表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

3話

とある総合病院で一つの命が産声を上げた。


赤ん坊には記憶があった。


強い衝撃


愉悦に歪んだ昏い(まなこ)


拾い切れない甲高い音。


迫る黒。


そして己を呑み込んだ闇。


そして気がつけば、その闇を真っ白な光が灼いた。


灼かれた瞬間脳内に鮮明に浮かぶ数々の記憶(おもいで)


それが何かを知らない生まれたばかりの赤ん坊は恐怖に泣いた。


たすけて!たすけて!


どれくらいそうしていただろうか、赤ん坊は暖かいものに包まれた。


「どうしたの?何も怖くないのよ」


耳に馴染む心地よい声に赤ん坊は恐怖を忘れた。


その温もりと心地よさを赤ん坊は生まれる前から知っていた。


感触こそ違うものの、赤ん坊はこの温もりと共に過ごしてきたのだから。


するり、と赤ん坊の中で記憶がほどけた。


解けた記憶が再び結んだ新たな記憶は、赤ん坊を包むそれとは違った、けれど、心地よい記憶(おもいで)だった。


様々な人達の怒った顔、泣いた顔、笑った顔、それのどれもが赤ん坊にとって懐かしさを生む。


赤ん坊の頬を再び涙がボロボロとこぼれる。


「あらあら、今度はどうしたの?」


優しい労わりの声に我慢を知らぬ赤ん坊は声を上げて泣いた。


かえりたい

かえりたい


と。


なぜ、と思った瞬間、恐怖と温もりの記憶が交差した。


そばにある温もりがうろたえるのも構わず、赤ん坊は更に激しく泣いた。


記憶(それ)が何かは赤ん坊にはわからない。


けれど、赤ん坊は本能でそれ(・・)だけを理解した。


自分は全てを奪われたのだ。


あの黒い記憶が暖かい記憶の先を奪い、その色で黒く塗り潰したのだ。


赤ん坊は泣き続けた。


かえせ!


かえせ!


赤ん坊の意識の底で何かが叫び続けた。



こんなはずじゃなかった!!



赤ん坊は力の限り泣き続けた。


かえせ!

かえせ!


そうして泣き疲れた赤ん坊は眠り沈む。


眠りに沈んだ赤ん坊の中から、小さな泡がぷかり、と浮かび、一つの意思が弾けて消えた。






ゆるさない














評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ