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ロベリアは幸運だった。
長い歴史と国への忠誠心で名高いサフィラス家。その奥方のご懐妊のため増員がかかり、ロベリアは働けることになったからだ。
「お子さまがお生まれになったら、遊べるかしら……」
貴族の生まれでない新入りは顔を合わせることも難しい。それはロベリアも分かっていた。
しかし、ロベリアは器用さに自信があった。きっと、信用を得て侍るのだと決めていた。
「ロベリア!」
もうすぐ七つになろうかという子息は、ロベリアを見て笑顔になった。
「見て! 新しい型を教えてもらったんだ」
そう言っておもちゃの木剣を真面目な顔で振るう姿は大変愛らしい。
「まぁ! 素晴らしいですわドルフィンさま」
ロベリアの言葉に子息はさらに誇らしげに剣を振った。そんな姿を周囲の人間は微笑ましそうに見守っている。
ロベリアは幸運だった。
生まれた子供は双子で、予想より労力が必要だった。
乳母や子守メイドを気遣い、細々としたことを率先して手伝った。
皆がする双子の話を楽しそうに聞き、子どもが好きなのだと仄めかした。
すると次第に双子の周辺の仕事が回ってくるようになり、顔馴染みとなったロベリアを気に入った乳母が双子の見守りに混ぜてくれるようになった。
にこにこといつも楽しそうなロベリアを活発なドルフィンが気に入り、正式ではないものの、ロベリアは他の子守メイドと変わらない扱いとなった。
「兄さま」
活発に剣を振るドルフィンと対照的に、ぽてぽてと歩いてきたのは双子の弟のドッピオだった。
「おやつの時間です。行きましょう」
サフィラス伯爵から漆黒の髪と深い藍色の瞳を引き継いだドルフィンとは違い、ドッピオは白髪に淡い水色の瞳だった。体もドルフィンと比べて一回り小さく、部屋遊びが好きなので肌も白い。
「ああ、そうでした。私ドルフィンさまにティータイムのお知らせに来ましたの。ドルフィンさまの剣術を前に忘れていましたわ!」
大袈裟なリアクションを取るロベリアにドルフィンは手を止め、満更でもなそうに頷き、おもちゃの木剣をおもちゃの鞘にしまう。
「ドッピオさまありがとうございます。さあ、美味しいおやつが待ってますよ!」
行きましょうとロベリアが差し出した手をドルフィンが握る。
手を繋ぎながら歩き出した二人の後ろをドッピオはマイペースに付いて行った。