とこよはもっとお話を聞きたい
メイドさん人形の『とこよ』が、グライダとマルベロに話を聞きます。
時系列は150~160話あたりのどこかです。
あら、アンタ、何?舞戸の使い魔かなんか?
え?似たような物?へー、そう。
カワイイじゃない、この服。舞戸が作ってくれたの?良かったじゃない。あらやだ、アンタ、可愛いわねえ。
……って、やだ。アタシったら、自己紹介がまだだったわね。
アタシはグライダ。玻璃蜘蛛の一族のできそこないの末っ子よ。ヨロシクね。
ま、最も、今は舞戸に魔力借りてるから、そこそこ強いわよ。少なくとも、兄弟の弱いのには負ける気がしないわ。
……は?ケトラミとどっちが強いか、ですって?
やあだ、アタシはアタシ、アイツはアイツよ。比べたってどうしようもないでしょ?
……え、気になるの?やあねえ……うーん、そうねえ。
……認めたくないけどね、多分、千回戦って、やっと1回勝てたら御の字、ってとこね。
アイツは戦闘狂よお。
戦う以外の事、ぜーんぜんやらずに生きてきたんですもの。
アタシみたいに、女磨きしてたのとはもう、根っから別物よ。
それが良い事かはまた別よ?アタシは戦っても楽しくないからこういう生き方してるんだもの。アイツは戦って楽しいから戦闘狂なんでしょうよ。
アタシみたいに、もっと文化的な生き方すれば楽しいのにね。……って、その結果が舞戸なのかしらね。
びっくりしたわよ。アイツ、舞戸の眷属になってんだもの。
アイツの事だから、てっきり一匹狼貫くんだと思ったんだけどね。すっかり丸くなっちゃってるし。
……よっぽど、気に入ってんのねえ。
え?アタシ?アタシも好きよ、舞戸。
柔らかくって、すべすべしてて、良いじゃない?ほら、アタシこんな体だからさ、綺麗は綺麗だけど、図体はでかいし、可愛くは無いでしょ?
だから可愛いものは好き。舞戸、好きよ。アンタも好き。可愛いもの。
やあだ、何、照れてるの?ホントに可愛いんだから!
……っていうのだけじゃなく、好きよ。
あの子、見てて面白いんだもの。ね、アンタもそうでしょ?
ケトラミが側にいるの、分かるわ。
……アタシたち、ユニークモンスターは、基本的には孤独よ。
本当に、文字通り一匹狼なの。
ケトラミは本当にそうね。アイツは生まれた時からユニークモンスター。孤独なの。そういう意味ではハントルとは違うわ。
ま、ハントルも、思えばそういう宿命だったのよね。舞戸のおかげで逃れてるけど。
……ハントルの一族は、ね。代替わりの時に、親を食い殺す事が決まりだったのよ。ほら、腹の中に何か持ってたらしいじゃない?それを受け継ぐのに、って。
そう言う意味では、アタシの一族って、本当にイレギュラーね。
兄弟がいて、それを全部殺して、最後に残った奴がユニークモンスターなの。
……え?それ、アタシはユニークモンスターじゃないんじゃないの、って?
やあだ、生き残ってれば十分ユニークよ!だって、それで十分、珍奇じゃない?
……兄弟?そうねえ、碌な奴じゃなかったわよ?
全員、悪い意味でケトラミみたいな奴らなのよ。
こう、美しい、とか、愛おしい、とか、そういうのを全然理解できない奴らだったのね。
宿命なのかしらねえ、ユニークかくあるべき、みたいな?
だから、アタシはアイツら、嫌いよ。殺してやりたいぐらい。元々そういう一族だしね。好きになれなくて良かった、って思ってるわ。
……って、やだ、ケトラミの話よね。
つまりね、まあ、孤独なのよ、私たちは。
アイツも、偶々会ったアタシと気まぐれでパス結んじゃう程度には、孤独なの。寂しいの。
ホント、ね。
アイツからしたら、アタシなんて、雑魚でしかないのにね。
同じ境遇、同じ運命、つまり、同じユニークモンスターだ、ってだけで、親近感湧いたらしいわ。
……今、この話したら、きっと殺されるわねえ。ええ。「お前とパスを結んだのは俺の数少ない失敗の1つだ」とか言うのよお?自分からパス結びに来たくせにね?可愛くないんだから。
小さい頃は可愛かったのよお、アイツ。
……ま、アタシのエリアとアイツのエリアって、かなり距離あったから。会ったのは精々ほんの、アタシの脚で数えられる程度よ。この年になるまでに、ね。
おかげでアタシとアイツは腐れ縁、って事。
逆に、かなり遠いアタシとは何回か会ってるのに、ハントルのお母様とは交流が無かった、っていうのが驚きだったわ。……まあ、あんまり友好的な方じゃなかったらしいしね、ハントルのお母様。
……だから、アイツは多分、ずっと孤独で、それで、舞戸と会って、偶々、舞戸が未熟なパスを繋ごうとしてきたから……だから、一緒にいる事にしたんだと思うわ。分かんないけどね。
言い訳よ、結局。『面白いから殺すのは後にしてやる』なんて。
単純に、自分と向き合って、自分と対等になってくれる存在が欲しかっただけでしょうよ。
舞戸は弱いけど、ほら、そういうとこは……んー、なんていうのかしら。変ね、弱いのに、強いのよね。だから、アイツも妥協できたんじゃないかしらね。言い方悪いけど。
……或いは、もっと、こう、可愛らしい感情なのかもね。アイツが舞戸に抱いてるのって。
……あ、ちょっと、アタシがこういう事言ってた、って、アイツに言わないでよね?殺されちゃうわ!
一々照れ隠しで殺されてたら命が幾つあったって足りないわよね!やんなっちゃう!
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……はっ!寝ておりません!私は寝ておりません!……って、ああ、とこよさんでしたか。
……は?お話?
いえ、私はまだ舞戸様の僕となって日も浅く、そもそも、今まで生まれてからずっと奈落におりましたもので、地上の事もろくに……。
はい。あっ。成程。その奈落についてと、魔王様についてですね。
確かに、それならば私が適任でしょう。
自己紹介が遅れました。私達は、奈落の門番を務めておりました。マルベロと申します!
名前は舞戸様に頂きました!
3つの頭で1つの生き物です!
どうぞ、よろしくお願いします。
……え?なんで頭が3つあるのか、ですか?
えー……さあ、生まれた時から私達は3つの頭で1つの生き物だったので。
考えた事もありませんでしたね。
とこよさんには頭が1つで当たり前ですよね。私はそれと同じように、頭3つで当たり前なのです!
頭3つは便利な事も多いです!
何しろ、1つの頭が寝ていても残り2つが起きていれば見張りとしては万全です!
早食いだって負けませんよ!
理由については、おそらく、私をお作りになった魔王様ならご存知でしょう。
……その魔王様についてですか?
ええ、私が生まれてからの事しか私は分かりませんが、お話します!
まず、奈落というのは、この世界を創るにあたって、女神さまがお創りになった場所だそうです!
魔王様曰く、「世界は綺麗なだけじゃ成り立たない。綺麗に作ってもその中に淀みが生じる。だから始めから淀みが流れてきて、浄化される機構を作っておいた方が利巧というものだ」という事なのだそうです!
……はい!とこよさんは察しが早いですね!
そうです!奈落とは、世界の淀み……ええと、人間や植物や動物や、ありとあらゆる生物の、そして空や海や大地の、こう、負の部分、というか、そういうものが淀み、らしいのですが、まあ、それが集まり、そしてそれを浄化する場所なのです!
浄化の方法、ですか?それは、私達ですよ。
はい。モンスターにします!
モンスターは、あらゆる負の部分からできているのです!
そして、モンスターとして生きていくことで、負の部分を消化していくのです。
具体的にはですね、モンスターが死ねば、それは浄化ですね!
……はい!そうです!
私は、奈落のモンスターを食って、浄化する役割を果たしておりました!
ユニークモンスターは、元々そういう役割を担う存在なのです!
私はこの仕事に誇りを持っております!
……え?門番だっただろう、って?
ええ、魔王様が寂しいのではないかと思いまして!
……ええ。魔王様は、奈落を離れることができないのです。
何故なら、魔王様が楔となって、奈落の扉を押さえてらっしゃるからです。
人間が奈落の扉を開いてしまった事はご存知ですか?あ、ご存知ですか。
はい。
その時、魔物が地上に出て行ってしまいました。
本来、奈落で完結していた関係が、地上にまで及んでしまったのです。
そして、そのせいで人間たちの負の感情が増えてしまいました。
そのせいで奈落には淀みが溢れ、モンスターは増える一方だったのです。
……この悪循環を閉じるために、魔王様は一人で奈落に残られました。
魔王様が、自らの存在と魔力によって、奈落の門を閉じたのです。
……そして、魔王様は魔王になりました。
あ、分かりにくいですか?
ええと、ですね、つまり、『魔王』という称号はですね、後から付いたものなのです。
女神さまと争ったことで人間から『魔王』とされている、というよりも、『魔王』になってしまったから、その時点の魔王様も『魔王』にされてしまったんですよ。
……とこよさん、奈落はお好きですか?
あ、ですよね!
じめじめしてて暗くて、嫌いですよね!
奈落は、世界の淀みが集まる所です。
長くそこにいれば、変質してしまいます。
……魔王様は、奈落に留まり、奈落の王として君臨することで、『魔王』になったのです。
それまでは……いえ、今も、普通の方です。
私は結構生まれたのが遅かったので、その前の事は良く知らないのですが、魔王様は、自らが奈落に留まることで、地上をなんとかしようとなさったのです。
しかし、女神さまは人間に魔法をお与えになり、自らは本になる選択をなさった。
魔王様のお嘆きは、それはもう大層なものだったそうです。
……はい。ここらへんの関連がよく分からないのですが……え?無粋?えええ!?なんのことですか!?
私は、その後に魔王様に生み出されたのです!
こう、なんでしょう……自分で言うのも恥ずかしいのですが、私、結構小さい頃は可愛かったのですよ。
ですから、私が魔王様の慰めになったのではないか、と思います。
そして、魔王様は私が奈落を離れる事を、魔王様を置いていくことを許可して下さった。
ですから、魔王様にはもう慰めは必要ない、という事なのでしょう。
ええ!
なので、私は舞戸様に誠心誠意お仕えする所存です!
魔王様は構って下さらなくなったので!
舞戸様の時々見せてくださる、あのどうしようもなく冷めた視線がたまりません!
……え、とこよさん!とこよさん、どうしたんですか!とこよさん!
なんですかその目は!もっと!もっとその目で見てください!
あっ!なんで視線を外すんですか!ああ酷い!帰っちゃうんですか!?酷いですとこよさん!
とこよさーん!




