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猫耳を澄ませば

猫耳が生えます。


視点は鳥海です。

時系列は158話と159話の間です。

猫耳が生えます。

キャラクターのイメージが崩れる恐れがあります。

ご注意ください。


「生えた」

舞戸さんに耳が生えてた。

……うわー。




「本物?」

「やだやだ痛いひっぱんないで」

羽ヶ崎君が舞戸さんの頭に生えた猫耳を引っ張ると、舞戸さんが痛がる。

本物なんだろうなー、あれ。

「尻尾も生えたり?」

「生えた」

尻尾はスカートの中だろうから確認はできないけど、尻尾も生えたらしい。ん、まあ。普通耳が生えたら尻尾も生えますわな。

「……原因は、あれか」

「あれでしょうねえ」

煙になっちゃった、猫みたいな奴。


ええと、この世界から帰る前に、折角だからこの世界を満喫しよう、っていう事になってここ数日は遊んでて。

その一環で、景色が綺麗な高原を見つけたから、そこでお昼ご飯食べようぜ!ってことになったんだわ。

それで、ご飯食べてたら。

「にゃー」

「この世界にも猫っているんだね」

猫が舞戸さんの足元にすり寄って来てたんだけど……けどさ、普通の猫って、羽生えてたりしないんじゃないかなー、って、俺は思った。

「……いや、どう見てもそれ、モンスターかなんかの一種でしょ」

倒す?っつって羽ヶ崎君が杖を構えると、その猫(?)は毛を逆立てて威嚇し始めた。おおこわいこわい。

「いや、でも危害を加えようとしているようにも見えないし……駄目かな、見逃しちゃ」

その時にはもうその猫(?)、舞戸さんの膝の上に丸くなってたんだよね。

それ見たら羽ヶ崎君も何も言えなかったみたいで、その時はその猫(?)、見逃すことにしたんだけど。


……けど、帰る時になって、猫が離れなかったんだな、これが。

「よーしゃよしゃよしゃよしゃ。ほら、離れなさいっての」

「うにゃー!」

しょうがないから舞戸さんが多少無理矢理引き剥がしたんだけれど、その時……その猫(?)が。

「うにゃっ!」

って、鳴いたな、って思ったら……次の瞬間、ぼんっ、て、音がして、煙になった。

……それが収まった時には、もう舞戸さんに耳が生えてた。

そして巻き起こる笑いの渦。

鏡を出して舞戸さんも見て、触って、舞戸さんは一人でパニック。

いやー、笑った笑った。


「で、どうすんの、これ」

羽ヶ崎君は舞戸さんの猫耳が気に入ったらしくって、ずっと触ってる。

……舞戸さんがそろそろ泣きそう。かわいそう!止めてあげて!

「舞戸さん、『お掃除』は試しましたか?」

「いや、なんかさ、この耳、自分の一部だっていう認識があって……上手くいかない」

そんなものを消したら危ないんじゃない?下手したら舞戸さんごと消えない?

神経も通ってるみたいだし、下手に消したら大変なことになっちゃわない?

「……とりあえず、もう一回あの猫っぽいのを捕まえてみるか」

「あの猫っぽいのを『鑑定』したら何か分かるかもしれないですもんね!」

しょうがないから、その辺りを探してみたんだけれど。

「……あっちから猫の声が聞こえる」

……なんか、舞戸さん、猫耳生えたら耳が良くなったらしいね。

舞戸さんの言う方に進んでみることにした。




進んでみたら、そこにはいっぱい、例の猫っぽいのが居た。うーん、ここが集会所?うーん。

それにしても、ほんとにいっぱい。

足の踏み場もないぐらい。

「ふしゃーっ!」

「あ、猫踏んじゃった」

だから、針生が踏んじゃったのもしょうがないとは思うんだけどさ。

踏んづけた猫が「ふしゃーっ!」って鳴いたなあ、って思ったら、もうその次の瞬間にはぼんっ、って、また煙になって、それで連鎖して、そこに居た猫全部、煙になっちゃった訳で。

歩くのが遅い舞戸さんに合わせて歩いてた俺までがぎりぎりで巻き込まれて、舞戸さんは一応圏外だったみたいね。

「けほ……皆大丈夫か?」

「こっちは平気……じゃ、無いです。全く平気じゃありません」

社長がいつにも増して早口になった理由が分かった。

煙が晴れた時、俺たち全員猫耳生えてた。

巻き起こらない笑いの渦。

やっぱり甘いのって他人の不幸であって、自分の不幸じゃないんですわー。

……うーん、どうしよう。

誰も得しないよねー、こんなの。早く戻さないと。


「……しかし、今日はもう暗くなる。この辺りのユニークと遭遇すると面倒だ。今日はここで探索終了だな」

鈴本の意見も尤もだと思うんだけれど、つまり俺らは一晩、耳と尻尾を生やしたまんま過ごさなきゃいけないって事で……うーん、やだけど、しょうがないね。

「とりあえずこれは……一日は、放置しておくしかないですね」

社長も諦めたみたいだから、もう反論できない。

「意外と皆猫耳似合うよ、っ……ぷふふふふふははははは!」

舞戸さんが俺らを見て大笑いし始めたけれど、舞戸さんにも耳生えてるんだよなあ。

所詮同じ穴の何とやら。

「うっさい」

怒った羽ヶ崎君が舞戸さんの猫耳を引っ張ろうとするけれど、その羽ヶ崎君にも猫耳生えてるんだよね。

だから全然怖くない。あ、笑えてきた。

「とりあえずご飯にしよっか。このまま居ても埒が明かないし」

舞戸さんがくすくす笑いながら教室を展開してご飯の支度を始めた。

今日のご飯は何かね。

「……これ、どうすんの……?」

角三君が落ち着かないみたいで、そわそわしてる。

「状態異常回復薬を飲んでも効果が無いんです」

社長はもう薬飲んだらしい。早い!

でも効果が無かった、って事は、今打てる手は無いって事だからなー。

んー……とりあえず、今日はこのまま、かなあ……。




ご飯は焼き魚だった。

うーん、もしかして、猫っぽいご飯にしたのかな?ん?違う?


それから、いざ寝る、っていう時に困った。

「尻尾が!耳が!邪魔ああああ!」

仰向けになると尻尾の具合が良くなくて、横向くと耳の具合が良くない。

「うつ伏せで寝る俺は勝ち組ですねえ」

刈谷がうつぶせに寝っ転がって、尻尾を振ってた。羨ましい。

どうしようかね。俺は仰向け派なんだけど。

「……丸まるといいかんじ?」

角三君が『地震です!机の下に隠れてください!』の時みたいに、うつぶせで丸くなってた。

あー、それで寝られるならいいと思うけれど。多分寝られな……寝てる、だ、と……?

「……舞戸はどうやって寝てんの、あいつ」

気になったらしくて、羽ヶ崎君は外に出た。

……暫くして、戻ってきた。

「もう寝てた」

「どうやって?ねえ、どうやって?」

「ケトラミに斜めに凭れるみたいな」

あー、そっか、ケトラミで寝るとふかふかだから、そこまで気にしなくてもいいのかも。

いいなー。

「……諦めて寝るかな」

「そうしよっか」

しょうがないから、各自ごそごそもぞもぞしながらなんとか寝ることにした。

……早く戻さないと、不眠症になりそう。




なんか重いなあ、って思って起きたら、角三君と針生が乗ってた。

……針生はいつもの事なんだけど、角三君も?

よく見たら、その横で鈴本も丸くなってた。うわあ、珍しい。

「ちょっと重いから退いてねーっと」

角三君と針生を退かして起きて外に出たら、社長はもう起きて、何か作っては飲んでた。

「おはよっす。何やってんの?」

「おはようございます。ひたすら毒でも薬でも作って飲んでいますが、一向に効きません」

よく見たらなんだか顔色が悪い。

「むしろ悪化してきた気がします」

うん、もうやめておいた方がいいと思うわ。

ちょっと社長の目が座ってて怖い。そんなに気になるのかな?猫耳。

確かに耳が良く聞こえるかんじするし、尻尾は変なかんじだけれど。


「ところで舞戸さんは?まだ?」

「ケトラミが離さないんだそうです」

どういうことか気になって見に行ったら、ケトラミが尻尾でしっかり舞戸さんを包んで離さないのが見えた。

「ケトラミーッ!離せえええええ!ごはん!ごはん作らないと!」

ケトラミが何を言ってるのかは聞こえないけど、とりあえずケトラミは猫耳が生えた舞戸さん、気に入ったみたい。

うーん、耳同士の親近感とか?いや、適当だけど。




朝ごはんはパンだった。

あれ、猫じゃない。猫まんまが出てくるんじゃないかと期待してた俺、ちょっとがっかり。

いや、俺はパン派だから嬉しいけど。

「そろそろ……戻さないと、駄目だ」

鈴本の元気が無いなあ。大丈夫?なんかやつれてない?ん?

「もう一回、あそこに行きましょう。今度は猫ふんじゃったは無しで……」

「ごめんってば」

針生がしょんぼりしてる。うん、まあ、そんなに気にしなくていいと思うよ?

「それで、一切傷を付けずに捕獲しましょう。舞戸さん。やわらかい布か何かで袋を作って下さい」

「これでよければあるでよ」

作り置きの袋があったらしいね。

うん、じゃあ、これで出発できるかな?

「エサはこれを使いましょう」

言いながら社長は何時ぞやのガスマスクを付けてから、何かをどこかからとってきた。

「またたびの枝と葉です」


その瞬間、俺達に衝撃走る!

「……」

無言でふらふら角三君がそっちに吸い寄せられてたから、とりあえず襟首引っ掴んで止めておいた。

「……なに、これ」

羽ヶ崎君は頭抱えて座り込んだ。あー、現実逃避のポーズだ。

「しゃちょー、しゃちょー、それ、ちょーだい、ちょーだい」

「ちょーだーい」

「しゃちょーだいすきー」

「すきぃ。しゃちょーすきー」

針生と舞戸さんがとろん、とした顔で社長に吸い寄せられていった。

犯罪の香りがプンプンするぜ!

「うわあ、皆大変だねえ」

加鳥はフルフェイスのヘルメットみたいなの被ってやり過ごしてた。

それ、舞戸さんあたりに貸してあげたほうがいいんでないの?

「うううおあああああああ!」

そして、突如刈谷が……刈谷が咆哮を上げたかと思ったら、とりあえず近くに居た鈴本に襲い掛かった。

「甘い」

で、刀の鞘で沈められた。

「あれ、鈴本は大丈夫なの?」

この様子みて、鈴本は大丈夫なのかと思ったんだよ。

「全然大丈夫じゃない」

あ、大丈夫じゃなかった。

短刀を自分の腕に刺して耐えてた。さっすが侍!かっこいいね!

「鳥海は」

「ん?俺は平気。ほら、猫化の煙、あんまり浴びてないし」

或いは、またたびが効きにくい体質なのかもね?

酒とかもそこそこ強い家系だしなー。




「という事で、もう一度言いますが、これを餌にして釣ります」

加鳥が予備のヘルメットを大量に持ってきてくれたので、とりあえず全員正気に戻った。

「お、俺は一体何を……」

「わ、私は一体何を……」

針生と舞戸さんが頭抱えてる。

社長だいすきー、っつってごろごろしてたよ?

うん、なんか結構面白かった。

「これを袋に入れておいて、その袋の口にこういう仕組みを仕掛けて」

そう言って社長は図を出してくれた。

ふーん。中に入ってちょっとごろごろしたりすると口が閉じる仕組みっぽいね。

「捕まえたら舞戸さんが『子守唄』で眠らせてください。それを回収して調べましょう」

ちなみに、この間も俺達全員フルフェイス。

いやー、これ、超怪しい集団っすわ。




それから高原に出て、全員で猫耳を澄まして猫っぽいアレの声を聞き分けて、また猫っぽいのの集会所を探した。

「あ、居たね」

「にっくきあんちくしょう共を今こそ捕まえてやるのだ」

その近辺に袋を仕掛けて、全員離れた所で観察してた。

「あ、入った」

すると、面白いぐらい、袋にバンバン入ってくんだな、これが。

流石またたび。

「回収してくるね」

そして、猫っぽい何かは次々と引っかかっては回収されて、社長に調べられた。

で、時々爆発した。


結果。

「できました」

社長が数時間でやってくれた。

「猫耳と尻尾が生える薬です」

……そっち!?


そしてお昼ご飯を挟んで、更にその数時間後。

「できました」

うん。今度こそだよね?

「猫耳と尻尾が消える薬です」

そう言う社長は、もう猫耳も尻尾も無い。

おおー、という歓声と拍手が起こる。

……けれど、社長がそれを沈めて、とんでもない事を言い出した。

「ただし、材料の都合であと7人分しかありません」

……社長の狂気を感じるッ!


「……何で決める?」

まあ、そうなったらそれはそれで、俄然やる気になるんだけどね。

「大富豪10回戦の総合得点とかどうかな?」

「俺がディーラーをやるのでブラックジャックにしませんか?チップ代わりになる『碧空の種』は沢山ありますし」

「え、俺それルール知らない」

「じゃあテキサスホールデムで」

「しらなーい」

「しらなーい」

「知らん」

「もう大富豪でいいじゃん……」




結局、もう一日猫耳&尻尾の刑に処されたのは刈谷だった。

「猫耳かわいいねー」

「かわいいねー」

「もうやめてくださいよう」

まあ、他人の不幸はなんとやら、って奴で、自分が不幸じゃなくなった途端、皆で不幸な奴を弄りに行くっていうね。平常運転平常運転。

その後も、異世界満喫週間中、罰ゲームにこの猫耳発生薬が使われることになったり。

いやー、楽しかったー。


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