最後に遺す物
俺達(第17小隊)に身体を奪われている選手達が歓喜の声を挙げている。
三塁側のスタンドも歓喜の声に包まれている。
無理もない、九回裏のどん詰まりで、優勝候補筆頭に一矢報いることが出来たのだから!
(まだまだ、これからが本番だ!
ギッタギタにやってやるぞ!)
小隊長の激が飛べば
(お~~!)
陽気に応える俺達、最後の戦闘で鬱憤が溜まっているのだ!
その憂さを晴らさせてもらおうじゃないか!
相手先発投手はすでに憔悴しきっている。
継投のアナウンスがなされ、新たな投手が投入されるが、変わってしまった流れを止めることは出来ない。
無死一・三塁で、打者に対してもワンボール、ノーストライクという状態。
早速ストライクを取りに来た二球目を四番打者は共振!
センター最深部への大きな犠牲フライを放ち、三塁走者は生還し、点差は一点。
なお、一塁走者は踏み留まっている。
勿論、これも演出の一環だ、三塁側にはまだまだ良い夢を見せてやりたい!
さて、五人目の打者に対して、ストライクを取りに行けない中継ぎ投手。
結局フォアボールを出した所で、一塁ベンチから最後の守備タイムが継げられる。
「慌てなくていいから…。」
内野手にも疲労の色が見え隠れする。
六人目の初球から重盗を仕掛けられ、いよいよバッテリーはパニックに陥る。
何とかワンボール、ツーストライクまで追い込めたものの、ボールコースに入れる予定であった失投を見過ごさず、ライト線とフェンスギリギリの位置へこれまた特大の犠牲フライが飛び、二塁走者が一気に本塁まで駆け抜け三点目。
一塁走者も三塁へ到達。
混乱した一塁ベンチは、慌てて抑え投手を注ぎ込む事態に突入する。
あいも変わらずスコアボードにはノーヒットの表示が踊り、点差のみが同点となっている。
七人目は抑え投手の初球を叩き、レフト線へ素早いゴロを転がす。
勿論、三塁走者は本塁へ走り、レフトは捕球したボールを一塁へ…返球するのを諦めた。
劇的な大逆転劇で、敗北を喫する優勝候補筆頭。
崩れ落ちる投手を見届け、存分に鬱憤を晴らし終わった、我々第17小隊の面々は選手達から憑依を解いていく。
「何だ、お前たち、これで成仏できるのかぁ?」
「「「はい、満足です。」」」
憑き物が取れた屈託のない笑顔で談笑する第17小隊の面々。
試合終了のサイレンが鳴り、我に返る選手達。
甲子園球場全体が試合の決着に大歓声を上げる、
俺達の憑依を解かれ、球場に取り残された『勝利校の選手達』は、眼前に広がる現実に真っ青になるのであった。
ただ一人、女性マネージャーだけが監督を始め、選手全員の背中を叩き、喜びを爆発させていた。