妻も妹もおねーさんも
針生視点です。
時間軸は154話です。
キャラクターが崩壊します。ご注意ください。
「でも、舞戸さんってお母さんみたいだから、針生が間違えるのもしょうがないと思うなあ」
加鳥がフォローしてくれたけど、むしろ、それ、傷抉ってる!
舞戸さんは、俺達が苦手な家事とかを全部やってくれてる。
だから、そういう意味でも『お母さん』なんだけど、それ以上に、俺にとっては『お母さん』なんだよね。
……恥ずかしいんだけど、俺、拷問された後に舞戸さんに思いっきり甘えちゃったんだよ。
今思い出すと、過去の自分をぶん殴りに行きたいレベルだわ!
うわー、何やってんの、俺!引くわ!今の俺が引いてる!
……いや、うん、その、今でこそ、舞戸さんに整理してもらってさ、結構思い出しても平気なんだけど、その時はマジでやばかったんだよね。
思い出しただけでパニくるとか、吐きそうになるとか、そういうかんじで。
何やられたのか、っていうのは……ちょっと勘弁してほしい。
口に出したらなんか、こう、なんか、はっきりしちゃいそうだし。
……だから、舞戸さんにその時甘えさせてもらって、助かったんだと思う。
そう言う意味では、舞戸さんは『お母さん』なんだよね。
「んー、俺、どっちかって言ったらお姉ちゃんじゃないかなと思うわ」
で、加鳥がわざわざ俺の傷口抉ってくれちゃったその後に、鳥海がそういう事、言い出した。
「俺も舞戸さんはお姉ちゃん、だと思います。……お母さん、っていうよりは」
刈谷もお姉ちゃん派らしい。
うーん、ええと、つまり……どういう感覚なんだろ?
「こいつ、姉ちゃんってよりは、妹でしょ」
「羽ヶ崎君に同じ」
あ、あれ?羽ヶ崎君と鈴本は、妹、かあ……。
……この2人は、この世界に来た瞬間から舞戸さん見てるから、そういう感覚が強いのかも。
ほら、舞戸さん、その時は……あー、言っちゃ悪いけど、ほんとに足手纏い、だったから。
あ、その、守ってあげなきゃ、って、そういう意味で。
そういう意識が強いから『妹』みたいに感じるのかもね。
「おいおいおいおい!君達、何、私、妹か!?妹なのか!?……そういえば妹だった」
あ、そうだね。舞戸さんはお兄さんが2人いたはずだから、そういう意味では妹なのかも。
「あれ、社長は?」
社長も妹派かな、って思って聞いてみたら、冷静に返された。
「舞戸さんを精神的に幼いと思った事はあまりありませんから、妹というと少し違う気がしますね。あくまで対等だと思っているので」
……それってさー、俺の精神が滅茶苦茶幼いってこと?
そうだよね、遠まわしにそういう事言ってるよね!?
「そういう意味で一番近いのは配偶者かもしれませんね」
社長はさらっとこういう事言えるから凄いよなー。それがやらしいニュアンスにならないし。
俺、思ってても絶対『はいぐうしゃ』とか、言えないわ。
「角三君は?」
「……双子、の……姉ちゃん、か、妹、か……んー……」
考え込んで角三君はそのまま動かなくなってしまった。
あーあー、キャパオーバーしちゃってる。あとで再起動しないとじゃん。
「まあ、双子っていうか、年子だよな」
鈴本が尤もな事言った。
そりゃ、俺達同い年だけどさー、そういう話してるんじゃないじゃん……。
「……実際の所、どうだっけ、僕たち。舞戸が10月なのは覚えてるんだけど」
「最初が俺。4月8日」
羽ヶ崎君が零した疑問に、角三君が答えた。
俺が再起動するまでも無かったかあ。
……なんか、嬉しいらしい。角三君の顔がちょっと嬉しそう。
「次は僕かなあ。6月4日だけど」
加鳥がそう言うけど、甘いんだなー。
「俺、5月6日!」
誕生日順に並べると、俺が2番目にお兄ちゃんなんだよね。
だから何、って話なんだけど。
「俺が5月10日だから、加鳥はその次だな」
「いいえ。加鳥の前に俺です。6月2日なので」
うわー、刻むなあ。
「で、社長の次は多分僕でしょ。8月10日だから」
わー、結構飛んだなー。
「鳥海が9月の10日だっけ?」
「ん。そ。」
10日生まれが2人並ぶんだ。
「最後は俺ですね。1月9日なので」
最後は刈谷、と。
暫く鳥海が考えた挙句、俺の顔見て失礼な事言った。
「精神年齢と誕生日って、相関しないよね」
……俺、文句があるの、刈谷が最後な事ぐらいなんだけど。
え、ねえ、もしかして俺に文句あるの?ねえ。
ご飯が終わって、舞戸さんと社長が奈落に行っちゃった後で、加鳥が話しかけてきた。
「針生はそんなに幼くないよ」
……なんで考えてること分かるんだろう。
「顔に出てるよ」
加鳥はゆるい笑顔を浮かべながら俺の隣に座った。
「舞戸さんは友達でしょ?」
「うん」
妹でもお姉ちゃんでも、お母さんでもない。
それはみんな分かってる。
「友達なんだから、接し方がちょっとずつ違ってもいいと思うなあ」
それも分かってる。
けどさ、なんか俺だけ甘えてるみたいで、なんか、恥ずかしい。
皆はそういう事しない、って分かってるけど、馬鹿にされてる気がする。
……ああああ、やっぱり、あれは、無い。
ホントに俺、何やってんの……。
「それにやっぱり、皆舞戸さんはお母さんっぽいなあ、って思ってるんじゃないかなあ」
そりゃ、鳥海と刈谷は、もしかしたら角三君もそうかもしんないけど。
「……鈴本と羽ヶ崎君は」
「あの2人はかっこつけたがりだから」
……あー、うん。それは分かる。
鈴本とか、特にそう。
「舞戸さんはさ、多分頼られたいと思うよ。僕たちが大変だって思ってて、それで、少しでも返したいって思ってるんだと思う」
加鳥の言う通り……あ、韻踏んでる……じゃなくて、うん、舞戸さんはちょっと、俺達の事を過大評価してると思うんだよね。
……なんでだろ。俺達、そんなに大したことしてないと思うんだけど。
あ。いや、そりゃーさ、命がけで戦ってるよ?
けど、それってさ、分業してるってだけだと思うんだけど。
……やっぱり、舞戸さん、ほら、元々の性格はさ、戦闘員向きだと思うんだけど。……でも、非戦闘員になっちゃったから、だから、なのかな。
「でも、社長含めてあそこの3人はさ、ちょっとやり方が違うみたいだから。だから、針生の役割も大事だと思う。別に針生が他の人の事気にして舞戸さんとの接し方変えなくてもいいと思うよ」
加鳥はそう言ってにこにこしてるけど。
「……加鳥って、ホントに同い年?社長とかも見てて凄く不安になるんだけど」
「やだなあ、なんで?」
「……いや、なんとなく……」
加鳥より社長の方がやばいけどさー、なんか、こう……やっぱり、俺、弟向きだ。お兄ちゃんは辞退する。
「あと、さ。舞戸さん、『お母さん』って間違われたとき、ちょっと嬉しそうだったよ」
また違う角度から傷抉られたところで、舞戸さんが社長と一緒に帰ってきちゃったから、ここでお終いになった。
それから、数日後の朝。
「あ、母さ……」
「……うん。何?」
「……いや、何でもない。忘れろ」
鈴本が、うっかり言い間違えてる所に遭遇しちゃった。
……あれー、もしかして。
「ねー、舞戸さん」
気になっちゃったから、朝ごはんの支度を始めた舞戸さんに聞いてみる。
「あのさ、もしかして、俺と鈴本以外にも舞戸さんの事間違えて『お母さん』って呼んだ人、いる?」
聞いてみると、舞戸さんは野菜を刻む手を止めて、にこーっ、って笑った。
「各自一回ずつは間違えてるね」
……え。
「社長も?」
「あ、ごめん。社長は除く。唯一間違えたのが『姉貴』だった」
あ、びっくりした。いや、それも十分凄いけど。……え?
「加鳥も?」
「うん。『あ、お母さん、ちょっといい?』っていって、そのまま本人は気づかずにナチュラルに会話してナチュラルに会話が終わったから、本人気づいてないかも」
……あー。
あーあーあーあー。
うん。なんか、凄く、ほっとした。
「そっか。ありがと。『お母さん』」
「いいえいいえ」
……うん、やっぱり、舞戸さんはお母さんっぽいと思うんだけどなー。
もし登場人物の誕生日の由来が分かっても、なんとなく内緒でお願いします。
答え合わせしたい、という奇特な方は、感想欄あたりに舞戸の誕生日を理由は抜きでお答えください。