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未来携帯物語  作者: 楠木あいら
バイト
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異星人のバイト

1.異星人のバイト

 少し先の未来。こんな携帯のコマーシャルが流れるようになった。


「電話にメール。ネット。カメラに、目覚まし時計に、スケジュール。

 今や、携帯電話はあなた専用の秘書です。

 その秘書をもっと親密に、有能にしてみませんか?

 新しいBKV-465は、何と世界初浮遊携帯電話!

 しかも、最新人工知能搭載。完全入力機能だから命令するだけでOK。もう、操作で悩むことはありません。

 自動移動機能があるから、携帯を落とすこともありません。

 もう、携帯電話は、あなたの生きた賢い執事です」

 CMに出ていたのが人気アイドルだったせいか、浮遊携帯電話は爆発的な大ヒットとなった。


 それから、しばらくの時が流れ、浮遊する携帯電話は、異なる星人でも使えるようになった。

 ただし、偽りの書類や証明書を使って異なる星の人達は住んでいた。この星に異星人はいない事になっているから。



 早朝

 赤い球体電話、愛称ホォボスはふわりと浮き上がり登録した主人、さわに着信を告げる。

「マスター。応見おうみさんから電話です」

「…、……」

 今日は休み開けの月曜日。しかも(携帯の)目覚まし機能すら作動しない時間に、応見からである。

 赤い球体内に映し出されるのは美少年といっても過言ではないが、爽にとって彼ほど、うんざりする相手はいなかった。


「おはよーございます。上司様。いかがなさいましたか」

 爽は赤い球体に向かってあいさつをした。浮遊する携帯電話は着信があれば、自動に主人のいる所へ移動してくれる。


「目覚めたばっかで、言葉遣いの悪さ仕方ないものだな」

「わざとに決まってるでしょ。人の安眠を妨害して」

「爽が起床する六時5分前。モーニングコールだ、ありがたく思え」

 顔は整っているが性格が悪い。爽が彼に好意をいだかなくてすむ一番の理由である。

「思わない」

 爽は携帯の中で映像化された冷静沈着な応見を睨んだ。

 ちなみに未来の携帯電話はすべてテレビ電話機能があり、さらに3Dも可能であった。

「それはそうと応見。何で人の起きる時間まで知っているのよ…」

「管理者だから。通学距離と爽の性格を考えれば予測はつく」

「さすが、レベルの高いロボットだけあるわね」

 平面映像とはいえ、性格の悪いロボットをこれ以上みたくない爽はふとんを頭からかぶった。

 浮遊する球体電話がある未来。異なる星人がいればロボットも存在する。

 ロボットであるのにもかかわらず、応見が学校に通う理由は爽をはじめとする星の違う生徒を管理するためであった。


 とある目的のため


 とある目的のためではあるが、爽にとって応見は小遣い稼ぎになる職をくれる存在であり、頭が上がらない存在でもあった…。

「で、仕事の内容は?早朝叩き起こさなければならないほどの急用なのはわかるけれども」

「ああ。急用だ…休養とも言えるが」

「?」

「爽。今からCエリア48地区に向かってくれ。そこで指示に従いながら、しばらく滞在することになる」

 応見が放った仕事は遊び盛りの女子高生にとって、衝撃の大きなものだった。

「え?滞在?それって学校行かなくていいの?」

「長くなればそうなるな」

 応見の返事に、爽は今までもぐっていたふとんを跳ね上げて立ち上がった。

「やるやるやる。絶対にその仕事引き受けるからね」

 わかりやすい反応に、奴は鼻で笑いこう言った。

「まあ、頑張りたまえ」


「即、C-3Sエリア駅に向かってくれ。荷物は携帯以外持たないように。長くなるならば、向こうで買い揃えればいい。

 駅までの経路及び、細かい指示はメールで送っておく。必要経費も口座に振り込んでおく」

 ここでいう『必要経費』というのは電車代にあたる。

 改札口で携帯電話を通して自分の口座から電車代が支払われ、自動販売機や店の買い物も携帯一つで精算することができるのは当たり前の時代になっていた。


「まあったく、便利な時代になったわよね」

「電車内も、オフラインモードにすれば浮遊可能ですし」

 人工知能もあるから命令するだけで下手な操作知識もいらない。老若男女すべて楽に使えるのだ。

「それはそうとマスター。どう思います?」

 見知らぬ景色をしばらくながめていた爽は、携帯電話の問いに口を開いた。

「遠くて、長いわね」

 これから一人と一台が向かうCエリアは、都心を離れた海の近くにあった。

 通勤時間帯はさすがに混雑していたが、ピークも過ぎた今は空席が見つけられた。


 異なる星から来た爽は、バイトと称して応見からさまざまな仕事がまわってきた。

 異星生物の退治、回収。学区内のボディーガード。危険とはいえ爽には好都合な内容であるが、どれも徒歩ですむ範囲内である。


「とはいえ、素直に学校を休めるんだから。仕事に専念するだけよ」

「プラス思考はよい事です…でも、少し楽観すぎませんか?」

「そう?」


 不安を口にした携帯に耳を傾けるべきだと、爽は後になって気付いた。


 後悔という言葉が頭に浮かんだのは、メールに書かれたマンションにたどり着き、扉を開けた時だった。

 指定された部屋の中には、一人の少女がいた。

 赤色のいかにも高そうなソファーで気持ちよさそうに眠っている子は。

 爽に似ていた。

 いや、まったく同じだった。



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