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未来携帯物語  作者: 楠木あいら
爽子
10/16

紅子

 時が流れた。


 携帯から情報を得られない爽にとって、それがどれくらいなのかはわからなかった。

「応見は逃走を始めた駅についたのかな。連絡しなければならないけれども、携帯電話は使えないし…」

 携帯電話を財布代わりに使っていたので、持ち合わせもなく、公衆電話で連絡するどころか、電車で移動することも不可能であった。

「不便なものね…。

 とはいえ、このままでいるわけにはいかないわね」

 危険を冒して、一度だけ応見と連絡をとると決めた爽はポケットから携帯電話を取り出した。

「ホォボス」

「音声認知…OK。電源が入りました。マスター、状況はどうですか?」

 ふわりと浮き上がろうとした携帯電話を爽は両手で包んだ。

「残念ながら、かなり悪いわね。

 フォボス、長い間電源さえ入れられないから、今いる場所を応見にメール送信して。そして、すぐに電源を切って」

「かしこまりました」


 命令に従った、携帯をポケットに入れ爽は、公園の出口に向かった。

「今の場所は襲撃者に知られているだろうから。できるだけ遠くへ…」

 走り出しながら、爽は襲撃者の疑問が思い浮かんだが、考える必要はなかった。

「……」

 彼女に聞けばすむから。

 今ので情報を手に入れたのか、それとも偶然見つけたのかはわからないけれども。

「こう…こ?」

 前方の広場を背にする者に爽に疑問を持った。

 赤い星人特有の、赤に近い茶髪を頭上高くゆわえた少女から離れた大人の女性。

 紅子だと思っていた顔も微妙に違う。

「私は紅子の従姉妹にあたる」

 似ている事を教えた女性は、さっきの襲撃者である証明をするかのように銃口をまっすぐ向けた。

「ねえ、ちょっとまって。どうして同士を打つの?

 教えてよ。何で狙われなければならないの?紅子は?紅子の行方がわからないのと、何か関係があるの?」

「紅子は死んだわ。

 陽本尭実の襲撃に失敗してね」

 帰ってきた言葉に、爽の頭はフリーズした。

 紅子にとって爽子を操縦する陽本尭実は特別任務に重要な存在。

 なのに襲撃し、そして…。

「………」

 何も言えない爽のために、紅子の従姉妹は説明を始めてくれた。

「紅子も、あの女、陽本尭実に魅了されて、星の使命を達成できなくなりそうになった。

 だから、私達ガルゼ派が渇をいれてやらなければならなかったわ」

 魅了…洵が言っていた。特別任務に就くエリート達は彼女に慕っていると。

 でも、知らない者、狙う物体がほしいだけの立場から見れば、それは魅了になってしまうんだろう。

「紅子は自分の宿命に気づき、我々が用意した仲間と共に、向かってくれた。

 だが、失敗に終わった。

 どこかで情報が漏れたらしく、legge-hi3《レッジェ》(応見の正式名称)の率いる機械守護隊によってことごとく散っていったのよ」

「…。紅子は…、まさか、応見に?」

「いいえ。自らの意思で散っていった。

 どっちにしろ、中立派の者に見られれば紅子の復帰は絶望的だった。もちろん、特別任務権も別の星に移る。いや、下手すれば我々の星に再び特別任務の権利がくるのかすら、問題になってきた」

 どんどん明らかになっていく情報を爽はただ、耳にいれる事しかできなかった。

 人の命の重さなどなく、淡々と説明する者の声に感情というものはなかった。

 真実を見せた説明に、爽は呆然とし、ショックが全身を包み込んでいく。

「…。それで…どうして、私を狙うんですか?」

 開ききった目で、表情のないロボットの様に爽は自分の事を尋ねた。

 今は、目の前の銃口により自分の事でいっぱいだった。

「先の見えなくなった我々にとって、残された道は一つ。陽本尭実を消すことと、星々が狙う『その物体』を破壊すること。

 『その物体』を奪って持ちかえれば足がつく。他の星に奪われるならば、破壊するのみ。もちろん、陽本尭実も同じ事。彼女を抹殺しなければ、紅子が報われない。

 もちろん、陽本尭実に関わった者も、同朋者であろうとも。今回の襲撃に関係したものは関係なく」

「………」

 淡々と出てくる言葉に人権とうものはなかった。ただ、自分のプライドを満足させるためであり。自分と関係のない者は、彼女達にとって『物』同然なのだ。

 『紅子が報われない』と言ったものの、本当に紅子のためではないのは明らかだった。

 その襲撃が失敗に終わった腹いせに。ただ、それだけでしかないのだ。

「………」

 爽は、それを知ることができた。

 でも、頭は整理できず。

 目の前の危険に回避することも。

「…」

 いや、回避しなければならない。

 今は、回避しなければ、生きていけない。

 今聞いたことに対する感情、情報整理をするためにも。

 どうすれば…

「聞きたいことは、それでいいかしら?」

 時は近づいたとばかり、安全装置を外す警告音が響いた。

「………」

 相手に一瞬でも隙をつくれば、致命傷を外すことができるだろう。

 だが、爽の手にあるのば一本の棒、いくら丈夫であつても、弾丸をバットのようにはじく能力なんて持ち合わせていない。

 どうする…どうする。

 

 だが、どうすることもできないまま、銃声が響いた。

 何もできないまま、爽は体を支える力を失い、両膝をついて倒れていく。

 時間がゆっくりになったような気がした。

 倒れて行く間、向こうの女もゆっくりと倒れて行くのが見えた。

 誰だ?誰か、助けてくれたのか?

 でも、地面に到着した爽が、それを目にすることはできなかった。

 

 

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