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未来携帯物語  作者: 楠木あいら
再会
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再会

「この中に、あの方がいる」

 応見が陽本尭実がいる部屋まで案内した。

 乾いたノック音が静寂に包まれ消えていってから、ドアノブ上にある黒い板に手を当て鍵を解除した。

 扉を閉め、さらに内側から鍵をかけてから、応見は爽を連れて進んだ。

「尭実さん、爽をつれてきました」

 淡い新緑色のカーペットを踏みしめて進むと右側に卵型の大きな物体、バーチャル・ライフの操縦席があった。

 ここで、陽本尭実は爽と同じ姿をしたロボット爽子を操縦していたのだ。


 爽は前方にある水色のカーテンが目に入った。

 そこに移るシルエットが陽本尭実となる。

「爽。鍵をかけるから、出るときは携帯電話で連絡してくれ」

「私の居場所がバレるのに、大丈夫なの?」

「ああ、ここは、保管庫になっているからな。だが、連絡するまでは電源を消しておいてくれ」

 人工知能を持つ浮遊する携帯電話に電源オフ命令を出して、赤い球体を手に持ったとき、後ろのドアが閉まり鍵のかかる音が響いた。

 その音を確認してから爽は歩み寄った。

「爽子さん…とは、もう呼べなく鳴っちゃいましたね」

「………」

 そんなに広くない部屋なので、爽の足はすぐにたどり着いてしまった。

「カーテン。開けてもいいですか」

 わずかに許可する声が耳に届いたので、カーテンを少しだけずらした。

 隣の部屋にはなかった窓から日差しが、まず目に入った。

 それから自分が収容されていたしていた物とは比べ物にならない上質のベッドの上にその人がいた。

 その人は上半身を起こしていた。

 その人が特別任務の重要人物、陽本尭実であった。

 陽本尭実は30代ぐらいの人で明るく、元気に笑い。少し気の強そうな、太陽のようなイメージを持っていると爽は判断することができた。


 今は推測しなければ見落としてしまうほど、痩せ衰え、その目に力というものはなかったが。

 枝のような腕は、一本の赤い棒のようなものをぬいぐるみのように抱きしめ、生き物のようになでていた。


 遺品

 紅子が愛用した細身の長剣である。

「紅子は、ずっと『ごめんなさい』って、謝っていた…。

 この腕の中で、動かなくなるまで、ずうっと」

 力なく途切れ途切れに語る尭実は、主人の血を吸った刃を包む鞘を見つめていた。

 そこに紅子がいるように。

「謝る必要なんて、ないのに…あなたは、何も、何も悪いことなんてしていないんだから」

「………」


 この人は…。

 この人は、なんて孤独なんだろう。

 失踪した婚約者から『その物』を手にしたために。

 その『たった一つしかない偉大なる物』を狙う者がいて。

 それを手に入れるため、選ばれた者たちがいる。


 彼女は、その選ばれた子供たちといなければならない。

 だが彼女は孤独である故、その子供たちと接してきた。それは孤独な子供たちにとって暖かいものであり負い目でもあった。

 心の底から信頼する者が持つ『たった一つしかない物』を盗まなければならないのだから。


 誰が『たった一つしかない物』より大切な彼女を裏切ることができようか。

 『孤独』という冷たい体を暖めてあっても、すぐに冷めてしまう。時には凍えてしまう。


 なのに


 なのに、この人はそれをやめようとしない。いや、やめられないのだ。

 不意に『たった一つしかない物』を手放せば、ほしがる星々が奪い合いを始め、動乱が起きる。

 たった一つしかないから、公平なルールで手に入れよう。そのために作られたのが"特別任務"という名前となり、選ばれた者達だけで競わなければならなくなったのだ。

 だから、特別任務者以外では、手に入れる事はできなかった。

 それに『その物』は、失踪した婚約者の作品であり、彼を捜す手がかりでもあったから。

 婚約者を待つため『それ』を永遠に守らなければならない。それを守るが故、孤独でいなければならない。


「………」

 だから彼女は孤独を歩まなければならなかった。

 でも、それは限界に達している。



 長い沈黙が続いた。


 武器を見つめていた爽は尭実の視線に気付いた。

 陽本尭実は、涙を流していた。

 それは、自分に向けての涙だと判断することができた。

 新しい任務遂行者として選んでしまったのだから。

 新しい犠牲者として。

「……」

 微かな泣き声が爽の耳に痛む。

 でも、この人は。尭実さんは、私に僅かな希望を抱いている。

 この鎖を断ち切る、大切な『それ』を奪える『裏切り者』になれると。

「………」

 爽は、爽子が肩に顔をうずめ、身を預けた感覚を思い出した。

 だからだろうか。身を乗り出して尭実さんの肩に顔をうずめたのは…。


「信じてください、とはいえません。

 …でも

 信じてください」


 矛盾した言葉なのはわかっている。

 でも、今の爽はそれしか言えなかった。

 尭実は紅子の武器から手を放し、爽の頭をなでた。


 時が静寂の中へ静かに消えていった。




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