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守護竜と花の妖精  作者:


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ピアナ

 王宮の広間でラスタ王国の第二王子のラジールと、第三王子ヘラルド、そして従姉妹にあたる、ピアナ・アンティア・ルシュタフはダンスのレッスンを受けていた。

 ラジール第二王子は十四歳、ヘラルド第三王子とピアナはまだ十二歳だ。

 金髪にエメラルドのような緑の瞳、まだ少しあどけなさが残った顔で額に汗をうっすらとかきながら、必死に踊っている。


「ピアナ様!何度言ったら分かるのですか?ステップがズレてます!目線を落とさないい!」

 講師のロワイル夫人はピアナに厳しい。ピアナは必死でヘラルドのステップに合わせるが、中々息が合わない。

「今のはヘラルドが遅いよ」

 ラジールが椅子の上であぐらをかきながら指摘する。

「高貴な方を相手にするのなら、相手に恥をかかせないようにピアナ様が合わせるのですよ!ほら、また今目線が落ちた!」

 曲が終わり、ロワイル夫人は気難しい顔でため息を吐いた。

「ピアナ様、このままでは立派な淑女にはなれませんよ?」

 ロワイル夫人がピアナにそう言った。

__別になりたくないわ、りっぱな淑女なんて。

 口には出さないが、ピアナはそう思いつつ、申し訳なさそうなフリをして説教を聞き流した。

 ロワイル夫人が部屋から出ていくとピアナは大きなため息を吐いた。

「大丈夫か?ピアナ。僕たち二人分の相手をさせられてるんだ。疲れただろう?」

 二歳上のラジールはそう言って同情する。

「ダンスのレッスンはまだマシだわ。身体を動かすし、あなた達がいるもの。」

「はぁ…、分かるよ。王妃教育なんてつまらないもんな。僕は騎士学校に行ってるからいいが、ずっと城の中で勉強なんて気が狂う」

「王城に来るのは嫌いじゃないわ。だってお庭にはバラが咲いてるし、こうやってラジールやヘラルドとも会えるもの」

「帰ってからも何かあるの?」

 ヘラルドが尋ねる。

「帰ったら、外国語のレッスン、マナーレッスン、刺繍…食事の時もマナーの先生に見張られてるのよ?」

「自由な時間はないの?」

「たまにあるわ。でも、屋敷の外には出れないし…月に一回、このお城に来る時に見る馬車からの景色が私の唯一の冒険よ」

「どうして兄上もピアナもそんなに勉強ばかりしなきゃならないの?」

 第三王子のヘラルドは王位継承する可能性が低いため、そこまで教育は厳しくない。

「…結局、王家の血筋を引く女なんて、政略結婚の駒でしかないのよ。立派な淑女に育てて外国に売られるの」

 十二歳にしては大人びた口調でピアナが言った。

「まぁ…僕も似たようなもんさ。王位は兄上が継ぐし、そうなれば、第二第三王子だって政治の駒さ」

「じゃあどうして騎士学校なんかに入ったの?」

 ピアナはそのエメラルドのような瞳でラジールを見た。

「騎士としても実力を認められれば、何か一つくらいは自分の決定権が増えるかもしれない。陛下との取引の材料としてね」

「…いいわね、そんな選択肢さえ私にはないわ。嫁ぎ先の国が平和で性格の良い王子であることを願うだけよ」

「ピアナは賢いから、どんな国に行っても上手にやって行けるよ」

「賢い女は嫌われるものよ。結局はどこの王室も人形みたいなおしとやかな女性を歓迎するのよ。王族の血なんて引くもんじゃないわ。平民の方が良かったわ」

「同感だ」

 ラジールがそう言うとヘラルドは眉をひそめた。

「二人ともどうかしてるよ。同じ人間な訳ないだろ?平民なんて履いて捨てるほどいる。王族の高貴な血が流れてるんだ。もっと誇りを持たなきゃ…」

 ヘラルドの言葉にピアナが首を横に振る。

「平民も王族も貴族も、同じ人間だわ。私なんか王族の血が流れてても、大した魔法は使えないし、平民と何ら変わりないわ。」

「そうだな。平民でも優秀な人間はゴロゴロいるし、王族でも貴族でもゴミみたいなのはいっぱいいる。裸になれば誰が平民か王族かなんて区別はつかないもんさ」

 ラジールの言葉にピアナがクスッと笑った。

「…ラジール、なんか変わったわ」

「?」

「前までオレ様的に我儘だったのに。自分が一番能力があるって顔してたわ」

「まぁ、子供だっただけだよ。王子王子ともてはやされたら、勘違いするんだ。自分が優れた人間だと」

「どうしちゃったの?本当に」

「…良い友達ができたんだ。騎士学校で」

「友達? 兄上に?」

「ああ。そいつは平民だけど、すごい魔力も高いし、剣術はそこら辺の騎士より強い」

「十四歳で?」

「ああ。僕と同じ歳だ。媚を売ってくる貴族の子息達より、そいつと一緒にいる方がよっぽど楽しい」

 ラジールの嬉しそうな表情にピアナは少し羨ましいと思った。

 自分の周りにはそんな友達はいない。気位の高い貴族令嬢達は、ドレスの流行りや、マウントを取るような話ばかりでうんざりする。

「兄上、だから最近、品位が足りないと言われるのですよ。平民なんかとつるんでることがもし父上にバレたりしたら…」

「ヘラルドは頭が固いな。身分より実力、それを重視しないと、政治も戦も衰退する。確かに政治を動かすのは王族や貴族だが、それは平民のお陰で成り立つんだ」

「私もそう思うわ。羨ましいわ、そんなふうに自分を変えてくれる友人がいるなんて」

 ヘラルドは一人、納得の行かない顔をして話をきり上げ、部屋を出て行った。


 王城からの帰り、ピアナは侍女と二人、馬車に揺られていた。

【ガタンッ】

 突然馬車が大きな音を立て、止まった。その振動で二人とも椅子から落ちそうになった。

「大丈夫ですか!?ピアナ様」

「え、ええ。どうしたのかしら…」

 二人は馬車の外を覗いた。

「…街の人達が逃げて行くわ…」

 御者が慌てて馬車のドアを開けた。

「ま、魔獣です!馬が怯えて動けません!二人とも、降りて逃げて下さい!」

「魔獣!?」

 こんな王都の真ん中で魔獣が現れることなど滅多にない。侍女は震えながらピアナの手を取り、馬車を降りようとした。

 鼻を突く瘴気の匂い、御者が必死に二人に手を差し伸べ、馬車の外に出した。

「!?」

 馬車の二十メートル先に馬の二倍はあるイノシシのような魔獣がどこかの貴族の馬車を牙でひっくり返している。人々は悲鳴を上げながら逃げまどい、建物の中に入る。

 ピアナも侍女も魔獣など初めて見る。その禍々しい圧力に二人とも足がすくむ。

「二人とも、こっちです!」

 御者がそう言って路地に二人を逃がそうとした時だった。

「きゃあ!」

 馬車を引く馬が急に暴れだし、侍女の背中に車体が当たり、侍女がこけた。暴れた勢いで馬は馬車から外れ、逃げ出した。

「スーザン!」

「ピ、ピアナ様!早く逃げて下さい!」

 御者がそう叫び、ピアナはスーザンを起こそうとしたが、スーザンの服を馬車の車輪が轢いている。

「車輪を動かさなきゃ!」

 ピアナはそう言って馬のいなくなった馬車を動かそうと手で押すがびくともしない。御者も一緒に押したその時、魔獣がこちらをじっと見ていた。

「ピアナ様!逃げて!だ、だめです!ピアナ様を連れて行って!」

 スーザンを無視し、二人は馬車を押し、やっと服を車輪の下から外すと、スーザンが立ち上がろうとしたその時だった。

「!?」 

 デカいイノシシが三人をめがけ、突進して来た。ピアナはスーザンをかばうように覆いかぶさった。

 三人とも必死すぎて声も出なかった。スローモーションのように魔獣がこちらに牙を向け襲ってくる。三人とも死を覚悟し、御者は二人をかばうように盾になろうとした時だった。

「防御!」

 どこからか声が聞こえ、三人の目の前に透明の防御膜が発生し、少年の後ろ姿が見えた。少年はその身体には大きすぎる剣でイノシシの突進をくい止め、魔法でその巨体をはじき飛ばした。イノシシの牙が欠け、少年の頬をかすめた。

「今のうちに建物の中に!」

 少年は剣を構えたまま、振り返りもせず、ピアナ達にそう言った。御者は慌てて立ち上がり、ピアナと侍女を連れ、扉を開けてくれたすぐそばのジャム屋に避難した。

「危なかったね、お嬢ちゃん達…ケガはないかい?」

 ジャム屋の女店主が心配そうにピアナとスーザンに声をかけた。

「ありがとうございます。スーザン、ケガは?」

「大丈夫です、すみません、ピアナ様を危険な目に…」

 スーザンはまだ震えながら謝る。

「大丈夫よ、命が助かったのなら…。あの方…まだ子供なのに」

 ピアナは御者と女店主が見ている窓の外に目を向けた。

「騎士達は何をしてるんだ?あんな子供一人に戦わせるなんて!」

 駆けつけたはずの騎士二人が魔物のでかさに恐怖し、飛び出せない。

 大きなイノシシは体勢を整え、少年に突進してきた。少年は軽く身をかわし、剣を突きたてるが、びくともしない。

 イノシシは執拗に少年に牙を向ける。少年は水縄でイノシシの足を縛り、剣に強化魔法をかけ、心臓を剣で貫いた。

 凄まじい声をあげ、イノシシが倒れた。少年は肩で息をしながら、ホッとして剣を納めた。

 ピアナは思わず店を飛び出し、少年に駆け寄った。

「あ、ありがとうございます!」

 ピアナがそう声をかけると、少年は振り向き、ピアナを見た。

 身長はピアナよりも高く、焦げ茶色の髪は短く、茶色の瞳はキリッとして精悍に見えた。魔獣の欠けた牙が当たった頬は切傷になり、血が出ている。

「あ…ケガしてるわ」

 ピアナな思わずハンカチを取り出し、その少年の頬に当てようとした。

「!」

 少年は驚き、顔を少し赤くして後ろにのけぞる。

「あ…ごめん。血が付くから大丈夫だよ」

 慌てて少年は謝った。

「使って下さい、血を拭くのに」

 ピアナはそう言って黄色いフリージアの花の刺繍が施してあるハンカチを少年に差し出す。

「いや…でも」

「いいから!」

 ピアナは目を潤ませてそう言った。張り詰めていた気持ちが緩んだのか、涙がポロッとこぼれた。少年はギョッとしてハンカチを受け取る。

 渡されたハンカチはフリージアの香りがふわっとした。

「あ…ありがとう。大丈夫か?」

「…お礼を言うのはこちらです。あなたが来てくれなければ私達は死んでたわ」

 エメラルドのような瞳で見つめられ、少年は少し照れくさくて目をそらした。

「私はピアナ・アンティア・ルシュタフです、お名前をお聞きしても…?お礼がしたいわ」

「いや…俺は別に」 

 少年が戸惑っていると、魔獣が倒されたことに気付いた街の人々が外に出て来た。少年はバツが悪そうに周りを見回した。


「ケガはありませんでしたか?」

 ピアナの服装で貴族と気付いたのか、慌てて騎士達二人が駆け寄って来た。

「ええ、この方のお陰で…」

 ピアナが振り向き、少年を見るとそこにはもう姿はなかった。ピアナが少年を探し、辺りを見回すともうすでに反対側の通りの路地へと走って消えて行った。


「…ピアナ様、先ほどの少年が逃げた馬を魔法で足止めしてくれていました。すぐに用意しますのでお待ち下さい」

 御者がそう言ったのでピアナはスーザンと二人、ジャム屋の前で待っていた。

「ピアナ様…申し訳ありません。私のせいでピアナ様を危険な目に…」

 スーザンはそう言って泣き出した。

「あなたのせいじゃないわ。魔獣のせいよ」

「ピアナ様、どうか、もしまた今度あんな状況になった時は、私や従者の命より、ご自分の命を優先して下さいませ」

「…スーザン、私は王族の血を引いた貴族よ」

「そうです、私のような平民の命など…」

「平民も貴族も王族も、命は皆大事だわ。でも、私たち貴族や王族は平民を守るためにあるべきよ。今日の事、お父様やお母様には言わないでちょうだい。無事だったんですもの」

「ピアナ様…」

 まだ十二歳なのに気高く、凛とした姿にスーザンは感動した。

「…名前も教えてもらえなかったわ」

 ピアナはそう言ってため息を吐いた。

「先ほどの少年ですか?服装からして平民だと思いますが、剣を持っているなんて」

「魔法で出したのよ、きっと。騎士の方達に聞いてみたけど知らないと言ってたわ」

 ピアナはそう言ってあの少年の顔を思い出した。心臓がトクンと跳ねた。





 




 



 

 









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