第4話
「リーファ!何をしてる!」
トウマの背後で、リーファはわずかに残った魔力を振り絞り、トウマが事前に**『採掘技術』で「崩落の危険がある」と判断した岩盤の特定箇所**めがけて、自分の持つ唯一の魔術を放った。
【簡易修復(Minor Repair)】
本来、修復と安定化を促すその魔術は、リーファの意図とは裏腹に、極限まで不安定な岩盤の微妙な均衡を崩すことになった。
ゴオオオッ!
轟音と共に、大量の岩がバルカスと看守たちを塞ぐように、通路を完全に閉ざした。魔術の反作用と、崩落の衝撃波をまともに受けたリーファは、血を吐き、そのままトウマの腕の中に倒れ込んだ。
「リーファ!?」
彼女の小さな体は、熱を持ち、呼吸は浅い。トウマは一瞬、全てを投げ出したくなったが、瓦礫の向こうから聞こえるバルカスの怒声に、我に返った。
「リーファ、頑張れ!もう大丈夫だ、助かったんだ!」
トウマは重傷を負ったリーファを抱き上げ、さらに奥へと走った。
トウマとリーファは、採掘坑道の奥深く、普段は作業員も立ち入らない古い支坑へと逃げ込んだ。追跡してくるバルカスの怒鳴り声は、すでに遠い。
トウマは壁にもたれかかり、荒い息を整えた。頭痛がひどい。一瞬とはいえ、大量の雑スキルを応用したことは、身体のキャパシティを超えていたようだ。
「トウマさん、ごめんなさい……私のせいで……」
リーファは激しく咳き込みながら謝罪する。トウマは彼女を抱き起こす。彼女の小さな体は熱を持ち、血の気が引いている。
「喋るな、リーファ。あんたは俺を救ってくれたんだ。今度は俺が、あんたをここから連れ出す番だ」
しかし、トウマの**「薬草の知識Lv.1」と「簡易止血術Lv.1」**では、彼女の深刻な内傷を治すことはできない。トウマの胸に、絶望的な焦燥感が押し寄せる。彼女は元々、満足な栄養と医療がない環境で働いていたため、その消耗は致命的だった。
「バルカスは必ずまた来る。この奥にある、古い非常用の出口まで行くしかない」
トウマは決意を固めた。恩返しから始まった感情は、今や**「この光を失ってはならない」**という強い執着に変わっていた。
トウマは【遅延成長】を高速で稼働させる。
(この坑道全体をひっくり返すほどの、大きな「工夫」が必要だ。バルカスを一時的に塞ぐだけでは、リーファの命がもたない……!)
彼は「採掘技術」と「石質識別」を組み合わせて、坑道の構造と、内部に眠る魔力の流れを分析し始めた。
「リーファ、少しだけ我慢してくれ。俺が、必ず活路を見つける」
トウマがリーファの身体から手を離し、周囲の岩盤に触れた、その時。
「ハハハ!見つけたぞ、ネズミどもめ!」
岩盤の向こうから、バルカスの怒鳴り声と、重い岩を砕く音が響いた。バルカスたちは、すでに崩落を力任せに乗り越えて、追跡を再開していたのだ。
トウマは顔色を変えた。逃げ道はない。この先に非常用の出口があるとしても、彼らがそこにたどり着く前に、バルカスに追いつかれるのは明白だった。
(どうする?どうすれば、バルカス、そしてこの採掘場全体を、一瞬で無力化できる?)
トウマの脳内では、大量の雑スキルが、採掘場の構造図、魔石の知識、有毒ガスの発生源、そして物理学の法則と無作為に組み合わされ、一つの大きな答えを導き出そうとしていた。
その間も、リーファの息遣いは弱くなっていく。トウマに残された時間は、少なかった。




