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未来携帯物語  作者: 楠木あいら
爽子
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再びの逃走

「まさかとは思うけれども。二人を追ってきた応見の仕業じゃないでしょうね」

 南口に到着した爽は気づいた事を口にして、爽と洵の到着を確認してから三森格士が答えた。

「どういう理由があってかはわからないが、俺らを閉じ込めた奴だからな。応見の仕業かもしれないな」

 と肯定するものの、格士は首を横に振って否定意見を述べた。

「だが、ここに到着するまで時間がありすぎる。

 脱走した時に待ち構えていた応身をノックアウトさせたのは前の晩になる。そこから修復時間を足したら、とうてい無理だ」

「って…何、関係者をやっつけているのよ」

「2人とも、いいから走ってくれ」

 洵に怒られ、爽は走ることに専念しようとしたが視線を爽子に向けた。

 同じ速度で就いてくる爽子は、ロボットを操縦するだけなので疲れる事はないが、精神的な負担が気がかりでならなかった。

 それぞれの浮遊する携帯電話で入場料を支払い(爽子は爽が負担)、改札口に入って真ん中にあるホームに向う。

 エスカレーターを駆け下りながら、爽は後方を走る三森格士に電車の時間を聞いたが、彼は首を横に振った。

「電車には乗らん。向こうは駅に入れば必ず電車に乗ると思うはずだ。このまま北口に出る」

 格士の案に、爽は目から鱗が取れたが、それと同時に不安を覚えた。

「それで、格士さん。どう分かれますか、四人一緒だとすぐにバレますよ」

「そうだな、お前は目立つから」

 自分を棚に上げる2メートル近い男、格士は『1:3』か『1:1:2』と答えた。

「おれは絶対『1』として動く。敵を見つけ次第、仕留めておかないと気がすまない」

 格闘の『格』に騎士の『士』を持つ格士は、血の気の多く、彼の性格をある程度知る爽を含め、止める者はいなかった。

「後は洵と爽で決めろ」

 それだけ言うと格士は、足を止めた。

 振り返って元来た道を戻るため。

「気をつけてくださいよ。それと捕まらないように」

 振りかった洵の『捕まらないように』は敵ではなく『警察沙汰にならないように』という事を指していた。


「さて、我々は…」

 前方にある階段に向かいなが、先のことを考えようとした時、後方から大きな音が近づいてきた。

 それは大きな鉄のかたまり、電車だった。

 この電車は爽達が階段に走り着くまでには発車するだろう…そう考えた時、洵と目が合った。

『頼んだ』

 そう言っているように思えた爽は、うなづくと爽子の手首をつかみ、開こうとする扉に向きを変え、中に飛び込んだ。


 電車の扉が閉まる頃には、洵は階段にたどり着いていた。

 階段に向かう洵の後姿は、すぐに見えなくなり、窓の外はホームから景色に変わっていった。

「大丈夫ですか?」

 車内に空席はなく、爽達は扉側に立ち、とりあえず車内に追手はいないか確認した。

 偶然来た電車に飛び乗れたせいか、危険は潜んでないようだ。

「マスター。マスターが命令した『1分後とに居場所を応見さんにメール送信する』命令は継続しますか?」

 優先席ではない事を確認した上でマナーモードに自動切換えした浮遊する球体の携帯電話は、頭上にふわりと移動して爽に尋ねた。

 機械は、命令を解除するまで実行するので、洵たちに追われた時から、今の今までメール送信を続けていたようだ。

「とりあえず、解除してて。下りた時に一回だけ居場所をメール送信してね」

「かしこまりました」

 赤い球体型携帯電話は電車時の待機場所、登録された主人、爽の頭上に移動した。

 ちなみに電車内も人間の周りには必ず浮遊する携帯電話があって、見慣れない人にはさぞ異様な光景に見えるが、浮遊携帯電話が周流となっている『この時代』では当たり前の光景であった。

「………」

 一息ついたところで、爽は爽子に視線を移した。

「あの、爽子さん…」

「……」

 爽の言葉に、爽子は弱々しく笑った。


『まだ、爽子と呼んでくれるのね』


 格士たちが現れ、さらに襲撃の危険にさらされ精神状態が悪くなったのだろう。彼女は無言だったが、向けた目はそう語っているように思えた。

「爽子さん。私がいます。信じてください」

 応見と合流できるまで、どうなるかわからない今、爽の口はそれだけしか言えなかった。

「…。ありがとう」

 僅かに発した声は小さ過ぎてほとんど聞ききとれなかったが、僅かに見せた笑みで十分に伝わった。

「……」

 爽子は、爽の肩に同じ顔を置いた。

 このロボットを動かす操縦席で、彼女がどんな状態なのか察しがつく。

 爽は何も言わず、電車のアナウンスに耳を傾けることにした。



 飛びこんだ電車は、あと3つで終点になる事を知った。

 爽子は顔を肩から離し落ち着きを取り戻しているので、どこでも降りられる。

 『さて、どうしよう』と、爽はあごに手を当てた。

「まずは、応見さんと連絡を取るべきではないでしょうか」

 携帯電話に相談すると機械は、重要な意見を述べた。

「そうね、そうだよね。ばたばたしていたから、どうしてそれに気づかなかったのかな」

 というわけで、次の駅で降りるとにした。

 電車内で携帯電話を浮遊させるのは許されているが、さすが未来でも通話は禁止されている。

 ボタンのない球体型携帯にメールするにも完全音声入力なので、通話と同じに見られてしまう。

 『未来』なのに携帯機能の不便さを実感しつつ、爽は爽子の手をつなぎ、反対側に開く扉に向かった。

 自動減速はなめらかで、ゆるやかに、そして正確に止まる。

 そのせいか、直前までそれに気づくことはなかった。 

「え…」

 見覚えのある茶色い髪が爽の目に入った。

 電車が完全に止まった時、その者はだいぶ左側にいってしまったが、頭上たかく結わえた少女は間違いなく。

「紅子…」

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