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1話
今日のご飯はなんだろう?
そんな事をぼんやり考えながらのんべんだらりと自転車を漕ぐ。
いつもの仕事帰りだった。
車道の脇を走り、交差点を抜け、信号待ちの人達の前を通り過ぎようとした時だった。
彼女の目は信号待ちする人達より一歩分前に立つ男を捉えた。
見知らぬ男だ。
アロハシャツより幾分マシめのシャツを羽織り、麦藁帽子をかぶった、ちょっとの派手さの何の変哲もない男だった。
その男に近づくにつれ、心臓が早鐘を打つ。
ヤバイ。
そう思ってペダルを漕ぐ脚に力を入れたのと、男が足を上げたのはほぼ同時だった。
ガシャン
右半身を襲う衝撃に目の裏で火花が散った。
周囲から上がる悲鳴に我に帰り、状況を把握するために頭を上げた。
目前まで迫った黒い何かが走行する車のタイヤだと理解した瞬間、彼女の意識はぶつりと切れた。