■新聞記事抜粋
蚕影神社にて異様なる神事
残されたるは計六名の屍体
現場には女学生と倒れた男あり
五月五日午後八時、匿名希望の市民から「蚕影神社にて男達が集いて人を殺している」と通報を受けた盛岡東警察署現場班は現地に急行、同神社境内にて血を流し倒れている五名の男と、一名の女を発見した。全員が既に絶息しており、救命措置も意味をなさなかったという。現地にいた男女、坂ノ上龍臣(二五)と蚕影嘉多子(十六)が詳しい事情を知るものとして、任意の事情聴取を行う方針である。警官隊に同行した同署、榊原諒太郎警視は、慎重かつ厳重なる操作を実施すると発表した。
殺害された少女は蚕影家息女
亡骸には蝶の如し四枚の翅
翌五月六日午後一時、盛岡東警察署(以下同署)は、蚕影神社で殺害された少女が、同神社の神主である蚕影天涯(五二)の娘姫子(二十一)であると発表した。また同署が市役所住民課に確認したところ、女の戸籍は台帳に記載されておらず無戸籍であることが判明。少女の屍について同署鑑識班、三浦智彦班長は、腹部から胸部に掛けての損壊著しく、飛散した諸々の臓器や血肉が真っ白であり、背には蝶の如し四枚の翅が生えていたと述べた。
遺体を回収せんとした鑑識班は、これを人為的に造作された装飾であるとして剥がさんと試みるも、翅は膚や筋肉と組織を同するものであり、分別することはできなかった。なお、少女の翅および躰は触れるだけで崩れ落ちるため、検死のため医局へ運ばれる最中、無残にも棺の中で粉々になり、棺には石灰の混じった泥のようなものが残るだけとなった。少女の毛髪と内臓が白色である理由について、三浦班長は、一件白子症とも思われるが、眼が黒であるためにこれは否定される。奇病の可能性ありと述べた。
斯くの如し常人とは言い難い特徴をもつがゆえ、天涯氏は少女の出生届を役所に提出せずに、私宅監置として邸内の一室で生活させていたと類推される。しかしながらその天涯氏も殺害されていたために詳細は依然として不明のままである。
居合わせた男女、心神喪失
現場に居合わせた坂ノ上氏の装備により、坂ノ上氏が特別高等警察に所属していることが判明した。医局曰く、全身に傷があり、右膝には銃で撃たれた痕があるが、命には別状はないものとのこと。しかし医師や看護婦が何を尋ねても茫然とする様続く。警察は同氏の回復を待ち、事情を聞くとしている。また娘も同様であり、調査は難航しているものという。
女主人が語る坂ノ上氏の動向
弊社記者の果敢なる調査により、坂ノ上氏を知る某下宿屋の主人と面談することができた。主人は、坂ノ上氏が盛岡に滞在する期間、宿泊の予約を受けていたという。右について斯く語った。
確かに坂ノ上さんはお客様としてうちにお越しになりましたねえ。期間は一週間でしたけれど、途中で予定が変わって、どこか違うところにお泊まりになりました。真っ黒な制服に立派な軍刀を下げておりましたからハッキリと覚えております。特別高等警察の方でしたか。何かの調査をしに来たと仰っていたおりました。何か、ああ、そう。金色姫と仰っておりました。金色姫ですよ、金色姫。そいつを懲らしめるために帝都からやって来たと。
宿泊の予定が変わってからは坂ノ上さんの代わりに違う人が泊まりになられました。(記者が一般客かと尋ねれば)ううん、同じ特高の人。その人と坂ノ上さんはよく会って、何やら話し込んでおりました。大方、金色姫をどうにかしようっていう相談じゃないですか。少なくとも、仲良しこよしのお喋りではなかったようには思いますがね。
そうそう。事件があった日は、坂ノ上さんがお昼から来て何やら言い争っておりましたね。一階まで聞こえてきました。ただ、何についてかは、この通り耳が遠いもので聞き取れませんでした。聞こうとも思いませんでした。夜になれば、バタバタと慌ただしくなって、黒い制服の女が入ってきたと思ったら、二人揃って下りてきて、そこに蚕影の御嬢様がやって来て(姉妹のどちらかと記者が聞けば)妹の方だよ。坂ノ上さんに何やら必死になって伝えやがる。そうしたら、二人が喧嘩をおっ始めて、結局、御嬢様をうちで匿うように頼まれたんだ。そのように伝えた坂ノ上さんも走ってどこかに行って、あとは何の音沙汰もなしさ。もうひとりの方も帰ってこない。どうせ金色姫に食われちまったんだろう。(女主人嘆息せり。記者が坂ノ上氏の生存および病状を告げれば少々安堵して)何も聞かないものだから死んだと思っていたよ。でも唖になっちゃ素直に喜べないよ。嗚呼、だから金色姫には気を付けろって言ったのに。
(以上、五月八日岩手日々新聞号外より一部抜粋)




