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第3話

トウマが採掘場で働き始めて二週間が経った。


トウマの肉体的な疲労は依然として深刻だったが、彼の「知識の貯金箱」は着実に満たされつつあった。採掘技術、石質識別、そして新たに**「簡易な隠密Lv.1」や「視覚強化(夜間)」**といった、生存のための雑スキルが積み重なっている。


夜の休憩時間、トウマはリーファから分けてもらった薬草を噛みながら、密かにステータスを確認した。


「まだレベルは1のまま。でも、貯金箱のスキル数はもうすぐ五十種類に達する……」


しかし、トウマの地道な努力を嘲笑うかのように、採掘場の雰囲気は日に日に悪化していた。看守たちの視線が、トウマではなく、リーファに集中し始めていることにトウマは気づいていた。


リーファは病気の家族のために危険な採掘場で回復魔術師として働いているが、その身なりは粗末でありながら、際立って清らかに見えた。それは、この泥沼のような環境において、あまりにも**目立つ「小さな光」**だった。


そして、その夜、最悪の事態が起こった。


採掘場のボスである看守の一人、バルカスが、リーファを無理やり宿舎の奥へ引きずり込もうとしたのだ。バルカスは筋骨隆々とした大男で、ジョブは『重戦士』。ステータスはおそらくDランク以上だろう。


リーファの小さな悲鳴が、薄暗い廊下に響いた。他の奴隷たちは皆、見て見ぬふりをする。逆らえば、翌日には採掘坑道の奥深くで、事故死として処理されることを知っているからだ。


(くそっ!このままじゃ駄目だ!恩を返さなきゃいけないんだ!)


トウマは身体の震えを抑え、決意を固めた。彼はまだ弱い。筋力E、レベル1の雑役では、正面から戦えば一瞬で叩き潰される。


しかし、彼はただの雑役ではない。 彼は【遅延成長】という知識の貯金箱を持っている。


トウマはバルカスの気を引くため、敢えて宿舎の入り口の石床を、つるはしで弱々しく叩いた。


「おい、バルカス!何の騒ぎだ!」


トウマの甲高い声に、バルカスは心底不快そうな表情で振り返った。


「なんだ、このハズレ雑役が。てめぇは今日で死にたいのか?」


バルカスが剣に手をかける。トウマはその剣の柄の、わずかな滑り止めの溝に目を集中させた。


トウマは瞬時に知識の貯金箱の中のスキルを検索する。


『石質識別Lv.1』、『採掘技術Lv.1』、『簡易な隠密Lv.1』。そして……。


『つるはしの正しい持ち方Lv.1』。このスキルには、**「つるはしを『テコの原理』で効率よく利用する方法」**という詳細情報が含まれていた。


トウマは咄嗟に、自分の身体よりも重いつるはしの柄を、全力で、床に固定された重い**「魔石運搬用の木箱の金具」**の下に差し込んだ。


そして、バルカスが完全にトウマに気を取られた瞬間、トウマは全力でつるはしの柄の先端を押し下げた。


「ふざけるな!」とバルカスが剣を抜こうとしたが、その瞬間――


トウマが仕込んだテコの原理と、採掘技術で事前に発見していた床の微細な亀裂が連動し、木箱の金具が凄まじい勢いで跳ね上がった。金具はバルカスの足元の、重戦士の脛当ての継ぎ目を正確に打ち抜いた。


「ぐぁっ!」


バルカスは悲鳴を上げ、その強靭な体がバランスを崩す。トウマはさらに、隠密スキルで覚えた**「音を消すための足運び」を利用し、バルカスが体勢を立て直す間際に、事前に回収しておいた微細な毒性の薬草**(リーファから治療法を学ぶ際に入手した知識)をバルカスの顔に叩きつけた。


「卑怯な真似を!」


バルカスは叫んだが、その視界は薬草の微毒で一瞬塞がれる。トウマはすかさず、リーファの手を掴み、そのまま採掘坑道の奥へと走った。


「リーファ、走れ!ここはもう駄目だ!」


トウマは、圧倒的な筋力や魔法ではなく、知識と機転で、採掘場のボスをほんの一瞬、出し抜くことに成功した。しかし、彼の身体は全力疾走で限界を超え、蓄積された知識の解放によって頭痛が激しく襲っていた。


トウマが握るリーファの手は、まだ強く震えている。


(今は、逃げるのが精一杯だ。でも、俺は生きた!雑スキルは、確かに通用した!)


二人の逃走劇が、始まったばかりの暗い坑道に響き渡った。

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