心尽きたる戦士達
帝国陸軍歩兵第35旅団麾下の第17小隊の我々は、ガダルカナル島転戦の途上、敵艦船に拠る艦砲射撃を受け、全滅した。
最後に覚えていた記憶は、飛び散る戦友達の四肢と生首…身体も土塊とともに四散し…我々の意識はブラックアウトした。
長く暗いトンネルのような空間で眠っていた我々ではあったが、幸か不幸か全員一人欠けること無く同じ空間に居たため、我々は規律を正し、正面と思われる方位に向かって行軍を開始する。
幸いにも軍服を羽織っており、素っ裸という破廉恥な格好で行軍せずに済むことが何よりも嬉しい。
さて、行軍を進めると、ぼんやりとした光が眼前に見えてくる。
「もはや死人となった身なれば、何を恐れるものぞ!」
そう檄を飛ばす小隊長の指揮のもと、行軍を続ける我ら第17小隊。
やがて視界が開け、見えてきた光景は薄っすらと見覚えのある「甲子園球場」!
周りの建物に見覚えはなく、まして中空から俯瞰した景色は何とも表現できないのだが…。
突然足場が消え、中空に放り出される小隊メンバー。
「お前らァ~、ビビるんじゃないぞぉ~~!」
一番のビビリ隊長が震える声で檄を飛ばせば
「は~~い!」
あまりのおかしさに、間の抜けた返事を返す隊員達。
甲子園では、今まさに中等学校野球が繰り広げられている。
我々第17小隊の面々は、この試合に参加している三塁ベンチ側の選手一人一人の身体に憑依する。
幼さが残る選手達は動揺し、その所作で試合開始の挨拶が一時遅れる。
取り敢えず我々は大人しくするということで、全会一致した。
どうやら、この野球は『全国高等学校野球選手権大会』というらしく、憑依した彼らは特別枠で出場し、相手は今大会の優勝筆頭であることを、メガネも可愛い女子マネージャーから聞かされた。
始めの三回は、彼らの手腕を見物する第17小隊の面々
特別枠で出場するだけあって、堅実なプレーをするチームであった。
惜しむらくは、力の差が「ソロホームラン」三本という事実でもって、彼らの前に重くのしかかっている。
(そろそろ、選手交代と行こうか?
野郎ども、最終回の大ドンデン返しを目指すぞ!)
監督に憑依した小隊長の掛け声が心のなかで響けば
(おーーっ!)
選手に憑依した隊員達も心のなかで呼応する。
彼らは、選手達の肉体を奪取出来ることを、二回の攻防が終わる頃までには把握できていたのだ。