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ドルフィンはサフィラス家の後継だった。
サフィラス家の象徴と言える漆黒の髪と、深い青の瞳を引き継いだ男子。
ドルフィンは生まれた時から文句なしの後継だった。
「ドルフィンさまの髪は綺麗ですねぇ。瞳も宝石のよう」
そうやって毎日、ロベリアが嬉しそうに身支度を整えてくれるので、自分の色彩がさらに好きになった。
ドルフィンには双子の弟がいた。
両親とは違う白い髪に、青と言うには淡すぎる瞳。
双子というのはあまり良く思われないらしく、ドッピオは双子の弟ではなく一つ下の弟ということになっていた。
「ドルフィンさまはドッピオさまより大きいですから、良かったですわ」
「ドッピオさま、お兄さまが大きくて助かりましたね」
双子でなく兄弟として振る舞うよう言い含める際、ロベリアはやさしくそう諭した。
「兄様、剣のお稽古ですか?」
「ああ。ドッピオもやるか?」
共に一通りの型をなぞった後、ドッピオの小さな体を見つめる。
ドッピオは型を覚えていないわけではないし、動きに惑いもない。ただ、力が足らず弱々しい。
「……ドッピオ、たくさん食べろ」
「はい、兄様」
素直に頷く弟にため息をつく。
「打ち合いはやめておこう。また剣がどこに飛ぶか分からない」
ドッピオと打ち合うと力負けした剣が度々飛んだ。使用人に当たりそうになったこともある。
「はい。また一緒に練習してください」
ぺこりとお辞儀をしたドッピオはもう一度型をさらい始めた。止まっているかのようにゆっくりと。
「ロベリア」
「ドルフィンさま。剣のお稽古でしたか? おつかれさまです」
木剣を携えて部屋に戻ると部屋を整えていたロベリアがにこやかに迎えてくれた。
「うん。ドッピオとね」
「あら。今日は剣を飛ばしませんでしたか?」
ロベリアの茶目っけたっぷりの質問に肩をすくめる。
「打ち合いはしなかったんだ……ドッピオは弱すぎる」
不満そうなドルフィンにロベリアは少し考える。
「そうですねぇ。ドルフィンさまはもうすぐ七つ。七つになれば他の子息たちとの交流が始まります。そうすればたくさん打ち合いができますよ」
「そうかな?」
「ええ。他のご子息に負けないでくださいね、ドルフィンさま」
ロベリアの励ましに、ドルフィンは明るく笑った。
「当たり前だ」