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未来携帯物語  作者: 楠木あいら
爽子
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逃走

 海の一件以来、爽子は僅かに表情を取り戻してきた…と、爽には思えた。

 このまま、ゆっくりと時が流れていけば爽子さんは元気になるだろうと、爽は考えていた。

 爽の浮遊する携帯電話、ホォボスが着信を告げる直前まで。

「爽、今すぐ部屋を出ろ」

 球体電話内に映った応見は、用件だけを告げ、事の異変を表した。

「俺が許可するまで市外に出ろ」

「一体、何がどうしたっていうの?って、応見、何、その顔」

 爽が驚くのも無理はない。球体内に映し出された応見の顔はところどころ黒ずみ、右の頬にいたっては、皮膚が破け、鉄色の肉がむきだしになっていた。

「ちょっと油断しただけだ。

 爽、よく聞け。檻に閉じこめたはずのモンスターが逃げだした。そっちに向かうのは間違いないだろう」

「モンスターって…」

「俺も修理が終わればすぐに向かう。

 いいから、さっさと逃げろ。俺以外は敵と思い、決して近づくな。

 それと、怪物たちを見るまで連絡するな」

 返答よりも早く、通信が途絶えた。

「爽子さん」

 とにかく、緊急事態なのは間違いない。


 爽は、爽子の手をとり、部屋を出て、駅に出た。

 財布代わりになる携帯電話が一台あれば、二人でも改札は入れるのを確認して、爽たちは駅に向かった。電車の力を借りれば町から簡単に離れられる。

「爽子さん大丈夫ですか?」

 逃げることを告げた時、再び爽子から表情が消えた。せっかく回復を見せた爽子に爽は騒動を恨んだが、恨んだところで騒動が消えることはなく、ほおっておけぱ、自体は悪化の一途をたどってしまう。

「マスター。行き先はどうしますか?」

 改札口を入ってから、浮遊する赤い球体電話ホォボスに聞かれ、爽は足を止めず思案をめぐらせた。

「まずは上り…」

「上りならば、二分後に3番線のCKエリア行きの電車が着きます」

「爽子さん、上りの電車に乗ります。行き先は乗ってから考えましょう」

 うなづく爽子を見てから、ホームにたどり着くための下りエスカレーターに乗った。

 到着を告げるアナウンスが耳に入り、爽は少しだけ警戒の糸をゆるめた。

 ホームに着くと電車を待つ人が目に入り、アナウンスに従うため動き始めていた。

「…この馬鹿…」

 爽は、自分を罵った。

 その時には、すでに遅かったが。

 気づく直前まで、その物体たちは爽の視界に入り込んでいた。

 もし、直前まで気づけなかった事を言い訳できるならば、応見が『怪物』や『モンスター』と単語を使ったからであり。モンスターというのは、二人の人間を例えていたとと気付けなかったから。

 しかし、この場に応見がいたならば、彼は反論していただろう。

 その二人は、爽も知っている人物たちである。と。


「爽子さんっ」

 爽は離したばかりの手をつかみ、下りエスカレーターを駆け上がり始めた。

 その直後、背後から聞き覚えのある声が響いていた。


『俺以外は敵と思い、決して近づくな』


 改札口に向かう間、電話口で応見が言っていた事を公開と共に思い出した。

 爽にとって、その人物たちは見慣れた者達であった。

 爽や紅子同様、応見が管理する特別任務関係者であるのだから。


『でも…応見は。この二人を怪物って例えていた。

 怪物。モンスター。味方ではないこと』


 爽は走りながら、頭を整理して、事の危険を改めて知った。

「でも、何でエリートが…」

 追いかけてくる二人は『特別任務』に選ばれたエリートたちであった。

 そのエリートたちが、爽子を狙っている。

「………」

 爽は、改めて爽子の正体が気になった。

「なぜ?…でも」

 『何であれ、今は爽子さんを助けるのみ』

 そう答えを出した、爽は爽子の名を呼んだ。

「爽子さん、二手に分かれましょう」

 このまま逃げていては、間違いなく捕まる。

 そう判断した爽は走り続けながら浮遊する携帯電話を呼んだ。

 小声で命令しながらも、爽は腰から伸縮自在な武器を取り出す。

「ホォボスは、爽子さんについてって。通話やメールも爽子さんが指示すれば繋いで」

 未来の携帯電話はクレジット機能がある分、セキュリティーレベルが高く、主人が認めない限り他の人が使えないようになっている。

「かしこまりました。マスター」

 あらかじめ命令していれば、この携帯電話は私と変わらずに接する事ができた。

「爽子さんは、これを持っててください。おもいっきり振り回せば、元の大きさに戻ります」

 爽は同じ姿である事を利用し、相手を戸惑わせようと考えた。


 二手に分かれた時、敵は重要人物を狙う。

 となれば、爽と判断できる、赤い球体携帯を持っている方は狙ってはこないだろうと、短い時間で決断したが、相手はエリート。単純に引っかかってくれるかわからない。

「ホォボス、応見に、モンスター出現ってメール。

 それから、一分ごとに居場所を応見にメール送信して」

「かしこまりました、マスター」

「爽子さん、もし捕まりそうだったら遠隔操作をオフにしてください」

 頭に思いつく限りの考えを口にしてから、二人は改札口までたどりついた。

 払った入場料は無駄にして、二人は駅の敷地から一歩外に出た。


『……』

 二人は同じ顔を向けて、うなづいた。

 そして

 爽は右に、爽子は左に曲がった。


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