プロローグ
ここは、夏の選抜高校野球が開催されている、阪神甲子園球場。
今まさに名も無き地方の公立高校野球部が、甲子園常連であり、常勝無敗の名門校野球部を相手に横綱相撲を披露している。
「何だ?何がどうなってる?」
銀傘の麓、バックネット裏に陣取るベテラン記者達が騒ぎ始めている。
「何で、ノーヒットで一点入るんだ?」
プロ野球のスコアラー団も、この番狂わせの展開に色めき立っている。
「おいおい、コレはなにかの間違いかよ?」
ビール片手に赤ら顔だった地元常連さんも、思わず椅子に座り直し、試合の趨勢に固唾を呑んでいる。
一塁側、守備側は応援叶わず、もどかしい時間が場を覆っている。
三塁側、攻撃側は試合の展開に思考が追いつかず、選手達のために駆付けた応援団も黙って試合の趨勢眺めている。
アルプス席全体も、この尋常ではない試合展開を、固唾を呑んで見守る…まさに甲子園球場全体が沈黙の中にあってザワついている。
回はすでに九回の裏。
先行は優勝候補筆頭と言われ、春のセンバツでも名声を欲しいままにした高校。
先発投手のシャットアウト劇で終幕を迎える筈だった試合が、今まさにウッチャリ祭りに突入している。