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第1話

目を開けると、そこはコンクリートの壁でも、見慣れた病院の天井でもなかった。


冷たい石の床に背中を打ち付けた痛みと、鼻を突くカビと土の臭いで、トウマは辛うじて自分が生きていることを認識した。周囲は薄暗く、石造りの広間のような場所にいる。近くでは、何語かもわからない荒っぽい声が飛び交っていた。


「くそ……、ここ、どこだ?」


記憶の最後は、横断歩道で大型トラックのヘッドライトに焼かれるような強烈な光だった。確実に死んだはずの自分が、なぜここにいるのか。混乱するトウマの視界の端に、半透明の青いウィンドウが唐突に浮かび上がった。




トウマは恐る恐るその文字を読み上げた。


【名前:トウマ】 【種族:人間】 【レベル:1】 【ジョブ:雑役(Zatsueki)】 【スキル:遅延成長(Delay Growth)】


【能力値】 筋力:E 耐久:E 魔力:G (ほぼゼロ) 器用:D


「ジョブ? スキル? まるでゲームみたいだ……」


その瞬間、異世界に転移したことを理解したが、次に目にした項目がトウマの期待を完全に打ち砕いた。


トウマは両手で頭を抱え込んだ。


「嘘だろ……? 俺のスマホは? 財布は? いや、それより家族は? 俺、死んだんじゃなかったのか? これが夢だろ? 誰か、誰か助けてくれ!」


トウマは混乱のあまり、立ち上がって周囲を見回したが、いるのは得体の知れない荒くれ者たちだけだ。彼は、自分の世界が唐突に崩壊し、何の脈絡もなくこんな場所に放り出されたという現実の重さに、胃の底が冷たくなるのを感じた。


「こんなふざけたステータスウィンドウが現実なわけがない! チート能力もない、普通の高校生だった俺が、なんでこんな場所に……!」


しかし、どれだけ叫んでも、ステータスは消えない。そのあまりの理不尽さに、トウマの膝が震え、思わず石床に手をついた。


【ジョブ:雑役】 ——あらゆる専門知識を持たない最下級のジョブ。能力値の成長補正は皆無。


【スキル:遅延成長】 ——獲得した経験値及びスキルポイントは、体内に一時的に蓄積される。通常の成長速度は極めて遅延するため、実質的に成長を妨げる「呪いのスキル」と認識される。


「雑役? 遅延成長?……チートなし、どころか、マイナス特典じゃないか!」


その時、荒っぽい声がトウマの頭上から響いた。


「おい、そこのハズレ!いつまで寝ている!」


身長2メートルはある大男が、錆びた剣を杖のようにして、トウマを見下ろしていた。


「このチビは今日来た転移者らしいが、ステータスを開示してみろ」


男に促されるままステータスを見せると、周囲にいた数人の男たちが一斉に嘲笑した。


「ハハハ!『雑役』だと?筋力E、魔力Gだと?そしてスキルが『遅延成長』!神様も随分とケチなもんだぜ!」 「こんな無能、売れないぞ。奴隷として採掘場に送るのが精一杯だ」


トウマは愕然とした。ここは転移者を保護してくれるような聖地ではなく、異世界の理不尽な現実に直面する場所だった。


抵抗する間もなく、トウマは強靭な腕に拘束された。首には冷たい鉄の枷が嵌められる。


「いいか、『雑役』。お前は今日から魔石採掘場へ行く。死ぬまで魔石を掘り続け、その身代金を稼ぐんだ」


奴隷商人と名乗った男は、トウマのジョブとスキルを一瞥しただけで、人間扱いする価値もないと言いたげな視線を向けてくる。


「くそっ、冗談じゃない!俺は生きるために、もっと良いスキルを手に入れなきゃ……!」


トウマは必死で抵抗したが、戦闘経験ゼロの体と、レベル1の『雑役』では、屈強な男たちに敵うはずもなかった。あっという間に馬車へと放り込まれ、鉄格子越しに、薄暗い街並みが遠ざかっていく。


馬車が揺れるたびに、トウマは己の無力さを噛みしめた。チートなし。味方もなし。そして行き先は地獄の採掘場。


(今はただ、生き延びるため、誰も見向きもしない地味な知識をひたすら集めるしかない。今は最底辺だとしても、いつかこの雑スキルを応用し、この理不尽な世界をひっくり返してやる)


暗い馬車の中、トウマは誰にも聞こえない声で誓った

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