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いつでも話そう、と魔王は言った

古代帝国アリストラストの宮殿の深部、魔王の玉座が鎮座する暗黒の間。俺とイリスは、人間の姿をした魔王シュベリートと対峙していた。彼の提案――「戦いをやめないか」という言葉が、二人の間に重い沈黙を生んでいた。


イリスと俺は、互いに顔を見合わせる。シュベリートが再び口を開いた。


「言葉だけでは信じられないだろう。だから、これを君たちに預けたい」


彼は玉座の脇に置かれた黒い布を手に取り、そっと広げた。中から現れたのは、一組の魔鏡だった。2枚の小さな鏡は、黒い枠に縁取られ、表面に奇妙な光が揺らめいている。


イリスが眉をひそめ、警戒しながら尋ねた。


「何……? これが何か、私たちに何をさせるつもり?」


シュベリートは穏やかに微笑み、鏡を手に持ったまま二人に近づいた。


「これは魔鏡だ。遠くの2つの部屋を繋げる魔力を持つ。1枚を君たちが持ち、もう1枚を私が持つ。そして、交流してくれないかと頼むよ」


剣を構え直し、疑いの目を向けた。


「交流? お前と何を話すって言うんだ? 俺たちはお前を倒すためにここまで来たんだぞ!」


シュベリートは静かに首を振った。


「分かっている。だが、君たちが私を倒しても、魔族と人間の憎しみは消えない。君たちがエリルにしたように、私にも少しだけ時間をくれ。理解を深めるための時間を」


イリスが一歩進み出て、魔鏡をじっと見つめた。


「この鏡で何ができるの? 私たちを騙す罠じゃないでしょうね?」


シュベリートは鏡を手に持つと、その表面を軽く叩いた。すると、鏡の中からかすかな光が溢れ、暗黒の間にぼんやりとした映像が浮かび上がった。それは、遠く離れた魔族の陣営の一室だった。


「この鏡は、離れた場所にいる者を映し、声を届ける。少しずつ、お互いを知るために使ってほしい。それだけではない、実際にこの鏡を扉として空間を行き来すらできる」


剣を下ろし、戸惑いながらも魔鏡を見つめる。


「……何だよ、それ。お前、本気で人間と分かり合えるなんて思ってるのか?」


シュベリートは静かに頷き、1枚の鏡を差し出した。


「思っているよ。君がエリルにあのペンダントを渡したように、私も君たちにこの鏡を渡す。戦いの最中でもいい。君たちの声を聞かせてくれ。それが、私が人間という魔物を理解する最後の鍵かもしれない」


イリスは俺の肩に手を置く、きっと彼女も迷っているに違いない。

安心したくてそうしているのだろう。


「レン……どうする? 私にはまだ信じられないけど、彼の目、嘘をついてるようには見えないわ」


シュベリートの瞳を見据えた。ゆっくりと剣を鞘に収め、魔鏡を受け取った。


「分かった。持っててやるよ。けど、俺たちがお前を信じるかどうかは、これからの話次第だ」


シュベリートは小さく笑い、もう1枚の鏡を手に持ったまま言った。


「それでいい。それが始まりだよ。戦いの合間に、君たちの声を待っている」


暗黒の間に、再び静寂が訪れた。レンとイリスは魔鏡を手に、魔王との奇妙な「交流」の第一歩を踏み出した。俺、勇者レンと魔王は鏡を通じて互いの声を聞き、少しずつ理解を深めていくことになる――。




魔王との対峙。古代帝国アリストラストの戦いから1年が過ぎた……。


レンとイリスは、魔王シュベリートとの交流を重ねていた。魔鏡を通じて声を交わし、時にはテレポートで直接対面しながら、戦いの合間に互いの心を知る努力を続けた。その結果、魔族と人間の間に初めての停戦が結ばれる日が訪れた。


暗黒の間に再び集った三人。シュベリートは、1年前と同じく人間の姿で玉座に座っていたが、その瞳には深い安堵が宿っていた。俺は剣を腰に下げ、イリスは癒しの光を手に持たず、ただ静かに立っていた。


シュベリートが口を開いた。


「1年か……長いようで短かった。君たちのおかげだよ、レン、イリス。私は今、人間を完全に理解した。それゆえに、完全に人間に擬態できるようになった」


彼は立ち上がり、両手を広げてみせた。その姿は、以前の貴族のような優雅さから、さらに自然な人間らしさに変わっていた。魔族特有の冷たい気配は消え、まるで普通の男のようだった。


イリスが小さく微笑み、言った。


「本当に……人間みたいね。もう私たちを魔物なんて呼ばない?」


シュベリートは笑い、頷いた。


「呼ばないよ。君たちは魔物ではなく、複雑で美しい存在だ。それを知ったからこそ、私は戦いをやめる決断をしたんだ」


俺は一歩進み出て、魔鏡を手に持ったまま言った。


「なら、これで終わりだな。俺は魔王を倒したと宣言する。人間たちにはそう伝えるよ。けど、実際は違う。お前がどうするつもりか、分かってるんだろ?」


シュベリートは静かに目を閉じ、玉座の背に手を置いた。


「そうだ。私は300年の眠りにつく。魔族はこの停戦を受け入れ、私が目を覚ますまで争いを控えるだろう。300年という時が、争いの心をなだめてくれると信じている」


イリスが少し悲しげに呟いた。


「300年……長いわね。私たちはもういない。でも、あなたが目を覚ました時、誰が迎えるの?」


シュベリートはレンを見た。そして、穏やかに答えた。


「レンが迎えるさ。なあレンおまえもまた、300年後に向かうのだろう?」


俺は苦笑した。


「お前、俺の計画まで見抜いてたのか。確かに、イリスと一緒に300年後に転移するつもりだ。 エリル……から連絡がないんだ。 彼女も無事だといいな」


シュベリートは魔鏡を手に持つと、その表面を軽く撫でた。光が揺らめ、テレポートの門が現れる。


「なら、これで別れだ。300年後、君たちと再会することを楽しみにしているよ。人間と魔族が、真の友情を築ける未来を祈って。 あの女帝とも300年後会えたら、どんなに愉快なことだろうか……」


魔鏡を握り締め、シュベリートに言った。


「ああ、俺も祈ってる。お前が目を覚ました時、ちゃんと人間の酒でも飲ませてやるよ」


イリスが笑いながら付け加えた。


「私もその時まで、癒しの魔法を磨いておくわ。300年後の再会、楽しみにしててね」


シュベリートは最後に小さく笑い、テレポートの門の中へ消えた。彼の体は暗黒の間に溶け込み、300年の眠りへと旅立った。


俺は故郷の村に帰ろう。そこでイリスと結婚式をあげる。

平和な暮らしを楽しみ、年を重ね老人にいつかなるだろう。


そうして、幸せな生活を送った末、300年後にイリスの転移魔法で行くのだ。

彼女の魔法は正確には体の時を止めるものだ、極限まで周りの時間を停止させることで300年後にいく。


ひとつだけ、問題点がある。


完全に時間を止めるのは難しい。だから、俺とイリスはものすごく若返るだろう。一歩間違えれば、赤子の姿で300年後に到着するはずだ。記憶を保てるだろうか?


300年後はどうなっているだろうか?

長い時が、争いの心を癒し、人間と魔族の間に真の友情が芽生えているだろうか?

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