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守護竜と花の妖精  作者:


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6/7

覚醒

「に、逃げろ!あんなのにかなうわけがない!」

 兵士達が空を見上げ、我先に城へと避難しようと走り出した。騎士達も何人か職務を放棄し、逃げ出す者もいる。

 空間の歪みは直径百メートル程の大きさだ。その穴から窮屈そうに巨大魔竜がもがきながら這い出てこようとしているのだ。

「クソッ!…でかすぎる!」

 ラジールは魔物や敵兵を切り捨てながら空に浮かぶ空間の歪みを見上げた。

 騎士や兵士達が矢を放つが全く意味がない。

 マーフ騎士団長が空へと飛び、魔法で強化した剣で魔竜の前足をきり落とそうと試みたが、その鱗は固く、弾き飛ばされてしまった。

「ジェイド!何か手はないのか!?あいつがこちら側に来たら城は崩されてしまう」

 ラジールはそう言ってジェイドを見た。ジェイドは空中を見上げる。

「…空間の歪みごと爆発させてやる」

「そんなのできるわけ…」

「あれが完全にこっちにきたら城の結界も刃が立たない。ラジール、騎士団長に言ってくれ。俺が魔法陣を発動したら、騎士や兵士にに防御膜を張るよう、指示しろと。防御膜が張れない兵士は城に避難させてくれ」

「!」

「む、無茶な! お前一人じゃ…」

 ジェイドがニヤリと笑った。先程から自分の身体の中に変化を感じた。魔力の流れが体内で波打つ。ジェイドのなかで何かが弾け、魔力が解放された感じがした。

「…ラジール、人には役割ってもんがある。今の俺は大陸全土だって破壊できる気がするよ!」

 ジェイドはそう言って空中に飛び、空間の歪みの下で呪文を唱えた。空に大きな魔法陣を描き、気を集中させる。

 ラジールはマーフ騎士団長に防御膜を張るよう伝え、傷を負って動けない者達を移動させた。


「まだだ…焦るな…」

 ジェイドは自分に言い聞かせるように呟き、大地のエネルギーと大気のエネルギーを魔法陣へ集める。ちいさな地震が起き、地面が揺れている。

 魔竜達がジェイドに攻撃しようとしてくるのをラジールや騎士達が矢を放ち、守る。

「我が守護神…アレースの聖名におき、我に力を与え給え。大地と大気の力を貸し給え!」

 体内に爆発しそうなエネルギーが注ぎ込まれ、絶頂に来た瞬間、ジェイドはそれを魔法陣にぶつけた。魔法陣は舞い上がり、巨大魔竜が抜け出そうとする空間の歪み全体を包み込んだ。

「バースト!」

 ジェイドがそう叫んだ瞬間、ジェイドの身体から光の粒が弾けた。咄嗟に自分に防御膜を張り、爆発に備えた。

『ドーンッ!!』

 凄まじい爆発音と目を潰すくらいの光が空を覆い、大気が震え、地響きがした。巨大魔竜の身体が木っ端微塵に飛び散り、その爆発で周りを飛んでいた魔竜達が焼かれ、消えて行く。

「シールド!」

 爆発がこれ以上広がらないよう、もがき苦しむ巨大魔竜を爆発ごとシールドに閉じ込める。それでも爆風と熱で魔物達が溶けていく。


「ば…化け物か、あいつは…」

 ハーム騎士団長は防御膜の中からジェイドの起こした爆発を呆然として見ていた。爆発の熱風が防御膜を破りそうな勢いだ。防御膜の外の魔物や敵兵達がバタバタと倒れていく。その爆発の威力は街一つ消えてもおかしくはない勢いだった。

「残った敵を片付けろ!」

 ある程度爆発が収まり、ハーム騎士団長は騎士達にそう叫んだ。


 ジェイドは魔力をほとんど使い果たしながらも参賀の間に降りた。霧が晴れ、魔物や敵兵は殆ど息絶えていた。参賀の間には魔物にやられた近衛兵や貴族の遺体が転がっている。

 ジェイドは着ていたジャケットを脱ぎ、横たわるマクベス王の遺体と首にかけ、目を閉じ、頭を下げた。以前一度だけ話したことがある。ラジールが親友だとジェイドを紹介したら、「弟をよろしく」と優しく笑っていた。


 ジェイドはマクベスの遺体の横に転がる歪んだ王冠を拾いあげた。参賀の間に掲げてあるナスディ国の黒い旗を燃やそうとしたが、もう魔力が残っていない。


「ジェイド! ジェイド!大丈夫か!?」

 ラジールが駆けつける。

 魔力を使いすぎたのか、ジェイドは血を吐き、ボロボロだった。こんなジェイドは見たことがない。

「…魔力が…魔力がゼロに近いじゃないか!」

「…ああ、少し無茶したみたいだ」

「少しじゃない!と、とりあえず!」

 ラジールはジェイドの胸に手をかざし、ジェイドに魔力を流した。ラジール自体、戦いでかなりの魔力と体力を失っている。自分のことを顧みず、ジェイドに残った魔力を送ろうとするラジールの必死な顔を見てジェイドはフッと笑った。

「もう十分だ、心配いらない。死にはしない」

 ジェイドはそう言ってラジールの魔力を遮った。

「…これ」

 ジェイドは歪んだ金の王冠をラジールに差し出した。

「落ちてたぞ。…お前のだろ?」

 ジェイドは疲れた表情で笑った。

「…」

「…俺は一つ役目を果たした。お前の役割はなんだ?」

 ジェイドの言葉にラジールはグッと胸を掴まれた気持ちになり、すぐそばに横たわるジェイドがジャケットで覆ったマクベスの遺体に目を向けた。

「…ああ、俺のだ」

 ラジールはそっと手を出し、その王冠を受け取った。

 ジェイドはラジールに跪き、頭を下げた。

「!?」

「ジェイド・アレース・ハルク…ラジール国王に生涯、忠誠を誓います」

「!」

「この事態を引き起こしたナスディ国に報復の命令を私に授けて下さい」

「!?」

 ジェイドの申し出にラジールは耳を疑った。

「無茶な…!お前こんなにボロボロで…」

「ラステルに治癒と回復魔法を頼むから大丈夫だ」

「一次的なものだ、その後しっかり身体を休めないと…」

「今行かなきゃ意味がない。…ナスディ国からの襲撃を受けたと知れば混乱している今を狙って他国も襲ってくるかも知れない。」

「しかし!」

「今ナスディ国に報復し、制圧すれば他国も容易には手を出せない」

「兵士も騎士もケガを負ってる、この状況で出陣は…それに王都が手薄になる」

「…俺一人でいい」

「?!」

「今夜、俺一人でナスディ国に行く」

「無、無茶な!死にたいのか!?」

「覚醒した」

「は?」

「…見ただろ、あの爆発を。今までの自分の力以上の魔力を身体の中に感じた」

「…それって」

「俺にもわからん…だが、負ける気がしない。国一つ滅ぼせるほどの力を感じる」

「魔聖か…?」

「わからん」

「しかし、ボロボロじゃないか!」

「魔力に俺の器が追いついていないたけだ。そのうち慣れる」

「…」

「俺を信じてくれ」

 ジェイドの目は力強く、自信に満ち溢れていた。

「…信じよう。だが…絶対に死ぬな」

 ラジールの言葉にジェイドは頷いた。

「…お前がナスディ国を制圧したら、お前の望むものを与えよう」

 ラジールの言葉にジェイドはフッと笑った。

「それはやる気が出るな」

「三日だ…この状況じゃあ、腰抜け貴族達は援軍を頼むためにピアナをネダート国に一刻も早く売りたがるはずだ。俺が絶対に阻止する。だから…お前は必ず無事に三日で帰って来い」

「…分かった」

 


「ピアナ…」

「ジェイド! 無事で…無事で良かった…」

 ピアナはホッとした表情でジェイドに駆け寄った。

 魔法省の魔法士や治癒士が怪我をした人々を治癒している。ピアナはその手伝いをしていた。

「少し…時間とれるかな?」

 輿入れが決まっているピアナと城で二人きりになるのは普通なら無理だが、今は混乱していて誰も気にしていない。

「中庭に…」

 二人はこっそりと城の中庭に出た。白く大きな月が庭のバラを照らしていた。優しい風が吹くとバラの香りが鼻をくすぐる。

「ラジールが王になるって本当?さっきお父様が言ってたわ」

「ああ、あいつなら大丈夫だ」

「ええ…ラジールなら、きっと良い王になるはずだわ」

「ピアナ…俺が預けたものは?」

「…これね。本当なら…あなたのために新しく作りたかったけど…」

 ピアナはそう言ってハンカチを差し出した。フリージアの香りがした。

 この状況で自分のネダート国への輿入れが早まるのをピアナも薄々分かっているのだろう。

「あなた、ヒーローだわ。あの大きな魔竜を倒すなんて…皆、口々に言ってたわ。ラスタの守護竜だって」

ピアナは嬉しそうに笑った。

「こんなにも強いなんて…」

 月灯りに照らされたピアナは幻想的で美しかった。

「君は花の妖精みたいだな」

「! やだ…ジェイドたら。そんな冗談も言うのね」

「…一つ聞き忘れたことがあったんだ」

「何?」

 ジェイドはピアナを抱き寄せた。

「!?」

「好きだよ、ピアナ」

「…」

「君は…俺のことどう思ってる?」

 ピアナが一番聞かれたくない質問だ。ましてや今からネダート国に行くピアナには酷な質問だ。

「…どうして…ひどいわ」

 ピアナの肩が震えていた。

「君の本当の気持ちが知りたい。だから…俺は謝らないよ」

「…」

「でももし…君の口から同じ言葉が聞けたら俺は死ぬ程嬉しい」

「わたしは…」

 その言葉を言わないでいることが自分の気持ちの最後の鎖だった。閉じ込めたままでネダートに行くつもりだった。

「…好きよ」

 胸の奥に鉛のように重たく閉じ込めていた言葉がピアナの口から吐き出された。苦しい思いと一緒に涙がこぼれ出す。

 その言葉にジェイドの胸は熱くなり、思わず唇を奪っていた。

「!」

 昼間より、濃厚なキスだった。全身が震えるほど熱くなり、ピアナはしがみつくようにジェイドの首に手を回していた。

 唇を外すとジェイドはピアナの手にキスをした。

「…今からナスディ国に報復に行って来る」

「え?」

「…君の口から俺の一番欲しい言葉を聞けたからやる気が出た」

「…こんな時に遠征するの?」

「ああ、今じゃなきゃダメなんだ」

 さっきのは死を覚悟しての告白とキスだったのか…ふとピアナはそんな気がして不安そうな顔でジェイドを見つめた。ジェイドは笑う。

「…勘違いしないでくれ。俺は騎士だ。死は最初から覚悟している」

「でも…」

「死ぬかも知れないからキスしたんじゃない。約束するためだ。必ず帰って来る」

 自信に満ち溢れていた瞳にピアナは頷いた。自分はこの国から去るが、無事に帰って来て欲しい。

「必ず…帰って来て」

「ああ」

 ジェイドはピアナからもらったハンカチを懐に入れ、ピアナの手にキスをしてその場を去った。



 




 





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