四月嘘~環のゾンビィ復活~
祝!ゾンサガ来年映画化っ!
☆
俺は必死に手を伸ばす。
「たまきっ!つかまって!」
「アオちゃん!」
一瞬、指先があたる。
それが最後に彼女に触れた瞬間、波が彼女を押し流し、遠く遠くへ、そして消えて行った。
「たまき、たまき、たまきっ!」
俺は必死に彼女の名前を叫ぶ。
★
早朝。
「たまきっ!」
うなされた倉野碧は目を覚ました。
「チッ!」
思わず舌打ちをする、遠い昔の思い出、夢なのに手に残る感触があの時と全く同じだった。
幼馴染の明石環が死んだのは5歳の頃だった。
幼い2人で冒険と称して、有明海を見に行き、低い堤防から海を覗き込んだ。
身を乗り出し過ぎた環がするりと海に滑り落ち、そのまま沖へと流された。
幼い死体があがったのは2日後だった。
以降、碧は時々、彼女の夢をみるのであった。
碧は制服を着替え高校へと向かう。
(よりによって、卒業式にでてこなくても)
彼は環を恨めしく思ったが、すぐに首を振り、
(ごめん。ごめん)
と、心の中で呟いた。
下駄箱を開けると、手紙が入っていた。
「アオちゃん、今日、へそくり山で待っています」
「これは・・・」
この高校では、まことしやかにささやかれている噂がある。
卒業式の日にへそくり山で告白した二人は永遠に結ばれるという伝説があるのだ。
(ときメモかよ)
碧は苦笑し、誰もいないのを見計らって手紙をポケットの中に押し込む。
卒業式もつつがなく終り、碧は友人たちと帰宅する。
が、やはり気になり、へそくり山へと走った。
それは思春期ど真ん中、彼女は欲しいものである。
小高い丘に立つ、その少女は・・・。
「・・・環」
「アオちゃん」
まぎれもない環であった。
すっかり成長した彼女は、可愛らしくも美しくそして儚くもあった。
「・・・いや、お前は死んだはず」
「ふふふ、私、生きてるよ」
「じゃあ、なんで、今まで・・・」
「うん、お母さんが、もうちょっと待ってねって・・・」
「環、お前、本当に環なのか」
「うん。私は環だよ」
「そっか、そっか・・・よかった」
へなへなと腰が砕けその場に座り込む、碧の目には涙が滲む。
「ずっと、ずっと、心配したんだぞ」
「うん。ごめん」
「夢にずっとあの時の事が・・・ずっと」
「うん。うん」
環はそっと碧の頭を撫でた。
あたたかい手の感触に彼女が生きていると彼は実感した。
感動の再会。
それまで曇天だった空が、急に暗くなると強い雨が降り出した。
「いけない」
環は大木の裏に身を隠した。
「・・・どうしたんだよ」
「アオちゃん。来ないで」
「なんで」
「いいから」
人という生き物は、いけないと言われたら、それをやってしまう。
碧は奇跡の再会で我を忘れてしまっていた。
ぎゅっと彼女を抱きしめ、
「環」
喜びを嚙みしめる。
「嫌っ!」
思わぬ拒絶され、両手で押されてしまい、よろける彼はその姿を見てしまった。
環の肌は溶け、骨も露わになった醜い姿と化していた。
碧はそのまま卒倒した。
あれは夢だったのか・・・。
家のベッドで目を覚ました彼は、もやもやとした中、春休みを過ごす。
4月1日のこと。
環はふらりと碧の家を訪ねる。
「環っ!」
驚く彼に、
「ちょっと話をしない」
微笑みを浮かべる彼女、
「・・・ああ」
2人は外にでて散歩をする。
碧は環に気づかれないように、まじまじと彼女の姿をみた。
それは再会した時と変わらぬ、美しい彼女だった。
「・・・あのさ」
「ね、びっくりした?」
環は碧の顔に自分の顔を近づけ笑う。
「・・・なにが」
「なにがって、私の姿・・・」
「・・・ああ」
「あれね」
「うん」
「嘘」
「嘘?」
「だって、今日、何の日?」
「何の日って、4月1日・・・」
「そう、エイプリルフールよね。だから、あれは嘘なの」
「そっかあ、脅かすなよ」
「ごめん、ごめん」
環の嘘に半信半疑だが、その言葉を信じようとする碧。
春空の下、二人は並んでゆっくりと歩く。
(あ)
彼女は彼に気づかれないよう、そっと両腕を後ろに回し、左腕をおさえた。
ポロリ。
彼女の隠した腕の肌が崩れ落ちた。
「楽しいね」
環は儚げに笑い、健気に振る舞う。
(やっとまた会えたんだもん)
環をフランシュシュに入れてくれいっ(笑)。