ついに始まる!候補者たちと仲良くなるべし②
「神原君!?」
叶夢も戸惑ったようだが、さすがというべきなのか、「よく来てくれたわ、ゆっくりしていってね」と笑顔を浮かべて部屋を案内した。
その間に次男は一人分料理を追加するために急いでキッチンに向かった。
なんとか材料は足りそうだ。
「次男」
姉の低い声が聞こえる。
目が完全に怒っている。
「なんで、神原が来てるのよ」
「知らないよ、崎矢さんがたまたま駅で会ってうちに来ること話したらついてきちゃったらしいよ。サプライズ~とかって」
普通は誘われてもいない家に勝手にはいかない。
こちらに確認するもんだが、神原の天真爛漫さをみればあり得る話だ。
「俺のせいじゃないよ」
しばらく睨んで、「まぁいいわ」とニコッと笑った。
皆が天使の微笑みという姉の笑顔が俺には悪魔にしか見えない。
「でもやるなら完璧にね」
次男にくぎを刺すよう睨むと、叶夢は「私が作った料理を弟が温め直ししてくれるらしいから、任せてきちゃったわ~」と言ってリビングへ戻っていった。
(よくもまぁ・・・)
次男はため息をつきながら、料理に取り掛かった。
これも姉を結婚させるためなのだ。
「美園ちゃん、頑張るから」
小さく誓って、おたまを握りしめた。
「このワイン美味しい!」
叶夢が嬉しそうにそういうと、「喜んでもらえたなら良かった」と崎矢もワイングラスを傾けた。
「本当に美味しいですね」
兄の歩夢は、他人が家にいるので外面モードだ。
いつもの可愛い服を脱ぎ捨て、白のシャツに黒のズボンと少しフォーマルな装いだ。
兄弟揃ってよくこんな変われるよなと感心してしまう。
「崎矢さんってワインにもお詳しいんですね」
「いやいや、大したことないよ。父がワインを好きだったから、話している知識のほとんどが父からの受け売りだよ」
「素敵なお父様なんですね」
叶夢と崎矢の会話が盛り上がって、いい雰囲気だ。
神原は空気も読まずに料理に夢中で「これも美味しい」と口いっぱい頬張っている。
こっちは無理だなと判断して、崎矢に姉の恋人候補に絞る。
(ここで勝負をかけるか・・・!)
「そういえば、崎矢さんってフリーなんですよね?どんな女性がタイプなんですか?」
崎矢は「唐突だなぁ」と言いながら、少し考えて「経済的に自立している人かな」と言った。
「確かに、今時は女性も男性も働く時代ですからねぇ。姉さんみたいにバリバリ働く女性っていいですよね」
ここぞとばかりに次男はアピールをしてみた。
「本当に自慢の姉なんですよ」
歩夢も援護射撃をしてくれる。
兄弟に褒められて、叶夢もまんざらでもない顔をしている。
これは一石二鳥だ。
「あとは、料理ができたら最高だな」
崎矢の一言に、次男と歩夢の手が止まった。
「仕事で疲れて帰ってきた時に、温かい料理があったら幸せかな~とか思って」
崎矢はそんなシーンを想像してか幸せそうに微笑んでいる。
叶夢が相手では一生そんなシーンは来ない。
なぜなら、目玉焼きさえ焦がしてダークマターにしてしまうからだ。
「料理ですか~。いいですよねぇ」
叶夢が作り笑顔で、崎矢のグラスにワインを注いでいる。
(やばい)
兄弟のみにわかることだが、姉のこの表情、動きで怒っているのがわかる。
姉は料理は女がするのと思っている男を死ぬほど嫌っている。
それは大昔に片思いしてた男の子に料理を振る舞った時に、「女のくせに料理できねぇの?」と言われたことから始まる。
あの後の男の子の姿を思い出すと、今でもぶるっと背筋が震えてくる。
「うーん、僕は真っすぐな人がいいかな」
微妙な空気を壊すように神原が入ってきた。
「何かが出来る人が良いとか何かが出来ない人は嫌とかってそんなのは、僕にはないかな。例え出来ないことがあっても、一緒にやれば出来るかもしれないし、出来なかったら僕がやればいいし、僕が出来ないことは相手がしてくれるかもしれないしね」
そう言って、神原はにこっと笑うとチーズを食べた。
「・・・素敵な考え方ね。でも仕事は出来ないことばかりじゃ困るのよ?ちゃんと覚えてよね、神原君は同じ間違いが多いから」
叶夢がいたずらっぽくからかうようにいうと、神原は「わかってまふぅ」とピザを食べながら返事をした。
おかげで空気はまた和やかになった。
その後の会話はほぼ仕事の話だったが、食事会の時間は楽しく流れていった。
「ごちそうさまぁでしゅう」
ワインを飲んで酔っ払った神原を崎矢が支えながら歩いている。
「この子、駅まで送って来るよ」
そう言って崎矢は神原を引きずるようにして帰って行った。
◇◆◇
「つーちゃん、お疲れ様」
食事会の後片付けで洗い物をしていると、歩夢がよってきた。
部屋着に着替えて、今はもこもこパンダさんトレーナーを着ている。
「あまり上手くいかなかったね」と次男がしょんぼりした声を出した。。
「え?そうかな?」
「だって、崎矢さんが料理出来る人がいいみたいなこと話してたじゃん。姉ちゃんには無理だよ、料理なんて」
「それにお姉ちゃん怒ってたもんね」
「まぁその後は楽しそうに話してくれてたけどさ」
「でも良かったんじゃないかな?」
「え?」
「神原さんといい感じだった」
「姉ちゃんと神原さん?!」
少し大きな声がでて、慌てて口元を抑える。
叶夢は片づけを次男に押し付けて、お風呂に入っている。
「いい感じだと僕は思ったけどな」
そういうと歩夢は、「つーちゃんもまだまだだねぇ。姉ちゃんの好みをわかってない」と笑ってキッチンから出ていった。
「まだまだって・・・。ってか片付け手伝ってくれないの?!」
歩夢に向かって叫ぶが、静かに扉が閉まる音が聞こえた。
(姉ちゃんの好みか・・・)
次男は片づけを何とか終えると、お風呂上りにビールを飲む姉に声をかけた。
「姉ちゃん」
「・・・何?ビールならあげないわよ」
「いらないよ。ちょっと聞きたいことあってさ」
「何?」
「姉ちゃんの好みのタイプってどんな人なの?」
「何よ、いきなり」
「今日そんな話になったから、姉ちゃんはどうなのかなーって。うちに彼氏とか連れてきたことないでしょ?今までどんな彼氏と付き合ってきたの?」
姉からなぜか殺気立つオーラが出ている。
「えぇっ、なんで?彼氏のこと聞いただけじゃん」
「うるさい!」
叶夢の顔が少し赤くなっている。
「もしかして、姉ちゃんって今まで付き合ったことないの?」
次男がこの一言を放った瞬間、全ての音が消えてなくなったように静かになった。
そして、次の瞬間「・・・次男っ!!!」と姉の怒号と次男の叫び声が家に響き渡った。
「つーちゃんはやっぱりまだまだだね」
歩夢はいつもの光景をみて、再び自室の扉を閉めた。




