表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未来携帯物語  作者: 楠木あいら
目覚めた後
13/16

回想

 紅子は、幸せだったんだろうか…。

 ロボットであるが、応見は人と変わらずに物事を考え、人についても考え、回想する事もできた。


 全ての始まりは、一通のメールからだった。


 不穏な動きがある情報を聞き、動いていた俺に『紅子が尭実を呼び出した』という情報が入った。

 『特別任務関係者』として登録された高校生を管理するのが俺の仕事だが、連合側から要請があれば動く。

 できればデマであってほしいと願っていたが、現実は冷たく嘲笑し、陽本尭実の前に現れた紅子と襲撃者たちを俺に見せつけた。

 だから、それ以上に冷酷な処理するしかなかった。

 配置していたロボットたちを計画通り襲撃者たちを取り囲み、紅子の前に姿を現した。

「化けの皮を剥がしたか、紅子」

 計画が未然にばれていた心理状態もあってか、襲撃者達は簡単に倒れて行った。

 だが、紅子は冷静なままだった。

 紅子は陽本尭実に襲いかかろうとしたが、それを阻止した俺に斬りかかる。

 選ばれたエリートだけあって、隙はなく油断したらすぐに致命傷につながる。

 学校内であいさつを交わし、時には会話した間柄など微塵もない。

 俺が人間じゃないから、レーザー銃で手首を狙い、武器を落とさせる事に成功できたのだろう。

 だが、紅子は選ばれたエリートだった。

 陽本尭実の無事を確認しようとした瞬間を狙い、地面に落ちたばかりの武器を手に取った。


「………」

 応見は目を開け、過去の思い出から現実に戻った。

 『現実』は二人を収容した牢屋にいた。

 朝方だけあって暗闇と静かな寝息しか聞こえてこない。

 出入り口前のソファーに身動きもしないで座っていたが、それが動いたのは部屋置くのベッドから僅かな物音を耳にしたからである。

「まさかとは思うが…」

「わっ。応見、驚かすなよ。トイレだ。脱走するわけないだろう」

 暗視能力のある応見は、ベッドサイドの照明をつけなくても、それが洵であるのは確認できた。

 牢屋の隣に設置された個室があるが、そこから逃げ出す事はここ以上に不可能であった。

 まあ、昼間の騒動で脱走することはないだろうが。

 応見は過去の思い出に戻ろうとしたが、目を閉じた瞬間、目にできるのは無残な光景だと気づき、首を振った。

 紅子は、こいつら以上に根の優しい子だ。

 いつまでも『その物体』を手に入れられないことに焦る同じ星の者達にそそのかされたのは目に見えている。

「………」

 『その物体』を手に入れなければならない。

 だから、陽本尭実を襲撃しようとする同朋者たちからの要請を断ることはできなかった。

 けれども『その物体』を手に入れられないのは、陽本尭実を悲しませたくないから。襲撃なんてもっての他。

 だが、それは自分の存在を否定してしまう。

 今、紅子がここにいるのは、それによるものであり。同じ星人達の願い、希望でもあるのだから。拒むことはできない。

 だから…阻止したのか。襲撃を失敗に終わらせるため、俺に情報を流したのか。

 自分の星、自分自身ほ滅ぼす運命であろうと。

「………」

 応見は、首を振った。

「馬鹿げている…」

 そう言葉を漏らしたものの、応見からそれ以上の言葉は出てこなかった。

 紅子の行動は間違っていても、それ以外の方法が見つけられないのだから。

「ようやく、自分の行動に気づいたのか?応見」

 個室のドアを閉めた洵は今の言葉を聞き取ったが、あいにくテレパシー能力などなく、自分の都合のいいように言葉を放った。

 応見は、前のめりになっていた上半身を反らし背もたれに預けた。

「残念だが、俺に間違いはない」

「…。ああ、そうですか」

 呆れた洵はベッドにつこうとしたが、応見の声がそれを制した。

「一つ、聞いてやろう。お前に陽本尭実の襲撃要請がきたら、どうする?」

 『その物体』を手に入れられない事に過敏になっている者の顔が険しくなったが、自制し、嫌々ながら思案を始めた。

「俺ならば、要請した奴を殴るな」

 返答はいつのまにか起きあがった格士のものであった。

「お前は聞かなくても、わかる」

 と、つっこみをいれた応見は、洵からの返答を聞いた。

 それは紅子の行動と変わらなかった。

「ふうん。そういうものか」

 と、会話を終了させた。

 ベッドサイドの明かりで、応見の表情に気づく者はいなかった。

 だからこそ照明を消し、再び就寝の空間に戻すことができたのだ。

 闇よりも深く沈んだ応見を知らずに。


『現実は、俺よりも残虐を好んでいる』


 応見は首を振ったが、彼の頭の中で浮かぶ映像はなかなか消えてくれない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ