこよが可愛いのねー。ふふふふ、可愛いとこあるじゃない。

……っと、やばっ。帰ってきたみたいよ。多分琥珀鹿をいくつか、持って帰ってきてるわ。

行ってあげなさいな。

……うふふふ、頑張るのよお、とこよ。

折角ならこの世界全部、アンタ達の物にしちゃいなさいよ。きっと面白いわあ!


メイドさん人形達はこうしてこの世界を侵略し始めたのである。

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