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メイクドラマ

 九回の表、敢えて一死一・三塁の絶好機を演出した所で、次打者を併殺打によるダブルプレーで二つのアウトを切って取る投手。

 アルプススタンドからは、ため息が漏れた所(主に一塁側)と、見どころ満点の守備に拍手喝采する所(主に三塁側)…そして、大半の人々は最後まで諦めない名も無き高校野球部に温かな声援を送る。


 そして、九回の裏、予測通りに先発投手の続投を確認し、したり顔をする先頭打者。

(細工は粒々、結果を御覧じろってな。)

 監督の表情は変わらないが、小隊長は確かにニヤついている。

 実は、七回目以降から、相手投手は決め球にフォークボールを多投しているのだ。

 しかも、捕手がボールを取り損ねている所も散見される。


 第17小隊の面々…もとい、野手全員が七回までの打席において、絞り球からフォークボールを敢えて外していたのである。

 勿論、他の球種については、球筋を見切り、全て長打に持っていけるという印象をバッテリーの心理に植え付けている。

 結果、相手投手にしてみれば、フォークボールに絶対の信頼を置き、決め球としてバッテリーも配球の要に置いてくる。


 さて、九回の裏、第一打席。

 何の苦労も無く、ノーボールツーストライクへ追い込む投手。

 決め球は勿論フォークボール!

 そして三球目のボールは投手の手を離れ、打者のバットは宙を舞い、捕手のミットに入る筈だった。

「ストライック、スリー!」


 球審のコールが飛ぶと、ボールを後逸してしまう捕手。

 三振した先頭打者は、何の迷いもなく一塁に走り出す!

 捕手は慌てて後逸したボールを掴み直し、一塁へ送球する…のだが


「セーーフッ!」

 一塁手が捕球するよりも早く、一塁ベースを駆け抜ける先頭打者。


 一瞬の出来事に動揺する観衆。

「な…何が起こったんです?」

 ベテラン記者が当惑したように呟けば

「振り逃げさ、別におかしなプレーではないよ。」

 スコアラーはワクワク顔で答える。


 応援してくれる筈の三塁側スタンドも何が起きたのか理解できず戸惑っている。

 バックネットに至っては、程よく出来上がっていた常連さん達も、真剣な面持ちで試合に集中し始める。


 慌てて守備のタイムを取る一塁側ベンチ。

「無理もない、討ち取ったはずの打者が一塁に居る、しかもヒットや四死球に拠るものではない。」

 スコアラーが説明するば、ベテラン記者もはじめ、周囲の常連さんも頷く。


 一塁側ベンチの指示を伝えるべくメッセンジャーがマウンドに駆けあがり、内野守達はピッチャーを中心に円陣を組んでいる。

「さてさて、どんな指示が出たのかな?」

 後頭部に手を回し、円陣の状況を見守るスコアラー。


 円陣が解かれ、試合が再開される。

 

 試合が再開され、投手が大きく振りかぶると、一塁走者がいきなり盗塁を敢行する。

 初級がスローカーブと見越しての走塁に、投手は勿論、捕手も慌てる。

 ボールは大きく外れ、捕手が二塁へ送球しようと立ち上がった時には、すでに二塁上に立っている走者。


 打者は右打ちということも有り、三盗を警戒するバッテリー。

 それに応えるかのように、二球目の直球に対しても、三盗を仕掛ける二塁走者。

 今度は速球!打者が共振したので肝を冷やすが、何とか捕球して三塁へ送球する捕手。

 しかし、辛くのタッチでセーフをもぎ取る二塁走者。

 結局、二人目はフォアボールで一塁に出塁する。


「こいつは頂けないねぇ。

 潮目が完全に変わっている。」

 スコアラーがニヤリと笑う。

「…そのようですね。」

 ベテラン記者も前かがみに試合を眺め始める。


 二度目の守備タイムを取る一塁側ベンチ。


「こちらは三点あるんだ、慌てなくていい!」

 先発投手を落ち着かせようとする内野陣。


 ではあるが、おそらく裏では継投に向けたウォーミングアップが行われているのだろう。

 投手の顔に焦りの色が見えている。


 左打席に入った打者を前に振りかぶった投手。

 それに合わせ、本塁へ突入する三塁走者!

 捕手が半身を切ってブロック体制に構えた瞬間、打者は三塁線へのスクイズを披露する。

 慌てて本塁へ駆け込みボールを補給しようとする三塁手。

 彼の前を走るのは三塁走者。


 一瞬の気の迷いが、三塁手の()()()を誘い、内野安打になってしまう。

 無論、ボールは本塁へ送球されるのだが…。

 愕然とする捕手を交わし、左手でホームベースにタッチする三塁走者。


 ここで一点を返した上に、走者はそれぞれ三塁一塁へ到達している。

 相変わらずヒットカウントはゼロのまま、エラーカウントだけが一つ増えた。


「エグい試合になってきたな。」

「ああ。」

 スコアラーもベテラン記者も既に試合から目が離せなくなっている。

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