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未来携帯物語  作者: 楠木あいら
バイト
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バーチャルライフ

「………………」

 1LDKだが高級な部屋にいる同じ姿の少女に、爽はただフリーズしてしまったが、我に返ると少女のいる部屋から離れ、台所のすみにしゃがみロボットでありバイト先の上司でもある応見に電話した。

 ちなみに通話スタイルは、球体携帯電話を両手にもって話しかけるようなもの。水晶を持った占い師が語る様な感じで。

「ちょっと応見。何なのよ。悪趣味ないたずらも度が過ぎているわよ」

 眠っている子に聞こえないようソファーの様子を伺いつつ、爽は小声で抗議した。

「列記とした仕事だ。

 『バーチャル・ライフ』というものは、知っているだろう」


 バーチャル・ライフ


 登録された主人と会話できて、浮遊する携帯電話がある時代。

 操縦席に乗って、一体のロボットを動かすことができるようになった。

 ただし『バーチャル・ライフ』は巨大なロボットではなく、人間サイズのロボット。遠隔操作なのでロボットの中に入るのではなく、ラジコンのように動かせる。

 視覚や聴覚などはロボットと同じに実感できるから、違う人間になりきって現実世界を生活できる。リハビリや引きこもりとかの心理療法に使われているという。

「という事は…」

「あれは爽をモデルにして作られたロボットだ。

 そして、そのロボットの世話、護衛をするのが今回の仕事だ」

 これが『仕事』と聞いて爽は混乱を覚えたが、黙っている爽ではなかった。

「どーして同じ姿なのよ」

「操作する『御方』が狙われているからだ」

「………。狙われているって、ここにいるのは、遠隔操作しているロボットでしょ。何かあっても…」

「そういうわけにはいかないんだ」

 応見は最後まで聞かずに否と答えた。

 携帯電話内に映し出される彼の顔に表情の変化というものは、当然ながら見ることはできなかった。

「この御方は、表向き消息不明になっている。第一、狙われること事態、精神的に大きな負担となる」

「それ、どういう事よ」

「二度は言わない。それ以上の情報も言わない」

 球体内に映る応見の顔からして、通話を終了したがっているのはわかっていたが、爽はとある事を慌てて聞いた。

「まさか、遠隔操作している子って紅子こうこじゃないでしょうね」

「こっちの周辺があわただしくなってきた。緊急以外にかけないように」

 爽の問いに答える事はなく、球体内から応見の姿が消えた。

「…んあっ。ったく、もう」

 的を射た発言と考えていいほど、冷静な応見らしい逃げ方…の様に思えた。


 紅子

 爽と同じ星から来た同じ高校の同い年の子である。

 彼女は爽と違い『特別任務』をするために来たエリートであり、爽は彼女の補欠として地球にいた。

 その紅子を最近、見かけていない。同じ星出身の同じ目的で生活しているが、友達と呼べる仲ではないので、何日も見かけなくても、気にかけるものではなかったが。

「マスター。そのロボットを操縦しているのが、紅子さんではないかと、推測しているんですね」

 話を読める携帯電話は、そう発言していただろう。

 しかし、その声が耳に届くことはなかった。

「……」

 それもそうだろう。眠っていた『そっくりロボット』が目を覚まし。

 爽の真後ろに立っているのだから。

まるで鏡を見ているようだった。

 爽にとって毎日見慣れている自分が自分の意思とは関係なく動き、同じ目で見つめているのだ。

「……。やぁ…」

 爽は何ともいえない不気味さに声を出して逃げ出したくなったが、何とか押しとどめ、勇気を振り絞って立ち上がった。

「私、茶果木爽さかき さわっていうの…あなたは?」

 立ち上がると、寸分の狂いもないところに同じ形をした目と合う。

 同じ姿をした者に表情はない。

 バーチャル・ライフで遠隔操作されるロボットの表情は人間と変わらない。

 さらに、難しい操縦方法はなく、操縦席に入って腕をあげれば遠く離れたロボットも同じ腕を同じ高さまであげる。足を早く動かせば、歩き、走る。笑えばロボットも笑う。

 だから、ここにいるロボットが笑わないのは、操縦する者が無表情だからとなる。

「………………」

 操縦する人がしゃべろうとしなければ、目の前にいるロボットの口が動くことはなく。

 爽と一体は長い間、同じ姿を見続けていた。

 爽ばか『こちらから話しかけてよいのか』と思い始めた時、ようやくロボットが動いた。


『紅子…』と


 わずかに開いた口からそう出てくると…。

 ロボットは、支える力を失いその場に倒れた。

「ととと…」

 爽が持つ地球離れした腕力と反射神経がなければ、重いロボットは大きな音をたてて床にぶっかったことであろう。

「マスター…」

 ふわりと浮かび上がった球体電話は、同じ姿をしたロボット抱きかかえる主人を不安げに見つめた。

「さあてと、これからどうなるんでしょうね」

 爽は携帯電話に苦笑したから、残りの言葉を吐き出した。

「やっかいな事件になるのは確かな事ね」


 どこか知らない所で遠隔操作できるロボット。 私と寸分の狂いもないそのロボットの世話と護衛をする。これが今回の仕事だった。


 見知らぬ海近くの町で。

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