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未来携帯物語  作者: 楠木あいら
爽子
6/16

逃走の先にあったもの

 爽は走りながら考えたていた。

 遠隔操作する機械を捕まえたところで、操縦席とをオフにすれば、爽子安全は守られる。

「………」

 ただ、一つ心配があった。

 なぜ、ロボット操縦する爽子を追う理由があるのか。


 あのロボットに狙われる理由…何か『とんでもない物』が埋め込まれていない限りは、回収されても、どうって事ないけれども…。


「………。

 この考え、当たっていたら、どうしよう」

 口から出た独り言に、不安を感じてしまった爽だが、慌てる余裕はなかった。

「…」

 爽は、再度振り返り追っ手を確認した。

 追っ手は、大男が一人…。エリート達も冷静に考え二手に分かれたらしい。

「…小さい方か」

 大男とは言ったが、追っ手二人は体格の良い方であり、爽の発言は片方と比べてであった。

 しかも、その大きさで、同じ高校に通っているから嫌でも名前を覚えてしまう。

 名橋なばし のぶ

 もう一人の三森格士みもり かくしよりは穏和だが、あくまでも、爽の見た目で判断しただけで話したこともない。

 本当の事はわからず、下手すれば応見みたいな性格かもしれないのだ…。



 適当な所を見つけ身を隠すか、相手の動きを封じこめるまで戦うかの二つしか考えていなかった。

 爽は人をかき分け、人の多い通路を探した。大男と違い、人ごみにまぎれようと考えたが、身を隠せるほどの人ごみは見当たらず、差を縮められないよう、走り続けるしかなかった。


 見慣れない町。

 こういう時、地図機能を持つ未来の携帯電話がいてくれたら、どう進めば迷わず相手から逃れることができるのだが。爽子優先である以上に渡したため、爽は運を任せ闇雲に走るしかない。

 

「…迷った…」

 正確には、曲がった先が行き止まりになっていた。

 相手をまこうと狭い所に選んだばかりに…。

「………」

 苦笑するしかないと、振り返ってから爽は思った。

 相手は数メートル先まで近づいていたから。

 浮遊する茶色い携帯電話をお供にして。

「…………」

 大男が背にする道以外は建物の壁に挟まれた行き止まり。


 さて…戦うしかないか。


 血の気の多い性格もあり、決断した瞬間にはもう爽は飛び出していた。

 突進して、拳にした右手を相手に向ける。


 爽は『話し合う』という選択は考えてなかったようだ…。

 応見の話では『相手は檻から逃げだした』という、以上、何をしでかすかわからないと判断したからであり。

 目の前にいる、その穏和そうな顔で笑みを作り、話し合いモードに見せかけ、攻撃する…可能性だってある。

 そこまで爽が考えすぎるのは、一体の冷血ロボット(応見)が良くつかう戦術の一つらしいからだろう…。

「…」

 第一撃は、空を切るだけだった。

 大振りに舌打ちすることもなく、爽は第二撃を向け、第三、第四と続けた。

 相手、名橋 洵はでかい図体をしているわりにはすばしっこく、後退するだけだった。



 反撃は、今のところしてこないが、爽は焦りを感じていた。

 こんな大男を武器なしで倒すのは困難である。爽は戦うふりして、なんとか大男の背後にまわり、再び逃げだせないかと思案した。

「はっ」

 声をあげ、拳当てを繰り返していたのを突然やめた。

 爽は、体をひねりながら跳んで蹴りをかました。

 回し蹴りは男の後退によって失敗し。次の蹴りも同じだった。

「……」

 相手は後退するのみで、攻撃をしかけようとしない。

 『こっちを疲れさせようとしているのか』そう判断した私は、左側に寄ってから、再び回し蹴りをかました。

 ただし、飛び上がるのではなく、回りながらしゃがみ、左脚をまっすぐにのばした。

 簡単に言うならば『下降回し蹴り』

 回転により後ろに回った脚で相手の膝の後ろを突き、体勢を崩すことにした。

 後ろに回った以上、後退はできない。

 ましてやでかい図体をしているんだから。

「……」

 でかい図体は、重いはずの体で軽々と飛び上がっていた。

 背を後ろに曲げて一回転し、体操選手のように両足で着地した。

「………」

 こいつ…徹底して後方を守りやがっている。

 『たん』と両足が地面に到着した時、爽は動かなかった。

「負けたわ」

 差がはっきりとわかった以上、無駄に戦う気は爽になかった。

「………」

 苦笑を浮かべているが、諦めたわけではない。

 相手の要求を聞いて…聞きながら背後を狙って逃げ出す…という案を考えていた。

 やはり、狡猾なロボットの元でバイトしている影響からだろうか。

「さすがはエリートだけあるわね」

「いや、俺が強く見えるのは、防御しかしてないからだ。攻撃をしかけようとすれば、茶果木さんの反撃をまとも受けるよ」

 『茶果木さん』…と爽を名字で呼ぶ大男の顔は穏やかなままで、敵意というものはなかった。

「………」

 爽は何も言わず、相手がどうでるか、何を口にするのか待つことにした。

 彼等がここに来た以上、爽子について何か手がかりがつかめるかもと考えたからである。

「……」

「君は、応見の使い魔みたいな存在だから、情報は流れているはず。

 先に言っておくが、檻に閉じこめられたのは、何の理由もなく、応見かやった事だ」

 穏やか青年とはいえ、管理者を呼び捨てにしているのは、爽にとって少し安心できたが。それよりも、常用な問題が浮上していた。

「ちょっと使い魔ってどういう事よ。私は『あれ』から仕事をもらっているだけよ。付属物みたいに言わないで」

 そういうことである。

「……」

 爽の反論に、大男は穏やかな表情のまま、眉を少しだけ動かした。

「てっきり、応見側の人間と思っていたが、違うようだな」

「当然でしょ」

 即答に、向こうは笑みを浮かべたが、急にそれを消した。

「ならば、教えてもらおうか。尭実たかみさんの居場所を」


「た、たかみさん…って、あの陽本尭実ようもと たかみ

 その名前に、爽は全身が凍り付いていくのを感じとった。


 陽本 尭実


 彼女は、洵や格士ら『特別任務』に就くエリート達にとって重要な人物だった。

 『特別任務』は、ある人の所に行き、地球以外の全て星人が喉から手が出るほどほしい『ある物』を手に入れなければならない。

 それを持っているのが陽本尭実である。

「………」

 そんな重要人物が、爽子だと、洵は言っているのだ。

「尭実さんが行方をくらました時、紅子と茶果木さんの姿が見えなくなった。

 茶果木さんは『応見の使い魔』という噂があるから、もしやと思い追跡しようと思ったら」

「応見に閉じこめられた」

「そういう事だ」

「………」

 苦笑する大男こと、名橋洵の顔に隠された表情は見当たらず、爽は信じていいものか、眉間に岩を寄せた。

 彼の話は納得できるが、…ただ一つ。一人の人物に引っかかってしまう。

 紅子

 やはり、彼女の行方がわからなくなっているらしい。

 爽は思案をめぐらせた。

 紅子の行方不明と、今回の仕事に何か関わっているのかわからない。

 でも、何か引っかかっるところがあった。

「とりあえず、茶果木さんとは信じていいようだな」

 爽は目の前に大男がいたことを思い出し、穏やかな声に考えをやめた。

 名橋洵は大きな右手を差し出していた。

「……」

 爽は彼の顔を見つめた。

 さきほどと同じく穏やかな顔。何かを隠しているものはなく、笑みを作れば将来いい『保父さん』になれそうと思えるほど、優しい顔をしていた。

 この人、個人だけならば信じていいかも…と、判断した爽は、洵の手を握った。

「爽でいいよ。私も洵と呼んでいいなら」

「もちろん」

 手を離した時、ようやく洵は後ろを空けた。

「まずは格士さん達と合流しよう。バーチャル・ライフを操作しているのが本当に尭実さんならば、一緒にいるはずだ」

 洵は上空で待機させていた茶色の球体電話を呼んだ。

 歩き始めた洵の大きな背中を見つめ

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