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世界は魔法で満ちている

時間軸は最終話の後です。

視点は花村です。

これもいわゆる蛇足なので、ご注意ください。







気づいたら職員室の廊下に居ました。一瞬どこにいるのか分からなくて、固まってたと思います。

「花村さん!」

そしたら、廊下の向こうから走ってきた歌川先輩がぎゅーっ、てしてくれて、あー、帰ってきたんだなー、っていう気が、やっとしました。




結局、ジョージさんの所にいた人達は皆職員室の近くに居て、皆で顔を合わせたらなんとなく一緒に居ないと落ち着かなくて、私たちは学校の近くのファミレスに入りました。

「なんだか変なかんじだな」

相良先輩はずっとさっきから変だ変だ、って言ってて、ちょっとおかしいです。

「相良、さっきから五月蠅いぞ。良いじゃないか、結果だけ見れば十分良いだろ?本来友達にならなかったような奴と友達になれた、ってだけでさ」

今野先輩の言う通りかもしれません。

「まあ、私達、普通に考えたら、あのまま普通にしてたら話すことも無かったような面子よね」

歌川先輩は、学校のマドンナって奴だと思います。

凄く美人で綺麗で、成績も良くって。

あんなことが無かったら、私は一生お近づきになれなかったに違いありません。

「ねー。あたしぜーったい、歌川ちんみたいなのとは仲良くなれないなー、て思ってたのになー」

椎名先輩は今ではすっかり歌川先輩と仲良しです。

話してみたら気が合ったんだそうです。

「僕は加持君と友達になれて良かったと思ってるよ!」

「お、嬉しいねえ」

鏑木先輩と加持先輩も、あんなことが無かったら知り合わなかったかもしれません。

「私も海野君と話す事は無かったでしょうね」

「先輩と知り合えて良かったっす」

池田先輩と海野君は、趣味が共通しているんだそうです。

こういう事も、実際に話してみないと分からないですもんね!


「……でも、やっぱり足りないです」

でも、このメンバーには、足りない人がいます。

「あ、僕たちかな?」

「私達のこと?」

……三浦先輩と岬先輩が仲良く入ってきました。この2人も面白い人ですけど、そうじゃなくて。

「ジョージさん、ね。……そうね。舞戸さんの話だと、ジョージさんも高校生として、どこかに居ると思うけれど」

そうです。

私達にはジョージさんが足りません。

ジョージさんは……だらしなくて、寝坊助で、やる気が無くて、小汚くて……頼れる人で、カッコイイ人です。

私は、ジョージさんにまだ恩返しが終わっていません。

「安倉譲司、だろ?名前はそんなにありふれてない。探せば案外すぐ見つかるかもな」

……そうです。安倉、なんて苗字、そんなにある苗字じゃないです。

けれど、探す、って、どうやればいいんでしょうか。

私達は只の高校生です。

できる事なんて限られてます。

でも……やっぱり、私はジョージさんが居なきゃ、嫌です。




次の日は普通に授業でした。

とてもそんな気分じゃないのに、授業です!酷い!

でも、もう数学なんて頭から抜けちゃったよ、って、思ってたのに、やってみたらすんなり頭から出てきました。

……うーん、どういうことなんでしょう?

頭が整理してあるみたいなかんじで、不思議です。

あの世界に行ってきた私と、ずっとこの世界にいた私、2人の私が私の中に居るみたいな、2人じゃなくて、1つになってるような、混ざってるような、分かれてるような、凄く変なかんじです。

……あ、でも、こうなってないとジョージさんが困っちゃう。

だって、20年近くあの世界に居たって事は……この世界で過ごした時間より、あっちの世界で過ごした時間の方が長いって事で……ジョージさん、辛かったんだろうなあ。

……。

あっ、ど、どうしよう、泣いちゃいそうです……。


普通に授業を受けて、普通に下校しました。

何処となく生徒全員浮ついているようなかんじで、先生たちも不思議がってました。

……でも、話しても信じてもらえないんだろうな。


駅までの帰り道で、ちょっと寄り道しました。

今まで寄り道なんてしたことなかったんだけれど……あの世界に行って、冒険癖がついちゃったのかもしれません。

駅と反対方向に向かって歩き始めて、そのまま1時間ぐらい、ずっと歩いていました。

それで、一軒一軒、家の表札を見て。

……私は、やっぱりジョージさんを探してるみたいです。

こんな探し方して見つかる訳無いのに。




結局、夕日が沈む頃、私は諦めて家に帰ることにしました。

……どうやったら見つけられるかな。

今のジョージさんは、高校生のはずで……あ。

そっか。高校生、なんだ。




「ああ、その話なら聞いていますよ」

次の日の朝、担任の稲村先生にお願いに行ったら、予想外の答えが返ってきました。

「皆、不思議な世界に行ってたんですね?いいですねえ、僕も行ってみたいです」

……稲村先生は、もう私達があの世界に行ったことを知っていました。

前からこの先生はエスパーなんじゃないかとか、猫又の成れの果てなんじゃないかとか、妖精だとか、色々言われてるけれど。

「昨日ですねえ、三浦君と岬さんが……ああ、うちの放送部の部員が。お話ししてくれたんですよ」

ああ、あの2人が……。納得です。なーんだ。

「それで、僕に聞きたいこと、とは?」

「この学校以外で、生徒の様子がおかしくなった学校を知りませんか?」

舞戸先輩に前聞いた話が本当なら、今まであの世界に行ったことのあるこの世界の人は皆、私達が居るこの時間と同じ時間の出身のはずです。

だから、そういう学校を探せば、きっとその中にジョージさんの居る学校があるはずなんです。

「僕もそんなに色々な学校の事情を知っているわけじゃあありませんからねえ」

ですよね。

知ってたら、それはそれでちょっと怖いです。

「……でも、僕の教え子が去年から先生をやっているんですけれどね?その子が、生徒の様子がおかしい、って電話をくれたんですよ。……なんでも、その学校でも、皆生徒が不思議な世界に行っていたんだそうです」

し、しししし知ってるじゃないですかーっ!怖い!

「そ、その学校って」

「県内の男子校ですよ。詳しい事は言えませんが」

……県内に男子校なんて、ほんのちょっとしか、無いんだから……もう答えを聞いちゃったみたいなものです。

「あの、えっと……その先生と、お話できませんか?聞きたいことがあるんです」

「そうですねえ、あの子も忙しいみたいだから……うーん、何か聞きたいなら、代わりに僕がきいておきますよ?何を聞きたいんですか?」

変、ですよね。

いきなり、面識も無いはずの、他所の学校の高校生の名前を出して、知りませんか、なんて。

……でも、やっぱり私はジョージさんを探したい。

「安倉譲司、っていう人を探してるんです」




その日の放課後。帰りのホームルームが凄く早く終わって、稲村先生が私を呼びました。

ちょいちょい、って、手でやる仕草が……凄く、妖精さんです……。

「お昼休みに電話が来たから、聞いておきましたよ。残念ながら、安倉譲司という生徒はその学校に居ないみたいですねえ。少なくとも、教え子は知らないそうです」

「そう、ですか……」

……ううん、ここで見つかる方がむしろ、おかしいんだもの。

こんな所で一々落ち込むなんて、馬鹿げてます。

「でも、安倉譲司、という男子高校生の事は知っていましたよ」

……え?

「その僕の教え子の先生っていう子がねえ、文芸部の顧問をやっているんです。それで、県の文芸コンクールの最優秀賞が、安倉譲司、という生徒だったはずだ、と」

……ああ。

あああああ。

この世界って……この世界って……十分、魔法の世界です!




次の日は土曜日でした。

私達の学校は、隔週で土曜日に授業があります。

けれど、今週は土曜日がお休みの週です。

……ジョージさんの事を調べました。

最初っからネットで調べればすぐ出てきたんです!安倉譲司!

学校も調べたらすぐ出てきました。安倉譲司。

もー!腹立つ!すっごく腹立つ!

……で、えっと、その、ジョージさんの学校の話です。

ジョージさんの学校は、土曜日も毎週学校です。かわいそう……。

なので、凄く古典的な方法で……校門の前で待つ、っていう、方法で、ジョージさんを探す事にしたんです。


朝の10時位に、電車に揺られてその学校まで行く事にしました。

あんまり朝早くからだと、凄く不審ですもん、きっと。

でも、12時位に行ったら道に迷ったりした時に遅くなっちゃいます。

だから11時位にしようかな、って思ったんですけど……。

……結局は、居てもたってもいられなくて。出てきちゃいました。


土曜日の遅い朝だったのに、電車はちょっと混んでいました。うわー、上りの電車ってやっぱり混むんですね。

座席は全部埋まってて、つり革も殆ど埋まってます。

ドアの近くの棒に掴まって、6駅位、ゆらゆら揺られることになりました。


5つ目の駅を過ぎて少ししたあたりでのことでした。

ますます込み合う車内で、縮こまるみたいに電車に乗ってたら。

……誰かに、お尻を触られました。

……ちょっとぶつかった、とかじゃ、ないです。うん、違う。

多分、前の私だったら、こうして固まったまま、何もできなかったと思います。

でも、今の私は、歌川先輩仕込みの冷静さと、椎名先輩仕込みの度胸があるんです!池田先輩仕込みの良識は置いておきます!

素早く私のお尻を触っていた手を掴んで爪を……あれ、無い!

手が無い、と、思ったら。

「このオッサン痴漢です」

ちょっぴり学ランを着崩した男の子が、おっさんの手を掴んでいました。


……ああ。

「次の駅で下ろすんで、そこのおにーさんとおねーさん、手伝って下さい。時間、大丈夫ですか?」

そして、その男の子はてきぱき周りの人に指示を出していきます。

すごく、慣れてるかんじ。

「あ、そこのお姉ちゃんも悪いけど証人として来て……」

……目が合って初めて、その男の子はやっと私に気付きました。

「……は、なむ……?」

時間が止まったような感覚。

その人は想像していたよりも若い、っていうか、幼い印象で、なんだかおかしくなっちゃって。

「ちょっとぶりです、ジョージさん」




随分後になってから、歌川先輩と相良先輩も私と同じようにあの日、ジョージさんの高校の前で待ち伏せしていて、結局さぼっちゃったジョージさんと会えずじまいだった、っていう話を聞いて、ちょっぴり優越感でした。

一番最初にジョージさんを見つけたのはこの私なのです。

運だろうが偶然だろうが、最初に見つけたのは私なのです。

……ああ、この世界も。魔法がいっぱいあるんですね。

ジョージさんは寝坊した模様。

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